株式会社アイシン

未来を自力でたぐりよせる、若手主体の会社になるために。

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 企業経営者
  • 人事部門の担当者
  • 組織改革に関心のあるビジネスパーソン
  • 経営戦略の専門家
  • 大学の経営学研究者
Point この記事を読んで得られる知識

この記事は、50年先を見据えて企業理念を策定するためのプロジェクトの取り組みについて述べています。このプロジェクトは2つの異なる文化を持つ企業が統合し、新しい企業理念を構築するために120名の社員が参加しました。記事によれば、若い世代の意見を取り入れ、社員が自ら意見を表明し、最終決定に果たす役割を重視することで、単なる経営層によるトップダウンのアプローチに終わらないプロセスを目指しています。これにより、異なる価値観や風土を持つ社員たちの意識を統合し、組織全体としての方向性を共に作り上げることを狙っています。プロジェクトに参加した社員たちは、自分たちが企業の未来を創るという意識と役割を持ち、多様な意見をまとめ上げる経験を通じて、今後の仕事に活かせる価値ある学びを得ています。これらの取り組みは、社員の統合的な理解を促し、組織内部の信頼関係を強化しながら、新たな技術革新に対応するための基盤を築くことを目的としています。最終的な理念策定は単なる終着点ではなく、長期間をかけて企業文化に浸透させ、社員一人ひとりの日常の中で実践されることを目指しています。

Text AI要約の元文章

50年先を見据えた企業理念を

このプロジェクトは、ふたつの会社に所属する計120名の社員が企業理念の策定に参加するという大規模な取り組みで、意見出し、理念案の策定、理念の浸透という3つのステップで構成されています。


運営を担う事務局のS・Tは「トップを含めた経営陣が見据えているのは50年先です」と話します。「アイシンの未来を創っていくのは、今の若い世代の社員たち。だからこそ、若い人たちの意見を取り入れた理念をつくらなければならない。経営陣はそう考えているのです」。


プロジェクトのもうひとつの狙いは、もともと別会社である2社をひとつにすること。同じ事務局のK・Sは「物理的に会社がひとつになっても、心がひとつにならなければ真の経営統合はできません。経営者がつくった理念を社員たちに降ろすのではなく、社員たちの意見を持ち上げていくプロセスを大事にしたかった。このプロジェクトの立ち上げにはそのような想いも込められています」と話しました。

参加メンバーそれぞれの想い

120名の参加メンバーは、各社・各部門の本部長による「この人なら会社と部署を代表する意見を出してくれる」との推薦を受けて決められました。


参加メンバーのK・Yは打診に驚いたと言います。「企業理念の策定なんて、役員と各部門の上層部で調整して決めるものだろうって勝手に思っていました。打診を受けた時は、私のような20代の社員が理念策定に関われることに驚きましたね。これまで働き方改革にITツール導入を通じて関わってきた経験などから、新しい付加価値を生み出す活動をサポートできるような理念になったらいいなと考えました」。


パワートレインの設計に携わるD・Tは「私は立場的に、自社にいる2,000人の技術者の代表として意見を発信する役です。新会社の企業理念にアイシン・エィ・ダブリュの優れた遺伝子を残そうと、なんというか、使命感みたいなものを持って臨みました」。

経理部に所属するK・Sは「選出された時は『なんで私?』という感じでしたが、経営層は若手の意見を取り入れたいのではないかと捉えました。ですから、日々働く中で感じたり思ったりしたことを遠慮なく伝えること、それが入社2年目の私の役割ではないかと考えました」。


そして先行開発に携わる技術者のB・Mは「取扱品目が多く裾野の広いアイシン精機と、特定領域に特化しスピード感で突破するアイシン・エィ・ダブリュの統合によるシナジー効果を最大化させるためには、いろんな価値観を持つ人間がひとつになれる理念やビジョンがとても大事ですから、そういうものができたらいいなと思いました」。

