サイボウズ株式会社

「育児・家事・介護」、3つのことを社会にシェアすれば、もっと豊かになれる──カラーズ経沢香保子×サイボウズ青野 慶久

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 企業経営者
  • 起業家
  • 働く母親
  • 育児に関心のある人
  • ジェンダー平等を考える人
  • 社員持株会のメンバー
  • 育児支援サービスの利用者
  • ベビーシッター業界関係者
Point この記事を読んで得られる知識

この対談記事から得られる知識は、まず経営者同士の視点から見る起業の苦労と家事や育児の社会的シェアに関する話題です。経沢香保子さんは、ベビーシッターという事業を日本で広める挑戦として取り組んでおり、待機児童問題への対応や、資本市場での女性の立場について経験を語っています。対談の中で、ベビーシッターが日本に根付くためには、社会的信用の構築が重要であり、そのためにはサービスの質を高めることが必要であると述べています。また、家庭内における育児や家事の価値観についても触れ、多様性の理解が重要だとし、どのように家族や職場での役割分担を進めていくかについて議論を展開しています。

青野慶久さんの視点では、育児を社会資産として捉え、育児に対する余裕があることで将来的な市場の拡大につながるという意識が紹介されています。また、働く環境においても「売上よりも育児」を優先する文化の醸成が企業の価値向上につながるとし、多様性が認められ、それを受け入れた上でのチーム作りの重要性を強調しています。社会的意義ある会社で働く意欲が社員のモチベーションを高めること、また新たな文化が企業経営においても時流に乗ることの利点が論じられています。

Text AI要約の元文章
家族と仕事

「育児・家事・介護」、3つのことを社会にシェアすれば、もっと豊かになれる──カラーズ経沢香保子×サイボウズ青野 慶久

起業した会社を辞め、2度目の起業でベビーシッター事業の会社をスタートさせた株式会社カラーズの経沢香保子さん。前編では、待機児童問題や経沢さんの2度目の起業、また会社を経営する上での苦労を経営者の観点からサイボウズ代表の青野と対談をしました。 後編では、家事や育児における男女の価値観や、ベビーシッターは文化として日本に根付くかどうか、そして、社会的意義のある会社に発展させていくためにはどうすればいいのかを、さらに深く切り込んでいきます。

「サイボウズ式」とカラーズの「 Up tou you! 」のコラボレーションでお届けしています。「男性育休=“育児インターン” 男性育休がもたらす本当のメリット」「“保育園落ちた死ね”から“手伝おうかにキレる妻”まで育児の役割分担のあり方とは」も合わせてどうぞ。

人がやっていないからこそオンリーワンになり、得られるものが大きい

私は男性に「女性が起業するなんて無理だよ」とか「ベビーシッターを日本で広めるのは無理だよ」と言われても、仕方がないなあ、と……。最初の起業の時がそうでしたが、男性社会の中で資本市場に上場するとなると「女性ができるかな……」と、みんな最初は心配しますよね。 でも、うまくいきそうになると、とたんに「やっぱり女性パワーだ」と言われました。そういうの、私はすごく好きなんです。

好きなんだ!

オセロで黒から白に一気にひっくり返るような瞬間を見るのがすごく快感なんです。トレンダーズを上場しようとした時、ほとんどの人が反対したし、ベンチャーキャピタルの人たちには「あなたは女性だから出産がリスクなので、出資しません」と言われたりもしました。 それでも私が出産・育児を続けながら何とか頑張り、上場すると、めずらしがられました。ほかの人がやっていないことだからこそオンリーワンになれるし、女性パワーを認めて頂ける。その快感がたまらない(笑)。

ある意味、経沢さんご自身がオンリーワンな存在ですよね。だから、会社を離れても経沢さんの価値は下がらなかったのでは?

ありがたいことですよね。トレンダーズはすごく良い会社でメンバーも優秀だったので、ベビーシッターの事業は一緒にやれたらよかったなという気持ちは全くなくはありませんでした。 でも、今の会社で「創業メンバー」という仲間もできましたし、今はほとんどが自己資金でやっているので、以前のように株主を気にかけたり、遠慮していた自分がなくなったりとやりやすい部分もあるんです。

経沢さんって遠慮するんですか?

