サイボウズ株式会社

人に値段をつけるって怖いんですよ。だって、正しい値段なんてあるわけないんですから──わざわざ 平田はる香×サイボウズ 山田理

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 経営者
  • 人事担当者
  • マネジメントに関心のある人
  • 企業の組織改革に携わる専門家
  • 働き方改革に興味のある人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読むことで、小さな店舗から始まり大きく成長した「わざわざ」という店の経営者、平田はる香さんが実践するユニークな組織作りと人事制度について知ることができます。主なポイントとして、平田さんの店では給料を固定額にすることで人事をなくし、製造や小売りという本業に集中することを目指しています。また、評価しない人事制度を採用し、人を公平に評価することが難しいという前提に立っています。経営の責任者としての意識改革や、給料でなく理念に共鳴した人材を採用することで離職率の問題を解決した背景も語られています。

対談相手の山田理さんは、情報の共有やITの進化により、マネジャーの役割が地位から役割として変化することを指摘し、全ての情報をオープンにして団体戦として組織を運営する重要性を述べています。インターネットの発展が情報の価値を変え、情報共有の新たな形を模索する姿勢が大切であることがわかります。また、マネジャーとしての真の役割は「謝ること」にあり、失敗に対して責任を持ち、成功をスタッフと共に喜ぶことであるとされています。これにより、情報共有と組織の柔軟性が強調され、マネジャーの責任が軽減されることが提案されています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

これからのマネジャーについて、話そう。

人に値段をつけるって怖いんですよ。だって、正しい値段なんてあるわけないんですから──わざわざ 平田はる香×サイボウズ 山田理

長野県東御市御牧原にある、小さなパンと日用品の店「わざわざ」。最寄りの駅から車で15分、歩くと1時間くらいかかります。店名の由来は「わざわざ来てくださってありがとうございます」という感謝の意から。

経営者の平田はる香さんが2018年に公開したブログには、「山の上」という不便な場所にあるわざわざが、どのように成長してきたのか、数字のデータからさまざまな試みまで惜しみなく書かれており、大きな話題を呼びました。

店長である平田さんがひとりで始めたお店が、2018年度の決算は2億5千万円、スタッフは16名の組織へと成長。それにともない、「相思相愛採用」や「評価しない人事制度」などユニークな制度をつくり、チャレンジを続けています。

そんな新しい組織づくりに取り組む平田さんをサイボウズのオフィスにお招きし、マネジャーに関する本を8月に上梓予定のサイボウズ副社長 山田理との対談イベントを開催しました。テーマは「新しい組織作りやマネジメントを考える」です。

給料を一律にしたワケは「人事」をなくしたかったから

山田
わざわざさんは、大変ユニークな人事制度にチャレンジしようとしてますよね。お給料を一律にするとか。
平田
現在は人によって給料が異なりますが、これからは新卒や中途に関わらず、入社して2年後には一律24万円になる制度を実施していく予定です。昇給制度がないので、未来永劫24万円です。
仕事に優劣はない!「評価しない人事制度」作りました
山田
かなり大胆な取り組みですよね。
平田
そうですね。ただ、長野県であれば上場企業の社員並みの給料が担保されるように考えています。

業績に応じてボーナスは出して、2017年度の実績でいえば、5カ月分は出しているので。
山田
この制度を考えたきっかけはなんですか?
平田
「人事」という仕事自体をなくしたかったんですよね。

わざわざは製造・小売の会社なので、原価をかけて仕入れて、つくって売る、商売の基本のような形で経営しています。

何をしているのか形が残りにくい、何が正しいのかもわからない人事評価よりも、つくることや売ることに時間やお金を回したい。人事の仕事をなくして、もっと生産性を上げたいと思ったんです。

平田はる香(ひらた・はるか)。株式会社わざわざ代表取締役。1976年生まれ、東京生まれ静岡育ち。1996年川村都スタイリストスクール卒業。2002年に夫の転勤により長野県に移住。2009年にわざわざを一人で開業。前職はWEBデザイナーでありながらも、パン焼きにハマり、元々好きだった日用品の収集と掛け合わせた店、パンと日用品の店「わざわざ」を開業する。段々とスタッフが増えていったことで、店舗や事業を拡張し、2017年に株式会社わざわざ設立。二児の母。

山田
たしかに、わざわざさんは採用も事前に『わざわざの働きかた』という本を読むことを前提としたり、採用の制度を常にアップデートしていますよね。
平田
フェーズに合った人材を採用することが、組織づくりにおいて大切だと思っています。本を出版するようになってから2年、正規雇用での離職率は0%になりました。

それまでは人が入ったり辞めたりが多かったので、採用の課題については一旦クリアできたのかなと思っています。

人は人を正当に評価できない。正しい値段なんてあるわけない

平田
そもそも、私自身が評価することも、されることも好きじゃないんです。
山田
うん、僕も本当に嫌いです。

評価する側に回った人ならわかると思いますが、怖いんですよ。人に値段をつける、ってことは。だって、正しい値段なんてあるわけないんですから

山田 理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUSA(Kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る。

