サイボウズ株式会社

「管理職って別にいらなくない?」マネジャーを廃止した開発本部に、給与評価や異動の仕組みを聞いた

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • ビジネスリーダー
  • 企業経営者
  • 人事担当者
  • 組織改革に興味のあるビジネスパーソン
  • マネジメントを考察したい読者
Point この記事を読んで得られる知識

サイボウズの開発本部では、2019年1月からマネジャー職を一斉に廃止しました。その目的は、「お客様に届ける価値を最大化すること」であり、職種間の連携をより促進するための組織改革でした。この新たな体制では、従来マネジャーが行っていた承認作業や予算決めなどの多くの業務を各チームで行うようになり、特に給与評価や組織づくりなど各チームでは対応できない部分については組織運営チームが担っています。組織運営チームには以前のマネジャーが再配置されています。これにより、各メンバーの得意分野を活かせる組織作りが可能になりました。

給与評価は、「社外価値」と「社内価値」の二軸で行われており、社外価値については市場価値に基づき、社内価値については社内SNSでの貢献度をもとに評価されています。このため、評価に対する納得感を得やすくする工夫がなされています。

また、サイボウズでは、1on1のパートナーを自由に選べる仕組みがあり、相談内容に応じて最適な相手を自分で選ぶことが推奨されています。さらに、部署間の異動も自由に行えるようになり、この柔軟性がチームに市場競争性を生み出しています。

サイボウズの取り組みは、情報をオープンに共有するシステムとメンバーの自発性を重視したものであり、これにより管理職なしでも組織が健全に機能する可能性を示しています。このプロセスはキントーンを利用したオープンな議論を通じて進められ、自律的なメンバーと情報共有の仕組みがあれば、管理職がいなくても組織が円滑に運営できることが示唆されています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

これからのマネジャーについて、話そう。

「管理職って別にいらなくない?」マネジャーを廃止した開発本部に、給与評価や異動の仕組みを聞いた

2019年2月某日、「組織変更したら部長がいなくなりました 」という記事がサイボウズのエンジニアのブログで公開されました。 サイボウズの開発本部では2019年1月から、「お客様に届ける価値を最大化すること」を目的に、マネジャー職を一斉に廃止し、より主体的に動ける組織になったといいます。 でも「マネジャーがいなくて、評価は誰がするの?」「それで組織はちゃんと回るの?」など、謎は深まるばかり……! 組織変更の経緯と背景について聞いた前編に引き続き、後編の今回はより一般目線で生まれた素朴な疑問点について聞いてみました。

160人の組織でマネジャー職を廃止。マネジャーじゃなくなった人たちはどこへ?

たくみ
組織変更したら部長がいなくなりました」という記事を読みました。

サイボウズの開発本部では「お客様に届ける価値を最大化すること」を目的に組織変更をした結果、マネジャー職を廃止されたそうですね。
岡田
はい。職種ごとのミッション達成を追うのではなく、各職種が連携できるような体制にしたかったんです。
たくみ
とはいえ、サイボウズの開発本部って160人のメンバーがいるんですよね。マネジャーがいなくなると大変なような……。

ネットでは「もともとマネジャーだった人はどうなるの?」「給与評価はどうするの?」といった声があがっているので、今日はその辺についてじっくり伺っていきたいと思います。
岡田
よろしくお願いします! そもそも、なぜ多くの組織ではマネジャーが必要なのだと思いますか?

岡田勇樹(おかだ・ゆうき)サイボウズ 開発本部副本部長。2007年に新卒でサイボウズに入社。エンジニアとして「サイボウズ Office」や「kintone」の開発に携わる。2014年にマネジャーとして大阪開発拠点の立ち上げを主導。その後は大阪だけでなく東京や松山も含めた開発本部全体のマネジメントを担当。

たくみ
え、えーと……。
岡田
なかなか難しいですよね。私も以前マネジャーをしていましたが、マネジャーの業務ってすごく多岐に渡るんです。

マネジャーは1人で承認作業や予算決め、人材のケア、部署間の異動の対応などをしなければいけません。
たくみ
マネジャーってやることがたくさんあって大変ですよね。
岡田
たぶんマネジャーがやらなくていい仕事もあると思っていて。

