サイボウズ副社長兼サイボウズUSA社長として、サンフランシスコで働いている山田理。若手マネジャーに向けた本の制作を進めていると、社内の開発本部から「マネジャー職をなくしました」という連絡が。
開発本部でマネジャーをしてきた岡田勇樹を呼んで、山田が詳しく話を聞いてみると、「承認は決める人が決まっていればいい」「部下の成長責任を、マネジャーが持たなくていい」といった、新しいマネジャー論が出てきました。
マネジャーが場所ごとにいる必要はない
ねらったわけじゃないのに、すごくいいタイミングだよね。マネジャーに関する本の出版を進めていたら、「開発本部がマネジャーをなくした」って。
山田 理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長兼サイボウズUSA(Kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る。
「マネジャーをなくした」というと、すごいことをした感じがしますが、正確にいえばプログラマーや品質保証、デザイナーなどの職種と拠点で分ける部署を解体したんです。
岡田勇樹(おかだ・ゆうき)サイボウズ 開発本部副本部長。2007年に新卒でサイボウズに入社。エンジニアとして「サイボウズ Office」や「kintone」の開発に携わる。2014年にマネジャーとして大阪開発拠点の立ち上げを主導。
これがマネジャー、つまり部長職を廃止する前の開発本部の組織図です。
縦割りで、「西日本開発部」「東京品質保証部」などの各部署から、メンバーを各プロダクトチームにアサインしていました。
各拠点にひもづいた部署を解体し、チームごとの組織にしました。プロダクトチームから、部長がいなくなっていることがわかると思います。
まずは、マネジャーたちがそれぞれどんな業務をしているのかを書き出して、委任できる先を整理していきました。
キャリア採用や承認作業は各チーム、新卒採用や給与評価は組織運営チームへと委任できることがわかりました。
また、1on1などのメンタリングは、各メンバーがどのメンバーとも自由にできる体制をつくることにしました。
あとは特定のプロダクトチームに属さず、すべてのプロダクトチームを支援するチームも用意しているんです。
たとえば、アジャイルコーチチームや生産性向上チーム、フロントエンドチームがそれにあたりますね。
成長の場はつくるけど、責任はとらへん
マネジャーの仕事には、「下の人を育てる」ことがあるけど、人材育成はどうしているの?
勉強会です。同じ分野に興味がある人同士のコミュニティを用意しています。もちろん、自発的に立ち上がることもあります。
そのなかで、自分で興味があるところに入ってもらって、勝手に自分で学んでもらおうと。
場はつくるけど、「成長の責任はとらへん。スキルを磨きたかったら、そのコミュニティに入っとけ」と。
裏を返せば、成長したくなければ入らんでもええけど、誰もそれに対しては、責任はとらんと。
今までだったら、マネジャーがメンバーを成長させなきゃダメだし、モチベートする責任をもっていたけど、それがないんだ。
成長支援のターゲットは「成長したい」と思っている人。
成長したくない人は、そもそもコンセプトから外れるんで、そこに上司が責任を持たなくてもいいなと。
チームを職種ごとに分けていたら「壁」ができていた
まず前提として、全体的にマネジャーが不足しているという問題があったんです。そこから、マネジャーやメンバーへのヒアリングを進めていったら、いろいろな問題が浮き上がってきて。
たとえば場所は違っても取り組むプロダクトや、評価基準は一緒。それなのに、マネジャーは各拠点にいて、拠点によって評価するマネジャーが違う。
なので、最初は地域ごとに分かれる体制をなくして、組織形態を変えようと思っていました。
でも、メンバーにヒアリングをしていくなかで、「同じプロダクトに携わるメンバーの部署が分かれていないほうがいい」と気づいたんです。
各チームのミッションは、突き詰めていくと絶対に対立します。
モノをつくるチームは「早くつくりたい」。デザインチームは「美しくつくりたい」。品質保証チームは「バグが出ないものをつくりたい」。運用チームは「SLO(*1)を達成したい」。
(*1)提供するサービスのレベルや品質に関する目標。Service Level Objectiveの略。
でも、職種ごとのミッション達成を目指すのではなく、各職種が連携してプロダクトのユーザー価値を最大化するのが本来の目的であるべきだなと。それを実現できる組織体制は何かと考えました。
同じプロダクトチームに所属するプログラミングが得意な人と、デザインが得意な人の所属部署が分かれていない状態にすれば、対立が起こりにくくなるんじゃないかという結論に達したんです。
組織が変わって4か月くらい経ったけど、実際に状況は変わった?
少しずつですが、「チームのミッションに向かって、何ができるのか」という議論ができ始めています。
いいね。逆に、職種ごとにチームをつくるメリットってないの?
