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仕事を奪うのはAIではなく、「人工知能の使い方を決める人間」だったんです

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • テクノロジーに興味のある一般読者
  • ビジネスマンや経営者
  • AIやロボット工学の研究者
  • 社会変革に関心のある人
  • 未来の働き方に興味のある学生
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読むことで、読者はAIやロボットが今後の労働市場に与える影響についての深い洞察を得ることができます。具体的には、AIによって仕事が奪われるというより、その使い方を決める人間の選択が問題であるということが理解されます。ロボット倫理学の専門家であるケイト・ダーリング博士の意見として、AIは人間の短所を補うように設計され、仕事をサポートする存在であるべきであることが強調されています。さらに、テクノロジーが社会に与える影響は、その技術をどのように使い、融合させるかによって異なることが述べられています。ダーリング博士は、人間のモノや行動の使い方が変わる可能性を考慮した上で、AIと人間が共存する未来を楽観的に捉えています。また、AIの設計と導入が、人間のプライバシーを犠牲にする非倫理的な行為につながる懸念も示されています。この記事を通じて、AI技術の導入が労働者に及ぼす影響を最小限に抑える方法や、企業がどのようにAIを活用するかが将来の労働環境に大きな影響を与えることが具体的に示されています。最終的に、AI技術の発展には多様性のある視点が不可欠であり、それがより優れた技術開発に繋がるというダーリング博士の視点が浮かび上がります。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

仕事を奪うのはAIではなく、「人工知能の使い方を決める人間」だったんです

さまざまなテクノロジーが生まれ、私たちの生活が日々便利になっています。

暮らしの豊かさが増す一方で、「AI(人工知能)やロボットに、いつか仕事が奪われてしまうのでは?」と危惧する声も。

ロボット倫理学の第一人者であるケイト・ダーリング博士は「労働を破壊に導くのは人間であって、テクノロジーではない」としています。

人間がテクノロジーを正しく活用すれば、もっとやりがいのある仕事を見つけられるのでしょうか?

「AIと人間の未来」について、Kintopia 編集長のアレックス・ストゥレが聞きました。

※この記事は、Kintopia掲載記事「AI Won't Take Over Our Jobs―Unless We Design It To」の抄訳です。

労働を破壊するのは人間の選択であって、テクノロジーではない。

アレックス
ケイトさんがAIやロボットに興味を持ったのは、なぜですか。
ケイト
父が1960、70年代のSF小説をたくさん持っていて、10代のころにSF小説を読み漁っていたんです。それでロボットやAIに興味を持つようになりました。

もともとは法学を専攻していたんですが、どうにかロボットにかかわる仕事に就きました。
アレックス
そうなのですね。ちなみに、好きなSF作家は誰ですか?
ケイト
アーシュラ・K・ル・グィンですね。

彼女の作品の中心は、テクノロジーそのものではなく社会の変化で、それが私の考え方に近いんです。テクノロジーが、社会のかかわり方にどう影響するかに興味を持っています。
アレックス
テクノロジーの未来を楽観していますか。それとも悲観していますか。

未来の人間は、テクノロジーと調和して暮らしていけるのでしょうか。それともテクノロジーは人類を破壊してしまうのでしょうか。
ケイト
悲観と楽観の両方です。

懸念はありますが、必ずしもテクノロジーそのものに対してではなく、むしろテクノロジーを使う人間がどのような選択をしていくのかが気になります。

同時にテクノロジーの可能性については、とてもワクワクしています。ロボットやAIの設計や融合が話題にあがると、よく「ロボットとAI」が「人間と人間の知能」と比較されるのですが、とても違和感があります。AIの知能は、人間の知能とはまったく違うものですから。

ケイト・ダーリング博士。ロボット倫理学の第一人者でマサチューセッツ工科大学メディアラボの知的財産政策アドバイザー。法科大学院を優秀な成績で卒業し、スイス連邦工科大学チューリッヒ校にて博士号を取得。社会ロボット工学への情熱が高じて、人間と、本物に似せたマシンの感情的なつながりを研究している。また人間とロボットの関係を題材とした執筆活動も行っており、世界各国の著名な新聞、ジャーナル、雑誌などにも取り上げられている。 2021年4月に初の著書『The New Breed: What Our History with Animals Reveals about Our Future with Robots』(新たな種:人間と動物の歴史から読み解くロボットとの未来)を刊行予定。最先端の話題を題材に執筆や講演、ワークショップの企画をしているとき以外は、@grok_で「夕食はシリアル」などとツイートする一面もある。

