『1分で話せ』 の著者で、ヤフー企業内大学・Yahoo!アカデミア学長として、次世代リーダーの育成を担う伊藤羊一さんと、11月にマネジャーに関する書籍を上梓する予定のサイボウズ副社長・山田理。
ともに日本興業銀行でキャリアをスタートし、現在はリーダーやマネジャー育成に携わっているというふたり。
そして、ふたりとも、ファーストキャリアでは苦戦を経験。現在のマネジメントのやり方にたどり着くまでにも試行錯誤を繰り返してきたといいます。
ふたりのマネジャー観がどのように変わったのか、そして変遷の末、たどりついたマネジャーのあり方について話してもらいました。
新人研修では不合格。会社に行けなくなったことも
僕たちは、同じ日本興業銀行でキャリアをスタートしましたよね。実は僕は最初、会社に馴染めなかったんです。
僕が入社した1990年は、あまり深く考えなくても会社に入りやすい時代でした。だから「社会人になるんだ」っていう意識がないまま入社したんですよ。
それで会社に入ってみたら、体育会系の人ばかりで溶け込めなくて。
伊藤羊一(いとう・よういち)。ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト・ヤフー企業内大学「Yahoo!アカデミア」学長。東京大学経済学部を卒業し、1990年日本興業銀行入行。企業金融、債券流動化、企業再生支援などに従事。2003年プラス株式会社に転じ、ジョインテックスカンパニーにてロジスティクス再編、事業再編・再生などを担当後、執行役員マーケティング本部長、ヴァイスプレジデントを歴任、経営と新規事業開発に携わる。2015年4月ヤフー株式会社に転じ、Yahoo!アカデミア本部長として、次世代リーダー育成を行う。著作『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』は32万部を超えるベストセラーに
半年間の新人研修を終えたときに「この中で4人だけ不合格がいる。立ってもらおうか」って言われたうちのひとりが僕だったんです。
そんな感じで配属されたので、仕事もうまくいかず、人と話すのも苦手。どんどん落ち込んで、26歳のときに会社に行けなくなっちゃうんです。うつになって、数週間休んでいましたね。
山田理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUSA(Kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る
その頃は、うつ病がまだあまり知られていなかったから、「このままサボっているとクビになっちゃう」と思って、会社に行こうとはするんです。でも玄関で吐いちゃって。
ちょっと頑張って、ちょっと休んで……を繰り返していました。1年半くらい、ずっと心と体を痛めていたんですよね。
そこからいろんなことがあったんですが、ひとまず、言われたことをきちんとやって、周囲とコミュニケーションをとっていれば、社会人としては大丈夫だとわかってきた。それが僕の仕事のスタートなんです。
だから僕は、働くことや仕事についてのメッセージを送るときに、「何があってもみんな大丈夫だよ」という姿勢になるのかもしれませんね。
どうやって自分を差別化して違うフィールドで戦うか
僕が入行したのは、伊藤さんの2年後。僕の場合は「銀行員らしくないな」と僕自身も、採用した側もみんな感じていたと思います。銀行内で出世するとなると、周りは頭が良い人ばかりだったから、ついていくのに必死でしたね。
当時の銀行は、知力があって、かつ「ウオー!」と言うような、猪突猛進な感じの方が多かったですよね。
そうそう! その中で自分の強みをどう表現して、どう評価されるのかを意識しながら、8年間を過ごしました。
銀行内で出世できるかを考えたりするようになったときに、ちょうど銀行の統合の話もあり、「銀行で骨を埋めるのは無理だな」と思ったんですよ。
そこからいろいろな縁があって、2000年にサイボウズに入りました。現在は、連結で約800名ほどの規模になりましたが、社員数はまだ10人くらいでしたね。
そうです。財務をやって、上場の準備をしながら採用も担当し、内部統制や法務、管理部門を一貫して立ち上げました。
その後、2014年にはアメリカに行くことになったんですが、アメリカでもひとりでゼロから部門の立ち上げやって。
個性をどう生かすか、どういう風に周りと差別化して、違うフィールドで戦うかをずっと考えてきましたね。
支配的なマネジメントが当たり前だと思っていた
僕は、日本興行銀行に14年勤めたのち、2003年にプラス株式会社に転職しました。
そのときは、サラリーマンとして与えられたことをしっかりやることだけが仕事だと思っていたんです。それ以上のプラスαをあまり意識しなかったですね。
それも今の伊藤さんからは想像がつかないですね。仕事への意識が変わったきっかけはあったんですか?