こんな厚顔無恥っぽいですけど、実はすごく遠慮します(笑)。だから、今はあえて自己資金でやっているんです。株主がいるとやはり株主の立場にも気を遣ってしまいますし。 ベビーシッターは命を預かるサービスなので、安全と信頼が第一です。今は売上よりもサービスクオリティー重視の時期だと思い、とにかくそこにこだわりまくっています。 端から見たら「売上を気にしないなんて」と言われそうですが…。大株主の方がいると、どうしても「いつ上場するの?」という話に必然的になってしまいますよね。

経沢香保子(つねざわ・かほこ)さん。株式会社カラーズ代表取締役社長。桜蔭高校・慶応義塾大学卒業。リクルート、楽天を経て26歳の時に自宅でトレンダーズを設立し、2012年、当時女性最年少で東証マザーズ上場。2014年に再びカラーズを創業し、「日本にベビーシッターの文化」を広め、女性が輝く社会を実現するべく、1時間1000円~即日手配も可能な 安全・安心のオンラインベビーシッターサービス「キッズライン」を運営中。最新の著書に、『すべての女は、自由である。』(ダイヤモンド社)がある

誰に株を持たせるか、だと思うんですけどね。

そうですよね。

株は配当で還元する方が自然

サイボウズが再び成長できた理由の1つは、途中ではっきり「会社の方針を変える」と言ったことです。 上場して株主が増えましたが、僕は多角化経営なんかできる器ではないと思い、「グループウェアしか力を入れませんし、売り上げや利益が上がったとしても、そこにはこだわりきれません。その代わり、グループウェアを作って世界で一番使われるように広めます」と言ったら、株主の期待とは違ったようで、株主総会が荒れたんですよ。 去っていった株主もいるのですが、2〜3年すると企業理念に共感してくれる人だけが残り、ファンの集いのようになったんです。業績が下がって配当も減っているのに、本当にサイボウズのことが大好きな人が集まっているから、荒れたりもしない。

「株主であることがうれしい」と。本当にファンの集いのようですね。

ファンしかいないと、変な遠慮もしないので、自分らしくいることができますよね。

確かに。お金が絡んで、自分と相手の利害関係が違ってしまうと、本質を見失ってしまいがちですし、本当に切ないですから。

「売り上げを増やすつもりはありません、株価を上げるつもりもありません」と先に言い切って。

でも、サイボウズさんはすごく株価が上がっていませんか?

いや、良い感じに低い状態で安定していまして(笑)。

定置安定株ですね。

ええ。今、社員の90%が社員持株会に入っているので、正直、社員の多くは株価がもっと下がれと思っていると思いますよ。

なんでですか?

今のうちにいっぱい買えるから。今、倍に上がっちゃったら、来月買える株式の数が半分になっちゃうわけじゃないですか。できれば、自分が引退するまで低くて、引退する瞬間に上がれば、大喜びですよね(笑)。

青野 慶久(あおの よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。2011年から事業のクラウド化を進める。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある

良い会社ですね。

株は配当で還元する方が自然なのかなと思うんですよね。

私も今はそう思っています。もし次に拡大できたら、配当でみなさんに喜んでもらって、株主と会社が長く付き合っていける関係を作れたらなと思います。

イライラしている人は、「なんで自分だけ不幸なんだ」というのが怒りの原因

仕事では基本的に男女平等になりつつありますが、家事や育児では保守的なジェンダーロールがいまだに残っていて、まだまだ男女平等とは言えない状態だと思います。 女性が社会に進出して、ライフスタイルが急激に進化したのに、家事や育児に関するサービスや男女の役割の新しい価値観が追いついていかない。

ほんと、そうなんですよね。

いきなり価値感を追いつかせることは難しいけれど、サービスを作って世の中に広めることで、少しずつ変えていけると思って、私は今ベビーシッター事業をやっています。 ライフスタイルが変わる狭間に生きている人たちは大変だけど、どうやったらポジティブな未来を作っていけるのか、というのは一つのテーマですね。

男性でも育休を取得する人が少しずつ増えたり、共働きが当たり前になったりと、社会の実態は変わってきているんですけどね。家事や育児は女性がするべきという考え方は、まだ残っているんですよね。

多様性が世の中で認められるようになればいいですよね。育児に関しても「男女の平等」って何かなと思ったり。 難しい問題だなと思うんですけど、最小単位のパートナー、身近なところでいくと、夫婦仲がうまくいくことは、結果としては大きな幸せにつながりますよね。会社だってそうです。上司と部下との関係がうまくいかないと生産性が下がる。そのせいで、みんな早い時間に家に帰れなくなって、どんどん溝が広がるということですよね。

