藤村 能光
サイボウズ式2代目編集長。新生サイボウズ式をどうぞよろしくお願いします。
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この記事によると、サイボウズは単なるソフトウェア開発企業ではなく、「チームワークの会社」として、チーム活動を支援するグループウェアを提供しつつ働き方改革のメソッドを実践しています。サイボウズ式の編集長である藤村は、自身の経験を通じてチーム作りの重要性を説いており、特に個人の自立や多様な働き方を尊重することが新しい価値を生み出すとしています。記事では、サイボウズが試行錯誤を繰り返しながら、「未来のチーム」のあり方を探求してきたことや、その結果、自由な働き方を実現する企業文化を築いたことが述べられています。さらに、自らの体験を元にした出版物が企業や採用にも良い影響を与えている様子が紹介されており、多様なチームが成果を上げるための考え方とコミュニケーションツールの活用の重要性が示されています。
サイボウズ式編集長の藤村です。6月28日に書籍『「未来のチーム」の作り方』(扶桑社)が発売されます。
この本では、わたしがサイボウズ式の立ち上げに始まり、編集長としてサイボウズ式のメディア運営やチーム作りに携わってきたことを書きました。
「会議での発言がかたよってしまう」「新メンバーがなかなかなじめない」「チームで新しいアイデアがなかなか出てこない」といったわたし自身が直面してきた課題に対して、チームづくりの考え方やオンラインツールの活用法をまとめています。
出版にあたり、未来のチームの作り方の「はじめに」を公開します。サイボウズ式を普段からお読みいただいている読者のみなさまの、チーム作りの一助になればうれしいです。
「サイボウズの組織や制度の取り組みって、何年かしてからほかの会社が取り入れたりしますよね」ある日、IT企業に勤める人からこう言われて、「確かにその通りだな」と思いました。
僕が所属するサイボウズは、単なるソフトウェア開発企業ではなく「チームワークの会社」としても知られています。企業理念は「チームワークあふれる社会を創る」。その理念を実現するために、チーム活動を支援するグループウェアを開発・販売するだけでなく、サイボウズ流のチームワークや働き方改革のメソッドを提供する「チームワーク総研」を設立したり、さらに世間に先だってさまざまな"実験的"制度を考え、自分たちで実践してきたからです。
それはある意味、少し先の「未来のチーム」のあり方を模索してきた歴史だと言えます。
結果、サイボウズではいち早く個人の自立にもとづいた「自由な働き方」ができるようになりました。今では社員が各自で勤務時間を決め、自宅作業など働く場所も選びます。複業として社外で仕事をすることも可能です。
そんな多様な個人が集まる環境のなかで僕らはチームを組み、成果をだすというチームビルディングを続けてきました。「全員の働き方がバラバラなのに、うまくチームとしてまとまるの?」と思う人もいるでしょう。
実際、それは簡単ではありませんし、だからこそ僕らは「コミュニケーションツール」を活用してチームを築いてきました。ツールをうまく使って情報共有を工夫することで、「時間」と「場所」に捉われず働けるようにしてきたのです。
ただ、そんな「チームワークの会社」でリーダーを任されている人間がみんな「強いリーダーシップを持っている人」なのかと言えば、そんなことはありません。リーダーによってスタンスや考え方は異なりますし、むしろ、かつての僕は、間違いなく「自分の仕事」ばかりを追っていました。
けれどもある日、上司から言われた「藤村さん個人の仕事の成果はよくわかりました。でも、チームとしてはダメですよね」という言葉によって、僕の仕事観は大きく変わりました。大げさではなく、人生の分岐点になったのです。この問いかけに対して明確に答えられなかったことが、自分なりのリーダー像を求めるきっかけでした。
そして僕は、「サイボウズ式」の編集長になりました。編集長という立場は、ほかの会社ならプロジェクトリーダーのようなものです。9人ほどのメンバーと一緒に、チームとしての結果を出さないといけません。そこで何度も壁にぶち当たりました。
そもそも僕は強いリーダーシップで人を率いるようなタイプではありませんし、何か特殊なスキルを持っているわけでもありません。今まで大きなことを成し遂げたといった武勇伝もありませんし、極めて「ふつうの人」だと思っています。
それでも無我夢中で「みんなが自由に働けて、成果も出せるチーム」を追い求めて、サイボウズ式は今年で7年がたちました。7年という歳月はサイボウズ創業から3分の1を占めています。オウンドメディアとしては老舗であり、ありがたいことに「成功したオウンドメディアの代表例」として取り上げてもらうことも増えてきました。
