サイボウズ株式会社

志の大小はどうだっていい。人と比べずに、信じた道を進める人が強い──ヤフー伊藤羊一さん

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 大学生
  • 若手社会人
  • キャリアに関心のある人
  • 自己成長を目指す人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事では、ヤフーの伊藤羊一さんが語る「優秀な人」の定義やその成り立ちについて述べられています。伊藤さんによれば、優秀な人とはスキルとマインドをバランスよく持ち、行動できる人のことであるとされています。マインドは志や価値観などの自己の内面的な持ち物で、スキルと同様に鍛えることができ、行動を通じて強化されるものです。また、自分の価値観を理解するために過去の出来事を振り返る「ライフラインチャート」を活用する方法が紹介されています。さらに、キャリアの中での伊藤さんの経験を通じて、スキル・マインド・行動の三角形をどのように構築してきたかが具体的に語られているほか、働き方改革の流れにおいて重要視される自立心の重要性についても触れられています。企業と個人の関係が対等なものへと変わりつつある現代において、個人が自らの価値観や志を持って、選択肢を取捨選択できる力が必須であると強調されています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

インターン大学生の疑問

志の大小はどうだっていい。人と比べずに、信じた道を進める人が強い──ヤフー伊藤羊一さん

できることなら優秀な人でありたい――。

社会に出て働いている人の多くがそう願うのではないでしょうか。でも、優秀な人ってどういう人だろう。ストレートな質問を第一線で活躍する人にぶつけてみたい。

今回お話を聞くのは、ヤフー コーポレート統括本部 Yahoo!アカデミア本部長 伊藤羊一さん。名だたる企業を渡り歩き、数々の実績を残してきた伊藤さんですが、昔はむしろ「だめな社会人」だったといいます。サイボウズ式インターン生の中川が聞きます。

優秀な人は、スキルとマインドをバランスよく持って、行動に移している

就活中、社会人の方々と会ってお話をするなかで、気になったことがあります。「社会で優秀な人とは、いったいどんな人なのか」ということです。人によって定義は違うのかなとは思いますが、伊藤さんから見て優秀な人とはどういう人ですか?

話し始めたものの、すくっと立ち上がる伊藤さん。

ホワイトボードがあると落ち着くんですよね(笑)。

ホワイトボードに三角形を描き始め、3分割する。一段目と二段目の間に長い線を引いて、水面上と水面下に分ける。

一番上が「行動」で、人から見える部分です。行動の下が「スキル」、一番下が「マインド」で、人からは見えない部分です。行動に移してようやく出てくるもの、といってもいいですね。

図でいうと水面下にあるんですね。

そうそう。いくら高いマインドを持っていても、行動しない限り、ほかの人には見えないわけで。だから、結果を出すうえで、行動って大事なんですよ。

少し横道に逸れましたが、つまり、僕が考える優秀な人はスキルとマインドをバランスよく持っていて、かつ行動に移せる人と考えています。ちょっとぼくの昔話をしてもいいですか?

伺いたいです。

ぼくは新卒で銀行に入行して、営業をやっていたんですよ。当時「結果が出るまで帰ってこなくていいよ」と、20時過ぎくらいに放り出されて。

え(笑)。

伊藤 羊一さん。ヤフー株式会社 コーポレート統括本部 Yahoo!アカデミア本部長。東京大学経済学部卒、1990年日本興業銀行入行、企業金融、債券流動化、企業再生支援などに従事。2003年プラス株式会社に転じ、ジョインテックスカンパニーにてロジスティクス再編、事業再編・再生などを担当後、執行役員マーケティング本部長、ヴァイスプレジデントを歴任、経営と新規事業開発に携わる。2015年4月ヤフー株式会社に転じ、Yahoo!アカデミア本部長として、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院でリーダーシップ科目の教壇に立つほか、IBM Blue Hub、KDDI ムゲンラボ、MUFG Fintech アクセラレーター、学研アクセラレーター、森永アクセラレーター、Code Republicなどのインキュベーションプログラムでメンター、アドバイザーを務める。