「マネジャーが消えた」ということにフォーカスされがちですが、どちらかというと最高の製品を届けるために「マネジャーの役割を分散した」というのが近いのかなと思います。
たくみ
マネジャーの役割を、分散……。
岡田
具体的には、それまでマネジャーが行なっていた出張申請や経費の支払い申請などは各チームで決定するようになりました。

出張の承認とか、正直チームメンバーが承認したほうがスピーディーに動けると思いませんか?
たくみ
そう言われてみれば……とはいえ、給与評価などは各チームでは行えないですよね?
岡田
そうなんです。そこで、給与評価や組織づくりなど、各チームではまかなえない部分に関しては、「組織運営チーム」をつくって対応しました。
たくみ
組織運営チーム……。
岡田
ネット上で「もともと部長だった人たちはどこへ行ったの?」という声がありましたが、もともとマネジャーをやっていたメンバーのほとんどは今この「組織運営チーム」にいます。
たくみ
ぱっと見ると、マネジャーだった人たちが「組織運営チーム」に移っただけのイメージなのですが、どのようなメリットがあるのでしょうか?
岡田
マネジャーだった人たちをチームにすることによって、マネジャーたちの中でもおたがいの得意不得意をカバーできるようになったんです。

マネジャーの中にも組織づくりが好きな人、採用戦略を考えるのが好きな人、成長支援をするのが好きな人などいろいろいます。

いままでマネジャーがいろいろな役割を一人で背負っていたのを、マネジャーをチームにしたことによって、よりおたがいの強みを活かせる組織になりました。

マネジャーがいなくなって、給与評価は正当にできるんですか?

たくみ
お話を伺っていると、マネジャーが廃止された代わりに、これからは「組織運営チーム」が給与評価の役割を担うということですよね。

ちょっと気になるのが、評価です。上司が直接メンバーを見ていたときと比べて、きちんと評価はできるのでしょうか?
岡田
給与評価は、マネジャーがやる場合と組織運営チームでやる場合とでそんなに結果は変わらないと思います。
たくみ
えっ、なぜそう言い切れるんでしょうか?
岡田
給与は「社外価値」と「社内価値」の二軸で判断しているのですが、社外価値は客観的に決まるものですし、社内価値に関しても社内SNS上でメンバーの貢献が見えるので、特に心配はしていないですね。
たくみ
詳しく聞かせてください。
岡田
まず、社外価値は「あなたが転職したらいくら?」という市場価値で決まります。

たとえば「20代・東京勤務のエンジニアで○○のスキルがある人=だいたいこの金額レンジ」という相場があるんです。
たくみ
それなら、上司が評価する場合でも組織運営チームが評価する場合でも金額に差は出なさそうですね。社内価値はどうでしょう?
岡田
社内価値は「その人はどんな役割で、チームにどう貢献してくれているのか」という観点ですよね。

情報がオープンになっていない会社だと社内価値の評価が難しいかもしれませんが、サイボウズの場合はキントーンという社内SNS上で、メンバーが日々の活動の様子を発信してくれています。

こんなふうにメンバーが分報形式でつぶやいてくれているんですよね。

分報のイメージ。

たくみ
おお…みなさん発信量がすごいですね。

キントーン上のタイムライン。

岡田
そうなんです。Twitterのような感じで、メンバーの活動の様子が流れてきますね。

日報も分報も、全社員に見えるようになっています。

日報のイメージ。

たくみ
めっちゃオープンに業務内容が書かれている……。
岡田
はい。なので社内SNSを見れば「この人はチームでこんな貢献をしているんだな」というのがなんとなくわかるんです。
たくみ
なるほど。サイボウズでは「オンライン上で情報共有をオープンに行なっているから評価がしやすい」という側面があるのですね。

ただ……いままでは直属の上司が自分を評価をしてくれることで納得感が得られた面もあると思うんです。

ところが、今後は組織運営チームという、ふだん自分があまり深く関わらない人たちに給与評価を決められるわけですよね。「モヤモヤする」という人も出てくるんじゃないですか?
岡田
それはもちろんあると思います。その場合は、組織運営チームにそのモヤモヤをぶつけてもらえればと思っています。
たくみ
給与評価に納得できない場合は、声をあげればいいと。
岡田
はい。サイボウズには「質問責任」と「説明責任」と呼ばれる考え方があります。