平田
「人が人を正当に評価できるわけがない」って心の底から思っているんですよね。

自分自身の人生を振り返ったとき、正当な評価をされていなかったと感じることが多かったので。
山田
なるほど。
平田
学校の成績だと、私はいつもテストの成績はよくても、通知表の結果が悪かったんです。

忘れ物をしたり、遅刻をしたり、生活態度がよくなかったんです。そうすると、テストの成績が私よりも悪いのに、宿題をやっている子のほうがいい成績がついて。

「先生はどういう評価をしたんだろう?」という違和感がずっと残っているんです。
山田
結局、学校や社会の評価軸は、誰かが決めた一定のルール上のものでしかないですからね。
平田
「人を評価すること」に対して疑問や不信感をもった自分が、他人に同じことをするのはどうなのかな、と。
山田
すごくよくわかります。ただ、それを制度として導入して、やり抜けるのがわざわざさんのすごいところなんですよね。

「わざわざで働きたい」と感じる魅力が、お金以外の部分にあるからこそ、成り立つ仕組みなんでしょう。
平田
そうですね。そこはサイボウズさんの考え方にも近いと思います。お給料より、働き方や理念に惹かれて入ってくる人ばかりなので。

「年功序列」ってすごい。評価なんてできるわけがないんだから

山田
わざわざさんが今の段階でその考えに行き着いているのがすごいです。

僕はサイボウズに入る前は銀行で働いていて、「年功序列なんて必要ない」と思っていました。

だからこそサイボウズに入ったとき、年功序列とは真逆の成果主義を採用したんですよ。
平田
そうだったんですか。
山田
それも最初のうちはよかったんですが、だんだんと業績が頭打ちになってくると、会社の環境がどんどんとひどくなっていって。

半期に一度の評価で、最低の評価を2回とったら辞めてもらうように言っていた。それが、お互いのためだと思っていたんですよ。
山田
いろいろ要因はありましたが離職率は30%近くになり、2週間に一度は誰かの送別会が行われていました。

そこで大きく反省して、働きやすい環境を整えることを第一に改善していくようになりました。
平田
なるほど。そういった経緯があったんですね。
山田
大失敗を経て人事制度をつくりながら思うのは、「年功序列ってすげえな」って。だって、評価しなくていいんですよ。

毎年歳を重ねたら、自動的に給料が上がっていく。そして、みんながそれが当然だと受け入れている。改めてこの制度をつくって実現している会社はすごいな、って感動しました。

マネジャーは「地位」ではなく「役割」に変化した

平田
今度山田さんが出す本の原稿「マネジャーとは、地位ではなく役割である」と書かれていて、私もまさにその考え方なんです。リーダーは、誰かの上に立つものではないなと。
山田
「マネジャーが地位ではない」という考え方は、インターネットが生まれたからこそだと思っているんです。
平田
どういうことですか?
山田
それ以前は、情報を得るためにはその情報をもっている人と接触する必要があった。

社員が手に入れた情報が課長に、課長から部長に、部長から取締役に……という流れで、大事な情報がすべて社長のもとに集まってくる。情報の価値と一緒に権限が集まり、そこにお金がついていっていた。
山田
でも、今の時代は違います。ITの力によって情報はフラットになり、誰でも簡単に手に入れられるようになりました。

となると「俺がこの情報をもっているから権限がある」という考えが機能しなくなったんですね。情報格差が価値を生まなくなった。
平田
たしかにそうですね。
山田
むしろ、マネジャーが知らない情報をメンバーがもっている可能性だってある。

開示できる情報はオープンにして、みんなが簡単にアクセスできる状態にしたほうが、結果的にアイデアが出やすくなるのではないか、と考えているんです。

「こういうことで悩んでいます」と情報を開示したら「だったら私はこういう解決策をもっています」と言ってもらえる。それが情報共有の世界。

情報をもっている人が限定されていたときは、一人ひとりが解決しないといけなかったので個人戦でした。でも、これからは団体戦になりますよね。

情報を開示すると、外部から新たな情報を得られる

平田
情報共有は、私もすごく大切だと思っています。兄が量子力学の研究者で、90年代後半にはすでに自分の研究内容を世界中にオープンにしていたんです。
山田
へえ、随分と早いうちからしていたんですね。
平田
当時、そもそもなぜ情報を開示するのか聞いてみたんですよ。

そうしたら、「僕がこの情報を世界中の研究者に見せることで、この研究が加速するから」と教えてもらって。私、感動したんですね。
平田
兄は自分の手柄よりもまず、研究が最短で攻略されることを優先していた。そのときから、もし自分が何かするときは、「全部開示するべきだ」と思っていました。

わざわざを始めてからも、売り上げの情報から石窯の設計図まで、すべて外部にオープンにしたんです。

そうすることで、結果的に自分も情報を得られますからね。
山田
情報を開示することで、外部から新たな情報を得られるし、社員が生き生きと主体性をもって働いていける環境にもつながるんですよね。

