「この会社で働いている限り、自分のやりたいことができない」「組織を変えたいけれど、どうしたらいいかわからない」
多くの人が抱えている会社や組織に対する不満。このような状況を打開するにはどうしたらいいのでしょうか。
『ティール組織』著者のフレデリック・ラルーさんが考える「人生の目的との付き合い方」を紹介した前編に続き、後編では、株式会社ガイアックス代表執行役社長の上田祐司さんとサイボウズ代表取締役社長の青野慶久が、ラルーさんとともに人生や組織の目的、そしてこれからの組織のあり方について考えます。
ラルーさんいわく「世間一般の経営者とはちがう、珍しいタイプのマネジメントをしている」2人は、どのように人生の目的と出会い、その実現に向けて組織づくりをしているのでしょうか?
3人で、これから求められる会社や組織のあり方や、そして会社をよくするための方法を考えました。
※この記事は、9月14日に東京工業大学大岡山キャンパスで開催されたイベント「ティール・ジャーニー・キャンパス」のセッションを元に作成しました。
会社がめちゃくちゃになって経営者としての自分に絶望。そして人生の目的に気づいた
まずは、今回のイベントのテーマである、お二人の「人生の目的」についても教えてください。
フレデリック・ラルー。『ティール組織』著者。マッキンゼーで10年以上にわたり組織変革プロジェクトに携わったのち、エグゼクティブ・アドバイザー/コーチ/ファシリテーターとして独立。2年半にわたって新しい組織モデルについて世界中の組織を調査し、『ティール組織』を執筆。17カ国語に翻訳され、40万部を超えるベストセラーとなる。現在は家族との生活を最も大切にしながら、コーチや講演活動などに取り組み、本書のメッセージを伝えている
こんにちは。サイボウズの青野と申します。わたしが人生の目的について考え直したのは、会社が傾いたのがきっかけです。
サイボウズは、1997年に創業して、3年くらいで上場したものの、業績が伸び悩んだ時期がありました。そこで「グループウェア事業だけではだめだ。事業を拡大しよう」とM&Aを推し進めたんです。
その結果、さらに業績は傾くわ、離職率は上昇するわで。会社の中がめちゃくちゃになってしまいました。
当時は、上場企業の社長として、会社を大きくしなくてはいけないという考えにとらわれていました。でも、本当にやりたかったのは、グループウェアを提供して情報共有を進める組織を増やし、働く人たちをハッピーにすることだと気づいたんです。
青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など
もう1回グループウェア事業だけやろう、と決めて、買収した9社のうち8社を売却しました。
マネジメントも社員一人ひとりが幅広い選択肢を持って働けるような方法(*1)に変えたら、離職率は下がり、そして業績も上がってきました。そんなおもしろい経験をさせていただいています。
(*1)サイボウズの「働き方制度」についての記事はこちら
ガイアックスの上田と申します。わたしも青野さんと同じころ、約20年前にガイアックスを創業しました。「地球はひとつの生命体」と考えるガイア理論というものに出会いまして、これはすごいなぁと思ったんです。
上田祐司(うえだゆうじ)株式会社ガイアックス代表執行役社長(兼取締役)。1997年の大学卒業後に起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。一年半後、同社を退社。1999年、24歳で株式会社ガイアックスを設立する。30歳で株式公開。
一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事を務める。同志社大学経済学部卒
自分が人生で実現したいのは、ビジネスで世の中をひとつの生命体と感じられるようにすることだ、と思ったんですよね。そして、行きついたのがインターネットでした。
インターネットって、いわば私たちの脳がつながっていると言えなくもない。現在は、人と人をつなげるためのソーシャルメディアとシェアリングエコノミービジネスを提供しています。
マネジメントについては、出社も会議への参加も、すべて社員の自由に任せています。興味がなければ来なくていいし、逆に興味があるのなら、外部の方も参加可能です。ライフプランや働き方、給与も社員に自分で決めてもらっています。
社員のわがままを聞けば自分のビジョンに近づく。社員の希望をサポートするほうが効率的
お二人のビジネスやマネジメントに対する考え方は、世の中の主流とはかなりちがうものだと思います。
そのような考えを持つようになった経緯や、個人的なエピソードを教えていただけますか?