モヤモヤを抱えている人はきちんと適切な人に質問して解消しなければいけないし、質問された人はそれにきちんと答えなければいけないという文化があるんです。

サイボウズの場合はそもそもキントーン上で自分の希望給与を宣言することもできますし、
岡田
堂々と給与交渉をし、給与アップに成功しているエンジニアもいるぐらいですから、そこに関してはあまり心配していないですね。
たくみ
そういえば、前にそんな記事が話題になっていましたね!
岡田
給与に関して大事なのは「本人の納得感」だと思っています。「給料額=自分がどれだけ評価されたか」と受け取る人もいれば、金額にあまりこだわらないメンバーもいる。

「上司が評価していたときとズレは出てこないのか」という声はメンバーからも上がっているので、本人とは半期に1回は報酬面談などでコミュニケーションをとりつつ、必要に応じてチームへのヒアリングなども実施して判断材料を集める予定です。

組織運営チームとしては、一人ひとりとの対話を通して、互いに納得感のある状態に近づけていければと思っています。

マネジャーとの個人面談も撤廃。これからは好きな相手と1on1

たくみ
評価に関しては納得しました。とはいえ仕事をしていたら、ちょっと悩んでマネジャーに相談したいときもあるじゃないですか。そういう時、みなさんはどうされてるんですか?
岡田
IT企業だと「1on1」と呼ばれる面談があり、マネジャーとの個人面談を毎週設定しているところが多いですよね。
たくみ
そうですね。
岡田
サイボウズにも「ザツダン」と呼ばれる1on1の時間があって、いままではマネジャーと1on1する時間を設けていたのですが、マネジャー職を廃止した後は「好きな相手と1on1していいよ」というルールになりました。
たくみ
じ、自由……!なぜこのような仕組みにしたのでしょうか?
岡田
うーん、そもそもマネジャーが1on1する必要ってなくないですか?
たくみ
言われてみれば、なんでマネジャーとやるんだろう……
岡田
相談内容によって相談したい相手って変わってくるじゃないですか。

チームに関する相談であればチームメンバーに相談したほうがいいし、キャリアのことだったらそういうのに詳しい人に相談すればいい。

チーム内の事情にあまり詳しくない上司に相談しても、意味がないときもありませんか?
たくみ
た、たしかに……。
岡田
サイボウズでは「自立」を重視しているので、「悩みがあれば相談する相手を自分で見極めて、行動してください」という方針ですね。

とはいえ、それぞれが好き勝手に1on1しだすと、「Aさんが悩んでいてつらそう」という情報を組織運営チームがキャッチしづらくなるので、1on1で話した内容はアクセス権をかけて、キントーン上のアプリ上に溜めるようにしています。
たくみ
ここでもキントーンが使われているんですね。

それにしても、「悩みがあったら自分で相談する相手を判断してスケジュールを設定してね」というのはちょっとハードルが高い気が……。
岡田
サイボウズでは自立している人を採用していますし、すでにメンバーは働き方も自分で決めているので、大丈夫だと思います。

考えてみると「毎週マネジャーとの面談が自動で設定されている」というのはすごく楽ですよね。

「1on1の相手を自分で選んでね」というのは一見自由に見えますが、「誰かに決めてほしい」という受け身な人にとっては厳しいと思います。

部署間の異動は個人の自由。魅力的なチームには魅力的な人が集まる

岡田
ちなみに、開発本部ではチーム間の異動も自由になりました。マネジャーがいなくなったので、当事者同士で話をつければOKです。
たくみ
えっ。異動って人事部や上司が決めるイメージなのですが、サイボウズなら「私、あなたのチームに異動したいです」「いいよ!」で異動が決まるということですか?
岡田
はい。厳密には、自分が現在所属しているチームと、異動したいチームの両方で合意が取れればOKですね。そこにマネジャーは介入しません。
たくみ
なんと。
岡田
サイボウズでは、異動を会社間での「転職」と同じようにとらえていて。働く本人が強く希望するのであれば、会社側はそれを無理に引き止める権利はないと考えているんです。

異動したいチームに交渉した結果、「異動」になったり「兼務」になったりするのですが、自分の役割に変更があれば、キントーン上のスレッドに書いて終了です。

自分で異動の交渉をした後は、社内SNS上で報告をする。(イメージ図)

