スポーツにもデンソーの技術を。ボート選手に安心をもたらすアプリの開発
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- スポーツ技術の進化に興味がある人々
- デンソーの技術に関心がある技術者
- ボート競技の選手や関係者
- リアルタイム技術の応用に関心がある研究者
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デンソーは自社の先端技術を利用して、スポーツ競技における安全性向上と技術支援に取り組んでいます。具体的には、ボート競技での安全性を向上させるために、ボート選手の位置情報やストロークレートをリアルタイムで把握できるボートサポートアプリを開発しました。このアプリは選手がコースを逸脱する可能性を検知し、警告を発することで選手の不安を軽減します。また、このリアルタイム情報は観客にレースの状況をより臨場感を持って楽しんでもらうことも可能にします。デンソーのボート部とエンジニアが協力し、緊密な連携のもとに技術開発を進めており、選手にとってより安全かつ効果的なトレーニング環境を提供しています。このアプリはボート競技以外にも適用の可能性が検討されており、例えばトライアスロンなど他の多くのスポーツ競技にも拡大していくことが考えられます。デンソーの技術は、スポーツの競技力向上をサポートし、観客体験を向上させることが期待されています。
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2024.8.22
ビジョン・アイデアスポーツにもデンソーの技術を。ボート選手に安心をもたらすアプリの開発
ボート部とエンジニアの強い絆によって生まれたボートサポートアプリ
デンソーはモビリティを中心に農業、モノづくりなど、さまざまな領域において技術開発を行っていますが、そういったデンソーの技術をさらに別の分野にも生かせる可能性があります。
そのひとつの応用先が、なんとスポーツ競技。選手の安心・安全や活躍をサポートするために、先端技術が役立ちます。
デンソーでは、ボートサポートアプリの開発を通じて自社のボート部の活動を支援。今回は、ボート部メンバーとエンジニアが一丸となって進めたアプリ開発の背景に迫ります。
この記事の目次
ボート競技にも、安心・安全を。
ボート競技とは、水上に設定されたコースでオールを使ってボートを漕ぎ、順位を競うスポーツ。
フィニッシュまでいかに速くたどり着くかを競うシンプルな競技ですが、選手たちが力を合わせ、エンジンがついているかの如く水上を加速していくのは圧巻の一言。漕ぎ手たちの息がぴったりと合ったときの美しさは、まさにボート観戦の醍醐味と言えるでしょう。
デンソーのボート部は、国内最高峰の全日本選手権(2023年より全日本ローイング選手権)で23年連続入賞を誇る女子の強豪チーム。五輪や世界選手権といった国際大会に13年連続で日本代表選手を送り出しています。
ボート競技は進行方向に背をむけて漕ぐという競技特性上、川岸のテトラポットやボート同士の衝突事故の心配がありました。練習は曲がった河川などで行われるため、航行コース表示はなく、コースを逸脱してしまうおそれもあります。
実際、ボートに乗る選手たちはどのような不安を感じているのでしょうか。デンソーボート部副キャプテンの大西花歩選手は次のように明かします。
「合宿や大会先など日頃慣れていないコースだと、岸がどこにあるのか分からないという不安を感じます。合宿先ではコースに慣れるまでにある程度の時間が必要となり、そこに時間を費やすことで、練習効率が下がってしまうという課題もありました」(大西選手)
コース逸脱を防ぐための、サポートアプリの開発
こうした課題を解決するために開発されたのが、デンソーのボートサポートアプリです。
エンジニアとしてアプリの開発に関わる先端技能開発部の浮原志優さんは、「コースの逸脱を防ぐために、自分のボートがコース内のどの位置にいるのかを表示させながら、逸脱しそうな方向をリアルタイムに判断し、逸脱直前の注意喚起や逸脱時の警告をして選手に気づかせるアプリを開発しました」と説明します。
さらに、ボートの速度や移動距離からコース逸脱を事前に察知するためには、ストロークレートを正確に算出する必要があります。ストロークレートとは、1分間に何回漕いでいるかを示すもの。選手にとっては、漕ぎ始めからゴールまで、どのようにレートが変わっているのかを確認する重要な数値となります。
ストロークレートの算出は、既に世の中に存在しているボートサポートツールにも搭載されているものの、そのソフトの中身は公開されておらず、「どのようなインプット情報をもとに、どのような計算がされて結果が出ているのか、全く分からない状態から始まりました」と、浮原さんは振り返ります。
「アプリの開発にあたり、ストロークレートの正確な算出が壁となりました。実際に選手にアプリを使ってもらって取れたデータと選手からのフィードバックを突き合わせ、選手の感覚と合わせこんでいくことでストロークレートの数値の精度を高めていきました」(浮原さん)
同じ艇に乗る“クルー”のような、強い絆で。
ボートサポートアプリの開発の背景には、デンソー先端技術研究所とボート部との深いつながりがありました。
デンソーのボート部は、1991年のデンソー先端技術研究所(当時はデンソー基礎研究所)の発足とともに活動を開始。創部当初から「アカデミックに競技を発展させていく」とのスローガンを掲げていました。これまでの両者の関わりについて、ボート部の三本和明監督は次のように語ります。
「以前から、先端技術研究所のエンジニアたちの知恵を借りて、技術的なサポートを得られるようなプロジェクトをやっていこうという文化がありました。過去には、陸上で練習中の選手たちがどのような動きをしているのかを数値化するなど、デンソーのハードウェア技術を応用したサポートを何度か行ってきました。今回は新たなチャレンジとして、ソフトウェアの技術を活用したサポートの取り組みを行っています」(三本監督)
ボートが後ろ向きに進むのは、慣れていても怖いもの。選手たちがのびのびと安心してトレーニングできる環境をつくりたい──そんな三本監督の思いから、ボート部とエンジニアがタッグを組んで始まったプロジェクトでしたが、開発に至るまでさまざまな難しさもあったと振り返ります。
