仕事と幸せがリンクすれば、より働きがいを持って会社で働くことができます。ですが、幸せと仕事は相容れないものとも考えてしまいがちです。
仕事で幸せを感じるには「目的」「尊重」「公平さ」が大切と話すのは、仕事における幸せをテーマに創立されたGreat Place To Work(以下、GPTW)のマイケルC.ブッシュ CEOです。
「社員が幸せな会社」とは何か? 全員参加のイノベーション、透明性のある組織、公平で適切なフィードバック──。Kintone Corporation(サイボウズU.S.)CEOのデイブ・ランダが掘り下げます。
※この記事は、Kintopia掲載記事「Purpose, Respect, Fairness: The 3 Ingredients for Happiness at Work」の抄訳です。
仕事で幸せになるには、目的・尊重・公平さが不可欠
仕事と幸せを結びつける人は少ないと思いますが、なぜ仕事における幸せは大切なのでしょう?
GPTWは約30年間、仕事における幸せをテーマに世界98か国、1万社で働く1000万人を対象に意識調査と分析を進めてきました。
GPTWのデータによれば、社員にすばらしい体験を提供している企業は、そうでない企業よりも業績が良いんです。
社員に平均的な経験を提供している創立から間もない企業でも、最初の5~7年間は良好な業績を残せます。
ただ20年も経つと、そうはいきません。長期間にわたって企業が優れた業績をあげられるかどうかは、社員への接し方に左右されます。
「仕事における幸せ」を実現するには、何がポイントでしょうか?
仕事における幸せを実現するには、「目的」「尊重」「公平さ」の3つが必要です。
目的は、新しく入社する社員が組織の目的を共有しており、同じような価値観を持っていることです。
尊重は、「全社員が尊重されていると感じる」ように、組織のリーダーがリアリティのあるコミュニケーションを取ることです。
公平さは、最も大切です。社員は、組織内での立場に関係なく、公正に扱われるべきです。
この3つをチームに浸透させるために、リーダーが大切なすべきことはなんですか?
リーダーは、社員が感情を持った人間だと認識しなければいけません。誰だって働きやすい人と仕事をしたいでしょうから。
1人では成し遂げられない目的に向かって、いっしょに仕事をする。同僚と親友になる必要はないんです。
相手を思いやれる人と仕事をすると、会社に対する誇りが生まれますし、お互いをカバーして最善の仕事ができます。
これは、会社のロゴ入りTシャツを着ることで感じる連帯とは違います。ボーナスなどの金銭的報酬や福利厚生では生み出せない力を持つ会社、それが「働きがいのある会社」なのです。
マイケルC.ブッシュ。働きがいのある会社をグローバルに調査・分析するGreat Place To WorkのCEO。「Fortune 100 Best Companies to Work For」など、他と一線を画すランキングを発表している。2015年にCEOに就任。職場をすべての人にとって「働きがいのある場」に変えていくことを通じて、よりよい社会の実現に貢献することをミッションとしている。オバマ前大統領の「ホワイトハウス・ビジネスカウンシル」の元メンバー。最新刊「世界でいちばん働きがいのある会社」(2018年)では、これまでの取り組みがビジネスや社会にもたらすメリットを解説。働きがいのある職場や多様性やインクルージョン、仕事における幸せと業績との関連性について、多数の講演も行う
イノベーションは「全員参加」から生まれる。1人で偉業を成し遂げた人物はいない
共通の目的を共有し、誇りを感じることの重要さはわかりました。
サイボウズU.S.では、それをチームワークと解釈しています。チームワークをよくするために、組織ができることは何でしょうか?
チームワークは仕事の鍵を握っているので、質問してくださってうれしいです。
チームワークがよく機能しているチームでは、メンバーは自分の意見がチームの成果に貢献していると感じています。
効果的でないチームでは、少数のメンバーが「ほかのメンバーは自分より能力が劣っている」と考え、最善策ではなく、手っ取り早い次善の策をとってしまうんです。
このチームに欠けているのは、イノベーションです。画期的なイノベーションは、メンバー全員が参加することで生まれるんです。
デイブ・ランダ。Kintone Corporation(サイボウズU.S.)のCEO。2004年以降クラウド革命の最前線に立ち、業界を牽引する複数のSoftwareasaServices(SaaS)アプリケーション・プロバイダーで経営に携わり、戦略的ビジネス開発を推進。フォーチュン500企業(BallCorporation)やスタートアップ企業(BlueRice、SPGSolutions、ElectricRun)の急成長を支えた。中間ステージにあった企業(ActiveNetwork)のIPO(新規株式公開)にも貢献。2019年にはフォーブス・テクノロジー・カウンシルの一員となり、デジタル変革、リーダーシップ、仕事における幸せなどをテーマに定期的に記事を寄稿している
ええ。週次のミーティングを活用しましょう。リーダーがたずねるべき最も大切な質問は、次の2つです。
(1)先週に起きた最も悪かったこと(改善したいこと)は?
