燃料電池、合成燃料、太陽電池。CO₂ゼロ社会への第一歩は、まず工場から。
-
Target この記事の主なターゲット
-
- 環境問題に関心のある技術者や学生
- カーボンニュートラルに向けた技術開発に興味がある企業経営者
- 再生可能エネルギーや燃料電池の技術に関心のある研究者
- 脱炭素化を目指す政策立案者や国際機関の関係者
- エネルギー分野での働き方に興味がある求職者
-
Point この記事を読んで得られる知識
-
日本政府が掲げる2050年カーボンニュートラル目標に向け、また企業が持続可能な未来に貢献するためには、工場から排出されるCO2を削減する取り組みが必要です。その実現手段の一つとして燃料電池や合成燃料、バイオ燃料を活用した新しいエネルギーシステムが開発されています。アイシンは燃料電池の分野で長年の経験を持ち、現在ではSOFCシステムをはじめとする高性能な燃料電池技術を展開しています。加えて、水の電気分解による水素製造技術、合成燃料およびバイオマス燃料の研究開発も進行中です。これら技術開発は家庭用から業務用、産業用へとスケールアップする過程が必要で、熱マネジメントなどの高度な技術統合とコスト効率化が求められます。将来的には、これらの要素技術をパッケージングし脱炭素を目指す企業への提供や、海外への展開も視野に入れています。より良い未来のために技術者は新たな挑戦を続けており、多様なバックグラウンドを持つチームが力を合わせて課題を克服する必要があります。脱炭素化には新技術の開発とともに、絶え間ない探究心と環境への意識が重要です。
-
Text AI要約の元文章
-
2020年、日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表。今後さらなるCO2削減が求められるとともに、脱炭素技術・製品の市場拡大が見込まれる中、この新領域に挑む技術者に話を聞きました。
さまざまな新技術で、CO₂を出さない工場づくりに挑む
――M.Tさん所属のCN技術開発部のCNは「カーボンニュートラル」の略称ということですが。
M.T:はい。我々アイシンが掲げているカーボンニュートラルには、自社工場での生産時に出るCO2をゼロにするという活動と、従来のガソリン車を電動化させることで最終製品の排出CO2をゼロにしようという、大きく分けて2つの取り組みがあります。
――CN技術開発部はその中でどのような役割を?
M.T:主に前者の「生産の脱炭素」ですね。具体的には燃料電池システムの開発、合成燃料・バイオ燃料に関する技術開発・システム開発、新しい太陽電池の開発、CO2削減につながる新材料の開発などに取り組んでいます。
――アイシンは、自動車部品だけじゃなくて、実は燃料電池もつくっているんですよね。
M.T:そうなんですよ。あまり知られていませんが、当社は1970年代のオイルショックの頃からエネルギー関連製品の分野に進出していて、家庭用燃料電池「エネファーム」も10年以上におよぶ開発・量産実績があるんですよ。
――すみません、燃料電池ってどういう仕組みなのか、改めて教えていただけますか。
M.T:CO2を出さない発電システムで、燃料となる水素を空気中の酸素と電気化学反応させることで発電します。さまざまな方式がありますが、当社が採用しているのは省エネ性能が高い「SOFC(※)システム」と呼ばれるもので、各家庭に供給される都市ガスから水素を取り出して発電しています。
※Solid Oxide Fuel Cell=固体酸化物燃料電池。電解質に酸素イオン導電性酸化物を使用した燃料電池を指す。
――大学で燃料電池を研究されていたそうですが、やはり燃料電池を扱っているのでしょうか?