サイボウズ式の取り組みは、読者からいただく反響に加え、サイボウズという会社にもいい影響を与えました。例えば主力製品であるグループウェア・クラウドサービスの売り上げへの貢献です。
サイボウズ式を立ち上げた初年度にクラウドサービスの購入者にアンケートを実施したところ、「サイボウズ式での認知がきっかけで契約した」という声が多く寄せられました。グループウェアは企業向け(BtoB)の製品です。一般的にBtoB製品は検討から購入までの期間が長くなるのが特徴ですが、サイボウズ式を立ち上げてすぐに購入に結びつく結果が出たことには驚きました。
また、採用活動への貢献もあります。今では新卒希望者にも「サイボウズ式を読んで、サイボウズっていい会社だなと思って応募しました」という人が現れ、会社の理念に共感してくれる人が増えている実感があります。
サイボウズ式を立ち上げた当時は、まだサイボウズという会社自体の認知度が低い状態でした。主力製品が企業向けなので、社会人なら勤め先でサイボウズ製品に触れている人もいますが、大学生のような企業とは直接関連がない人には、社名が知られていないのが普通でした。それが今や、サイボウズの理念や企業姿勢に好感を持って、新卒・中途採用に応募してくれる人が増えています。メディアに携わる人間として何よりの成果です。
そうして7年、サイボウズ式を運営してきて思うことがあります。それはチームを考えるうえで、「そもそもあなた自身は、どんな働き方や生き方をしたいの?」と、問われる場面が多くなってきたということです。
今の時代は誰にも当てはまる働き方や生き方という、たったひとつの答えはなくなりました。会社でガマンして働けば道が開けるわけではありませんし、簡単にハシゴを外されることもあります。
会社に依存せず、各人が本当に手に入れたい働き方や生き方を自分で決めること、すなわち「個人の自立」が求められているのです。同時に確信したことがあります。それは、自立した多様な個人が集まるチームができれば、ひとりでは成し遂げられなかった新しい価値を生み出せる、という思いです。そして、そのほうが絶対に楽しいはずです。
現在、社員6人、アルバイト学生3人という9人のメンバーがいるサイボウズ式の編集部員は、ほぼ全員がほかのプロジェクトを兼務しています。年齢構成も20代から40代までバラバラで、毎年何らかの形でメンバーは代わっていきます。
さらにリモートワーク中心で働いたり社外で複業(副業)をしたりするなど、みんながそれぞれ「自分はこうありたい」という〝自由な働き方〟を選択しています。だから自然と、属性もチームに対するコミットの度合いもバラバラになります。でも、それでいいんです。
たしかに、編集長になった当初は編集会議の進行すらままならず、「僕の仕切りが編集部の底上げにならなかったらどうしよう」、「みんなが思いのままに活動できなかったらどうしよう」と、迷い続けました。けれど、やはり「ひとりひとりが違うこと」を受け入れることが、解決の糸口になりました。すでに編集部のメンバーは多様ですし、それ自体がおもしろいことです。
今のチームはみんなが集まっているからこそ成立していますし、たとえメンバーが入れ替わったとしても、その多様さは武器になると気づきました。
同時に捨てたものがあります。「編集長が完璧であり、模範でありたい」という思いです。もちろん編集長としてすべきことは多岐にわたりますが、そのすべてを僕が判断しなくてもいいと割り切りました。
すると、少しずつ時間をかけてチームが機能するようになりました。本書ではそんな「ふつうの人」が、自分をちょっとだけ変えて、チームという多様性の集まりと、どう向き合ってきたのかをまとめてみます。今後はみなさんの会社でも、さまざまな働き方の変化が訪れるはずです。そんなとき、僕らが挑戦し続けてきた「未来のチーム」作りの経験が、何かしらの形で参考になれば嬉しいです。
ちなみに、こういったサイボウズの体験談を話すと、よく「それはサイボウズだからできるんでしょう?」という反応が返ってきます。しかし、僕はそうは思いません。
サイボウズも決して最初からできていたわけではなく、理想を実現するために、少しずつ組織や制度を変え、まずは自分たちで実践するなかで見えてきた「発見」を世の中に発信してきたのです。最初の一歩はきっと、チームに所属するあなたの小さな変化から始まります。
特別なスキルよりも、これまでの働き方や生き方への考えを少しだけ変えて、実行していくことの大切さを綴ってみます。個性を尊重し、本当に働きやすいチームという〝居場所〟をつくりたい人の道しるべになればと思っています。
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