(2)先週に起きた最もよかったことは?
リーダーに求められるのは、チーム内の強固な信頼を生み出すことです。メンバーは、周囲から批判されたり、頭の回転が遅いと思われることを恐れずに、正直に意見を出せるようにするべきです。
新しいアイデアをブレインストーミングをするときは、全員の参加が望ましいです。
これまでの調査でも、最も優れたチームワークがある企業は、全員参加のイノベーションの原則を貫いていることがわかっています。
全員参加のイノベーションと、世間で言うイノベーションには隔たりがあるように感じます。
世間では、イノベーションを起こすのは、個人だと考えられています。わたしたちの見方が間違っているのでしょうか?
歴史に残るイノベーターですら、1人で偉業を成し遂げたわけではありません。アインシュタインもその1人です。
わたしたちの調査で、優れたイノベーションは集団から生まれることがわかっています。
リーダーは、個人を後押しするのではなく、誰でもイノベーターになり得ると考えることが非常に大切です。全員が意見を求められ、試行錯誤を繰り返し、仮説の検証に参加すべきです。
そうですね。メンバーが「尊重され、公正に扱われている」と感じながら働いている組織は、より機敏で順応性があります。リーダーを信頼し、大胆かつ新しいアイデアにも賛同する傾向も見えています。
逆に、組織にヒーローのような人物がいて、新しいアイデアを披露したとします。すると、本人以外は、「自分にはメリットがなさそうだ」と感じてしまうのです。大多数の人は自分はイノベーションに必要とされていないと思い、参加しません。
マーベルの映画に出てくるヒーローが、孤独で幸せな生活を送っていないのと同じです。
透明性と組織の目的が結びついていれば、意見はフィードバックとなり、個人への批判にはならない
サイボウズU.S.では、「チームワークあふれる社会を創る」を実現するために、「理想への共感」「多様な個性を重視」「公明正大」「自立と議論」を大切にしています。
最近「根本的な透明性」という言葉をよく耳にします。GPTWの調査で透明性と幸福の直接的なつながりは見えてきましたか? 組織の透明性が増すと、社員の幸福感も高まりますか?
根本的な透明性は、最近では「徹底的な率直さ」ともいわれています。ですが、個人的には突拍子もない考え方だと思います。
歯に衣着せぬフィードバックが最善だという人に限って、フィードバックの受け手になる機会はほとんどないからです。権力の座にある人には都合が良くても、そんなフィードバックで意欲が向上する人はいません。
また、仮にわたしが「キャッシュフローがすべてだ」と正直に伝えたら、社員のモチベーションが上がるでしょうか? 目的のない透明性に大した価値はないんですよ。
現実的には、自分の行動を理解してもらえるように真実を語り、組織の目的に結びつけて話をする必要があります。
透明性と目的が結びついていれば、「仕事ぶりに不満がある」と指摘された時、「共通の理想を達成するために十分に力を発揮していない」という意味だと理解できるでしょう。
それは個人に対する批判ではなく、フィードバックとして受け取ってもらえます。
透明性が全体の幸福に影響を与えるのは、透明性が公平に発揮されている時だけです。
たとえば、会社の受付係のところに会社のリーダーがやってきて、こう言ったとしましょう。
「誰かが玄関に足を踏み入れた瞬間から、会社のブランドづくりは始まっています。わたしたちのあり方を対外的に示す受付係は、社員のあり方と仕事ぶりに興味を持ってもらう役割です。その仕事は、(会社の)目的達成に欠かせません。だから、受付係としてのあなたの仕事は大切だ」
もしこう言われたら、自分の仕事は組織の目的に沿っていて、尊重され、公平に扱われていると感じるでしょう。まさに、幸福の3つの要素がそろっています。
リーダーが、自分以外の人に組織の目的を話しているのを聞いても、受付係の大切さを自分に向けて語ってくれなければ、透明性は保たれても、幸せにはつながりません。
ミレニアル世代はブランドよりも「社員の職場体験」を重視する
社員に幸せをもたらすために、世界で実施されている取り組みはありますか?
社員が職場でどんな体験をしているかに着目し、体験を向上させようとする企業が増えています。
調査によれば、ミレニアル世代が就職先を決める決定打は「社員の職場体験」でした。
「Googleというブランドがあるから、Googleで働きたい」という新卒のエンジニアはいません。ブランドより、体験なんです。
約70%の企業で、社員の職場体験を改善する動きが見られます。残りの30%は、気にもかけていません。
社員の職場体験を向上させるために、重要な施策はありますか?
