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シェアハウスで共同子育て。一番の良さは、「親以外の手が増えること」ではないんです──東京フルハウス

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 共働きの家庭
  • 核家族で子育てをしている人
  • シェアハウス生活に興味がある人
  • 現代のライフスタイルを模索している人
  • 子育てと仕事の両立に悩んでいる人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読むことで、共働きの核家族が抱える子育ての課題に対する新たな解決策として、シェアハウスでの共同子育てが紹介されていることを知ることができる。具体的には、東京フルハウスというシェアハウスにおいて、住人が子育てや家事をシェアすることによって育児や家庭生活の負担を軽減し、仕事に専念できる環境を提供している点が述べられている。また、親以外の住人が子どもの成長を温かく見守り喜びを共有してくれることで、親にとって精神的にも大きな支えとなっていることも説明されている。

さらに、家庭における個人の負担がシェアハウスによって軽減されるため、夫婦間の小さな衝突が避けられ、相互理解が深まることが強調されている。多様な職業や世代の住人が集まることで、さまざまな価値観に触れる機会が増え、それが個人の成長や視野の広がりにつながっている点についても触れられている。最後に、シェアハウスというライフスタイルが、家族の定義を再考し、多様なライフスタイルの選択肢として存在することが示されている。

Text AI要約の元文章
家族と仕事

これからの家族と、仕事のカタチ。

シェアハウスで共同子育て。一番の良さは、「親以外の手が増えること」ではないんです──東京フルハウス

フルタイムで働き、日中は子どもを預けているけれど、急なお迎えが必要になった時に対応が難しい。自分が風邪を引くなどして誰かを頼りたくても、実家が遠くて両親には頼れない──。共働き「核家族」での子育てに限界を感じている人は少なくないのではないでしょうか。筆者もまさに、その一人です。

そんな中、夫婦でシェアハウスに住み、血縁にかかわらず家族を拡張して「共同子育て」をしている場所があると聞きました。

その場所とは、西新宿にあるシェアハウス「東京フルハウス」。3階建ての1軒家に、現在は、家族を含む男女11人が暮らしています。住人は、1歳から35歳まで、大学生に秘書、広報、ゲームクリエイター、編集者など、年齢も肩書もさまざま。

ある休日の朝、東京フルハウスを訪ね、1歳の息子さんの子育てをする栗山和基さん・茂原奈央美さんご夫妻と、一緒に暮らす阿部珠恵さんにお話を伺いました。

シェアハウスの家事分担と同じように、子育てもシェアできたらいいんじゃないか

夫婦でシェアハウスに暮らすようになった経緯について教えていただけますか?
奈央美
シェアハウスの住民の一人である阿部と私は、新卒で入社した会社の同期で、社会人2年目の頃に、私の妹と3人でシェアハウスを始めたんです。

その頃からずっと、結婚しても子どもが生まれてもシェアハウスで暮らしたい、という話をしていました。
どうしてそう思われたのでしょう?
阿部
当時私たちが勤めていた会社には、ちょうど子育て世代の人たちが多かったんです。

子どもが生まれる前までは遅くまでバリバリ働いていた先輩も、産後復帰してからは16時に切り上げて帰っているのを近くで見てきて、「働きながらちゃんと子育てをできるのだろうか」と不安に感じていました。
奈央美
その時のシェアハウス生活で家事が分担できることの良さを感じていたので、子育ても同じようにシェアできたらいいんじゃないかと思ったんですね。

おたがいに子育てをするようになったら、保育園の送り迎えを分担することもできるから、残業もできるかもしれないね、と。
シェアハウスで家事育児を分担することで、家庭における個人の負担が軽減され、その分、仕事に注力できると。
奈央美
はい。それで私はずっと周囲に「結婚してもシェアハウスで暮らしたい」と言っていたんです。男性にはたいてい引かれるんですが、はじめて「いいね!」とノッてきてくれたのが現在の夫です。

