モビリティの枠にとらわれない価値創造を目指す、デンソーのオープンイノベーション
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- 地域活性化に関心のある人々
- オープンイノベーションに取り組む企業
- 顔認証技術に興味がある技術者
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この記事を読むと、デンソーがオープンイノベーションを通じてどのようにモビリティの枠を超えた価値創造に取り組んでいるかが理解できる。特にデンソーは自動車の技術を非モビリティ分野に応用することを試みており、その一例として地域情報配信サービスアプリ「ライフビジョン」や顔認証技術「SQRC」を活用した取り組みを紹介している。
ライフビジョンは、自治体と住民をつなぐ情報サービスアプリとして位置付けられ、防災DXの分野や文化芸術を使ったまちづくりの分野での共創事例が紹介されている。例えば、防災DXの事例では、ライフビジョンと三井住友海上の「防災ダッシュボード」が連携し、災害情報の収集や分析を強化している。
また、QRコードを用いた顔認証技術に関係する事例では、 デンソーウェーブが「rMQRコード」を開発し、商品や部品のトレーサビリティ向上に取り組む様子が描かれている。この記事では、これらの取り組みが地域社会の問題解決や次世代のセキュリティシステムの構築にどのように貢献するかが説明されている。
そして、オープンイノベーションを成功に導くための課題とも、一度頓挫したプロジェクトでもコミュニケーションを続けることで新たな路が開ける可能性があるなど、プロジェクト運営における重要ポイントも学べる。デンソーが次回取り組むテーマについても触れられており、持続的な価値を生むプロセスにおける重要性が再確認できる。
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2023.9.29
ビジョン・アイデアモビリティの枠にとらわれない価値創造を目指す、デンソーのオープンイノベーション
「DENSO OPEN INNOVATION PROJECT DEMO DAY」イベントレポート
顧客ニーズの多様化や企業競争の激化を背景に、自社が保有する技術やアイデアを他社のものと組み合わせ、新たな価値を創出する「オープンイノベーション」が注目を集めています。デンソーも創業以来、様々なオープンイノベーションに取り組んできました。
その一つとして、2022年、デンソー 研究開発センター クラウドサービス開発部が中心となって立ち上げたのが、モビリティの枠を超えた価値提供を目指す「DENSO OPEN INNOVATION PROJECT」です。自動車部品メーカーとして培った、センサーやロボット、アクチュエーターなどの様々な技術を、非モビリティ分野に応用することを目指しています。
昨年第1弾のテーマに選ばれたのは、デンソーの地域情報配信サービスアプリ「ライフビジョン」を活用した「地域創生」と、QRコードの生みの親であるデンソーの要素技術「顔認証SQRC」を活用した「QRコード×本人認証」の2つです。
参考:https://eiicon.net/about/denso-oi2022/
2023年7月18日には、数多くの応募をもとに、実際に共創が始まった事例のなかから、4社との事例を取り上げ、その成果と得られた学びを共有するイベント「DENSO OPEN INNOVATION PROJECT DEMO DAY」が開催されました。
イベントの内容をレポートします。
※ 記載内容は2023年7月時点のものです。
この記事の目次
「ライフビジョン共創事例」防災DXと地域活性への貢献
イベントではまず、ライフビジョンを活用した共創事例を紹介。ライフビジョンは、自治体と住民をつなぐ情報サービスアプリです。住民は自分の端末へアプリをインストールすることや、専用デバイスを受け取ることで、自治体の発信する情報を取得できるようになります。
参考:https://www.denso.com/jp/ja/driven-base/project/lifevision_1/
地域創生においてライフビジョンを活用する背景を「より幅広い住民の方々の暮らしを支えたいから」と、デンソー 自動車&ライフソリューション部の杉山幸一は語ります。
