サイボウズ株式会社

「まっとうな頑張りを評価して」は意外と生きづらいんです──けんすうさんの「成果が出るズル賢い努力」をサイボウズ青野が聞いた

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • ビジネスマン
  • 経営者
  • 労働環境に関心のある人
  • 新しい働き方を模索している人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事は、一般的に賞賛される「努力」の評価について疑問を投げかけ、新しい視点から働き方や生き方について考える内容である。努力が報われない経験や、努力すること自体がプレッシャーになる場合があると指摘されている。けんすう氏は、努力をすることが苦手だと自覚し、効率的に成果を上げるための戦略を考えて行動してきた事例を紹介している。例えば、大学受験の際には直接勉強するよりも、受験情報を集めるコミュニティを作ることで効率的に情報を得て合格した経験が描かれている。また、サイボウズ社長の青野氏との対話を通じて、成果に注目することの重要性や目的を定義することの意味について掘り下げる。\n\n過剰な頑張りを避け、余裕を持って成果を上げるための工夫や戦略、例えば迅速に成果を出すためのテンプレート利用など、「ズル賢い」方法についても語られる。また、労働の効率化を図る中で、個人の独自性をどのように引き出すかという点にスポットライトをあて、異なる活動の「掛け合わせ」により新たな価値を創出する方法や、効率的に情報を得る学習法も紹介されている。さらに、ビジネスにおけるリスクマネジメントの重要性にも触れながら、無駄な努力をしないために自分の強みや求められるところに注力し、個人のやりがいを見つけることの意義がまとめられている。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

そのがんばりは、何のため?

「まっとうな頑張りを評価して」は意外と生きづらいんです──けんすうさんの「成果が出るズル賢い努力」をサイボウズ青野が聞いた

「努力をする」という言葉は、一般的にポジティブなニュアンスで使われます。一生懸命がんばることは、ほめられることであっても、責められることではありません。

一方で、「報われない努力」があることも事実。むしろ「努力をすべきだ」という使命感や世間の空気、社内の圧力によって、がんばりすぎている人も多いのではないでしょうか。

今回は、自らを「努力できないタイプ」と語り、「努力ができない人の戦略」を取り続けてきたという古川健介(以下、けんすう)さんと、同じく経営者として「がんばらずに済むことをどう増やすか」を考え続けてきたサイボウズ社長の青野慶久が「しなくてもいい努力」について語り合います。

いまさら「努力」程度じゃ差がつかない

青野
今回の対談は「不要な努力をしないこと」がテーマです。偶然にも新型コロナウイルスの影響で、現地で無理に集まらない対談になりましたね。

けんすうさんは「努力できないタイプ」だと伺いましたが、実際にそうなんですか?
けんすう
そうですね。もう、努力程度では差がつかない時代だと思っているんです。

古川健介(ふるかわ・けんすけ)。マンガ情報共有サービスを運営するアル代表取締役。受験情報掲示板「ミルクカフェ」やハウツーサイトの「nanapi」など、学生時代から多くのネット企業や事業を立ち上げてきた連続起業家。通称は「けんすう」

青野
というと?
けんすう
大学時代の友人の話なのですが。彼はエンジニアで、朝6時に起きたら出社前の3時間は自分が好きなプログラミングをして、会社でも仕事のプログラミングをして、お昼休みや家に帰ったあとも好きなプログラミングをして……という生活を続けている人で。
青野
それはすごい。努力しても、まねできないタイプですね。
けんすう
努力ってどれだけがんばっても大体10時間くらいが限界じゃないですか。でも彼は、無理なく15時間できてしまう。そういう人にはかなわないんですよね。
青野
よくわかります。

「努力している姿」よりも「成果」が大事でしょ?

青野
けんすうさんが「自分は努力をできない」と自覚したのはいつごろですか?
けんすう
大学受験の時ですね。大学受験って、点数を取れば合格できるシンプルな仕組みじゃないですか。周りは1日10時間勉強するって言ってるけど、まあ僕は「まねできないな〜」と。

そこから「じゃあ、どうすれば点数が取れるだろう」と考えて。
青野
うんうん。
けんすう
そこで、勉強するのではなく、まず大学受験のコミュニティサイトをつくったんです。

すると、サイトにオススメの参考書や塾講師、次の早稲田の入試問題をつくる教授などの情報がたくさん集まるようになって。
青野
あ〜なるほど。
けんすう
僕は気がつくと、世のなかでいちばん受験情報に詳しい浪人生になり、そのまま効率よく受験勉強して合格しました。
青野
おもしろい! けんすうさんの行動には、「がんばる」と「がんばらない」が見事に同居していますね。

