あなたは「自分の弱さ」をさらけ出せていますか?
弱さをチームのメンバーやリーダーに見せることで迷惑をかけてしまうかも──。そう思い悩んでストレスを抱えている人も少なくないのでは。株式会社cotreeのCOO・平山和樹さんはかつて、弱さを見せられずに抱え込んだことで心を病んでしまった経験があるといいます。
一方のリーダーにとっては、「感情的な弱さを職場に持ち込まれては困る」という思いがあるかもしれません。NPO法人クロスフィールズの創業者・小沼大地さんは、「常にポジティブに接していたことでメンバーを疲弊させてしまっていた」という過去を打ち明けます。
チームの一人ひとりが、ポジティブな面だけではなく弱さも見せあいながら、健康的に楽しく成果を追いかけるためには何が必要なのでしょうか。お2人の実体験をもとに語り合っていただきました。
あのとき泣かなかったら、メンバーはすぐにいなくなっていたと思う
小沼さんが自分の弱さをチームのメンバーに見せられるようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
「チームのみんなが、僕と話すことによって疲弊している」と気づいたことですね。
僕はとにかくポジティブに物事を考えるタイプで、メンバーとの1on1で悩みを相談されたときも、「それはこうすれば解決できるよ!」と明るく前向きに返し続けていたんです。
そうすることで本当に問題を解決できると思っていたんですが、実際はそうじゃなかった。みんなは僕に本音を言えなくなっていたみたいです。
小沼大地(こぬま・だいち)さん。NPO法人クロスフィールズ 代表理事。大学卒業後に青年海外協力隊としてシリアに赴任し、マイクロファイナンスや環境教育のプロジェクトに携わった後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2011年5月に共同創業者としてクロスフィールズを設立。大手企業の社員を新興国のNGO・NPOに派遣し、本業で培ったスキルによって社会課題解決に寄与すると同時に、リーダーシップ育成や新興国マーケットの市場調査・市場開発への足がかりにもつなげる「留職」プログラムを展開している。
はい。僕は中学・高校で野球部キャプテン、大学ではラクロス部と、超体育会系の環境で育ってきたんです。就職先のコンサルティングファームも「ビジネスマッチョ」な風土でした。
そんなバックボーンがあったから、「なんでもできなきゃいけないんだ」という前提でメンバーと接してしまっていたのだと思います。
でも、自分ではメンバーを疲弊させてしまっていることになかなか気づけないですよね。
僕の場合は、法人全体で行った合宿のおかげで気づけました。
組織がうまく進まなくなったとき、「団体の強みとか、良いところを出し合おう」と言ったんです。でもそこでメンバーの1人が「いや、今日はネガティブな部分、変えないといけない部分を話そう」と。
みんなに組織や個人の課題を出しあってもらったら、「自分らしく働けていない」「前の職場のほうがよかった」など、メンバーが次々に泣いていったんです……。
自分の強みだと信じていたポジティブさが、実は弱みでもあったのだと気づいた瞬間でした。僕の話す順番が回ってきたときには、言葉に詰まってみんなの前で泣いてしまいました。「みんな、本当にごめん」と一言だけ絞り出して。
でも、自分をさらけ出して弱さを見せられたのは救いだったのかもしれません。それまでの僕の「とにかくポジティブに」というリーダーシップのパターンは瓦解して、「弱さを見せてもいいんだ」という空気をチームの中に作れるようになっていきました。
しばらく経って、当時のメンバーから「あのとき小沼が泣かなかったら、メンバーはすぐにいなくなっていたと思う」と言われました。ある意味であの涙は、僕が初めてメンバーの気持ちを聞く姿勢を示した証だったのかもしれません。
そのときのメンバーのみなさんの気持ちが分かる気がします。
僕が新卒で入社した会社は、優秀で「ビジネスマッチョ」な人が多い環境だったんですよ。
平山和樹(ひらやま・かずき)さん。株式会社cotree(コトリ―)COO。大学在学中からITベンチャー企業に参画し、数千万円規模のプロジェクトのリーダーとして要件定義や業務設計、進行管理などを担当。自身の原体験から「人の心と物語を支えるサービス作りと持続的なプロダクトグロース」を志向して2018年6月にcotreeに参画。ウェブマーケティングやメディア運営業務を担当し、2019年より最高執行責任者・COOに就任。
僕も学生時代はずっとソフトテニスをやっていて、体育会系の風土で育ったんです。だからビジネスマッチョな人たちの中で成長していけると思っていたし、実際に重要な仕事もたくさん任せてもらえたんですが……。
自分の仕事が遅かったのもあり、溜まっていく終わらない仕事で疲弊していきました。仕事のミスも増えていきましたが、当時の僕は他の人を頼るのが苦手で。
その結果、あるときメンタル的に不調になり、物理的に働けなくなってしまったんです。もちろん、自分を社会人として育ててくれた前職の方々には深く感謝しています。
そんなことがあったんですか。当時の平山さんは、上司や同僚に弱さを見せられていなかった?
