この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 防災に関心のある人
  • 地域福祉活動に興味のある人
  • ITを活用した社会貢献に興味がある人
  • 徳島県および地域コミュニティの防災活動に興味がある人
  • 社会福祉やボランティア活動に携わっている人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事は、徳島県社会福祉協議会が防災活動を含む地域福祉の推進にITを活用する取り組みについて説明しています。徳島県社協は地域の福祉施設や弁護士、中小企業診断士などと連携し、70万人の県民が孤立しないように努めています。特に災害時の支援においては、平時から高齢者や要配慮者の情報を集めておくことが重要で、災害時にその情報が活用されることを目的としています。コロナ禍においては、1万人の県民に対する支援活動が行われ、これを「1万人へのラブレター」と呼び、kintoneを活用して情報を集約し、今後の防災時に役立てる構想を持っています。

社協は災害支援の現場で頻繁に直面するITの役割を「通訳」として定義し、現場の職員とIT専門家の橋渡しを行う必要性を感じています。このような活動の中で、緻密な住民情報の収集と共有、ITツールを活用した防災訓練や支援体制の構築を行っています。ITの導入には抵抗もありますが、楽しく便利なものとして住民に受け入れられるよう工夫することが重要とされています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

防災とIT

防災は県民70万人の共通課題――徳島県社協が「ノーマークをつくらない社会」を目指すわけ

日本全国すべての都道府県・市町村に存在する「社会福祉協議会」。みなさんの住む自治体にもありますが、耳なじみのない方もいるのではないでしょうか。 実はボランティア、福祉サービス、防災と、多岐にわたる分野において、地域の最前線で活躍している団体です。

今回は活動のうち「防災」にフォーカス。ITの力を用いて災害に備える徳島県社会福祉協議会の山田信人さんにお話を伺いました。

社会福祉協議会と有名なあの「募金」の意外な関係

山田
社会福祉協議会(以下、社協)は戦後に生まれた組織です。

いわゆる戦災孤児がたくさん路上で生活していた時代に、慈善団体や慈善事業家が中心となって民間の力とお金を集めて社会福祉、社会保障を行う動きができました。それが「赤い羽根共同募金」。

その流れのなかで、市民一人ひとりの善意を用いて地域福祉を進めるためにできたのが、社会福祉協議会なんです。

山田信人(やまだ・のぶと)。社会福祉法人徳島県社会福祉協議会 地域福祉課課長補佐。高齢者施設の生活相談員からキャリアをスタート。誰もが豊かに暮らすためには地域福祉の充実が重要だと痛感し、2004年に徳島県社協に転職。

小野寺
私も募金集めをしたことがありますが、社協と深い関わりがあったんですね。具体的にどのような活動をしていますか?
山田
私たち県社協は、地域福祉をより推進できるように市町村社協とともに、各福祉施設、さらに様々な専門団体や弁護士、建築士、中小企業診断士などの士業と連携しながら、県域、広域で支援をしています。

市町村社協は、住民から直接相談を受け付けています。県社協と市町村社協で担当領域は変わりますが、緊密に連携しています。

徳島県の人口は約70万人。その一人ひとりが、孤立することなく声を掛け合い、互いに気にしあえる体制を築くことで、「ノーマークをつくらない社会」を目指そうとしています。
小野寺
きっかけはなんだったのでしょうか?
山田
高齢者向け施設で生活相談員をしていたときのことです。

ある一人暮らしの方がいました。日中はデイサービスの施設に来ているので相談員の目が届きます。しかし、家に帰ると一人になり、目が行き届かなくなってしまう。

誰かがこの人を気にかけなければいけないな、この状況をどうにかしたいなと、強く感じました。

相談者の真のニーズを引き出し、「地域生活課題」をなくしていく

小野寺
県民から社協に寄せられる相談は、どのようなものが多いですか?
山田
今までは、「施設に入りたい」という高齢者や認知症、また障害に関する相談など、福祉に関する直接的な相談が多かったんです。

ですが最近は、「家族関係が難しくて送迎を頼めず病院に行けない」「自営業が忙しくて体を壊してしまった」という、いわゆる生活全般の生きづらさを抱える方からの相談が増えました。
小野寺
どのように対応されるのでしょうか?
山田
まずはその方の話をじっくりと聞きます。話を聞くうちに、相談者がふと、今まで誰にも言えなかった、あるいは言っていいかどうかよくわからなかった悩みを口に出す。