わたしには、「情報共有をする組織を増やして、人類を幸せにしたい」という野望があります。でも、実現させるためにはだれかに手伝ってもらわなければなりません。
だから、2005年に離職率が28%になったとき、「どうしたら辞めないで残ってもらえますか?」と社員に聞いて、可能な範囲で実現していきました。
すると、みんなのモチベーションが上がって、多様な人材が集まり、新しいアイデアが生まれるようになったんです。社員のわがままを聞いていったら、自分のビジョン、夢が近づくんだと確信しました。
うるさいと思われるかもしれませんが(笑)、もう少し深堀りさせてください。
たくさんの社員が不満を抱いて会社を辞めていくような状況で、みんなの意見を聞くのは勇気がいることだと思います。どうしてそれができたのでしょうか。
わたしの場合は、自分の人生を一度あきらめたから、できたんだと思います。
会社が最悪の状況になり、自分には経営者としての才能も実力もないことがわかりました。人生に絶望し、消えてなくなりたいという気持ちでした。
そんなとき、わたしが大学を卒業してすぐに勤めていた会社の松下電工(現パナソニック)の創業者・松下幸之助さんの本に出会ったんです。そこには「真剣」という言葉が書いてありました。「命をかけて真剣に取り組むならば、事は半ば達せられたといってもよい」という意味です。
私は自分に真剣さが欠けていることに気付きました。「これからは命をかけて仕事に取り組もう。残りの人生はこんなバカな自分についてきてくれるみんなに捧げよう」。そう考えました。
一度人生をあきらめたのですから、みんなに何を言われても怖くない、と思うことができたんです。
ぼくは昔から非効率が大嫌いで。ソーシャルメディア事業に力を入れているのも、情報共有を進めてコミュニケーションミスによる無駄をなくしたいという思いが根底にあります。
マネジメントに関しても、一人ひとりの夢やライフプランを大切にして情報共有し、サポートするほうが、抑えつけて管理するよりも効率がいいんじゃないかと考えました。
社員一人ひとりのライフプランが達成できるかどうかがいちばん人生の満足度に響きますから。
日本社会では個人よりも集団が優先されがち。でも、変わらざるを得ない時がきている
お二人とも、一人ひとりの従業員と対話し、何が大切なのかを聞き出すことを重視しているんですね。
組織と個人の間にひずみが生じた場合、一般的に西洋では個人が優先されますが、東洋では集団のほうが優先されると聞いています。
個人と組織の関係性についてどう考えていますか。
おっしゃる通り、日本には個人よりも会社を優先する風潮があります。
「会社の方針に従う」「会社に迷惑をかけてはいけない」とよく言います。でも、「会社」という人は実在しません。
方針を決めるのは経営者で、迷惑がかかるとは、同僚に負荷がかかる、ということ。
「会社さんは存在しないんだ」と考えれば、組織には一人ひとりばらばらの人が集まって働いている、という組織の本当の姿が見えてくるはずです。
日本全体において、個人と組織の関係性は変わってきていると思いますか。
徐々に変わってきていると思います。「ティール組織」でいうと、日本の企業の大半は「アンバー型」(*2)。ヒエラルキー型・年功序列型の組織です。
安定したモデルではあるのですが、日本にはこういう会社がたくさんあるがゆえに、社会の仕組みがなかなか変わらなかった。
(*2)固定的な階層に基づく、ヒエラルキー型の組織。役割が厳格に分けられ、上意下達で業務の執行が行われる。『ティール組織』では時代とともに進化してきた組織形態を色に例えて定義している。ティール組織に関する記事はこちら
でも、ここに少子化という大きな外圧が加わり、流れが変わってきました。古い体制の組織には若者が集まらなくなりつつあります。
「アンバー型」の組織を次のステージに進めないと、企業として存続が難しくなる。そう多くの経営者が気づき始めています。
会社という枠組みを超えて、共通する「思い」を持った人たちがひとつのプロジェクトに集まるという取り組みが増えてきているんじゃないかと思います。
ひと昔前だったら、企業がビジネスとしてやっていたことを、NPOやプロジェクトの形で人が集まり、実行する。別の動態が生まれてきていると感じています。
「赤字になろうがどうでもいい」と「神様」に言われたから、オフィスの移転を決めた
お二人は単なる利益や事業成長するか否かを軸に経営判断していないように感じました。
経営者として判断する際は、何を軸にしていますか?
