大塚 玲子
いろんな形の家族や、PTAなど学校周りを主なテーマとして活動。 著書は『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)。ほか。
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この記事は東京都大田区の嶺町小学校におけるPTA改革に関する話を伝え、PTA活動をどのように自由で柔軟なものに変えていけるかの事例を示しています。嶺町小学校では従来のPTAをPTOと改称し、役員制を廃止し、すべての活動を「手上げ方式」、すなわち完全なボランティア制に移行。それによって、参加者が楽しいと感じるイベントを増やし、参加の敷居を下げることを目指しました。しかし、この改革には「イベントが多すぎる」「特別なスキルが必要だ」と感じる人も出てきており、その点をジレンマとして捉えています。ボランティアの定義についても考えを深め、主体性をもって行うことこそが本来のボランティアだと認識され、PTA活動とボランティアの違いを再考しています。また、資金調達においても、古い慣習に縛られず、新たな試みとしてTシャツの販売を行うなど、多様なアプローチがあることに気付きました。これらの改革から学べるのは、PTAの活動を柔軟に見直し、地域や学校とのコミュニケーションを大切にしながら、自由に形を変えていけるということです。
左)玉川広志さん/2015年度から、東京都大田区立嶺町小学校PTO団長。愛称「たまちゃん」。「こうちゃん」と共に、改革を進めてきた。アレルギー対応ハウスクリーニング「ワンラップコート鵜の木」代表。右)山本浩資さん/東京都大田区立嶺町小学校PTOで、2012~2014年度まで団長を務め、PTA改革を進めた。愛称「こうちゃん」。本業は、毎日新聞社会部記者。自身のPTA体験をまとめた著書『PTA、やらなきゃダメですか?』(小学館新書)好評発売中!
前回に引き続き、PTA改革で知られる東京都大田区立嶺町小学校PTO※のお話です。2014年度まで3年間団長を務め、すべての活動を「手上げ方式(完全ボランティア制)」に変えた山本浩資(こうすけ)さんこと「こうちゃん」と、2015年度から団長を引き継いだ玉川広志さんこと「たまちゃん」が、PTAについて語り合いました。聞き手は編集&ライター・大塚玲子(『PTAをけっこうラクにたのしくする本』著者)。後編では「ボランティアとは何か?」「自由な形のPTAとは?」を掘り下げます。
※嶺町小では「PTA」を「PTO」、「本部(役員)」を「ボラセン(メンバー)」と呼んでいます。
うちのPTOは、他校の人からは、全てが上手くいってるように見えるかもしれない。でも実際には、いろいろあるんですよね。この前、会員みんなにアンケートをとったんですけれど、やっぱりいろんな声がありました。
たとえば、どんなものでしょう?
僕らは「通りいっぺんのことをやっていても、みんな参加しようという気にならないから、楽しいイベントをやろう」と考えているんです。
でもそうすると「イベントをやりすぎなんじゃないか」とか「せっかく仕事を減らしたのに、どうしてまた増やすんだ」という声も出てくる。
なるほど~。やりたくない人を巻き込むのでなければ、増やしてもいいと思いますけど……。でも巻き込もうという意図が見えすぎると、うっとうしいかも(笑)。
あとは、僕らはなるべくみんなに得意分野で活躍してもらおうと、それぞれの人の専門分野のことをしてもらっているんですが、そうすると「特別なことができないと、ボラセンに入れないんじゃないか」という声も上がったりする。ハードルが上がっていってしまうんですね。
一生懸命やりすぎちゃう、というのも同じです。これから参加する人のハードルを上げてしまうので。もちろん一生懸命やるのはいいことなんだけど、ボランティアとして「より多くの人に参加してもらう」ということを考えると、裏目に出たりする。
そういうのって、絶対的な正解がないんですよね。
難しいですね~。
ボラセンの中の話し合いでも、いろんなアイデアが出てるんですけれど、全部実現しようとすると、ボラセンの仕事がどんどん増えていくというジレンマがあります。
たとえば「もっとみんなに声かけをしていこう」とか「参加した人の声を広報紙に載せよう」とか。質を高めるのはいいけれど、「じゃぁ、それはどこまでやるの」ということも考えて、いいところの加減でやめておかないと、自分たちが大変なことになってしまうんですよね(笑)。