ケイト
ロボットに仕事を取られる、AIが世界を征服するといった不安に駆られるのは、ロボットやAIのとらえ方に限界があるからです。別のたとえを使うべきだと思います。

ちょうど「The New Breed」(新たな種)という本を執筆中なのですが、そのなかで「人間とロボットの関係」と「人間と動物の関係」の歴史を比較しています。

生き物にはどの種にも特有のスキルがあり、人間は仕事、兵器、仲間など、あらゆる目的にロボットを利用してきました。ロボットは人間に足りない能力を補う、目標達成のパートナーという位置づけです

未来におけるAIやロボットと人間の関係性を考えるとき、動物を引き合いに出すほうがよっぽどいいと思います。
アレックス
人間が代わって労働を馬や牛などの動物が担うようになり、経済や生活様式にも大きく変化しました。

動物に代わって機械が登場したときも同じです。AIも同じような変化を引き起こすでしょうか。
ケイト
そう思います。

過去に登場したテクノロジーと同様に、AIは大きな変化と破壊を招く、革新的なテクノロジーです。

とはいえ、AIが人間の労働力に取って代わるという論調が多すぎると思います。それよりも、資本主義システムのなかで、これまで人間がどのように労働者を捨て駒として扱う選択をしてきたかを考え直すべきでしょう。つまり選択の問題です

結局のところ、過去に有害な破壊を引き起こしたのは、テクノロジーの使い方を選んだ人間の意思と経済システムであって、テクノロジーそのものではありません
アレックス
AIの破壊的な性質をやわらげるには、どんな制度改革が必要でしょうか。
ケイト
過去の経験からいって、破壊の犠牲者、つまり労働者の実害をやわらげるために、できることは何でもすべきです。

たとえば人材の再教育や労働者そのものをテクノロジーに置き換えるのではなく、人間の足りない能力を補い、仕事をサポートする使い方を意識することです。

スキルが不要で、厳しく監視される仕事は、将来的に機械に取って代わられる運命にあります。そもそも、労働者をそういった仕事に就かせないようにするのも1つです。

どれも企業や政府が取り組めるものばかりです。具体的な回答にはなっていませんが、破壊の起き方は業界によって違うので、回答も違ってきます。

「ロボットがいかに人間をサポートできるか?」で考えれば、誰もがテクノロジーの恩恵を受けられる

アレックス
イノベーションの恩恵を受ける業界と、破壊のしわ寄せがくる業界は、必ずしも一致しないという専門家の懸念をよく耳にします。

たとえば、イノベーションで大きな利益を上げているシリコンバレーの人たちに、イノベーションに弱い立場にあるセクター(領域)のことを意識してもらうには何ができるでしょうか。
ケイト
たしかに、破壊の勝者と敗者の間の格差は懸念すべき点です。

イノベーションで富を得ている人たちは、「俯瞰的に見れば、AIによって創出される雇用もあるのだから、AIが雇用を奪うことはない」とよくいいます。

事実かもしれませんが、AIが新たな雇用を創出する業界は、雇用が奪われる業界とは異なります。

脆弱なセクターに対する意識を高めてもらうには、テクノロジーを設計する側がどんな意図を持って、自分たちが何を作り出そうとしているのか、創造力を働かせる必要があります。テクノロジーの設計は長期的に影響し、人間のモノや空間の使い方や行動にも影響が及ぶからです。
アレックス
なるほど。
ケイト
たとえば、グーグルで「ロボット」「AI」と画像検索すると、頭、胴体、足と腕がついたロボットがたくさん表示されます。私たちが暮らすのは人間のためにつくられた空間です。階段や狭い通路、ボタンがあったりするので、うなずける部分もあります。

でも、”人間のためにつくられた空間で機能する、より安価で優れたロボット”という限定的な考え方には限界があるんです。そこからもっと創造力を働かせてもいいのではないでしょうか。

考え方によっては、空間そのものをつくり変えることも可能です。さまざまなロボットが利用しやすいように広い空間をデザインすれば、より多くの人間がアクセスできる空間に変わるかもしれません。