でも、近くにいる人とうまくやるのって、実は難しいですよね。

そうかもしれないですね。そのためにも、もっと余裕がもてたらよいと思うんです。世の中には余裕がないように感じます。特に、ワーキングマザーたちは我慢していることも多いと思います。ママの我慢の末に子どもにイライラが向かってしまったり。 そういうことを防ぐためにも、育児をシェアすることができたら理想的だな、と思います。イライラしている人は、「なんで自分だけ」っていうのも怒りの一因だと思うんです。

確かにそうですね。

時間的な余裕があったり、育児を頼れる人がいると、精神的にも大きなゆとりができるのではないかと思います。

攻撃されると思うと人は防御しますよね。僕は妻にも絶対にキレるのはやめようと常日頃思っています(笑)。キレて、ろくなためしがないので。

キレたら負けですよね。

キレてしまうと問題は解決しないし、結局さらに大きな違和感や不都合になって自分に返ってくるんです。キレずに自分と違う人とどう付き合って行くかをみんなが学んでいかねばなりません。 「多様性」という言葉がこれから大事になってくると思うんですよね。昔は男性が外に働きに出て、女性は家事や育児に専念するという型があったので、型通りになぞって生きていれば「そこそこ幸せ」だったけれど、今はそれが許されない環境になってきています。 自ら進んで家事や育児をする男性もいれば、バリキャリ女性だっている。そんなときに「なんでお前はこの形じゃないんだ」って言わないこと。さまざまな形があり、どの形も幸せを感じられるという余裕が重要です。

仕事も家庭も、トラブルは一旦笑いにすると冷静に見ることができるようになる

幸せの形を作るために重要なのがコミュニケーションですよね。会話にセンスのある人って、ネガティブなことを言われた時の返しがすごくうまい。 私も会社を興したばかりで今はまだ成功には程遠いので、いかにその状況を「楽しく苦しむか」、みたいなところがあります。 トラブルがあったら、「へぇ、そんな考え方があるんだ!」と、笑いにすると一旦フラットになれます!

なるほど、笑いにすればいいんだ。

いったん笑いにするとリセットされて、物事を冷静に見ることができるようになるんですよ。私は経験を重ねるにつれ、どんどん肝が据わっていきます。 でも、新しく担当になった若い社員の子は「どうしよう、どうしよう」と不安になってしまうので、「いやいや、よくあることだよ」と言えるといい。 夫婦間でも子どものことで何か問題があった場合、「いや、子どもだからしょうがないじゃん」とどちらかが言えれば「まぁ、そうだよね」と少しは楽観的になれるかも。

笑いにすると余裕が生まれるんですね。

みんな真剣になり過ぎてしまうんじゃないかなと。あと、私は女性がマネジメント経験を持ったらもっと世の中うまくいくんじゃないかと思っているんです。人に任せる視点ですね。 例えば、ベビーシッターを利用するにも、上手に活用する人と、全て自分でやりたい人と、いろいろなタイプの方がいます。

ベビーシッターをうまく使うのもマネジメント力が必要なんですね。

そうです。もし慣れていたら、より育児が楽しめるかもしれません。例えば、お気に入りのベビーシッターさん3人くらいに、いつも連絡を取れるようにしておくと、いざというときも困りませんし、子どもは多くの大人と関わることができるので、夫婦だけではできないオリジナリティあふれる育児ができて良いと思います。

あのシッターさんはこんなことが得意だから、これをお願いしようとか?

そうそう。子どもも様々な人に会うことができるので視野が広がる。コミュニケーション能力がついて、いろんな人がいるんだなと早い段階から多様性も学べます。もちろん育児の考え方はさまざまですが、ベビーシッターはそういうメリットもあるかと思います。

おもしろいですね。家族以外の大人と触れ合うことでより成長できるんですね。

出産・育児を経験したことがない人がママの気持ちを理解できなくても、それはそれで良い

「ベビーシッターは本当に日本に根付くのか」とよく聞かれますが、私たちはしつこく根付かせます! 母親にとって心理的なハードルが高いという意見もある今がチャンスだと思っています。

なぜチャンスだと思うのですか?