あー、そういう「加減の問題」も悩ましいですよね。
PTOをやっていると、「ボランティアって何だろう」ということもよく考えます。「ボランティア」ってよく使う言葉ですけれど、突き詰めて考えたときに、それが何なのかよくわからない。「できる人が、できるときに、できることを」やるのがボランティアなのか? というと、そうじゃないと思うんですね。
あぁ、そうですね。PTAのキャッチフレーズとして定着していますけれど、ボランティアの定義ではないです。
去年、「ボランティア学」というものを日本に最初に持ち込んだ興梠(こおろき)先生という方に、山本さんと一緒にお会いしに行ったんです。その方が一番におっしゃるのは、「主体性」ということ。つまり「主体的にやるのが、ボランティア」なんです。
だから「全員やるべきだ」となったら、それはもうボランティアじゃなくなっちゃうんですよ。それが一般に認識されていないですよね。
日本の「ボランティア」は、よく「無償労働(アンペイドワーク)」という意味合いで使われていますね。だから「強制ボランティア」なんていう、矛盾した言葉ができてしまう。強制したらボランティアじゃないんだけれど。
でも日本のPTAは、ずっと「全員がやるべきだ」とされてきましたから、もともと運営の仕方が「ボランティア」じゃなかったんですよね。
以前、山本さんがPTAの総会で「ボランティアをやったことがある人、手を挙げてください」と言ったら、ほとんどの人が手を挙げなかった、という話をされていましたね(笑)。みんな、PTAとボランティアは別ものだと思っている(苦笑)。
NPOとか、他のボランティア団体を見てみるとわかるんですけれど、やっぱりPTAって特殊なんですね。現状は「小学校に入ると、PTAにも入る」みたいなことになっているから、小学校という枠で囲えてしまう。
でも他のボランティア団体には、そういうものがない。その代わり、「私たちはこういうことをやりたいんです」という目的が最初に来るんです。逆に言うと、PTAはその「何のため」がないまま始めてしまうから、おかしな話になりやすいんですよね。
あ~、そこが始まりですよね。
その「何のために」というところを、僕らは常に振り返るようにしたんです。それも、ここ数年の大きな変化だと思いますね。今まで「前例通り」でやってきたものについて、常に「これは何のために、うちのPTOでやるんだろう」ということを考える。
それはいま、全国のPTAに、一番必要なことかもしれませんね。
地域の活動も、「何のためにやっているか」という捉え直しが必要ですよね。これって、僕らが始めたくて始めたものじゃないですけれど、やってみると「ありがたいな」ということがわかってくる。でも、一般の会員はそれを知る機会がないんですよ。
そうなんです。この辺の地域イベントは親子で参加できるんですけれど、一度参加した人は、本当にほぼ必ず、毎年来るようになるんですよね。都会に住む子どもたちに「ふるさとの思い出を作ってあげたい」という気持ちでやっています。
なるほど。でもやっぱりみんな、「やらされる」という感覚が強いですよね。実際に、強制的に動員をかけているPTAも多いですし。
うちはもう、参加したい人だけが参加するので、その感覚はないんですけれど、他校はそうですね。
たとえば地域の「連合運動会」というものがあって、そこには各学校の校外委員さんがお手伝いに来るんです。競技に参加する人には、地域の人がパソコンで作ってくれたシールを貼るんですけれど、あるときその印刷が逆だったの。シールが剥がれない方に印刷しちゃっていたから、ハサミで切って、剥がすしかなかった。
僕らなんかは「こういうこともあるよね、じゃあ切りましょうか」となるんですけれど、違う学校のお母さんが、そこでブチ切れちゃった。「こんなの会社の仕事だったら完全にアウトだよ! 私たちにやらせるんだったら、ちゃんとやってよね!」と。これも参加する意識の違いですよね。「やらされてる」と思ったら、そういうふうになっちゃう。
全然違うよね、あれはびっくりした。
強制されて参加していたら、どうしても、そういう感覚になるでしょうね……。それをやめたというのは素晴らしいことですが、町内会や他のPTAから「人を出せ」みたいなことを言われたりしないですか?