そうだと思います。
その経験から、自分と同じような状況の人は世の中にたくさんいるんじゃないかと考えるようになりました。それでオンラインカウンセリングなどを手がけるcotreeに入社したんです。
事業として「人や社会の弱さ」と向き合っている会社だし、ユーザーさんに寄せられる不安定な思いと向き合うために何が必要なのか、ずっとみんなで話し合っているようなチームなんですよね。
目標達成ばかりを称賛していると、弱さをさらけ出しにくくなる
弱さをさらけ出せる組織と、そうではない組織の違いはどこにあると思いますか?
目標達成だけを称賛する文化が強いと、弱さをさらけ出しにくくなるのかもしれません。「できていない自分」を認めるのって、しんどいじゃないですか。
目標達成はどんな組織においても大切ですが、cotreeの場合は「弱さをさらけ出しながら目標へ向かっていく」という風土なんです。
うまくいかないときには「うまくいかないなぁ」とSlackに書くし、例えば体調が悪いときなども、みんな自分からさらけ出すんですよね。
結果は不確実で、どうなるかは誰にもわかりません。「良いこと」も「悪いこと」も、いろんな側面が同時に成り立つのが人だなと思うんです。
良し悪しがハッキリしていると、「他のものを認めない」というのもハッキリしてしまう。
目標に向かって頑張るときも、うまく行かず大変なときも、どっちも大事にしようという空気感がcotreeにはある気がします。
事業は本当に複雑系なので、白黒で分けずに色々なものを受け入れる土壌をつくっていかないと、前に進んでいけないですよね。
チームをよくしたかったから、苦手なマネジメントを手放した
メンバーが弱さをさらけ出しやすくするためには、仕組みづくりも非常に大事だと思います。
ある意味では、マネジメントを「手放しました」。実は1年ほど前にチームを見ることが大好きな人間に外から入ってきてもらって、彼に組織づくりをお願いしたんです。
今までは「チームをよくしたい」と口では言いつつも、やっぱり事業が好きだし、時間も十分につくれていませんでした。組織づくり専任のマネジャーを採用するという選択は「本当に小沼はチームをよくしたいんだ」「新しくきた彼なら、チームを変えられるかも」とみんなが思ってくれることにつながりました。
いいですね! そうやって任せられる時点で、弱さをさらけ出せている感じがしますよ。
今では「強さと弱さ、両方を理解しあうことが大切なんだ」という前提が組織に生まれて、コミュニケーションもオープンになりました。
そういえば、新婚旅行に関するうれしいエピソードがありまして。
あるメンバーが結婚したときのことです。そのメンバーは長めに新婚旅行に行きたいと思っていたんですが、業務を抱え込んでしまい、長期の休みを取るのが厳しい状況でした。
そんな悩みを知った周りのメンバーがコミュニケーションを取り、「同僚を幸せな新婚旅行に気持ちよく送り出すプロジェクト」が立ち上がりました。協力してそのメンバーの業務を一気に進め、2週間の新婚旅行に行けるようにしてあげたんです。
実はその一連の流れは、僕の全く知らないところで生まれていたんですよね。僕としては「組織のOSがアップデートされた……!」という感動を覚える出来事でした。
メンバー同士のコミュニケーションを活性化させるためには、なにか工夫していますか?
