サイボウズ株式会社

「ティール組織=全員が幸せになれる組織」とは限らない──主体性や自由がプレッシャーになる人もいる

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 経営者
  • 企業の人事担当者
  • 組織開発に興味がある人
  • チームワークを強化したい人
  • 新しい組織モデルに興味がある読者
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を通して、読者はティール組織という次世代の組織モデルについて理解を深めることができます。ティール組織は、働く人が幸福になり、かつ生産性が高くなる理想的な組織形態とされますが、現代でこの組織を実現するのは様々な難しさを伴うことも指摘されています。ティール組織は必ずしもあらゆる環境で成功するわけではないこと、主体性や自由が逆にプレッシャーとなる場合があることが述べられています。また、適切な組織運営には、組織のどの段階にあっても最適化された形態を見つけていくことが重要とされています。さらに、ティール組織では経営の歪みをフィードバックと捉え、それに柔軟に対処し続ける中で進化していくものだとする見解も示されています。そして、個人の幸せには多様な形があり、全ての人にティール型組織が向いているわけではないため、人々の多様なニーズを理解し100人100通りの働き方を考慮することの重要性も強調されています。最終的に、利他の精神や個々の成長、意義のある仕事がもっとも幸せを感じる要素であり、これが良い組織を築く基盤となることが示唆されています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

「ティール組織=全員が幸せになれる組織」とは限らない──主体性や自由がプレッシャーになる人もいる

サイボウズが目指すのは「チームワークあふれる社会をつくる」こと。その考え方と親和性の高いのが「ティール組織」という次世代組織モデルです。

働く人が幸福になり、なおかつ生産性が高くなるティール組織を今の時代に目指すには、何をすべきなのか。そもそもティール組織こそが「いいカイシャ」と言えるのでしょうか。

3月30日、サイボウズの株主総会とあわせて開催されたチームワーク経営シンポジウムで、「新しいカイシャとティール組織について語ろう」と題し、チームワーク経営のヒントを探りました。

ゲストは伊那食品工業・最高顧問の塚越寛さん、FC今治オーナーの岡田武史さん、『ティール組織』解説者の嘉村賢州さん、エコノミストの崔真淑さん。サイボウズ代表取締役社長の青野慶久を合わせた計5名で「どうすればカイシャは進化するのか」を考えました。

嘉村さんによるティール組織の解説はこちら。
2018年10月10日ティール組織って何? 誤解されがちなポイントは?──第一人者 嘉村賢州さんに聞いてみた

当日はキャンプをイメージした壇上で、パネルディスカッションが行われました

利益は「うんち」? 健康な会社なら自然と利益は出るもの

青野
今回のシンポジウムのために、事前に「自分の組織は何色に属すと思いますか」と聞いてみたので、まずはその結果から見ましょうか。
青野
岡田さんは、まさかのレッド組織ですね!
岡田
真っ赤に燃えているんじゃないかな。正直、経営の右も左もわからない人間が集まって組織を回しているので。

3カ月後のお給料が払えるかどうかも不安だし、死に物狂いでやっている状態なんですよ。その上、経営者の私ほど経営に危機感がある人がほかにいないから、結局私がワンマンでやってしまう。

岡田武史(おかだ・たけし)。株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長。大学卒業後、古河電気工業に入社し、サッカー日本代表に選出。引退後はクラブサッカーチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。Jリーグでのチーム監督を経た後、2007年から再び日本代表監督を務め、10年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、14年11月四国リーグ(現 JFL)FC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる

青野
なるほど。一方、塚越さんはグリーン組織ですね。
塚越
ええ、私は社員をファミリーだと思って経営しているので。たとえば家族にできの悪い息子がいるとしても、簡単に家族から追い出しはしないでしょう。会社も同じです。

そもそも「会社」は、優秀な人材だけが集まる場ではないんです。それよりも社員のたった一度の人生を、できる限り幸せにする責任が会社にはありますから。

塚越寛(つかこし・ひろし)。伊那食品工業株式会社最高顧問。原料の海草の価格に大きく左右される相場商品だった寒天の安定供給体制を確立し、寒天の成分を活用した医薬、バイオ、介護食といった新商品開発に取り組んで新たな市場を開拓。48年間連続で増収増益という金字塔を打ち立てる。黄綬褒章のほか、日刊工業新聞社による最優秀経営者賞など受賞(章)多数。著書に『いい会社をつくりましょう』(文屋)、『リストラなしの「年輪経営」』(光文社)、『幸せになる生き方、働き方』(PHP研究所)などがある

会社として利益を出しながら、なおかつ社員の幸せな人生を叶えるのは、素晴らしい考え方だと思います。ですが、実現するとなると難しいですよね。
青野
塚越さんが書かれた『リストラなしの「年輪経営」』に僕の大好きなフレーズがあるんですよ。「利益はうんちです」という言葉です。