主体性は、選択肢がたくさんあってこそ成り立つし、そのためには情報が必要不可欠ですね。

マネジャーに必要なのは「謝ること」

山田
情報がフラットになってマネジャーが地位ではなく、単なる役割となった。そのとき、マネジャーにおける大事な資質はなんなんでしょうね。

平田さんは、何が大事だと思いますか。
平田
私の組織は、そもそも規模がとても小さいので、私がマネジャーであり、社長でもあるんですね。

いずれも共通して大事だと思っているのは、「とりあえず、バカでいること」です
山田
バカ、ですか。
平田
絶対に威張らず、ソクラテスでいうところの「無知の知」を大切にする。決して思いあがらず、感謝の気持ちを忘れない。あとは、とにかく下からいくことです。
山田
ああ、僕もそう思います。マネジャーに必要なことって「謝ること」だと思うんですよ。マネジャーの仕事は、基本的に「意思決定」することだからです。

うまくいけばメンバーを褒めて、失敗したら「決定した僕に責任があります」と自分が謝る。それがマネジャーの大切な仕事。

本当に謝る覚悟ができているなら、しっかりと意思決定をするために情報収集をすると思うんです。そして、意思決定をして最終的にはメンバーに任せる。
平田
「任せる」って、伝え方が難しくないですか? 

以前、スタッフに「仕事の状況、いまどんな感じ?」と聞いたんです。そのスタッフはしっかりと状況を把握していて、いろいろと教えてくれた。それを聞いた上で仕事を任せたんです。
山田
うんうん。
平田
そうしたら、そのスタッフは「どういうことですか?」と少し憤慨した様子で。どうやら丸投げされたような気持ちになってしまったみたいで。

「あなたのほうが私よりもよく知っているようだったから、この場は任せたつもりだったよ」と伝えたら、わかってくれて、ほっとしましたね。

マネジャーがすべきは「放置」ではなく「放任」

山田
僕も以前、「放置するなら、マネジャーの仕事って何なんですか」と言われたことがあります。

でも、僕の中では「放置」ではなくて「放任」だと思っているんです。

放任は、任せた上で、うまくいっていないところはできる限りサポートすること。放置の場合は、見ることもないですから。
平田
本当にそうですね。マネジャーの役割として、ヘルプにまわるのは重要なことだと思います。

情報を確認しながら、できそうなことがあったら助ける。失敗をしそうな人がいたら、事前に助けてあげること。
山田
マネジャーであってもできないことは「できない」と言ったり、できる人に意見をもらって協力を仰ぐ力も必要ですよね。

ひとりでなんでもできればいいですが、できないことのほうが多いと思うので。

だから、マネジャーって「権限」というより、「場をオーガナイズする役割」のほうがしっくりくると思うんですよ。
平田
マネジャーに限らず、社長もそうですね。私はいま、いい職場環境を整えることを心がけています。

人間関係のわだかまりをなくしたり、人材が足りてなかったら人を見つけてきたり、空間が狭かったらオフィスを借りてきたり。

働きやすい環境を整えることが、最善の役割ではないでしょうか。マネジメントの考え方としても同じで、「その場をまわりやすくサポートしていく」ということなんですよね。
山田
そう考えると、マネジャーの仕事は格段にハードルが下がりますよね。組織が大きくなればなるほど、マネジャーの数は増えていきますが、マネジャーに求められるスキルが高ければ、いずれ組織が崩壊してしまうと思います。
山田
そのとき、どれだけほかの社員に機能を渡していけるかが、鍵になるのではないでしょうか。

コーチングの本を何冊も買って、心を動かす方法や戦略を考えてお手上げとなるよりは、まずマネジャーの仕事をほかの人に渡したり、高いスキルがなくてもできるように大衆化していくことが重要だと思います。
副社長・山田理のマネジャー本、Amazon予約はこちらから。Facebookにて、書籍の制作過程を公開するコミュニティを運営しています。ご参加されたい方がいらっしゃれば、ぜひこちらから参加リクエストをしてください!
文:園田もなか/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:栃久保誠/企画:小原弓佳
<後編へつづく>
2019年5月 7日サイボウズの開発本部がマネジャーをなくしてみた「いないと無理なら、またつくればいい」
2019年5月16日上司の「信頼している」は余計なお世話。マネジャーは責任を取って任せるだけ
2019年5月 8日「ティール組織=全員が幸せになれる組織」とは限らない──主体性や自由がプレッシャーになる人もいる

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  • 理想のマネジャーってなんだ

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執筆

ライター

園田 もなか

フリーランスのライター。エンタメ関連のコンテンツ中心に執筆やインタビューなど。

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撮影・イラスト

写真家

栃久保 誠

フリーランスフォトグラファー。人を撮ることを得意とし様々なジャンルの撮影、映像制作に携わる。旅好き。

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編集

ライター

松尾 奈々絵

コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。担当ジャンルは働き方や街紹介メディアなど。

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