その時に、この人と結婚するかもしれない、と思いました(笑)。
和基
僕自身も10年くらいシェアハウスをしていたので、いい考えだと思ったんですね。

(写真左)栗山和基(くりやま・かずき)さん。シェアハウス「東京フルハウス」発起人。大学時代、神田川のほとりで友人らとシェアハウスを始めて以来、就職、結婚、子育てと、そのフェーズに合わせたシェアハウスを企画・運営している。ゲーム会社で企画開発の仕事をしながら、週末は実家の絵画教室で子ども達に絵の指導も行う。2018年からは新宿と三浦半島でのニ拠点シェア居住を始めた。

(写真右)茂原奈央美(もはら・なおみ)さん。2017年10月に出産し、シェアハウス「東京フルハウス」で子育て中。大学生向けのキャリア支援・就職活動支援会社に勤務。著書に『現役大学生による学問以外のススメ』『シェアハウス-わたしたちが他人と住む理由』『結婚してもシェアハウス!〜普通の婚活はもうやめた〜』がある。

奈央美
私と彼はおたがいにシェアハウスをしていたので、結婚するタイミングで合併しようという話になったんです。私たちのシェアハウスに住んでいた3人と、彼と、彼のシェアメイトの計5人で暮らし始めました。

そうして2年半くらい経った頃、いい物件が見つかったので友だちに声をかけて規模を大きくしました。それが今の東京フルハウスです。
和基
そして、東京フルハウスで暮らし始めて2年半が経つ頃に、息子が生まれました。
阿部
そもそもうちは事業型のシェアハウスではなくて、住人は友だちか、その友だち。知り合い同士なので、親戚と一緒に住んでいる感覚に近いかもしれません。

そのなかに夫婦がいるので、子どもが生まれることは、自然なことだと思っています。

阿部珠恵(あべ・たまえ)さん。2010年からシェアハウスを始め、2012年にシェアハウスのリアルな毎日や動向、将来への展望などをまとめた書籍『シェアハウス わたしたちが他人と住む理由』を出版。2016年からは、幻冬舎plusで『結婚してもシェアハウス〜普通の婚活はもうやめた〜』を連載し、電子書籍として出版。メディアや講演などを通じて、新しい家族やコミュニティの在り方について発信を続ける。

「親以外の手があることではなく、子どもの成長を一緒に喜んでくれる人が増えること」がうれしい

和基
僕たちは、子育てを誰かに頼る前提でシェアハウスで暮らしているわけではないので、基本的には僕と妻が子どもの面倒を見ます。

でも、シェアハウスだと夫婦だけでは“少しはみ出る部分”を補ってもらえるので、すごく助かります。たとえば、トイレへ行く時に見てくれたり、危ないことをしようとする時に止めてくれたり。
子育て中は、大人の目はあればあるだけありがたいですよね。特別何かしてくれるわけでなくても、自分以外の誰かがその場にいるだけでも心が軽くなります。
和基
そうなんですよ。みんな、小さい住人がひとり増えたという感じで接してくれるのでありがたいです。妻よりも抱っこや寝かしつけがうまい住人がいるくらいですから。

取材中、筆者の子もすっかり住人の方の腕のなかに

奈央美
抱っこしてくれる人がたくさんいるのは心強いです。里帰り出産から帰ってきて、生後1ヶ月の頃は、首も座っていないのでみんな戸惑っていたけれど、どんどん抱っこスキルがあがっています。
阿部
それまで友人の赤ちゃんに会いに行っても一瞬しか抱っこすることはなかったので、生後1ヶ月の赤ちゃんが常に近くにいるのは新鮮でした。

はじめの半年間が大変なんだということも含めて、子どもを産む前に子育てを知ることができてよかったです。もちろん計り知れない部分はあるけれど。
私も第一子が生まれて半年くらいは、慣れないことばかりで戸惑い、想定外な展開に「思っていたのと違う!」と心で何度も叫びました(笑)。新生児の抱っこができるだけでも大きな差がありそうです。