サイボウズでは利益や売り上げを判断軸にはしていません。「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念に沿っているかどうかで判断しています。
と、口では言うのは簡単ですが、実際は結構大変で(笑)。
ひとつ例を紹介しましょう。サイボウズは2015年に東京オフィスを日本橋へ移転したのですが、じつは日本橋オフィスの賃料を初めて見た時は「これはないな」と思ったんです。「高過ぎる。赤字になってしまう」と。
そうしたら、上からチームワークの神様が降りてきて、わたしに語りかけてきたんですね。
神様はこう言いました。「青野君、日本橋という町に新しいオフィスをつくって、日本の新しい働き方のショールームにしたらどうだ。きみの会社が赤字になるかどうかはどうでもいい」と。
それで日本橋への移転を決めました(笑)
神様が語りかけてきた、というのはさすがにジョークですよね(笑)?
いえ、そうとも言い切れなくて。
もう少し真面目に言いますと、組織を経営していると、自分の視点よりももう一段視座の高い「メタの視点」が必要になることがあります。「この状況に対して、神様だったらなんて言うだろう?」というように、視点を切り替えないとならないときがあるんです。
なるほど。どのように視点を切り替えているのでしょうか?
わたし個人は理屈で物事を考えるが好きなので、「神様の視点」に切り替えるときも、状況を見てロジカルに判断します。
「神様だったら今の社会の状況を見て、どんな判断を下すのかな」と想像する感じですね。
上田さんが経営者として判断する場合は、いかがでしょうか?
ガイアックスの会議は参加するのもしないのも本人の自由なので、おもしろくないとだれも来てくれないんですよね。
たとえば各事業部の発表でも、単なる数字の発表だけだと、だれも参加してくれなくなります(笑)。
そこで必要になるのが、感情に訴えること。「この取り組みを実現するとどうなるのか」を伝える。
プロジェクトメンバーの引き抜きも自由なので、結果パワーのあるところに人が集まるようになります。
動物の群れが大陸を大移動するなかで意思決定するようなイメージです。
情報はオープンにしたほうが圧倒的に効率的。アホなのはばれるけど
多くの人が、リーダーは「すべてを掌握しなければならない」「弱さを見せてはいけない」と考えるのに対し、お二人はめずらしいタイプのリーダーシップを発揮していると思います。
従来のリーダーシップ観から一歩踏み出すにはどうしたらいいのでしょうか?