僕も「利益は搾りカスだ」と思っているんですが、改めて塚越さんの考えを詳しく教えていただけますか?
塚越
あまりに世間が利益第一主義だから、皮肉をこめて「うんち」なんて言い方をしたんです。要は、健康な体であれば毎日自然と出るものだ、ということ。出そうとすると、逆に出なかったりね。

利益はあくまで結果。だから、まずは「健康な会社」を目指すといいと思うんですよ。
青野
なるほど。うんちが出ていない場合は、体に問題があるかもしれない、と。

現代でティール組織を実現するのは難しい? 

今回のテーマ「新しいカイシャとティール組織について語ろう」について、気になっていることがあるんです。

現代でティール組織を実現するのは難しいのではないでしょうか。

結局私たちがいま、効率のために自分を殺して働かないといけないのは、働き方や制度にかなり依存しているような気がして。
嘉村
まさにその通りで。ラルーさん(*1)は現行の社会でティール組織を実現することを、馬車の時代に車が走っているようなもの、と例えています。

道路が舗装されていないから、便利な車があっても走りにくいし、スピードも出しにくいんですね。いまはどうしてもグリーン組織やオレンジ組織のほうが利益をあげやすい。

*1)フレデリック・ラルー。『ティール組織』著者。

嘉村
ただ、ヨーロッパでは会社法を変えた地域もあります。「雇用者と雇用主という関係ではなく、全員が出資者となるような、法人の概念を変えよう」という運動が起こっているんです。

嘉村 賢州(かむら・けんしゅう)。場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome's vi代表理事。コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)。京都市未来まちづくり100人委員会元運営事務局長。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORGLAB)」を設立、現在に至る。『ティール組織』(英治出版)解説者

青野
つまり、状況に応じて最適な組織形態は違うということですよね。悪いと思われがちなレッド組織も、必ずしもそうではないと。
嘉村
誤解されがちなのですが、ラルーさんは「どの色が正解」という言い方はしていないんですよ。
私は、むしろレッドも素晴らしい特徴のある形態だと思うんです。
青野
どうしてですか?
以前、再生ファンドが入った企業の社外取締役をしていたころは、悠長なことを言っていられないと思ったんです。企業再生に死に物狂いなので、あくまで主観ですが、レッドと感じる組織形態を取っていました。

いい悪いではなく、どこのステージにいるかでふさわしい形態を考えていけばいいと思います。

崔 真淑(さい・ますみ)。株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。2018年より同大学の博士後期課程に在籍。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現 大和証券)に入社。アナリストとして資本市場分析に携わり、当時最年少の女性アナリストとして、NHKなどの主要メディアで経済解説者に抜擢される。2012年独立後、経済学を軸に、経済ニュース解説、経済・資本市場分析を得意とするエコノミスト・コンサルタントとして活動

ティール組織では幸せになれないのかもしれない

岡田
そもそも「社員がティールを求めているのか?」という問題もあるでしょう。

以前、社員面談で「私はこの会社にずっと勤めたい。新たなものを生み出すスタートアップみたいな組織は向いていないかもしれない」と話した社員がいたんです。

「主体性」や「自由」はいい言葉に聞こえるけれど、「自分で何か考えてつくりなさい」と言われるのがプレッシャーになる人もいる。

人によって、ティール組織では幸せになれないかもしれない。淡々と安定して暮らしていくことが幸せな人もいるんですよね。
塚越
そうですよね。淡々と暮らしていく上では、現状維持ではなく、「末広がり」がいいと思うんですよ。
岡田
なるほど、少しずつですか。
塚越
先細りしていく企業に希望はないでしょう。だんだんとよくなっていくことにこそ、夢はあるんです。

わたしの会社はこの50年間ずっと右肩上がりですが、そういうことをずっと考えて経営してきましたね。

離職率が高いとか、会社の雰囲気が悪いことは、体でいえば病気のメッセージ

青野
ティール組織を望む人がいるのと同じように、レッド組織を望む人もいます。オレンジ組織が働きやすい人に、ティール型を押し付けたら重荷になるのかもしれません。
岡田
サイボウズはユニークな組織ですよね。そもそもなぜ「100人100通りの働き方」という考えにたどり着いたんですか?
青野
実際に会社を経営していく中で、幸せの形は人によって違うとわかったからですね。

会社を立ち上げたばかりのときは、「社員はみんな一攫千金を目指してガツガツ働くことが好きな人たちだ」と思っていたんです。でも、実際にはバタバタと倒れたり、辞めていったりしてしまった。