近所に住むJJさん。

JJ
僕はここの住人ではないんですが、よく出入りしています。昨日、僕はこの子と一緒にお風呂に入ったんですよ。1歳の子どもとお風呂に入るなんて経験、独身じゃできない。

日中、買い物にもついていって、抱っこ紐をつけてバスに乗ったら、生まれてはじめて席を譲ってもらって、感激しました。この世界は善意にあふれている! と。
子どもがいるシェアハウスにいると、子育ての疑似体験ができますね。母と子にとっても1対1にならない環境がいいですね。
奈央美
育休中、一日中赤ちゃんのお世話をしていると、ひとりで「うんち」「おしっこ」「おっぱい」しか言葉を発しないこともあって、どうしてもイライラが溜まってしまうこともありました。

でも、そんな日も、住人が仕事から帰ってくると、大人の会話ができるので気分転換になります。何より、子どもの小さな変化に気づいてくれるのが嬉しくて。「まつげ伸びたね」とか「腕の筋肉がついてきたね」とか。
和基
シェアハウスでの子育てで一番良いことは、親以外の手があることではなく、子どもの成長を一緒に喜んでくれる人が増えることです。

離れて暮らす自分の両親やきょうだいは会えても1ヶ月に1回くらいなので、大きな変化にしか気づかない。でも、毎日会っている住人は、小さな変化に気づく。保育園の連絡帳を見て喜んでくれます。それが、嬉しいんですよ。

たくさんの"常識”があるから、僕たちは喧嘩をしたことがない

夫婦で、シェアハウスで暮らしてよかったことは?
和基
まず、喧嘩にならないことですね。僕たちは喧嘩をしたことがないんです。
えっ、すごい……!
和基
たとえばリビングに靴下が落ちていて不快に思ったとしても、2人なら自分以外の相手を責めるしかないけれど、11人もいたら、誰のものかわからないんですよ(笑)。

僕らは、犯人探しはしないで、住人の共有LINEで注意をします。
たしかに夫婦だと、日常のささいなことに対する怒りの矛先がおたがいに向いてしまいますもんね。
和基
日常のなかで、異なる環境で育ってきた夫婦が、自分の常識や正しさを押し付け合ってしまうことがあると思うんですが、シェアハウスにいると、相対的な視点が入るので、その常識が通用しない。

10人いれば10通りの常識があることがわかるから、押し付け合うんじゃなくて、「じゃあ、僕らはどうする?」という議論に発展します。
なるほど……!
和基
家事に関しても、それぞれ得意不得意があって、夫婦でピースとピースが必ずしも噛み合うわけではないので、別の住民によって補われる部分があるのは助かります。
シェアハウスの住人は、「家族」を拡張したような存在なのでしょうか? 
和基
家族の定義は人それぞれだと思うのですが、僕は「生活をともにする人」と捉えているので、その意味で、住人は家族ですね。
阿部
家族だけれど、いい意味で束縛しない関係。血縁でつながる家族や地縁でつながるムラ社会には、ルールやしがらみがあったりしますよね。

でも、シェアハウスは、いつでも出入り自由。留まるのも出ていくのも本人が決められます。

仕事で落ち込んだ日も、シェアハウスに帰ってくると前を向ける

シェアハウスで家族を拡張することが、仕事に与える影響はありますか?
和基
学生以外の働いている住人は基本的に会社員で、独立した個人なので、直接仕事に影響を及ぼし合うようなことはありません。