困っている人が多くいるからです。例えば、保育園とベビーシッターを比較したとき、保育園だと深夜預けることができない、担当の保育士を選べないなど、制限がありますよね。もちろん素晴らしい側面も多いです。 ベビーシッターは一人一人のオーダーに合わせることができて、シッターさんも選べるので、経済的にも合理的にも、使い方によっては、ベビーシッターのメリットもあると思うんですね。だからお互いのメリットを活かし合いたいです。

なるほど。

ただ、さまざまな理由でベビーシッターの利用が遠ざけられています。一番大きいのは、「そもそもベビーシッター自体を知らないこと」。「周りに使っている人がまだいないこと」や「不安感」といった3つの理由が主に挙げられます。

確かにベビーシッターの認知度は、日本ではまだまだ低そうですよね。

ひとつずつ課題を解決していくしかありません。とにかく今は信用の積み上げの時期です。だから、何よりも安心感を大切にしています。お客さまから電話があったらすぐに対応して、信頼を第一に考える。良いシッターを採用してきちんと教育し、信頼関係を築くということをやっています。

まずは安心感を植え付けようということですね。

30代などはい。年齢層が若いお母さんほど、ベビーシッターに抵抗がない傾向があります。一度使って便利だと思った方はまた使うというリピーターが多いところに、私は希望を感じています。 現在、利用者の8割の方がリピートしてくださっていて、一回使うと便利で使わずにはいられない、と繰り返し使ってくださるんです。文化にしていくにはまだ時間がかかりますし、根付くには10年ビジョンが必要かと思っています。 「育児・家事・介護」という今まで女性に多くの負担がかかってきたけれど、本来はシェアしたい3つのことを気軽に頼める世の中にしていきたいんです。女性がこの3つの部分をどうするか、選択肢を持つことでもっと自由になれるかなと思っています。

文化の入れ替えはしていかなきゃいけない。例えば、「今期の売り上げ目標を達成しなければいけませんが、子どもが熱を出してしまいました。さて、どっちを優先しますか?」となったとき、僕は自分の社内のグループウェアに「商売より育児が大事です」と書くんです。 なぜかというと、育児をできる余裕のある人たちが増えると、多くの人が育児に専念できる。その子どもたちが大人になったとき、僕たちのサービスを買ってくれて、次の市場を作ることにつながるので。社会のインフラとして育児をしないと、将来のお客さんがいなくなって、そもそも商売できないんだから。 それは共感してくれる社員もいるし、「そんなキレイごとを言って……」と思う社員もいると思うけど、繰り返し言っていると、徐々に「なるほど」と思う人は増えていく。

うちの会社にもイクメン社員も一人います。 出産や育児を経験していない人も、経験がある人もお互いが理解し合えれば、会社の運営もうまくいきそうですよね。

そうですね。でも、出産や育児を経験したことがない人も理解しなさいと強制するのは良くないし、全員が理解するのは無理だと思っています。 多様性を広めれば広めるほど、じゃあ自分はどのパターンの人を理解できるのかって考えると、膨大ですよね。 会社がグローバルになってベトナムで働く人の気持ちが分かるかとなったら、よく分からないわけで。それはそれで良くて、少なくとも、いろんな人がいていい組織にしようね、というのは共感しておこうと。

サイボウズさんがすばらしいのは、それでもちゃんと結果にコミットしようねというところですよね。

いろんな人がいた方が楽しくていいよね、おもしろいよね、と。

社会的意義を持っている会社は、社員に給料以上のものを与えている

会社で社員が働き続ける理由に、「経済的な基盤が欲しい」という理由もあると思いますが、「成長したい、社会に貢献したい」といったものの比重が大きいなと思っていて。 そのためには、一人では実現することはできないので、チームが重要になりますよね。昔はもっと、個人プレーに重きを置く時代もあったと思うのですが、今はチームの重要性を多くの人が認識しています。

そうですね。

特にうちのように社会性を持つ会社は、社員のモチベーションも比較的高い気がします。会社がモチベーションをコントロールしなくてもすみますよね。社会に何かを残したい、人に役に立ちたいという目的があるので、自分の人間的成長も自ずと感じられるのだと思います。

新しい文化を作って根付かせるカラーズさんのような社会的意義を持っている会社は、社員に給料以上のものを与えていると思うんですよね。 大企業で働いていても、社会的意義がいまいち感じられない人はいます。その人たちは感動をするためにわざわざお金を出して、社会貢献している人の映画を見に行ったりするんです。 自分が人間的に成長でき、社会に貢献できる会社で働いていれば、わざわざ映画を見に行かなくても毎日感動できるし、楽しく過ごせるんですよね。そういう意味でも社会的意義のある会社は存在価値が高いです。

ありがとうございます。これからも頑張ります!


文:姫野ケイ/写真:谷川真紀子/編集:小原弓佳


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