サイボウズの離職率は、一番ひどいときで28%でした。その状態を目の当たりにして、「もしかしてこのテンションで楽しみながらずっと働けるのは、俺だけなのかな」って。それから社員の様子を伺うようになったんですよね。

青野慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ株式会社 代表取締役社長。大学卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年サイボウズを設立。2005年に代表取締役社長に就任し、現在はチームワーク総研所長も兼任している。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を7分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、売り上げの半分を超えるまでに成長。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある

嘉村
よく「階層をなくしたらティール組織になる」と勘違いしている人がいるんですが、そうではありません。

大切なのは、経営していく中で生まれる歪みのようなものを対処すること

それを繰り返していくうちに、結果として階層がなくなってティール組織のような形が生まれるかもしれない、ということなんです。
青野
ティールを目的にしてはダメなんですね。
嘉村
そうです。離職率が高いとか、会社の雰囲気が悪いのは、人間の体でいえば、病気のメッセージですよね。

そこで、「なんで体調が悪いんだろう」と耳をすませば、「もっと働く時間を短くしたほうがいいのかな」と解決策が思いつく。

だから、組織の痛んでいるところを見逃さず、柔軟に変化していくことこそが、組織として進化していく上で重要なことなのかな、と思いました。
青野
それを聞いて、ティールの説明にあるヨットの絵を思い出しました。はじめて見たときに「え、めっちゃしんどいやん」って思ったんですよね。
青野
ヨットに乗っている限り、風が吹かないときや荒波のときなども、場面に応じて対処しないといけないわけです。

一見楽しそうに見えるけど、常に五感を研ぎ澄まして、何が問題かを察知する。それができない限り、ティール組織は難しいんだなって思ったんですよ。
嘉村
ティール組織では「未来は予測できる」とか「人は指示をすれば動く」といった価値観を手放そう、という考え方をします。ただ、そのためには、全員が考えて成長し続けなければいけない

だから安定はしないんです。カオスも含めて旅を続け、その中で存在目的を果たしていく、という世界観なんです。ティールにはティールの苦労がもちろんあります。
岡田
カオスが人を成長させるという面もありますね。

スポーツの世界だと、すでにある程度習得していることを繰り返すよりも、複雑な練習も取り入れながら選手が自ずと気づける環境をつくるほうが、彼らの成長にとっては大切だと思っています。すべてがスムーズなことが幸せとも限らないですからね。

利他が最上位の幸せ? 自分で仕事を見つけてやっていく中で、気づきや成長がある

塚越
幸せの形は人それぞれ、という話はありましたが、私が人間の幸せの最上位にあるのは「利他の幸せ」だと信じています。誰かに「ありがとう」と言われるようなことをする。
青野
「利他の幸せ」でいうと、伊那食品工業さんは、東京ドーム2個分ある「かんてんぱぱガーデン」という庭園を社員の方々が整備しているじゃないですか。

地域や訪れる人たちのために何かをする点では、利他で運営していますよね。
塚越
広い敷地ではありますが、担当する場所などは一切指示しないんです。命令されるとおもしろくないからね。

自分で仕事を見つけて進めていく中で、気づきや成長がある。誰にも指示されずに動く。そういう意味では、ティールの考え方も入っていますね。
嘉村
まさにそうですね。業務を標準化しようとしない。
青野
塚越さんのお話を聞いていて、利益を出すことは大事だけど、もっと高い視点が大事なんだなと思いました。

人間本来の幸せや利他の精神が利益を包括していることが、結果としていい組織を生み出しているのかな、と。

ただ「その幸福を追い求めよ」と指示されると、つまらなくなっちゃう。だから、いかにその人の主体性や積極性を引き出していくか、これが重要なんですね。
文:園田もなか/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:小野奈那子
<パネルディスカッション・後編へ>
2019年5月15日日本では「美学」を大切にしすぎるんですよね──「勝つこと」もいい組織に必要な条件
2018年5月17日「個人が会社を使うという働き方はおもしろい」──ホリエモンと新しいカイシャを議論したら、生き方の話になった
2017年4月27日「株主といっしょに作る」株主総会は、本当に実現できませんか?──カヤックCEO柳澤さんとサイボウズで議論してみた
2017年5月10日役員のボーナスの一部が、株主のさじ加減で決まるのはアリですか?──株主と会社の理想の関係について議論してみた

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執筆

ライター

園田 もなか

フリーランスのライター。エンタメ関連のコンテンツ中心に執筆やインタビューなど。

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撮影・イラスト

写真家

小野 奈那子

人、物、食を中心に撮影しています。ライフワークはアート収集。

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編集

ライター

松尾 奈々絵

コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。担当ジャンルは働き方や街紹介メディアなど。

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