変でしょ(笑)。22時くらいまで帰れないんですよ。当時「行動こそが重要である」と指導されたのを覚えています。

それ自体は正しい。だけど、何度もお伝えしますが、行動を生み出すのはスキルとマインド。これこそが忘れてはいけないことなんです。

個人的には、両方をバランスよくもつべきなのかなぁ、とは思います。

おっしゃるとおりで、どちらが欠けてもうまくいかないんですよ。たとえば、スキルはなくても、強いマインドを持つ人はたくさんいます。

気合だけは十分! みたいな。

でも、そういう人はスキルがないから、正しいやり方で進められないし、なかなか結果に結びつかなくて、空回りしちゃうんですよね。

一方、スキルはあっても、マインドは弱い人というのもいますよね。そういう人はマインドという「土台」がないから、トラブルや修羅場に遭遇したり、上司と反りが合わなかったり、何かあったときにブレやすいんですよ。

スキルと同じで、マインドは鍛えられる

そんな特徴が。ここで、マインドとスキルを因数分解できたらと思うんですが、まずマインドとはそもそも?

日本語にすると、志とか情熱といったところかな。マインドの土台になっているのが、何が好きで、何が嫌いで、何が心地よいか……といった、自分自身の「価値観」ですね。

価値観という土台の上に、自分が譲れない「軸」が立っていて、軸の上に自分が成し遂げたい「志」があり、その全体がマインドを形成しているんじゃないかな、とぼくは思っています。

わかりやすいです。ちなみに、マインドの部分が「自分のため」という人に、優秀な人はいますか?

最初のうちは「(自分が)成功したいから」と、自分のためにがんばるのでよいと思います。エネルギー・原動力になりますし、実際、行動に移せていますから。

そのなかで、「マインドを鍛えて行動に移す→行動に移すからマインドが鍛えられる……」といった正のサイクルを回せている人は、成長して必ず優秀な人になっていきます

それとともに、マインドが自分のためではなく「人のために」「世のために」という方向へ、徐々に変化していくんじゃないでしょうか。いろいろな人を見ていて、ぼくはそう感じていますよ。

マインドって鍛えられる要素なんですね。

価値観・軸・志で成り立つマインドはある種、スキルと同じようなものですから。スキルも鍛えられるでしょ? とくに価値観は、鍛えるものということではなく、自分をじっくり見つめれば、自然と浮き上がってくるものだと考えています

嫌な自分、カッコ悪い自分、ダサい自分も見えてきそうです。

それでも見つめる。いきなり「あなたの価値観はなんですか?」と聞かれても、とっさに答えられないでしょ(笑)?

自分が何を考えているかをひも解くと、自分とは何か、どんな人生を送ってきたか、出来事のひとつひとつが自分にどんな影響を与えたか……などが見えてきます。

自分を見つめる作業をするときに、おすすめの方法はありますか?

過去の出来事や幸福度をもとに自分を振り返る、「ライフラインチャート」を描くことですね。そうすれば、人生におけるプラスマイナスの時期が視覚化され、何がよくて何がよくなかったか、当時何を考えていたか、驚くほど多くのことがわかるはず。

そのなかで今の自分に影響を与えたものが価値観で、譲れないものが軸、それらを踏まえてやりたいことが志です。

日々考え、振り返り、新発見を得る――この繰り返しで価値観が醸成される

わかりやすいです! では、スキルは?

スキルは、主に思考力とコミュニケーション力、専門スキルに分解できます。思考力、つまり考える力は本当に大事ですよ。でも、それだけじゃ足りません。考えたことを人に共有し、意思疎通するコミュ力がなければ、行動に移せないですから

ちなみに、伊藤さんはこれまでのキャリアのなかで、行動・スキル・マインドの三角形をどう作りあげてきましたか?

主に2つの転機があります。1つめは30歳になる前くらいの銀行員時代のとき。周囲のメンバーに助けられたおかげで、貸出案件を成功させたときのこと。それまでは会社で必須とされた通信教育をほとんどやらずに、スキルアップを怠っていました。マインドも弱く、スキルも育たず、行動してもうまくいかなかった。

ただ、いい結果が出たことで、次もうまくいくようにと、スキルを鍛えるようになったんです。そうするうちに、スキル・マインドを鍛えて行動に移す……といったサイクルが自然と回り始め、自分に与えられたミッションをこなせるようになりました。

すごくいい流れですね。

ええ。2つめは、東日本大震災の年にあったこと。流通業界で働いていたぼくは、さまざまな観点で大きな決断に迫られることになりました。

例えば震災後、物流が復活しても、電池や水などは極めて品薄な状態が続きました。この貴重な電池や水を通常どおり、全国のお客さまが注文できるようにする選択肢もありましたが、各種インフラが壊れた状態にある東北のお客さまのほうが、そういった商品を必要としていることは明らかでした。そこで一時的に、東北の会社に限り、電池を購入可能となるよう、ご注文を制限したんです。