M.T:はい。現部署の設立前からエネファームの開発に携わってきましたし、そこは一貫して担当しています。あとは燃料電池の逆で、水を電解することで水素を製造する「SOEC(※)」システムの開発にも関与しています。その他、炭化水素系ガスやアンモニアガスなどの合成燃料、バイオマスを原料としたバイオ燃料などの燃料関連にも関わっていますね。
※Solid Oxide Electrolysis Cell=固体酸化物型電解セル。高温の固体電解質を用いた水の電気分解装置を指す。
――幅広いですね。
M.T:今はまだ要素技術の開発段階というものも多いですが、将来的にはさまざまな技術や製品を組み合わせたシステムでの運用を検討していますので、エネルギーシステム全体を俯瞰する力を身につける必要があるためです。
――エネルギーシステム全体というと・・・?
M.T:例えば太陽光発電など再生可能エネルギーは、天候によって発電量が左右されてしまいます。そこで電気を貯める蓄電池システムの導入を検討するのですが、現段階では工場などの大きな事業場での運用となるとかなり大掛かりなシステムにならざるを得ないんです。
――設置スペースやコストの面で厳しくなると。
M.T:ええ。そこで、我々が開発を進めている燃料電池やSOECシステムなどの各種ユニットをミックスさせることでシステム全体をコンパクトにする。そういう試みが今後求められるようになるはずです。
――なるほど、トータルパッケージで脱炭素を進めるということですか。
M.T:はい。その他にも工場で製造に使う燃料そのものを合成燃料やバイオマス燃料に代替したり、合成燃料から水素を取り出したり、カーボンニュートラルの実現にはさまざまなアプローチがあります。これらを各工場にフィッティングさせていくことで、2030年くらいまでにCO2を出さないものづくりを実現させていく。我々が行っているのは、そういった取り組みですね。
「より良い未来を」という使命感が原動力
――燃料電池システムの開発というのは、具体的にはどのような業務ですか?
M.T:入社以来携わってきた家庭用燃料電池の開発経験を生かし、現在は業務・産業用燃料電池システムを安定運転させるためのシーケンス制御をはじめとした制御設計を担っています。
――やはり家庭用と業務用では違うものですか。
M.T:ええ。かなり大型の装置になりますので、燃料電池から出る大量の排熱を燃料電池のシステム内、もしくはシステムの外との間で、どう融通していくかといった熱マネジメントの難しさがあります。燃料電池の安定発電、発電効率の向上には内部の熱バランスのコントロールが必須ですから。
――その他にも合成燃料やバイオ燃料にも関係されているとのことですが。
M.T:シミュレーションプラットフォームの作成などで関わっていますね。例えば合成燃料の製造時に原料となるエネルギーを投下した時、どれだけの収率で燃料を製造することができるのか。その際コストはどれくらいかかるのか。そういった各種合成燃料の製造を最適化するためのシミュレーション設計などの業務です。
――かなり新しいことにチャレンジされている印象を受けますが、開発はどのように進めているのですか?
M.T:CN技術開発部には現在100名近いメンバーがいますが、一人ひとりが開発テーマをもち、企画・設計から評価、解析まで一貫して関わっていくスタイルです。ただ、誰も経験したことのないような課題に直面した時は、チームで解決策を考え突破していきます。
――個人プレイと、チームプレイと、そのどちらも重要になると。
M.T:そうですね。カーボンニュートラルは、複数の技術を融合させながら新しい商品価値を生み出さなければ達成できません。そのためこの部署にはさまざまな背景を持つ技術者が集まっていますので、得意を発揮するとともに、それぞれの不得意を支え合うこともできます。
――先ずは自社工場内でということですが、その先にはどのような展開を?
M.T:まだ構想段階ではありますが、脱炭素を目指すメーカーさんに対してシステムパッケージとして提案していくことになると思います。あとは環境技術をもつ海外メーカーとの協業による海外展開なども考えられます。
――カーボンニュートラル実現のために必要な技術者とは。
M.T:ゼロベースでの開発も多いので、やはり新しいことにチャレンジすることが好きな方ですね。それと日々の業務を支える想いの強さでしょうか。私自身、小さい子どもが2人いますが、彼らの未来を考えた時に「カーボンニュートラルを実現させて、より良い地球環境を残したい」という気持ちが湧いてきますし、それが原動力ともいえますから。