たとえそれがぽろっと出たため息や愚痴のような言葉だったとしても、そうした表面的なウォンツに繰り返し対応するなかで、心のうちにある本当の困りごとに辿り着く瞬間があるんです。それが真のニーズです。
小野寺
ウォンツにとらわれずに話を聞き、反応を返し続けるとニーズが見えてくると。
山田
ただ、相談者がなぜその状況に陥ったか考えるときに、本人だけではどうしようもない問題がものすごく多いんです。

たとえば骨折して外出できなくなった。それはしょうがないですよね。ですが、それに対して誰かに心ない言葉を言われて嫌な思いをしたり、学校に行けなくなったりします。

そういった病気や怪我そのものではない個人と社会との壁を、私たちは「地域生活課題」と呼んでいます。

地域生活課題に気づける住民を増やしていき、ゆくゆくは地域生活課題そのものをなくせるようになる。それが地域福祉の基本であり、社協のミッションです。
小野寺
地域生活課題をきちんと減らし、相談者の心のニーズを満たしていくのですね。その一環で、防災施策にも取り組まれているのですか?
山田
今の話は、実は防災そのものなんです。

徳島県は南海トラフ地震の影響を非常に大きく受ける場所で、県民約70万人のうち6割以上の人が想定浸水区域に住んでいるといわれています。つまり、防災は県民の共通課題なんです。

ちなみに、災害が起きたときに特に困りごとを感じやすいのは誰だと思いますか?
小野寺
高齢者の方や、いわゆる要配慮者の方でしょうか。
山田
はい、そういう方々は地域の中でも困った時に声をあげにくいんです。災害が発生してからでは遅いので、ふだんからその方々の情報や状況を気にかけておく必要があります。
小野寺
平時の取り組みが防災につながっているということですね。

ふだんの綿密な情報集めが、災害時に力を発揮する

山田
2020年からのコロナ禍の5年間はとても記憶に残っています。県内の社協に相談に来られ、減収・退職で生活が著しく不安定になった方への貸付が1万件を越えました。県民70万人のうち1万件ですから、インパクトは大きいですよね。

当時相談に来られた生活に困窮している方々が今どうなっているかの確認や見守りを、この5年間ずっと、県内の市町村社協とともに、様々な士業等の専門職の協力も得て、一緒に取り組んできました。

この取り組みでは、県内の市町村社協が中心となって、相談者一人ひとりへの訪問活動や個別の相談活動を行っています。今後も生活の相談に乗り続けることができるように。

私たちはその活動を「1万人へのラブレター」と呼んでいます。

そして、訪問や連絡、相談をした履歴をkintone上にデータベース化して、経過を把握しています。また、地図上にプロットし、エリアで状況を俯瞰できるようにもしています。
小野寺
ラブレター、ですか。
山田
コロナ禍のつらい時期に家族や地域のために働いた方々が、亡くなっていたり、体を壊して入院していたりということもあります。そういう状況がとてもやるせなく、悔しい。

社協や地域の民生委員・児童委員をはじめ、一丸となって寄り添いながら、味方でいるよ、困ったときは頼ってねとお伝えしたいんです。
小野寺
たしかに、「困ったらまず社協を頼ろう」と思えると、安心感がありますね。
山田
実は「1万人へのラブレター」はそれだけにとどまらず、今の子どもたちが大人になるときに向けた、今を生きる大人たちからの贈りものでもあるんです。

kintoneを用いて情報集約を進めることで、平時の情報を災害時に活かし、災害関連死をゼロにする。最終的には、将来南海トラフ地震が来たときに大人になっているであろう今の子どもたちに、データを活用してもらうための布石なんです。

南海トラフ地震が来るときは、おそらく私は高齢者になっています。今、私たちにできることを、未来に繋ぎたいと思います。
小野寺
世代間のリレーをどんどん繋いでいくイメージですね。 そこで弊社のサービスを活用いただいていることが大変ありがたく、ぐっときました。

現場の人たちにITを使ってもらうためのマインドとは

小野寺
サイボウズと徳島県社協は災害時のIT支援協定を結んでいます。kintoneを導入いただく前は、紙などで情報を連携されていたのですか?
山田
そもそも情報をストックできていなかったんです。kintoneによって住民の情報をつなぎ合わせ、関係者で共有することができました。

集めた情報をもとに、訓練や研修を通して、住民や士業等の専門家と社協が、考え方や視座を共有しています。
小野寺
kintoneをはじめ、メールなどのITサービスを使ううえで苦労や悩みはありますか? 