クロスフィールズでは「ユニット制」を導入しました。
チームが大きくなると全体会議のメンバーも増えますよね。参加者が多いと時間も限られ、どうしても「いいこと」「前向きなこと」ばかり共有されがちです。そこで3〜4人ずつの4つのユニットに分けて、一人ひとりの発言量が増えるようにしました。
新婚旅行の話も、10人を相手にする場では打ち明けられなかったかもしれません。4人だったから言えたのだと思います。
「自由=なんでもあり」では組織は回らない
とはいえ、どこまで弱さを見せ合うべきなのか、どこまでメンバーの弱さに向き合うべきなのかは難しいですよね。
組織のルールや暗黙知がない状態で「自由がほしい」と訴えるメンバーの要望に応えても、「自由=なんでもあり」になってしまっては、チームはうまくいかないかもしれません。「優しい組織だと聞いて入社したのに、自分には全然優しくない!」と不満を言う人も現れるかもしれません。
その懸念はわかります……。
cotreeの場合は、選考・採用段階での見極めを重視することで懸念を払拭するようにしていますね。「やさしさでつながる社会をつくる」というビジョンとのマッチ度合いはきっちり見ます。
ビジョンを実現するためのバリューを体現できる人かどうかも見極めます。人の弱さに思いを馳せられたとしても、「ずっとこの会社に守ってほしい」という考え方だとcotreeには向かないかもしれません。
それこそ「全然優しくない!」となってしまいますよね。
クロスフィールズでは、サイボウズの青野慶久社長の著書『チームのことだけ、考えた。』をメンバー全員に読んでもらっているんですよ。
本の中で語られている「規律があるから自由がある」「説明責任と質問責任」という考え方がクロスフィールズにマッチすると感じていまして。
2019年3月 5日「会社でモヤモヤしたことを言いづらい……」とためらっていたら、同僚に一喝されてしまった
本を読んで感想をシェアしあうところから、チームのあり方の目線あわせをしています。共通言語があると、会話がしやすくなるんですよね。
おもしろいやり方ですね。
そういえばcotreeでは、エーリヒ・フロムの『愛するということ』をコアメンバー全員が読んでいます。1冊の本をきっかけに目線あわせをしていくのもアリですね。
「前向きならいいじゃん」という時代ではない。相手や自分の弱みと、どう向き合うか
僕が経験したようなことって、実は多くの組織で起きているんじゃないかと思っています。「前向きさ」や「強さ」だけでは進んでいけない時代になってきていると。
それはプロダクト開発でも言えるかもしれませんね。
ユーザーに選んでもらえる要因は「前向きさ」だけではなく、もっと複雑な「好き」「嫌い」「楽しい」「悲しい」といった感情が絡んでいる。
評価軸が多様化して、「前向きならいいじゃん」というわけでもなくなってきているんですよね。
組織の中でも、実はみんな悩んでいるんだけど、それをなかなか言い出せない。
cotreeさんでは個人向けのコーチングも行っていますよね。実際に現場ではどんな悩みに接しているんですか?
個人の時代だと言われるようになって、「こうすれば成功するよ」というロールモデルを見つけづらくなっていると感じます。
一方でSNSを通じて、うまくいっている人のケースが見えやすくなったことで、「なぜ自分はダメなんだろう」と考えてしまう機会が増えていますね。
人と比べてしまいがちな時代なので、そうした意味では、「自分のことだけを考える時間」としてコーチングの重要性が増していると感じます。
実はクロスフィールズも事業のなかでコーチングに取り組んでいるんです。メンバー全員が資格を取りました。
コーチングって、人や自分の弱みとどう向き合うかが大切じゃないですか。そこでの会話が組織づくりのベースになっていくんじゃないかと感じています。
身近な半径の世界で打ち明けてみれば、景色が変わるかも
「弱さを見せると周囲に迷惑がかかる」と思ってストレスを抱えている人は、きっといろいろな職場にいると思うんです。
同感です。上司の立場であれば、「メンバーは自分に弱さをさらけ出せていないかもしれない」と気づくプロセスが大事ですよね。
僕はメンバーとの合宿でそれを思い知らされ、「自分は何をやってきたんだろう」と考えさせられました。もしかするとメンバーの声にしか気づくきっかけはないのかもしれません。
今回の記事を読んで気づける人なら大丈夫だと思いますが、自己肯定感が強くて、「自分はそれなりに成果を出せる」と思っている僕のような人ほど、弱さを見せることを意識してみるべきではないでしょうか。
中間管理職なら、まずは自分の部署やチームだけでミッション・ビジョン・バリューを打ち立て、弱さを見せあえる風土を作ってみてもいいかもしれません。
大企業の場合は、会社全体の企業理念をみんな言えない状態も多いじゃないですか。だからこそ自分たちで、ミッションオリエンテッドなチームを作っていくチャンスがあると思うんです。
部長には「何をやっているんだ」と怒られちゃうかもしれないけど、社長からは「いいね!」と言ってもらえるかもしれない。
これからの時代はどんな業界でも、個々人の弱さと向き合うチームマネジメントが求められていくはずなので。
逆にメンバーの立場で、「弱さをチームにさらけ出せない」と悩んでいる人は、上司でも同僚でも社外の人でも誰でもいいから、いちばん信頼できる人に弱さを打ち明けてみたらいいと思うんです。
いきなり会社を変えるのは、めちゃめちゃ大変じゃないですか。今楽しくないなら、何をしたら楽しいかを考えてみたらいいかなと。そのあと「会社を変えたい」と思えるのであれば、ぜひ行動してみてほしいですね。