日本には「報告・連絡・相談=ホウレンソウ」というものがありますが、ガイアックスでも徹底しています。上司だけでなく、会社のメンバー全員、さらには世界全体に報告するくらいの感じで情報をオープンにしています。
ここまでするのは、全部情報が明らかになったほうが効率的だから。
これは従来型のリーダーシップをとってきた人にもわかるはずだと思うので、そこから始めたらいいのではないかと思います。
従来型の組織は、情報を持つ人が権力を持つ、という構図でした。このやり方を手放して、情報格差をなくすというのはリーダーにとっては勇気のいる決断だと思います。
でも、上田さんがおっしゃるように実際、効率がいいんですよね。
サイボウズの経営会議はだれでも参加可能ですし、議事録も公開しています。すると、すぐにフィードバックをもらえるから、経営者としては精度の高い戦略を、短期間で考えられるわけです。経営効率が格段に上がるんですよね。自分がアホなところもばれますが(笑)。
まずは、スモールスタートで始めればいいと思います。サイボウズもここまでくるのに14年かかりました。
思っていることがあるのなら、少しでも安心できる人とシェアし、徐々にその輪を広げていけばいずれは大きな変化になるのではないかと思います。
どうせ辞めるのなら、やりたいことをやったら? 最悪失敗しても辞めろと言われるだけだし
それではここから会場のみなさんからの質疑応答に入りましょう。
組織のトップではない、意思決定者ではない人が組織改革を進めることは可能なのでしょうか。その場合、どうしたらいいのでしょうか。
権力構造的にはままならない状況でも、自分の周りでできることはあるはずです。
たとえば青野さんが実践していたように、周囲に語りかけて、本音を聞いてみる。その際、自分としても仮面を脱いでさらけ出すことで、少しずつ周囲の関係性を変えることができると思います。
これは大きなシステムの中で、小さな実験をやっているようなものです。システムは強固で、「実験」はとても壊れやすいものですから、簡単に潰されてしまいます。
それでも、その実験を通して、視点が変わったという人が出てくるかもしれません。組織のあちこちで実験されるようになれば、いずれ大きく変わるかもしれない。大きなアリ塚も、小さな穴がたくさん穿たれれば、やがてガラガラと崩れます。
ここで言っておきたいのは、万が一のことが起こった場合の代替案となる、プランBを用意しておくということ。リスクを冒せるかどうかはそれにかかっています。
プランBがないと、「キャリアに支障が出たら生活が成り立たなくなるのではないか」と怖気づいてしまうでしょう。でも、プランBがあれば、リスクをとることができます。
それから、「会社をもう辞めたい、これ以上我慢できない」という人に伝えたいのは、「辞める気があるのなら、辞める前に会社の中でやりたいことをやったら?」ということ。
結果失敗しても、最悪「辞めてください」と言われるだけです。もう辞めると決めているならいいじゃないですか。
日本人はひとつの会社に長く勤めることがいいことだと思う傾向にあります。実際辞めるというプランBを持てない人は多い。
辞めてもいいんだ、という考えを持つことで、ポジティブに、アグレッシブに組織に提案できる、というのは、大きなヒントですね。
「実験してみなさい」「挑戦してみなさい」とお伝えしたいです。
挑戦すればいろいろな経験ができます。そして、その次に自分に合った職に就ける確率も高くなるはずです。
あなたを通して生きることを望む、人生、目的、命に耳を澄ませてください。今あなたが感じている欲求不満ややるせなさは、ある目的があなたを通して実現を望んでいるというしるしだからです。
いつかやってくる大きな仕事のために、自分を磨き上げておかなければならない
人生の目的を見つけるのではなく、目的に自分を見つけてもらう、というお話ですが、どのような感覚なのか教えてください。
ベストセラー作家のエリザベス・ギルバートさんがシェアしてくれたインスピレーションに関する話を紹介しましょう。
小説を執筆していてアイデアが降りてこなくなり、執筆が止まってしまったとき、彼女は休憩をとるそうです。そして、ベッドルームに戻ってセクシーな服に着替えるのだといいます。
アイデアにとって自分がセクシーな存在でないとアイデアが降りてきてくれないんだそうです。
わたし自身のことを言えば、セクシー路線ではありませんが(笑)、達成されるべき重要な仕事やアイデアが、こちらに降りて来たいと思えるように、自分を「美しい」存在に磨いておくことは大切だな、と考えています。
この世界の中には成し遂げられるべき重要な仕事があります。そして、その仕事はわたしたちが受け止める準備ができるのを待っています。
準備が整ったら、仕事たちはこちらに降りてきてくれます。でも、わたしたちがオープンで受け止める準備をしない限り、降りては来られないのです。
執筆・編集:鈴木統子/撮影:高橋団
2019年10月24日人生の目的は見つけるものじゃない。いま、やるべきことにベストを尽くすだけ──ティール組織 著者の天職との出会い方
September 25, 2019In Work As in Life, Let Your Purpose Find You
2018年10月31日ティール組織が正しいわけではない。ありたい姿でいられて、仕事をいいわけにしない組織は強い ──嘉村賢州×青野慶久
2018年11月 8日ひどかったサイボウズがティール組織っぽく変われたのは、経営者の「深い内省」があったから──嘉村賢州×青野慶久