大塚 玲子
いろんな形の家族や、PTAなど学校周りを主なテーマとして活動。 著書は『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)。ほか。
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この記事では、男性学を研究する田中俊之先生とラジオパーソナリティのジェーン・スーさんが、男性の働き方やしんどさ、未婚女性を取り巻く現実について語り合います。ジェーン・スーさんの著書『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』を背景に、男性が感じるプレッシャーや、女性が独立して生きることの充足感について議論します。男性が「稼がなければならない」というプレッシャーを抱えている一方で、女性側は自分の仕事や生き方を手放したくないと感じることも多いです。結婚相手として、男性が自信を持てずにいる現実や、親の期待によって制約されている女性の現状も取り上げられます。そして、より多くの人が自らの価値を主体的に選択できる社会の必要性が説かれています。男性と女性のそれぞれの立場が、結婚や仕事においてどのように交錯し、社会構造に影響を与えているのかを深く探る内容です。
サイボウズ式で掲載した「少子化が止まらない理由は『オッサン』にある?――『男性学』の視点から『働き方』を考える」という記事。「男性学」を研究する田中俊之先生(武蔵大学社会学部助教)とサイボウズ青野社長が、男性の働き方やしんどさについて語り合ったこの記事に、作詞家にしてコラムニスト、ラジオ人気パーソナリティのジェーン・スーさんが注目!TwitterやFacebookで紹介コメントを書いてくださいました!
そこでサイボウズ式ではジェーン・スーさんをお迎えして、田中先生とともに、男女それぞれが抱えるプレッシャーについて語り合っていただくことに。初回は、男性のしんどさと未婚女性を取り巻く現実についてです。
あの対談記事を拝見して、「あ、そうそう! こういう話がいっぱい聞きたかったんだよね!」と思って、ご紹介させていただいたんです。
昨年『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社、略称『わたプロ』)という本を出したんですよ。要は、40近くまで生きてきたけど「わっはっは、結婚できてないっすよバーン!(たたきつけ音)」みたいな本なんですけど。
はい、何度も読ませていただきました(笑)。
ジェーン・スーさんのFacebookページより田中先生が登場した記事へのコメントを抜粋
異性婚(同性婚以外)を前提とした場合ですけど、結婚は、男性と女性が対になってするものじゃないですか。そうすると、男性が抱えているプレッシャーみたいなものが、そうとう密接にかかわってきますし、女性だけの問題じゃないなと。
そうですね。
でも、「男のプレッシャー」みたいな話をしてくれる男の人って、なかなかいないんですよ。酔っ払ったりすると、夢とか「おれは頑張っているんだけど、なかなか評価されない」といった愚痴めいた話はしてくれるけど、「こういう状況に置かれていて、ここがこういうふうにキツイ」というようなフラットな話をあんまり聞けなくて。
では今回は、その辺りの話をじっくり掘っていきましょうか。
ジェーンさんは、本の「あとがきにかえて」で「30代後半になると、自分のために働いて、自分のために生きていくことが、なにものにも代え難いほど楽しくなってきた。誇りに近い充足感すら、感じるようになってきた。」と書かれていますよね。「誰かの顔色をうかがうことなく、自分の人生を主体的に選択して生きていくことが私にもたらす喜びは、自分の価値を誰かに決めてもらうより、ずっとずっと大きいことに気づいた」と。
一つのプライドのあり方なのでしょうが、男性の場合、自分を人より大きく見せたいとか、弱みを見せたくないとか、そういう部分にこだわってしまっている気がしますね。その結果、ジェーンさんのように内側からわき上がってくるようなプライドを確立できない傾向があるように思います。
なるほど。
そういう男性に対しては、ちやほやして「すご~い」とか「さすが!」とか言っておけば、"結婚"ということになりやすいんでしょうけど。「女性が男性に言うべき"さしすせそ"」というのがありますよね。
ありますねー。「さすが」とか。
そう、さ「さすが」、し「しらなかった」、す「すごい」、せ「先輩だから」、そ「そうなんですか」という。要は、女性側が下手(したて)に出てアピールをすると、相手がいい気分になりますよ、ということです。
でもジェーンさんは、「べつにそんなことしてまでペアになりたくないんですけど」ってことですよね(笑)。
そうですね。そこと、「籍を入れるまでの理由が見当たらん」というところですかね(笑)。
この本の読書会には、都市部で働いている高学歴の自分が食べる分は稼げている女性が多くきます。ある30代くらいの女性が「結婚をしたいんだけど、なかなか出会いもなく、田舎の親から"帰ってこい"と言われている」と。
でも彼女は、いまの仕事をするために東京に出てきているので、地元に帰ったらそれを手放さなきゃいけない。地元に帰ればたぶん、結婚の世話はしてくれるだろうけど、いまの仕事は手放したくないし、八方ふさがりだ、っていう。
うーん。
その方に、「じゃあもし、地元で結婚するとしたら、どんなタイプの男性がいいですか?」と聞いたら、「私が働くことを許してくれる人がいいです」といったんですよ。「わー! 地方だとまだ、女が働くのが許可制かぁ~...」と。
「家のことをしっかりやって、時間があるんだったら別にいいよ」といったこともあるようですが、男性のほうが「あいつんち、ヨメさんが働かないと食っていけないんだよ」と言われてしまうというのもあるんでしょうね。まだ「男だったら、自分以外の人間を食わせてなんぼ」という価値観が色濃くあるみたいです。
そう、そういうところはありますね。
「あ、なるほど。女性が抱えている問題と、男性が社会で受けるプレッシャーの問題は、思ったよりずっと、対になっているんだな」と思いました。 読書会に来ている男性に「どんな女が結婚したくなさそうにみえますか?」と聞いたら、「趣味が充実していて、仕事を頑張っていて、人生をひとりで楽しんでそうな人」と言ったんですよ。
いわゆる"自立した女性"みたいなイメージですかね。
でもこれ、逆に男の人だったら、仕事を頑張っていて、趣味が充実しているからといって、結婚したくなさそうに見えないですよね?