20代から50代まで120名の想いを原動力に、今回のプロジェクトは動き始めます。

違いを乗り越え、どう融合していくか

2020年の6月と9月に実施されたグループワークは、両社から2名ずつ計4名程度のグループに分け、それぞれに話し合った結果を事務局が取りまとめる形で進められました。2社の融合を目指す話し合いはしかし、互いの企業風土の違いを浮き彫りにします。


D・Tによると「どっちの技術者も、この先電動化が進む中で『高付加価値の製品を提供したい』という気持ちはまったく同じ。でも、そこに至る思考プロセスが全然違うんです。アイシン精機は割と冷静で、アイシン・エィ・ダブリュはどちらかというと前のめりのアプローチ。以前から何となく違いがあるとは認識していましたが、それをワークで互いに確認できました」とのこと。しかし、話し合いを重ねる中で次第に変化が生まれます。


例えばK・Yは「それぞれの会社の特徴や社員の考え方は、長い歴史の中で培われてきたもの。統合後それぞれが自社の優れた点を活かすためには、まずはとにかく話し合うことでその違いを肌で理解しなくてはいけないと気がついたんです。その考えを起点に私たちのグループではかなり熱っぽく意見交換を重ねました」と、メンバー間に生まれた“今はわかり合うフェーズだ”という認識が、議論を深めるきっかけになったと言います。


同様にK・Sも「1回目のワークをもとに仮の企業理念案が作成されたのですが、そこに“移動”という言葉が使われていました。自動車業界が分野の垣根を超え、新たな技術やサービスを生み出そうとする流れの中にあって、この先ずっと違う分野に参入しないのだろうか・・・など、結構活発に意見が出ましたね」と話すように各グループで率直かつ自由闊達なディスカションを重ねたことが、相互理解へとつながっていきました。


B・Mは「多様な価値観を持つ人たちの意見をまとめる大切さ、大変さを感じましたが、この経験は今後の仕事で役に立つと思います。アイシン精機の慎重さや緻密さと、アイシン・エィ・ダブリュのチームワークとスピード感が、それぞれ補い合っていければ大きな成果につながると感じました。正直、統合には当初不安もありましたが、今はワクワクする気持ちの方が大きいです」。


2度のグループワークを通じて、心をひとつにするきっかけを掴んだ参加者たち。最後に、それを全社に広げて行くという最も難しいプロセスが待っています。

4万人の心をひとつに未来へ向かう

社員たちと経営陣をつなぐ役割のS・Tは嬉しそうに話します。「ウェブ会議ツールを使って全チーム同時にワークを実施したので、私はいろんなセッションを見て回っていたんです。そうすると、みんな忖度なしに言いたい放題に言っている。それが私はとても嬉しくて。経営トップも若手を中心とした社員の意見を大切にした理念づくりにこだわっていたので、本当にありがたかったですね」。


グループワークで出された意見と仮案を事務局がとりまとめ、経営陣と最終調整を重ねながら、遂に新会社の企業理念が策定されました。残るグループワークは1回。今後、理念をいかに浸透させていくかについて議論する予定です。


つまり、このプロジェクトのゴールはまだまだ先なのです。K・Sは「いかに理念を浸透させていくか。その方法を今準備しています。まずは全社員が理念を知ることからはじめ、理解、実践という段階を経て、各職場での日頃の行動にまで落とし込んでいくというものです。とにかくつくって終わりというものではなく、何年もかけて浸透させていくものですから、理念策定はスタートにすぎません」。


自動運転、電動化、コネクティッド。これまでの常識が通用しない時代に、4万人が心をひとつにしてイノベーションを起こしていく。そんな組織づくりの一環として、今回の取り組みは実施されました。ふたつの巨大企業が統合を機にどんな組織となり、どんな価値を生み出していくのか。世界が注目するその活動の中心には、この先の50年を主役として生きる若い社員たちがいます。

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