この点については、はっきりと言えます。社員を尊重するリーダーと、世界最高レベルの福利厚生を比べたら、福利厚生に勝ち目はありません。まったく勝負にならないんです。
社員が幸福を感じる環境をつくりたいなら、リーダーに働きかけましょう。
シリコンバレーの企業では、時短で午前10時から午後14時まで意義のない仕事をして高い給料をもらうより、より少ない給料でもフルタイムで意義のある仕事をしたい人がたくさんいます。
もちろん組織の価値観と目的に見合った福利厚生は必要です。たとえば、公正を重視するならば、会社の育児・介護休暇制度に現れてくるはずです。
福利厚生を売りにする企業は多いですが、会社のリーダーの話はあまり出ませんね。入社前にリーダー陣を知るには、どうしたらよいでしょうか?
今はリーダーを選ぶ時代になってきています。わたしが知っているだけでも、4つのスタートアップで、社員がリーダー陣の情報を掲載するプラットフォームを開発しています。
特にミレニアル世代は、こういった流れに共感します。挑戦的な課題を与え、フィードバックを与え、意見に耳を傾け、自分を育ててくれるリーダーの下で働きたいと願っているんです。
若い世代は、プラットフォームを使って「Aさんのもとで働くことになった。Aさんについて情報があれば教えてください」と呼びかけるのが得意です。
ここを理解している企業ならば、採用プロセスの中で、Aさんについて教えてくれるでしょう。たとえば「Aの部下の90%が、彼女の下で長く働きたいと回答しています。理由は…」といった具合に。
企業はそういう方向に向かっています。
危機の時こそ「人間らしさ」という共通項に着目しよう
コロナウィルスの影響で、多くの人が在宅勤務を余儀なくされています。リモートで働く社員のエンゲージメントと幸福を維持する方法を教えてください。
これまでの調査によれば、社員が最も心配しているのは、心と身体の健康です。次が育児と介護。そして家族、周囲の人、社会全体。最後にお金と続きます。
これは、医療や物流など生活に欠かせない分野で働いていても、在宅勤務であっても、今回のような危機的状況にあっても変わりません。
お金はよく話題に上りますが、順位にすれば最下位なんです。お金は、わたしたちが直面する問題の解決に役立つ場合もあって、話題にしやすいです。
だからといって、一番の心配ごととは限りません。リーダーはそこを理解する必要があります。
社員が最も心配する「心と体の健康」について、リーダーができるアクションはありますか?
一番大切なのは、社員が「リーダーは自分の意見に耳を傾け、理解してくれている」と感じることです。
少なくとも週に1度、ビデオ会議でメンバーと会話することをおすすめします。形式ばったものではなく、リアルな内容を盛り込むとよいです。
例えばCEOが「コロナの影響で遠方に住んでいる母親に会えなくて心配だ」と言ったとします。社員は、リーダーが自分と同じ境遇にあり、人間らしさという共通項があると確認できるのではないでしょうか。
定期的にリモート会議を設定して、参加者に1分間で最近の生活について聞くとよいです。子どもやペットが画面に映っても気にせず、人間らしい部分をさらけ出しましょう。
質問を募り、社員の不安に耳を傾け、いっしょに解決策を考えてください。孤独を感じる社員がいれば、1日数回、15分ほど時間をつくって、リモートでお茶でもしてみてください。ヒントが得られるかもしれません。
このように、毎週コミュニケーションをとっているリーダーには、得るものがあります。あまりに多くのリーダーが定期的にコミュニケーションをとっていないのには、驚かされますよ。
サイボウズU.S.では、毎週火曜日の朝10時にオフィスやリモートで社員が集まって、近況を1分間で共有しています。今は全社員が在宅勤務中なので、50人くらいの顔がスクリーンに映るわけでです。
コロナの影響が出るようになってから、以前より私生活の話題がずいぶん多くなりました。それもあって、オンライン飲み会や少人数でのブレークアウトセッションを取り入れ、みんなからは好評です。
まさに成功事例ですね。テクノロジーを駆使して、物理的な距離を保ちつつ、社会とのつながりを維持する。それが大切です。
素晴らしい取り組みに拍手を送ります。ぜひほかの会社でも取り入れてほしいですね。
執筆:Alex Steullet/翻訳:ファーガソン麻里絵、鮫島 みな/アイキャッチ:高橋 団
2019年7月 3日「する側もされる側も気が重い」。フィードバックの生産性を上げる秘訣を、米人気企業CEOに聞いた2020年3月26日社内の議論は「顧客に喜んでもらうこと」ファーストですか? 元Netflix人事責任者は「社員を子ども扱いしない」で成果を出した2020年1月30日アルカイダに負け続けた米軍が勝つ組織になれた理由は「7500人で毎日90分の電話会議」にあった