たとえば、「紙のほうが早い」という人もいるかと思います。そういう方々にはどのようにITを理解してもらいますか?
山田
私は、災害時に全部をIT化する必要はないと思っています。秘訣は、「楽しくやれればいい」ですね。

みなさん、スマホを持っていますよね? 時代を遡ればガラケーを持っていた。生活に必要ですし、楽しいから。

だから、ITサービスも「必要だな」「楽しいな」って思ってもらえるように工夫しています。
小野寺
どんな工夫をしているのでしょうか?
山田
たとえば、「家を建てたい」という夢を叶えるには設計図がいりますよね。その設計図にあたるものがkintoneです。kintoneを活用するためには、まず夢がいる。

まわりの人から「kintoneって何ができるんですか?」って聞かれたら、私は最初に聞くんです。「あなたは何がしたいですか?」って。
小野寺
kintoneが何かを与えてくれるのを待つのではなく、実現したい夢があって、そのためにkintoneを使い、改良し、道筋を立てていくということですね。
山田
そういう意味ではkintoneを活用するのは楽しいですよ。

災害支援で目指すのは、現場職員とIT熟練者の橋渡しをする「通訳」

小野寺
山田さんが考える、防災とITの理想的な関係とはなんでしょう?
山田
たとえば、災害支援の現場に入る方々を想像してみてください。重機をバリバリ使う人もいれば、被災者に寄り添って言葉をかける人もいる。いろいろな価値観の方がいて、その人たち同士でも考え方のすり合わせが難しい。

そこにIT系の支援者が入ると、さらに大変です。ヘルメットをかぶって泥まみれで現場にいる人が「IT支援者はパソコンをカタカタやって横文字ばっかり」と思う場合もあれば、反対にIT支援者は「現場ボランティアの人は効率的な支援をするための提案を聞かない」と思う場合もある。

双方大切な役割を担い、目指すところは災害からの復興で一致しているのに、残念ながら対立してしまうこともあります。
小野寺
そういうときはどうやって解決するのですか?
山田
私たちの役目は、現場に入ってくれる支援者たちの「通訳」をすることなんです。

災害支援とIT、それらの共通言語を持つことで、お互いの言い分を通訳して理解してもらう機会を作る。それができる人を増やしていけたらと思っています。
小野寺
今後社協ではどのように活動していきたいですか?
山田
個人的に社協には弱い部分があると思っています。

まず、広報が下手なんです(笑) ITも正直言って苦手です。今までの経験から、紙で成果物を出したほうが伝わるだろうと考えて、冊子を必要以上に作ってしまうこともあります。

そうではなく、情報を届けたい人にきちんと届くかどうかを精査していかなければいけないと思っています。
小野寺
社協が有意義な活動をしていると、紙に限らず、Webなどさまざまな手段で届けていきたいということでしょうか?
山田
そうですね。また、世間ではデザインやWebエンジニアリングにかかる時間や対価の議論があります。

自分たちに置き換えても、IT環境の構築時に、作業そのものは簡単ですぐに終わるものだとしても、実際の使いやすさを突き詰めていくと、何時間もの試行錯誤が必要な場合もあります。その時間とプロセスを理解し、きちんと評価することが重要です。

同時に、「kintoneのアプリを3分で作りました」というのももちろん大事なことです。かけた時間の長さではなく、必要な機能や役割を満たしているか、より多くの人に届けられているか、という点に活動の軸足を移していくことが大切だと考えています。
小野寺
ありがとうございました。

企画・執筆・編集:小野寺真央(サイボウズ) 撮影:其田有輝也

サイボウズ式特集「防災とIT」

災害大国、日本。平時における防災に加え、災害が起きてからの支援活動はとても重要です。本特集では、ITで防災や災害支援活動を行う会社や団体の取り組みを通じて、防災とITの今をお届けします。

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執筆

編集部

小野寺 真央

サイボウズ式ブックス副編集長。メーカー、出版社勤務を経て、2022年にサイボウズ入社。趣味は読書・演劇・VTuber・語学勉強・ラジオ・旅行。複業で小説の編集をし、ラジオパーソナリティを目指している。

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撮影・イラスト

写真家

其田 有輝也

西日本を中心に企業の取材・広報・イベント撮影を行う。柔軟な撮影と爆速納品がモットー。大正元年築の古民家を購入し、ニワトリ3匹・猫2匹・ニホンミツバチとともに夫婦で半農半Xな暮らしを実験中。

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