この男性は、あまり自分に自信がないそうなんですよ。そんなに稼げてもいないし、父親の世代の人たちができていたようなことを、そのままできるような体勢は整っていない、と。そういう状況で、自分よりすごく充実していて楽しそうで、稼いでいる女の人を見ると、「あの人、結婚したくなさそう」と思うんですって。
つまり、「自分がそういう女性には求められない」という、ある種、あきらめの裏返しであると。でも、ご本人はそうは思っていないんでしょうね。
そうなんです。そこはボタンの掛け違いみたいなもので。その女の人が結婚したいかどうかは、この男性の自信のあり方には関係ないんですよ。ただ、「俺が、夫として役に立てなさそうな女」と思い込んでるだけなんです。
そういうことですよね。
でも、みんなこういうからくりを、あんまり把握してないんですよ。わたしも読書会をやるまで、そんなに明確には把握できてなかったですし。 それで、こういうことをちゃんと話していかないとな、と。
「あなたたちは恵まれているんでしょ」と言われて後回しにされがちですが、ある程度の学歴があって都市部で働いている女性たちが一定数いることも事実なので、「その女の人たちが、自分がいま属している社会をどう理解しいけばいいのか」という話はしていきたいんです。
まあ。勝手に思っている部分もあるかもしれないですけれど、男性が「自分が稼がなければならない」というプレッシャーを強くもつというのは、すれ違いになりかねないですね。
そうなんですよ。
年収が低い男性と稼ぎがある女性がペアになってもいいわけです。「男は仕事、女は家庭」とやっていたら、現状にそぐわなくなりますよね。
日本では、結婚を経ての出産が一番スムーズに受け容れられる社会ですし、そうならないと、少子化のままでしょう。結婚している人の数 も増えないですよね。
この本にある(プロポーズされない)101個の理由のうち、とくに読者から共感されたものはありましたか?
「自分があてはまるものはどれですか」というアンケートをとったら、1位が「いかなる時もセーフティーネットとして機能する女友達がいる」とでした。あとは「結婚したくなさそうに見えると友だちに言われる」とか、「本気を出せばどうにかなると思っている」とか(笑)。「結婚する気、まるでないだろう!」と、みんなでゲラゲラ笑っていたんです。
うん、なさそうですね(笑)。
でも、みんな「結婚したい」とも思ってはいるんですよ。まわりの期待に応えたいという気持ちからだったりもするんでしょうけれど。
こういった女性たちは、いままで親や周囲の期待に応えて、ある程度の打率を上げてきたわけです。そういう人たちが、ここに来てこれだけ打点がとれないというのは、「すごくつらいだろうな~」と思うんですよね。
そこは、ぼくも気になります。そういう方たちは、「親に認められないと」というのが、すごく強いのではないかなと。いわゆる「世間体が」というときは、社会よりも、じつは「親」なんだろうなと。真面目な方が多いんでしょうね。
多いです。読書会とか、サイン会とかでお会いした読者の方たちを思い浮かべると、やっぱりすごく「真面目」ですね。
しかもまた、親が娘を袋小路に追い込んでいたりするんですよ。いい学校に行って、いい仕事について、きちんと稼ぎなさいと育てておいて、「それ以上のダンナさんを求めなさい」といったら、結婚する可能性は当然、下がるじゃないですか。娘をボトムアップしながら、しかも相手の男性には親の世代と同じように「もっと上」を求めるんだから、パーセンテージは減ります。
たぶん親の世代は、そういうところが見えていないんでしょうね。
現実は親の世代のイメージと乖離していますよね。
次回に続く(次回は8月4日の予定です)
文:大塚玲子、撮影:橋本直己、編集:渡辺清美
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フリーランスのカメラマン・エディトリアルデザイナー。趣味は尺八。そして毎日スプラトゥーン2をやっています。
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PR会社を経てサイボウズには2001年に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で、広報IRを担当後、育児休暇を取得。復帰後は、企業広報やブランディング、NPO支援を担当。サイボウズ式では主にワークスタイル関連の記事やイベント企画を担当している。
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