ロボットが人間に取って代わるのではなく、いかに人間をサポートできるかをクリエイティブに考えている業界からは、誰もがテクノロジーの恩恵を受けられると思います。
アレックス
映画「ウォーリー」に出てくるように、人間はホバーチェア(移動式の椅子)に乗ってテレビを見ている間に、ロボットが何でもやってくれるという未来は来そうにないですね。
ケイト
あの映画は大好きですが、AIやロボット工学の潜在的な可能性は、人間から仕事を取り上げ、すべてをロボット任せにして、1日中ホバーチェアに座らせることではありません。テクノロジーをを正しく活用すれば、私たちはもっとやりがいのある仕事を見つけられるはずです。

危険な仕事や単調で自動化できる仕事など、人間がやりたくない仕事をロボットに任せたいわけです。

テクノロジーがもたらす破壊のダメージを軽減できれば、こうした仕事をロボットに任せるのは理にかなっています。

人間に危害は加えず、自らを危険にさらすロボット

アレックス
今後、発想の転換になりそうなAIの成功事例を教えてください。
ケイト
これまでも今後も、最も価値のある成功事例は、テクノロジーの導入によって人間に及ぶ危害、リスク、危険を軽減できるケースです。

たとえば、原子力発電所や捜索救助活動など、より高度なリスク評価にAIを活用したり、実際のロボットが人間を危害から守ったりする分野の重要性は高いと思います。
アレックス
ロボットの兵器化については、懸念していますか。
ケイト
もちろんです。偏見やエラーが起こりやすい、顔認識を利用した自動兵器システムは技術的に実現可能なので、とても心配しています。

また、意思決定のプロセスから人間を取り除くことで、犯罪の責任も負わずに済むのではないかと懸念しています。

不測のエラーが起きてロボットが戦争犯罪を行った場合、現行法上は誰かの責任を問うことはできません。人間が同様の犯罪をすれば、もちろん罰せられます。

社会を基盤とする既存の法体系は、AIによる破壊に対応していない状態です。その中でロボットが兵器化されるほど恐ろしいことはありません。

人間の能力を補い、サポートするAI

アレックス
企業のAI活用についてお聞きします。

従業員の監視や生産性の向上にAIを使う企業もあれば、人間の能力を補ったり、単純な作業を自動化したりして、人間が創造力を発揮する時間を捻出している企業もあります。

今後、どちらのアプローチが主流になるでしょうか。
ケイト
人間の能力を補うためにAIを使った成功事例の方が、労働者を自動化しようとするよりも多いです。

よく聞くのは、ATMの導入によって銀行の窓口業務が拡大した例です。単純な依頼はATMが処理し、窓口担当者は広く複雑なサービスに時間を費やせるようになりました。

企業のAIの使い方はさまざまです。従業員がやりがいのある仕事に専念できるようにテクノロジーに投資する企業もあれば、高いスキルを必要としない、低賃金で監視が厳しい仕事に就かせる企業もあります。この2つを同時に行う企業もあります。

すべては「テクノロジーをどう使うか?」という選択の問題であって、不変のものではありません。
アレックス
AIを活用する企業に応募する人は、どんな点に気をつければいいでしょうか。
ケイト
自分の会社や応募している会社が、AIの活用について熟考しているかどうかを考えてみてください。

要注意なのは、既存のシステムとの統合や労働者への影響を考えずに、テクノロジーを力づくで導入しようとする企業です。

AIには学習データが必要なので、企業にとって観察や監視は魅力的に映ります。

ですが、企業のデータの使用方法については、もう少し配慮が必要だと思います。

「労働者のプライバシーやデータの安全性を度外視して、すべてを監視し、可能な限り多くのデータを収集する」という姿勢は倫理的ではありません。
アレックス
包括的な監視やデータ収集など、非倫理的な行動を取っている企業こそ成功を収めているように思います。

仕方のないことなのでしょうか。それとも改善の余地がありますか。
ケイト
データ収集の大きな問題点は、抑制しても見返りがないことです。

たとえば、AIが人間を補うのか、人間に取って代わるのかという話が出たときは、補う方が企業にとって有益だというエビデンスがありました。データ収集となると、可能な限りデータを収集している人に反論するのは難しいんです。