「ライフビジョンはリリースから10年で、70以上の自治体様、20万人以上の住民の方々に利用いただく情報インフラになりつつあります。これまでの経験や実績を活かし、買い物支援、オンライン診療など、様々な形で住民の方々を支えるアプリに成長したいと考えています」(杉山)
続いて、2社のパートナー企業のご担当者様から共創事例の成果をご紹介いただきました。
防災DX(パートナー:三井住友海上火災保険株式会社)
1つ目のライフビジョン共創事例は、三井住友海上火災保険株式会社の「防災ダッシュボード」とライフビジョンがコラボレーションした、防災にまつわる取り組みです。
ライフビジョンは、住民一人ひとりに端末を配布しているため、災害時のスムーズな情報共有を可能にします。災害対策本部から、各現場、各家庭に情報を発信することも、「崖が崩れている」「避難所に何人避難している」といった情報を、現場から吸い上げることもできます。
一方、三井住友海上が提供する「防災ダッシュボード」は、自治体と連携し、災害時の情報を迅速に集めて分析・可視化するシステムです。台風などの際に30時間先までの水害リスクの可視化や、震災から10分後には被害状況や件数、被害エリアの可視化ができます。
「両サービスの強みを組み合わせることで、より高度な災害情報の収集、管理、分析、伝達が可能になる」と、デンソー 自動車&ライフソリューション部の安藤愛と、三井住友海上 ビジネスデザイン部の岡崎紘治さんは語ります。
「自治体の災害本部には、ホワイトボードで情報整理をするといったアナログな運用がまだ残っています。ライフビジョンで集めた情報を防災ダッシュボードで分析、可視化できれば、防災対策のDXが可能だと考えました」(デンソー・安藤)
「防災・減災は、地域の企業様や消防団の方々、住民のみなさまとの連携が必須です。ライフビジョンはそうしたつながりをお持ちなので、コラボレーションできれば地域防災の強化に取り組めると考えました」(三井住友海上・岡崎さん)
現在共同開発中のサービスは、ライフビジョンで集めた情報を防災ダッシュボード上に表示できるというもの。2023年の7月末から、自治体での実証検証を開始する予定です。
アーティストによる地域活性(パートナー: 一般社団法人ピースライブ)
2つ目のライフビジョン共創事例は、アーティストとともに文化芸術を使ったまちづくり事業を展開する、一般社団法人ピースライブと行った「地域活性」の取り組みです。デンソー 自動車&ライフソリューション部の廣田和成と、ピースライブ 代表理事の大友健さんは共創の背景をこう語ります。
「ライフビジョンで行政情報を配信していますが、住民のみなさん、特に若い世代の方に興味を持っていただくのを難しく感じていました。アーティストの方の表現力で、より魅力的で心に残る情報発信をしたいと考えたんです」(デンソー・廣田)
「まちづくりのアイデアはいくつもありますが、私たちだけで事業化するのは難しいと感じていました。デンソーさんと共創できれば、アイデアを何倍も膨らませるのではないかと思って応募したんです」(ピースライブ・大友さん)
取り組みの中で、「ライフビジョンのインストール促進動画の作成」を進めています。自治体との調整や動画シナリオの作成はデンソーが、アーティストの選定や、動画の撮影・編集はピースライブが担当。2023年9月から長野県にある2つの自治体で実証予定です。役場のサイネージやケーブルテレビなど、地域住民の目に触れる媒体で放映することを計画しています。
今後の展望について廣田はこう語ります。
「地域とライフビジョンとアーティスト(ピースライブ)がタッグを組み、地域密着の情報番組やご当地ソングの作成、路上ライブの開催など、地域活性化に繋げたいと考えています」(デンソー・廣田)
「QRコード共創事例」高度顔認証セキュリティと次世代トレーサビリティの実現
続いて「QRコード×本人認証」の共創事例を紹介しました。顔認証SQRCの特徴について、デンソーウェーブ* マーケティング部の谷藤由利はこう話します。
*デンソーウェーブ:デンソーのグループ会社。QRコードとバーコード、ICカード内のICチップの読み取る「自動認識」技術による製品・システムを手がける。
「顔認証SQRCとは、顔の特徴点データが入ったQRコードのことで、様々なシーンで『なりすまし』を防ぐことが可能な当社独自の技術です」(デンソーウェーブ・谷藤)
顔認証SQRCは、顔の特徴点データをQRコードの中に入れ、本人に保有していただきます。認証の際は、QRコードの中から読み取った特徴点データと本人の顔を突合することで、オフラインで顔認証が行えます。