「なんで勉強しないんだ」って怒る人もいそうだけど、「自分でサイトつくるなんてすごい努力家だな」という見方をする人もいそうです。

青野慶久(あおの・よしひさ)。1997年8月、愛媛県松山市でサイボウズを設立し、2005年4月に代表取締役社長に就任(現任)。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など

けんすう
長い時間をかけて勉強しているほうが、他人から見たときの「がんばっている感」は絶対に出るんですけどね。

でも、そうやって「がんばり」を誰かに評価してもらおうとすると、たとえ成果が出なくとも自分がとても辛い状況で耐えることになってしまうじゃないですか。

人から見て努力しているかよりも、実際に成果が上がっているかを考えたほうがいいと僕は思っていますね

「世間的な努力」は、あまりにまっとう

青野
けんすうさんがそう考えるのって、自分のなかで努力の目的を定義づけしているからですよね。

目的の定義づけの話でいえば、会社での昇進はまた難しくなってきます。

大学受験のようにわかりやすく点数で可視化されるわけでもないから、「がんばっている感」をアピールできる無駄な残業をしてしまうのかも。
けんすう
ひとつおもしろい話があって。社内での評価を上げるためには、上司にがんばっている姿を見せるよりも、ひたすらゴマをするほうがいいらしいんですよ。
青野
おおお、それは日本中がどよめきますね(笑)。
けんすう
なかなか衝撃ですよね(笑)。

あと、聞いたことがあるのは、自分の成績よりも上司の成績を上げるほうがいいらしいとか。上司が出世したときに自分の貢献が影響しているから、結果的に自分の評価もついてくるそうで。
青野
へぇ、おもしろい!
けんすう
世間的な努力って、あまりにまっとうすぎると思うんですよ。ゴールを先に考えて、方向性を考えたり、変えたりすれば、もっと気楽になれるのかな、と。
青野
正攻法ばかりに固執していてもダメなんですね。
けんすう
そうだと思います。

いま、世界中でベストセラーになっている『サードドア』(東洋経済新報社)という本が、まさに「抜け道」を示す内容で。

世の中には99%の人が並ぶ正面口の「ファーストドア」、お金やコネを持つVIP専用入り口の「セカンドドア」、そして、誰も知らない抜け道につながる「サードドア」の3つのドアがあるんです。

だから、お金やコネを持たない凡人は、まだ誰も見つけていないサードドアを探すべきですね。
青野
人とは違うやり方を見つけるわけですね。とはいえ、サードドアを探すのも大変そうです。
けんすう
「ちょっとズル賢い方法を探す」くらいで考えてみるといいと思います。

たとえば、上司から資料作成を頼まれたとき、提出が1週間後だと内容についてのハードルが上がりますよね。でも、10分後に提出したら、内容がどうであれ「資料作成が速い」とほめられるんですよ。

僕がリクルートにいたとき、それをやるために資料や図形のテンプレートを用意しておいて、速攻で提出できるようにしていました。
青野
たしかにちょっとズル賢い(笑)。仕事が速いと、それだけで評価が上がりますからね。

凡人は「掛け合わせ」で「独自性」を生み出す

けんすう
普通の人が努力してどうにかなる時代が終わりつつあるのって、ある意味では、残酷な時代ですよね。

誰もができる作業は機械に置き換わってしまう。それなら、1日15時間やっても苦じゃないことを探すのがいいのかな、と考えています。
青野
何かに耐えなくても、楽しんでできることを探すのが近道だ、というイメージですよね。

ただ、僕は必ずしも15時間ひとつのことに没頭しなくてもいいと思うんです。

5時間没頭できるものを3つ用意して、その掛け合わせで独自性を出すことも可能じゃないかと
けんすう
その発想いいですね!
青野
わかりやすい例でいうと、サイボウズには、週4日で出社して、残りの3日は農業をしている社員がいます。

農業に明るく、最新のクラウドサービスが語れる人は日本で一握りしかいない。だから、その掛け合わせの話になると、必ず彼に声がかかる。

もちろん、イチローみたいに野球一本に専念するのもいいですけど、それはやっぱり一握りの天才肌の人たちのもの。凡人には凡人なりの戦い方もある気がしますね。

新しいことに挑戦するのは、無難な人生を歩むため

青野
ここまで、がんばらないことにより「成功」をおさめてきた話を聞いてきました。一方で、世間には「そこまでの成功はいらないから、無難に生きたい」という人も少なくないと思うんです。
けんすう
はい。
青野
そういう人こそリスクをとりたくないがゆえに、漫然と「無駄ながんばり」から抜け出せていない、という可能性もあるのかな、と。
けんすう
あ。そこでいうと、僕も無難な人生を生きたい派です(笑)。
青野
えええ、そうなんですか? まったくそういうふうに見えない(笑)。
けんすう
一度しかない人生なので、なるべく安全に波風立てずに生きたいんです。