「強制的なPTA」から「手上げ方式のPTO」に変わって、地域の人たちは人が集まるか心配していましたね。でもこれまでと違っていやいや参加している人がいないので、コミュニケーションが深まってきている 感じがします。
「協力してもらえませんか」と言われることはありますが、無理強いはされません。逆に僕らから地域の人にお願いすることもあって、餅つきなどPTOのイベントに協力していただいています。
僕らがいろいろ改革をやってきてわかったのは、いろんなことを、もっと自由にできるってことだよね。たとえば、このスタッフTシャツ。僕が会長になった最初の年に、おそろいのTシャツを作ろうと提案したときは、いろんな反対があって作れなかったんです。
それが、3年目のときに実現した。それまでは、資金集めのために古紙回収をやっていたんですけれど、年間100人ぐらいの人員が必要で、あまりにも費用対効果が悪かった。それで「違う形でお金を集められないか」と考えて、このチャリティーTシャツを作ったんですよ。
本(『PTA、やらなきゃダメですか?』)に書かれていましたね。古紙回収が、かなりお母さんたちにとって負担になっていたと。
1キロ4円くらいなので、時給換算すると、ものすごく安いんですよ。
ほかにも親子遠足を企画して募金をやったりして、集めたお金で年度末に、実験教室のようなことをしてくれる団体を呼んだんですよ。会費だけでお金が足りないときは、そういう方法もあるんです。
「PTAは非営利団体だから、モノを売ってお金を儲けてはいけない」みたいに思い込んでいる人が多いですよね。学校側とも、いろんな調整が必要でした。
「毎年古紙回収でやってきたから、今年も古紙回収じゃなきゃだめ!」みたいな思い込みもありますよね。でもじつは資金調達にも、いろんな方法がある。
玉川さん、この1年団長をやってみて「これが大変だった」ということと、「これが楽しかった」ということは?
うーん……、自分が団長じゃない時の方が楽しいかもしれないね(笑)。そのほうが、やりたいことをできる。
団長は、あえて存在を消すよね。自分が意図していなくても影響力が大きくなっちゃうから、「引くこと」をすごく意識してました。
ふーん。「引く」と、何がいいんですか?
やっぱりボランティアって、みんなでやるものじゃないですか。そこで自分ばかりが前に出ていったら、たぶん周りは面白くないんじゃないかな、と思ったんです。もともと団長って、挨拶とかで前に出る機会が多いですしね。
今年度、僕が一番目標にしていたことは、関わってくれた人たちがみんな、終わった後に「あー、ボラセンやってよかった」と思って欲しいなということ。それが結果的に自分の楽しみになる、みたいに思っていたんです。それはまあまあ、できたんじゃないかな。
大変なことのほうは何だろう……、こうちゃんは何が大変だった?
一番大変だったのは、最初の半年だけだね。仲間ができてくると、みんながいろんなアイデアを出してくれて、いろんな風に進んでいったので、熱くて楽しかった。「大人の文化祭」みたいな感じ?(笑)
「山本さんが団長をやめたら、元に戻るのでは?」みたいなことを言う人もいたと思いますが、少なくともいまは、まったくそんな様子はないですね。
たまちゃんみたいに、これまでの過程を知っている人で、下に小さい子がいる人はけっこういるので、「少なくともあと10年は続くだろうな」という確信はあったんです。
その先もそうですけれど、僕たちの代がしいたレールにそのまま乗らなくていいんですよ。その時々のボラセンのスタッフや、学校の雰囲気によって、自由にすればいい。
委員会をなくしたので、前例に縛られない形になったんです。それぞれのイベントや行事も自由にできるし、本当に人が集まらなかったら、今年はやめようかという判断もできる。そうやって誰でも続けられるようなゆるい組織にできたから。
そうですね。必ずしも、「同じ形が続くことが成功」というわけでは、全然ない。
僕はずっと「PTAはこうあるべき、こういう活動をすべき」みたいなものが、日本のPTA活動で困っている人たちを縛っているんじゃないかな、と思っているんです。
PTAでもPTOでも名前は何でもいいんだけれど、学校と保護者がコミニケーションを取りやすいネットワークとして、必要なわけですよね。その目的を実現するために、どういう選択をすればいいのか、というのは、その時々の人が考えればいいこと。
戦後すぐの時代に作られた規約を、ただそのまま引きずるんじゃなしに、自分たちなりにどんどん変えていければいいんじゃないかな、と僕は思います。
文:大塚玲子 / 撮影:内田昭人 / 編集:渡辺清美
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いろんな形の家族や、PTAなど学校周りを主なテーマとして活動。 著書は『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)。ほか。
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