2011年の震災です。ちょうどリーマンショックの後で、事業がマイナスになり、僕もラインを外されていたのですが、震災の際には自らがリーダーとして物流や商流の復旧を進めました。
そのときはじめて、マネジャーやリーダーの役割は、AかBを選ばなきゃいけないときに、どちらかに決めることだということを知ったんです。
バッサバッサと決断していったら、結果的にものすごい早さで物流が復旧しました。
そして何か月後かに、マーケティング本部長がトップに昇格するから、「伊藤、お前がやれ」とオファーをもらって。
僕を本部長に据えるかについては、賛成と反対に真っ二つに分かれていて、前日まで決まってなかったそうなんですが。
僕のマネジメントが上からで、強いと感じてしまう人もいて。
そう。今思い出すと笑っちゃうくらい、力によるマネジメントをしていました。マネジャーの仕事は、バンって決めて「やれっ!」と命じ、部下に一糸乱れぬように行動させることだと思っていたんです。
そうそう。「伊藤は新しいことをやろうとしている」と賛成してくれる意見もある一方、「あいつに任せるととんでもないことになるんじゃないか」という反対意見もありました。
社員の才能と情熱を解き放つのがマネジャーの仕事
2015年に転職したヤフーで出会った1on1です。
それをきっかけに、マネジャーの仕事は、社員と1対1で対話して、社員の才能と情熱を解き放つことだとわかりました。
1on1をするうちに、仕事って自分1人でできるわけじゃないし、支配的なマネジメントをしても、みんながついてくるのって、ものすごい短期間だけだと気づいて。
銀行時代の「飲み会でいくら明け方まで飲んでも、翌朝1番に出社して座ってろよ」というような、昭和のマネジメントの下で育ったから、そのやり方しか知らなかったんですよ。
プラス株式会社でも短期間で役職のレイヤーが上がっちゃったから、焦る気持ちから上から押し付けるようなマネジメントになっていたんでしょうね。
山田さんはどのようにして、今のマネジャー観ができたんですか?
僕はサイボウズに入って、下にたくさん人がつくようになってから「僕に何ができるんだろう?」って思ったんですよね。
年下の営業やエンジニア、マーケティングの子のほうが、僕の知らないことをたくさん知っているんだなと。
その中でマネジャーとして結果を出していかないといけない。僕ができることって、みんなに「協力して」ってお願いするしかないんです。
それに気づいたのって、具体的にどのタイミングでしたか?
サイボウズの離職率が28%になって業績も頭打ちになったときです。M&Aもして、たくさんリストラをしていた最中かな。社員の数もどんどん増えていって「今のままじゃ無理だ」って思いましたね。
最初は評価も成果主義で厳しくやっていたんですよ。業績が上がっているうちは「人が辞めても、別の人を採用すればいいや」となるし、業績がすべてを正当化してくれるところがありましたから。
けれど業績が頭打ちになったら、辞める人も増えるし、社内の雰囲気も悪くなって「僕、何やってたんだろう」って思ったんですよね。
大切なのはスキルではなくマインド。自分をリードできなきゃ、人のこともリードできない
マネジャーとして大事なのは、スキルじゃなくてマインドだと僕は思うんですよね。
ドラッカーは「リーダーとマネジャーは違う」って言っているけど、僕は同じだと思っています。
Yahoo!アカデミアで取り組んでいるリーダー教育やリーダー開発でも、「みんなが目指すべき理想のリーダー像は同じじゃない。自分らしさを強く意識してリーダーになることが大事だ」と伝えています。
「Lead yourself」を大事にして、自分自身をリードできなきゃ、人なんてついてくるわけない。
結局リーダーやマネジャーは、自分がエンジンになってスイッチを入れる必要がある。「これをやろう」って言えばみんなが巻き込まれるか、と言ったらそうじゃないんですよね。まずは自分が熱狂しなくちゃいけない。
「俺はこれやりたいんだ」っていう想いがあるから、「しょうがないな~リーダー」と言ってみんながついてきてくれるんだと思います。
それは僕も共感します。キャンプファイヤーでたとえるなら、マネジャーは火を燃え上がらせて、メンバーが踊る中、自分も真ん中で踊っている人だと思うんですよね。
なるほど。最終的な理想は、リーダーだけじゃなくて、チームみんなが自分自身を導けなくてはならないんですね。
自分を理解しつつ、みんなの意見を聞いていけば、最強のチームになると思いますね。
インターネットの世界は、まさにそうですよね。「いいね!」や共感で動いていく。
共感を得るためには個人の意思も大事だけど、自分勝手に生きればいいわけじゃないですよね。共同体の一員だから共同体に何ができるかも考える必要があります。
共感を呼ぶだけではなく、リーダーはいかに人の心を動かすような表現ができるかも大事ですね。
マネジャーの仕事は「1対n」だけではなく、「1対1×n」が大事
大きな質問になりますが、マネジャーの仕事って何だと思いますか?
よくキーワードとして使うのが、「1対n」と「1対1×n」です。
みんなと目標や情報を共有するのは「1対n」、つまり1対多数の関係。マネジャーとして、これは絶対に必要なコミュニケーション。でもここで終わっちゃダメ。
「1対1×n」。つまり、できるかぎり多くの人と、1対1で話すことです。
マネジメントの仕事として、この「1対1×n」が抜け落ちている会社が多いんですよね。
1on1をすれば、たとえば今までだったら直接しゃべらなかったような、別の拠点にいるデザイナーさんからも「伊藤さん、あれちょっと全然良くないよ」と、個人間での連絡がフラットに来るようになる。
だから1on1をしていれば、組織は目指さなくても結果的にフラットな形になっていくと思いますね。
僕がサイボウズでやっている「ザツダン」と、かなり近い考えですね。僕はザツダンをすることで、組織の全体が把握できるようになったんです。
無駄な会議をするくらいなら、もっと積極的にザツダンをしたほうがいいと思うんです。
<後編へ続く>
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文:中森りほ/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:栃久保誠/企画:小原弓佳
2016年12月22日志の大小はどうだっていい。人と比べずに、信じた道を進める人が強い──ヤフー伊藤羊一さん