平常時とは違うけれど、今、東北のお客さまに優先的に注文いただくのがいい、と自分で決断を下しました。「上からふられたものをやるだけじゃ、だめなんだ」と、44歳にして気づいた瞬間でした。あの一連の経験でマインドがぐっと鍛えられたと思います。

利益を得られる人と不利益を被る人が出たり、一部から反発も寄せられたりする、難しい選択だったのではと思います。

正しいかどうかわからないことを決めないといけないわけですからね。どうするのがベストなのか、メリットとデメリットを並べて比較検討しますが、そもそも100%の答えなんてないんです。自分の価値観や軸にもとづいて、自分はこうだと信じた道、心の声に従って選んでいくしかないのかなと。

潜在的だったものが、大きな出来事が起きたことで顕在化されるというのが、価値観が形成される流れなのかなと思うんですが、伊藤さんはどうお考えですか?

同感です。自分が経験したことについて、何がよくて何がよくなくて、なぜよかったのか、どうしたらよかったのかを考える“振り返り”を日々し続けなさい――これは企業内大学「Yahoo!アカデミア」の塾生にも、常に言っていることです。日々の積み重ねが人の価値観を作っていきますから。

ぼく自身、生きてきた49年×365日で、現在の自分ができています。毎日考え続け、振り返り続けるなかで、新しいことに気づき、それを自分のものにしていくことが大事だと思います。

企業と自分は、守る・守られるの関係ではなく、あくまで対等。だから自立の精神が必要

時代の変化に伴い、行動・スキル・マインドの三角形のあり方の基本は変わらなくても、重要視される部分は変わってきているんでしょうか?

たとえば、昔だと「毎日時間通りに出社する」といった、人から見える行動のほうが、マインドよりも重要視されていたんじゃないかと、ぼくは思うんですが。

マインドがより一層、重要になってきましたよね。かつては終身雇用制で、1度入社すると実質的に会社が一生を保証する、つまり会社が社員を守ってくれるのがあたりまえでした。しかしながら、ここ数年それが変わりつつあります。これから先、マインド面で必要になるのは、自分で考えて自分で立つこと、自立の精神ですね。

企業と自分は守る・守られるという上下の関係ではなく、あくまで対等な関係にする。これは、ヤフーの働き方改革が根底にあります。自立心を持ちながらもヤフーで働きたい、と社員が思えるようなしくみや環境、制度を提供したいと考えています。

働き方改革は、個人に多様な選択肢を示したうえで、自分の頭でよく考えて自分で決めてね、と個人に判断を委ねていることなのかなと見ていました。それはサイボウズがやっていることとよく似ています。

その通りですね。豊富な選択肢から取捨選択するには、自分の軸や志をきちんと持っておく必要があるでしょう。

逆に、自分自身の軸や志を持っていない人は将来、苦労するかもしれませんね。

今後「志の格差」が広がっていきそうな気がします。自立している人は企業に縛られず、自分の望む生き方を選べる一方で、そうでない人は自由に選択できるはずなのに、誰かに道を決められなければ身動きできなくなる、みたいな。

「自分の人生のなかで、何をしたらいいかわからない」状態だと、生きづらそうだなとは思いますね。

ただ「働くうえで自分は◯◯をやりたい」と明確な思いをもつことが大事。全員に軸と志をいつ何時でも持っていなさい、と言いたいわけではありませんが、どちらも持っておくと、たくさんの選択肢から自由に選んで楽しめるよ、とは伝えたい。

志の大小はどうだっていいんです。「世の中に革命を起こすんだ」とか、大それたことでなくていい

志は大きくなくていい、という言葉にほっとする人は多いんじゃないでしょうか。

人と自分を比べる意味なんてないんです。みんな違ってみんないい、とぼくは思う。そもそも、各々の志の大きさや人生を比べるなんて、なんとも世知辛いでしょ(笑)。

志は探しにいくものではなく、自分のなかにあります。くり返しになりますが、自分を見つめ、振り返る時間を日常的に持ち、積み重ねていってほしいですね。

文:池田 園子/写真:尾木 司

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執筆

ライター

池田 園子

楽天、リアルワールドを経てフリーに。趣味のひとつはプロレス・相撲観戦。著書に『はたらく人の結婚しない生き方』がある。

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