「今存在しないものについて、競技に詳しくないエンジニアにどうやってこの頭の中のイメージを伝えていくのか。私自身、アプリケーションをつくる技術について全く理解していなかったので、畑の違うもの同士がイメージだけでやり取りをしていくのは、途方もなく難しいことだと感じていました」(三本監督)
こうしたギャップを埋めていくため、エンジニアである浮原さんは何度も練習場所に赴き、監督や選手からのフィードバックをもとに、ストロークレートの演算方法や画面の見やすさなど、「現地現物」で機能改良を進めていきました。浮原さんは「実際にボートに乗せてもらったことで、進行方向が見えない不安やスピードを肌で感じることができました」と語り、ボート部との密なやり取りがスピーディーな開発につながったと言います。
「仕様などもまだ全然決まっていない段階から、監督や選手の声を聞いて、プロトタイプをつくって、実際に使ってもらいながらどんどんと良いものにしていきました。実際に使う側の人たちと密な連携を取りながら開発を進められたのは、とても大きかったと思います」(浮原さん)
三本監督はその言葉に深くうなずきながら「浮原さんは我々と一緒にボートに乗る“クルー”だと思っていますね」と、ボート部ならではの視点から、その信頼関係を表現してくれました。
リアルタイムなフィードバックが、「ボート競技の解像度」を上げる
ボート部とエンジニアの協力によって生まれたボートサポートアプリが有する機能は、競技にどのようなインパクトをもたらすのでしょうか。三本監督は、リアルタイムでストローク数や速度をチェックできることで「ボート競技の解像度」が上がるのではとの展望を語ります。
「これまでも解析用のツールを使用していたのですが、練習が終わった後にしかそのデータを確認できませんでした。デンソーのボートサポートアプリはリアルタイムで情報がどんどん入ってくるので、『自分の今の動きが、艇にどのような挙動を与えたのか』をすぐに把握できるようになります。そもそも選手がその情報を処理できるかは別として、練習後に大枠で捉えていたものが、より細かく分析できるようになるのではないでしょうか」(三本監督)
また、瞬時にフィードバックが得られることによる選手のプレースタイルへの影響について、大西選手は次のような未来を見据えています。
「私は高校からボートを始めたのですが、当時は正直データを気にしておらず、アバウトなものでしか捉えていませんでした。細かい数字が確認できるようになると、プレースタイルや練習方法も大きく変わると思います。もし今後、若い学生さんたちがデータを意識していくようになったとしたら、これからどんどん面白い選手が生まれてくるのではとすごくワクワクしています」(大西選手)
ボート競技の魅力向上。そして、他の可能性にも視野を広げて
デンソーのボートサポートアプリの最大の強みである、ボートの自己位置やコース逸脱のおそれをリアルタイムで共有できることは、川岸のテトラポットやボート同士の衝突事故といったリスクを回避するだけにとどまらず、ボート競技の“見るスポーツ”としての魅力向上にも寄与することが期待されます。
ボート競技は川や海など広大な場所で行われるため、陸にいる観客はレースの状況をリアルタイムで把握するのが難しいのが現状です。三本監督は「ローカルな大会では観客が楽しめるようなレベルまで昇華できていないという実態がありました」と語ったうえで、「スマホでレースの状況が確認できたら、流行りのアーバンスポーツに追随するようなコンテンツになるのでは」との可能性を指摘します。
「例えば2キロ以上離れたところにいるボートは肉眼で確認することはできませんが、このアプリを観客席にいる人が使うことができれば、応援しているチームの位置や動きが追え、より臨場感を味わうことができます。デンソーのボートサポートアプリを活用することで、ボートというゲームの面白さ、もしくはスポーツコンテンツとしての楽しさが増すのではないかと期待しているんです」(三本監督)
“すぐに位置情報を確認できる”というひとつの機能により、①選手の安心・安全のサポート ②観客のリアルタイム観戦という二つの価値につながっているボートサポートアプリ。このアプリは現在、デンソーのボート部で試用しながら機能改善を進めています。
また、社内の展示会でもアプリがお披露目され、多くの社員から反響が寄せられました。浮原さんは説明員として出席し、実用化にむけた多くのヒントを得たそうです。
「そもそもボート部を知らない方も多くて『こんな活動や研究開発をしているのですね』と驚く声も非常に多くありました。転用先や活用先に対する意見はとてもたくさんもらうことができ、例えばトライアスロンをやっている社員からは『水の中で自分の位置や近くの選手の位置が見えたらうれしい』といった声もありました。自転車競技やマラソンなど、さまざまな競技で使えそうだね、という反響もすごく多くいただきました」(浮原さん)
ボート競技の魅力のひとつは、クルー同士が息を合わせ、ゴールに向かって進んでいく一体感です。デンソーのボート部とエンジニアもまた、目標にむけて一体となり、選手たちが安心して競技に取り組める環境を、先端技術を持ってサポートしていきます。そして、デンソーの技術でスポーツ競技の発展に貢献していきます。
ビジョン・アイデア執筆:inquire
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https://www.denso.com/jp/ja/driven-base/project/boat-support-app/
・デンソーでは、自社の技術を生かして、リアルタイムでボートの位置やストロークレートなどを把握でき、コース逸脱のおそれを検知し選手へ通知するボートサポートアプリを開発している
・ボートサポートアプリを活用することで、ボート選手の水上での安心・安全を守ることができ、陸上にいる観客にレース状況をリアルタイムで共有できる
・ボート競技にとどまらず、トライアスロンなど他競技への広がりも視野に入れ、実用化にむけて開発を進めていくお問い合わせはこちらRELATED
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