いちばんリスクが高いのは、ひとつの会社に勤め続けて、社外で通用しない技術しか得られていない状態でクビになること。

そう考えたら、無難に生きるための最適解は、新しいことに挑戦し続けることだろうと
青野
けんすうさんが一般的な「無難な生き方」に、本当にそうなんだろうか、と疑問の眼差しを向けてきたからこそ出てきた答えですね。

起業家ってリスクをとっているように見えるけど、実は優秀な起業家ほど慎重だ、という話があります。
けんすう
そうだと思います。絶対に、リスクは避けるのではなく、管理したほうがいいです。

存在しうるリスクをリストアップして対処法までまとめておく。上場企業のリスクマネジメントと近いですね。

なるべく自分の頭では考えずに、賢い人にのっかる

青野
けんすうさんは無難に生きているけど、ちゃんと自分の頭で考えているから、ユニークな生き方に見えるのかもしれませんね。
けんすう
いえ、実は僕はなるべく自分の頭で考えないようにしているんです。
青野
ええ、また驚かされますね。そうなんですか?
けんすう
はい。全人類のなかで、たとえば、自分の頭の良さが運良く中間くらいだったとしましょう。それでも、その上には何十億人という頭のいい人がいるわけじゃないですか。

だったら僕が考えるより、賢い人の考えに乗っかったほうがいい! だから、頭がいい人の話はめちゃくちゃ鵜呑みにするんです。
青野
ははは(笑)。便乗思考というか。
けんすう
そうなんです! たとえば、ある分野について考えを深めるのなら、まずはその分野の本を20冊くらい読んでみる。すると、10冊くらいは同じようなことが書いてあるので、それは正しいんだろうなと実感できる。

そして、それだけ情報を集めても、必ずどこかに自分で考えるべき余地は生まれます。そこにリソースを寄せたほうがいいなと。
青野
自分の頭で考えるのは、しっかり情報を集めてからだと。
けんすう
はい。日本は「自分で考えよう」という教育が根強いですが、もう少し専門家の意見を効率よく吸収するための教育があってもいいのでは、と思いますね。

ちなみにこの話をすると、よく「そんなに本を読めません」と言われます。でも、そういう人って、一ページ目から真面目に読みすぎなんですよね。

僕がおすすめしているのは、本を辞書のように使う方法。目次と著者欄に目を通したら、ネットでその本のレビューを熟読する。大体の内容を紙に書いておいて、それを確かめるために本を読むんです。
青野
なるほど! 重要な部分だけを押さえるなら、その読み方は効率的ですね。

自分でできたら格好いいけど、全部は無理

青野
ちなみに便乗でいうと、僕も同じようなことを、事業戦略を考えるときにやっています。
けんすう
どういうことですか?
青野
僕は、過去に自分で考えた戦略で失敗していて、自分のなかだけで必死に考えて出すのは苦手なんです。だから、まずはたたき台のまま全社公開します。
青野
すると、僕に抜けていた視点やアイデアを社員のみんなが足してくれて、結果的に成功確率の高い事業戦略ができあがる。
けんすう
なるほど。
青野
「社長すげえ」ってなるけど、実は僕が最初に考えたものとは180度方向性が変わっていたりするんです。でもそれでうまくいけば、会社としてはいいわけで。僕はまず、たたき台を生み出すところに集中すればいいと。
けんすう
成果の出るポイント「だけ」を押さえることが、報われない努力の量を減らすことにつながるんですね。
青野
そうです。そして、そのポイントは、自分ができることと、周囲から求められることの交点を探っていくイメージな気がします。

僕の場合は、やってみてうまくいかなかったことをポイントから外していく。そして、人に比べて自分がやったほうがいいところだけに集中する。

たとえば、自分で考えることは苦手だけど、人の話を聞いてまとめるのは得意かも、というように。

すべて自分でできたら格好いいですが、まあ無理ですから。しなくてもいい努力を捨てるためには、諦める勇気も必要かもしれませんね。

企画:吉原寿樹(サイボウズ) 執筆:園田もなか 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)

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執筆

ライター

園田 もなか

フリーランスのライター。エンタメ関連のコンテンツ中心に執筆やインタビューなど。

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撮影・イラスト

写真家

栃久保 誠

フリーランスフォトグラファー。人を撮ることを得意とし様々なジャンルの撮影、映像制作に携わる。旅好き。

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編集

ライター

野阪 拓海

コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。担当ジャンルは教育、多様性など。

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