進め方がウォーターフォール・モデル(*2)だったときは、職種と工程がひもづいていたので、職種ごとに分かれていたほうが、仕事をやりやすかったです。
でも、制作するプロダクトがパッケージからクラウド中心になったことで、開発のやり方もアジャイル、スクラム(*3)に変わりました。
リリース間隔も短くなって、一緒のタイミングでいろんな部署が動くようになったんですよね。だから時代に合わせて組織も変えるべきだなと。
(*2)システムの要件定義から設計、製造、テストまで、各開発フェーズの計画をあらかじめ決め、段階的に進めていく開発モデル。
(*3)設計、テスト、実装を短期間で繰り返しながら開発を進める、アジャイル開発の一種。少人数でチームを組み、短期間のサイクルで開発を進める。
あみだくじで「承認する人」を決めてもいいよね
たとえば、僕のチームはあみだくじで休暇の承認をする人を決めました。
はい。承認する人は誰でも大丈夫だなって。
あとは本を買うときの事前審査。これも誰が決めてもいいなと。
みんなが読めるグループウェア上に「この本を買いたいです」って書けばいいだけ。
見える化ができているので、変なものを買う人はいないだろうと。
情報をオープンにすれば予算の管理も不要になる?
予算の決定権限は、チームではなく、本部長にあります。
お金の使い方は人によって幅があるので、やり取りをオープンにするだけで、うまくいくのかなと不安で。
オープンにした上で、あやしい使い方を試みるのって、結構大変やし、勇気もいるけどね。
情報をオープンにしたときに、「その本いる?」「その費用いる?」って、チームメンバーからつっこまれているなら、フィードバックはされているわけだよね。
ほとんどの人は、ちゃんと使いたいし、つっこまれたらイヤだろうし、できるだけみんなに「いいね」って言われながら行動したいじゃない。
みんなにつっこまれても、あやしい使い方をし続ける人がいるなら、対処法を考える必要が出てくると思うけど。
「情報をオープンにしたうえで、チームか個人が判断をすればいい」って考えたら、予算も委任できるんじゃない?
なるほど。予算もオープンにして、お互いにフィードバックをもらえる仕組みが大事ですね。これから考えていきます。
実際にやってみて無理ならマネジャーを復活させればいい
僕は「マネジャーかくあるべし」っていう理想は持っているんだけど、一方でマネジャーが全部を兼ね備えるのは「無理だ」とも思っていて。
「マネジャーとは」っていう理想はわかったけど、実際に全部を実行できるわけじゃないし。そう思うと、いま開発本部がやっている
「みんなで分担したらいいやん」
「成長って誰も責任とらんでいいやん」
「成長できる場所だけつくればいいやん」
という取り組みには、僕もチャレンジしたいなと思っている。
「マネジャーが全部兼ね備えるのは無理」っていうのは、社内で何かきっかけがあったんですか?
ええー。だって僕、こんなに一生懸命マネジャー研修とかやってんのに、全然浸透してないんだもん。
「かくあるべし」って理想があっても、自分も含めて、実際にどれだけの人が実行できてるかどうかは疑問だなと。マネジャーっていう肩書で、実際はマネージできてない人が山ほどいるわけじゃない。
組織形態を変えて困ったことはあった? デメリットとか。
まだ、4か月しか経っていないので、何をするべきかがチームに浸透していなくて、メンバーが迷っていますね。承認に関しても、「何を承認すればいいのかわからない」という感じで。
そうです。これまでマネジャーの業務内容をみんなが知らなかったので「そんなことやってたんだ」と。まだチームで試行錯誤している状態です。
マネジャーを復活させましょう、となることもありえる?
ははは。はい。そうなるかもしれません。実際にマネジャーなしでやってみて、チームで「無理!」ってなる可能性はあるよねって。そうしたらまた考えます。
そのプロセスはおもしろいね。いったんなくなったけど、必要になってまた生まれるんだ。
これまでの「職種×地域」の体制は、10年以上続いていました。その延長で続けてきたので、組織を変える思考自体がなかったんです。
今後は、なるべくいろいろなフィードバックを集めて、組織自体を小さいサイクルで改善していきたいですね。
副社長・山田理のマネジャー本、Amazon予約はこちらから。Facebookにて、書籍の制作過程を公開するコミュニティを運営しています。ご参加されたい方がいらっしゃれば、ぜひこちらから参加リクエストをしてください!
執筆:松尾奈々絵(ノオト)/編集:水上歩美(ノオト)/撮影:二條 七海/企画:小原弓佳
2019年5月14日「管理職って別にいらなくない?」マネジャーを廃止した開発本部に、給与評価や異動の仕組みを聞いた