このため、ネットワークを必要としないことや、企業が個人情報を保有する必要がないことから、より幅広い領域での利用が期待されています。共創に取り組む2社のご担当者様から「QRコード×本人認証」の事例を紹介いただきました。
高度な顔認証セキュリティ (パートナー:株式会社AnchorZ)
一つ目は、世界初のバックグラウンド認証技術* を有するAnchorZとの「セキュリティ」に関する事例です。
*バックグラウンド認証技術:サービスの利用開始から終了するまでの間、本人が操作しているかを認証し続ける技術。
出典:https://www.anchorz.co.jp/dz/dz1
「顔や声といった生体情報、スマホとの距離や傾きなどの動きの癖、Wi-FiやGPSなどの外部情報をもとに、AIが認証に用いる要素を随時適切に使用し、本人かどうかを判断します。その為、外部からは認証タイミングも認証要素もわからない鉄壁の仕組みになっています」と 、株式会社AnchorZ 営業部の太田嘉一さん。
そうした技術と顔認証SQRCがコラボレーションすれば、「初回の登録も、サービスの利用開始から終了までの間も、第三者が介入することのできない最上級のセキュリティシステムができる」と太田さんは説明し、デモンストレーション動画を紹介しました。
「個人情報の漏洩件数やクレジットカードの不正利用金額が過去最大になっています。デジタルの利便性と高いセキュリティを両立するこのサービスは、新しいソリューションになるはずです」(AnchorZ・太田さん)
次世代トレーサビリティ(パートナー:株式会社LOZI)
続いて、デンソーウェーブが開発した技術「rMQRコード」と、LOZIのトレーサビリティソリューション「SmartBarcode」による共創事例が紹介されました。まず、rMQRコードの特徴について、デンソーウェーブ マーケティング本部 前﨑智史はこう語ります。
「rMQRコードは、長方形のQRコードです。これまでのQRコードでは印字が難しかった、電子基板の狭いスペースや、筒状のものへの印字ニーズに対応すべく開発されました。通常のJANコード(バーコード)と同じデータ量を、12分の1の面積で記録することが可能です」(デンソーウェーブ・前崎)
一方、SmartBarcodeは、スマートフォンにバーコードやQRコードを読み込ませることで、商品や部品のトレースが可能になるアプリです。その特徴について、LOZI CEOのMartin Robertsさんはこう語ります。
「SmartBarcodeは、サプライチェーンの調達、製造、物流、販売などの各工程で必要な情報を記録し、可視化することができます。異なる業者が介在してもトレースし続けることができますし、スマートフォンを用いて情報を読み取るので、通常のバーコードリーダーよりも導入しやすいです」(LOZI・Martinさん)
rMQRとSmartBarcodeの特徴を生かして、新たな分野での実証実験を開始しました。それが「GOLF CLUB DX」のプロジェクト。ゴルフクラブのシャフトに商品スペックや電子保証書、査定価格などを記録したrMQRコードを印字し、2次流通の追跡や真贋証明を可能にします。今後は、事業者側の在庫管理や調達管理にも応用していく予定です。
トレーサビリティの重要性は世界中で高まっています。そうした背景を説明しながら、Martinさんはプロジェクトの可能性をこう語りました。
「2022年12月、医薬品にトレース可能なバーコードを付与することが義務化されました。また、今後ヨーロッパでは、サーキュラーエコノミー実現の鍵として、DPP(デジタルプロダクトパスポート)が必要になります。
精密な個体識別をするために、バーコードに保有される情報量は増えるでしょう。rMQRコードのような小さくて、大容量なバーコードの価値は高まります」(LOZI・Martinさん)
また、今回のLOZIとの共創事例では、その過程で大きな方針転換があったと言います。当初は顔認証SQRCを活用して「役所の文章管理を強化する」ことを想定していたのですが、途中でプロジェクトは頓挫。デンソーウェーブがLOZIに対し、新たにrMQRを紹介したことで、まったく違うアイデアが実現しました。一度頓挫したとしても、コミュニケーションを取り続けたことで、別の成果を生み出すことができた好例と言えます。
関係者の想いをうまく共有し、安心して活動できる環境が必要
4つの事例が紹介された後は、「ライフビジョン共創事例」の推進リーダーを務めた、デンソー 自動車&ライフソリューション部の冨田大輔により、オープンイノベーションをすすめるなかで得られた学びが共有されました。