でも、仕事で嫌なことがあったり、疲れたりして、飲みたい! と思った時に、ここで飲めるのはいいですよ。誰かに声をかけてわざわざ外へ行かなくてもいい。
阿部
仕事で落ち込んだ日も、ここで住人たちと話していると「まあいっか」と気持ちが前を向くんです。
和基
あとは、社会人になると、同じ業界の人たちと触れ合うことが多くなると思いますが、シェアハウスの住人は職種もさまざま、学生もいるので、多様な価値観に触れられるのも刺激になります。
その視野の広がりは仕事にも活かされそうですね。シェアハウスで暮らすことで身につくスキルもありそうです。
阿部
物事を柔軟に考える力は身につきますね。シェアハウスにはそれぞれの常識を持った人たちが集まっているので、みんなが心地よく暮らすやり方はひとつやふたつではなく、無限にあります。

そのやり方を見つけるためには、まず違いを受け入れて、解決策を柔軟に考えていく力が必要です。
JJ
勝手な推測ですが、彼らはコミュニケーション能力が磨かれていると思います。住人じゃない僕がここにいて感じるのは、彼らの人間としての器の大きさ。

異なる価値観や考え方を柔軟に受け入れているからこそ、人が集まってくるし、円滑に生活ができる。誰も排除をしないコミュニケーションスキルがすごく高いんです。
和基
多様な価値観を受け入れていくこと、そのためのコミュニケーションは常に意識していますね。

シェアハウスは、結婚しても子どもを生んでも、個人が自由であるための選択肢の一つ

今後、みなさんはどんな将来を描いているんでしょう? 老後もずっとシェアハウス?
和基
僕らはずっとここにいることにこだわりはなくて、海外へ行ってみたいとも思います。息子には、多様性を知り、受け入れられる土壌を育んでもらいたい。それから、多くの選択肢のなかから、自分の好きなものを選べる自由を与えたいです。

そのために、いろんな人と出会ってさまざまな価値観に触れてほしいと思っています。今のところ、いろんな大人が出入りするこのシェアハウスは最適だと思っていますね。
奈央美
私は親として、子どもにこうなってほしいという思いはなくて、何かあった時に「大丈夫だよ」と背中を押してあげたいんです。「自分だったら大丈夫」「誰かが助けてくれる」と、自分と社会を信頼できる強さを与えたい。

その意味で、親子が依存し合うのではなく、周りに頼れる人たちがいるシェアハウスの今の環境はいいなと思っています。
阿部
テストで0点とってお母さんに怒られたとしても、「大丈夫、おじさんも0点とったことある」と励ましてくれる大人がここにはいますから(笑)。反抗期、来ないんじゃないかなあ?
親子が1対1ではないので、おたがいに逃げ道がありますもんね。
奈央美
シェアハウスは数あるなかの選択肢の一つです。私たち家族は、親も子も、選択肢を多く持つことで、自由であることを重視しています

どちらかが仕事を辞める時が来るかもしれないから、どちらか一方の収入には頼らない。共働きなので、彼も2ヶ月育休をとって、ふたりで保活をしました。
阿部
「結婚しても、子どもを生んでも、シェアハウス」を実践する私たちは、この暮らしをすべての人に薦めたいとは思っていなくて、選択肢の一つとしてこういうやり方もあるよ、ということを示したいだけなんです。

今はこのかたちがいいと思っているからそうしているけれど、私自身、将来的には別の暮らし方を選ぶかもしれません。状況に合わせて、常識にとらわれすぎずに模索し続けたいと思います。
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文:徳瑠里香/撮影:三浦咲恵/編集:柳下桃子・明石悠佳

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執筆

ライター

徳 瑠里香

出版社で書籍、WEBメディアの企画・編集・執筆を経て、ご縁のあった著者の会社でPR・店舗運営などを経験。その後、独立。

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撮影・イラスト

写真家

三浦 咲恵

1988年大分県生まれ、サンフランシスコ市立大学写真学科卒。帰国後都内のスタジオを経て、鳥巣祐有子氏に師事、2016年独立。雑誌や広告、Webなどで活躍。

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編集

編集部

柳下 桃子

サイボウズ式編集部のインターン大学生。 大学卒業後、さらに学士入学をしたため、すこし長めの学生生活を送る。学生中に家庭を持ち、多様性や家族についての関心を広げる。

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