データはテクノロジーの改善に役立ちます。消費者レベルでも、スマートスピーカーに話しかける回数が増えるほど、話者の特性を学習して、性能が上がります。

なので、非倫理的な収集データの活用を抑制するには、政府や規制に頼るしかありません。
アレックス
今後、政府や規制によってデータ活用が抑制される方向に進むと思いますか。
ケイト
思いませんね。

AIが持つ精密で多様なスキルを最大限に活用すれば、仕事の構造全体が改善される

アレックス
近い将来、AIが企業にもたらす最大のチャンスは何だと思いますか。
ケイト
既存の枠を超えて考えたとき、テクノロジーがいかに効果を発揮するか、だと思います。コスト削減になるだけではなく、実際に人の生活や仕事のあり方を改善できるのです。

規模は大きくないですが、特許庁の事例が興味深いんです。アメリカや日本も含めて、世界中の特許庁では、AIがいかに特許審査官をサポートできるかを模索しています。

ただ「特許審査官全員をAIに置き換える」という発想ではなく、最も難しいタスクである先行技術の検索にAIを活用しています。

審査官は、AIが検索して出した資料が、審査中の特許出願書類に適用されるかどうかを見極めるという、人間が得意とする細かな作業に集中できるのです。

この事例では、人間とAIマシンが作業を分担する、新しくスマートな方法を取り入れたることで、特許制度全体が改善される可能性が生まれました。

AIの技術を展開する時、人間より優れた精度で、人間のどこをサポートできるのかを考えることが大切です。
アレックス
時代の最先端をいくAIを開発したのは、もちろん特許審査官ではないと思いますが、AIを効果的に展開するには、どこの企業でも小規模なソフトウェアエンジニア集団が必要になるでしょうか。
ケイト
おそらく、そうでしょうね。

今は外注されているケースがほとんどですが、今後AIは、昔の電気のような位置づけになってきています。どこでも必要とされ、設置のためにスキルを持った人材も必要になるでしょう。
アレックス
開発者が不足すると、AIがAIを生み出す未来へとつながっていくのでしょうか。それともロボットの反乱が始まるでしょうか。
ケイト
精度の高いAIをつくることが先でしょう。

AIの現状は過大評価されています。チェスや囲碁のような複雑なゲームで、ロボットが人間に勝ったという記事を読んで、私たちはロボットは人間より賢いと思い込んでいます。

実際には、AIの知能は非常に限られています。仮に囲碁を打てる非常に優れたAIが、さらに囲碁に秀でた別のAIを生み出せたとしても、Siriは私たちの質問の半分は理解できないままでしょう。
アレックス
ロボットに世界を乗っ取られるまでには、まだ時間がありそうですね。
ケイト
時間はたっぷりあります。

さまざまな学問と多様性に富んだチームが、社会的に有益なテクノロジーを生む

アレックス
ケイトさんが個人的に、将来開発してほしいAIはありますか。
ケイト
AIとは違うかもしれませんが、スマートに母乳の搾乳ができるテクノロジーがほしいですね。

今、母親たちが使っている搾乳機は、牛の搾乳技術より劣っているんです。
アレックス
すでに開発されていてもよさそうなテクノロジーですね。

つまり技術開発者が、必ずしも社会全体を代表しているわけではないと。
ケイト
そのとおりです。今、この分野に必要なのは、異なる学問で連携し、多様性を高めることです。

社会でAIが大きな役割を果たしている以上、若くて高収入の白人男性だけが技術開発に携わっていてはいけません。白人男性が悪いわけではなく、最終的に社会的に有益なテクノロジーを生み出すには、多様な視点が必要なのです。

この点は企業も意識していますし、多様性を重視すべきだと考えています。多様性がより優れた技術開発につながるのは、間違いありません。
執筆:Alex Steullet/翻訳:ファーガソン麻里絵、神保 麻希
2016年5月18日人工知能の発展は「人間は素晴らしい」幻想を崩し、それでも「人のいいところ」を浮き彫りにする──『AIの遺電子』山田胡瓜

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執筆

編集

編集部

神保 麻希

サイボウズ株式会社 マーケティング本部所属。 立教大学 文学科 文芸・思想専修 卒業後、新卒で総合PR代理店に入社。その後ライフスタイル系メディアの広告営業・プランナーを経て、2019年よりサイボウズに入社。

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