冨田はまず、本プロジェクトに取り組むにあたり、大切にした心持ちを以下のように語ります。
「イノベーションというと、商品化や事業化による売上向上を求められます。しかし、それ以外の結果が『失敗』かというと、そうとも言い切れません。企業それぞれの制約条件もあり、目に見える成果が出るには時間がかかる場合もあります。そこでオープンイノベーションの成功を『やって良かった!と思えること』と定義しました」(デンソー・冨田)
「やって良かった」と思えるためには、パートナー企業と良好な関係を築くことが大事だと語り、意識した2つのポイントを紹介しました。
「1つ目は『スタートとゴールの共有』です。始める前に、持っているリソースや制約、お互いの期待をすり合わせます。また、ゴール設定は固めすぎるのではなく状況に応じて柔軟にピボットさせる。なにかしらの障壁があり、事前に決めたゴールに届かない場合も、方向転換をしながら最後まで可能性を探ります。
2つ目は『互いに活動の成果を見出す』です。デンソー、パートナー企業様、どちらかの利益に偏ったゴールを目指すのではなく、お互いに成果を見出せるようにしています。取り組みの結果として、商品化・事業化以外にも、新たな顧客ニーズの発見やノウハウ獲得なども成果として捉え、お互いに共有しています。
そして、その2つのポイントのベースとなる大前提として、パートナー企業様へのリスペクトを大切にしています」(デンソー・冨田)
続いて、「パートナー企業様だけではなく、プロジェクトに取り組む自社メンバーに目を向けることも大事」だと冨田は語ります。
「大切なのは『メンバーの活動環境づくり』です。まず、メンタル面で言えば、成果を『5つのイノベーションパターン*』で整理することで、活動の意義を見出しやすくしました。また、失敗や方向転換も許容し、心理的に安全な環境を作ろうとしてきました」(デンソー・冨田)
「実務面においては、スタートの状況や規模感、難易度など様々な状況の案件を管理するため、プロジェクトの進行フローを明確にしました。さらに、フローの各フェーズにアウトプットのフォーマットを用意し、情報の整理と共有を促進しました」(デンソー・冨田)
パートナー企業と良好な関係を築くことと、活動メンバーをうまく巻き込むことは、どちらも「関係者の想いをいかにうまく共有し、安心して活動する環境を作るか」に集約されます。冨田は「メンバーが気持ちよく活動できることが成果につながる」と、学びをまとめました。
想いを持った「個人」が、対等な立場で取り組めるオープンイノベーションを目指して
今回の「DENSO OPEN INNOVATION PROJECT 第1弾(第1期〜第3期)」を企画・運営したのは、デンソー 研究開発センター クラウドサービス開発部のメンバーです。同部部長 兼 執行幹部の成迫 剛志は、取り組みを振り返り、今後の展望について以下のように語りました。
「デンソーグループの持つ技術やノウハウによる社会課題解決をオープンイノベーションのテーマとして挙げていき 、自動車で培った技術の他分野展開や、中部圏特有のモノづくりと絡めた活動にできたら良いと思っています。
また、共創を始めるタイミングでは、必ずしもゴールが見えているわけではなく、成否は分かりません。そのためのマインドセットとして、共創パートナーとの間に上下関係ではなく『対等な関係』を築き、一緒に考えながら進めていくことが大切です。オープンイノベーションの場に想いを持って集まった『個人』が、会社の看板を一旦横に置き、『個人』としての想いや技術、ノウハウ、人脈を共有し合う活動にしていきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします」(デンソー・成迫)
DENSO OPEN INNOVATION PROJECT 第4期共創パートナー募集中!
この度「DENSO OPEN INNOVATION PROJECT 第4期」の開催が決定しました。テーマは、「ロボット×自働化」と「住民×自治体連携」です。
前者のテーマでは、デンソーの「自働化ロボットパッケージ」を用いて、様々な業界の課題を解決し、働き方の革新を目指します。後者では、昨年から引き続き「ライフビジョン」を活用し、防災・福祉・教育・コミュニケーション・移動などのより幅広い領域における価値創造を目指します。
現在、新テーマでの共創パートナーを募集中です。
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