たくみ
めっちゃライトだ……

でも、みんなが好きなチームに異動できたらだいぶカオスになりませんか? 人気のあるチームにはすごく人が集まって、人気のないチームには人がいなくなる、とか……。
岡田
鋭い!まさに、そこがいいところだと思っているんです。
たくみ
どういうことですか?
岡田
ライトに異動できるようになることで、社内にも市場原理が生まれると思っていて。

「人が足りないから誰か異動してきてほしい!」と思ったとしても、自分たちのチームが魅力的じゃないと来てくれなくなるということですよね。だから、マネジャーが介入していたときより「もっといいチームにしよう」という自覚が生まれると思うんです。
たくみ
そういう発想になるんですね(笑)。
岡田
もちろん「このチームは最低○人必要」というのはあるので、もし足りない場合は組織運営チームが介入する場合もあるかもしれませんが。

人員の募集も、自分たちでキントーン上にスレッドを立てて、全社員が見えるところで募集をする形式になりました。
たくみ
人の募集も全社にオープン……!たしかにマネジャーが異動の調整をしていると、この市場競争性は生まれないですね。
岡田
はい。異動の調整がシンプルになり、「逆にいままでなんでマネジャーが介入してたんだろう?」とすら思うようになりました(笑)

もちろん、すべての異動がすぐに叶うわけではありません。状況によっては「あと1ヶ月だけ待ってほしい」という場合もあります。

それでもなるべく本人の希望を叶えられるように調整して、OKであれば1ヶ月後には正式に異動になるイメージです。
たくみ
うーん、すごい。

管理職がいなくても、自立したメンバーと情報共有の仕組みがあれば組織は回る

たくみ
これまでいろいろ伺ってきましたが、「管理職」と一括りにすることなく仕事内容を細かく分解して分け合うことができれば、マネジャーなしでも組織は回る気がしました。
岡田
まだ始めたばかりですが、意外といけそうな気がしますよね(笑)。

そもそも、なぜこれまで管理職が必要だったかというと、マネジャーしか持っていない情報が多かったからだと思うんです。
たくみ
マネジャーしか持っていない情報……。
岡田
サイボウズの場合はメンバーの自立性に加えて、キントーンを使ってあらゆる情報をオープンに共有しているので、管理職を廃止してもそこまで問題がなかったのかなと思います。

実は今回の組織変更もキントーン上でオープンに議論しながら進めたんです。

「本部という枠自体から考え直したい」「異動やキャリアに対して部長が権限を持ちすぎている」などさまざまな意見が出ました。

実際に議論された内容

たくみ
これ、全社員にオープンな場で議論されてるんですよね?すごい......。
岡田
キントーン上で案を出すと、いろいろなひとがコメントをくれてブラッシュアップしてくれるんです。

実際に議論された内容

岡田
ふつうだったらこういう組織変更って開発本部のトップと人事だけで内密に決めると思うのですが、サイボウズではその過程すら全社員にオープンにしていて。

情報をオープンにしていて、メンバーも自立している組織であれば、管理職がいなくてもうまく回るんじゃないかなと思います。
たくみ
なるほど。とてもおもしろい取り組みなので、もし何か進捗があればまた取材したいです。
岡田
ぜひぜひ。もともとはお客様に届ける価値を最大化するための組織変更なので、「やっぱりマネジャーがいたほうがよかったよね」となっている可能性もありますが(笑)。

これからもお客様に最高のサービスを届けられるように頑張って行きたいと思います。
たくみ
本日は、たくさんの質問にお答えいただきありがとうございました!
執筆:たくみこうたろう/編集:熱田 優香/撮影:二條 七海
2019年5月 7日サイボウズの開発本部がマネジャーをなくしてみた「いないと無理なら、またつくればいい」
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執筆

ライター

たくみこうたろう

「働く人にもっと優しい社会を」をテーマにWebメディアの運営、編集・執筆をしています。

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撮影・イラスト

写真家

二條 七海

写真家→ホームレス→LIG.inc→フリーランスフォトグラファー。 現在は著名人や芸能人の人物撮影を中心に行っている。 多様な作風が持ち味。好きな食べ物はハンバーグ。

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編集

編集部

熱田 優香

1993年生まれ。サイボウズ製品の価値をおもしろいコンテンツとともに伝えるプロモーションに挑戦中。

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