この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 企業の経営者
  • 人事・マネジメント担当者
  • 働き方改革に関心のある一般の社会人
  • テレワーク推進に関心のある人々
Point この記事を読んで得られる知識

この記事では、新型コロナウイルスの影響で多くの企業がテレワークを導入したものの、日本では定着が難しい理由について考察しています。多くの企業ではテレワークを選べない職種が存在し、その差を「不公平」として捉え、テレワークを全体として否定する傾向があります。しかし、サイボウズの社長、青野慶久は「100人100通りの働き方を実現する」ことを目指し、テレワークを選ぶことができる環境を提供しています。彼は、多様な働き方を受け入れることが個々の幸福を高めると信じており、公平性と幸福の区別が重要であると述べています。

さらに、青野は「公平」と「幸福」の概念を、ケーキを3人で分ける例えを用いて説明し、本当の公平は個々の幸福を考慮することだと強調しています。また、テレワークなどで一人ひとりのニーズに応えることが企業にとってプラスになると語っています。経営者やマネジャーは、個人のわがままを聞くことを恐れず、多様性を組織の強みに変えるべきだと強調されており、それが新たなアイデア創出や変化に対応できる強い組織を作るために不可欠であるとしています。

青野の視点では、画一的な「優秀さ」を追求するのではなく、多様な個性をいかに活かすかが重要であり、そのためには個々のニーズに応じた働き方を選択できるようにすることで個々の力を最大限に発揮できる環境を作るべきと述べています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

そのがんばりは、何のため?

テレワークを阻むのは「全員を公平にしないとみんなが不幸になる」という思い込み

新型コロナウィルスの影響を受け、多くの企業で急速にテレワークが導入されました。しかし全国規模の緊急事態宣言が解除され、徐々にオフィスへ社員を呼び戻す企業も増えています。

なぜ日本ではテレワークが根付かないのでしょうか。

背景には、「テレワークができない職種もあるのだから同じ社員なのに働き方に差が出るのは不公平だ」というマネジメント側の思い込みもあるのではないでしょうか。

そもそも、人によって働きやすい環境は違うはず。サイボウズでは「100人100通りの働き方を実現する」という考えのもと、2020年8月現在も、ほとんどの社員がテレワークを選んでいます。

社長の青野慶久は、これからの組織のあり方をどのように見ているのか。人影のまばらな本社オフィスで、サイボウズ式編集部の高橋団、神保麻希、アレックス・ストゥレが話を聞きました。

※新型コロナウイルスの感染拡大リスクを考慮し、取材当日は編集部の高橋が現地入りし、神保、アレックスはリモートで取材に参加しました。

初対面でもリモート前提、社会が大きく前進した

高橋
コロナ以降、青野さんの生活にはどのような影響がありましたか?
青野
誤解を恐れずに言えば、僕自身は幸福度が高まったと感じているんですよね。

まずは家族と一緒にいられる時間が増えました。

今は18時には仕事を終えて家に帰り、子どもの勉強を手伝っています。ゆっくり時間をかけられるから、「あ、意外とここが分かってないぞ!」といったこまかな部分にも気づくようになりました。

青野慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ代表取締役社長。大阪大学卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、97年にサイボウズを設立。2005年より現職。18年より社長兼チームワーク総研所長。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など。社員のわがままを引き出し、組み合わせ、チーム力に変える方法を実践

高橋
ご家族との接し方が以前よりもていねいになったんですね。
青野
あとは、遠方への出張がなくなり移動時間が減ったことも大きいです。東京で仕事をして東京の自宅へ帰る毎日だから、早く帰れるんです。
高橋
社長となると全国への出張も多いですよね……。
青野
以前は人から「会ってください」と言われると、最初は対面しなきゃいけないという空気がありました。

今はオンライン会議への社会的コンセンサスが得られているから、「リモートでやりましょう」と言いやすくなった。これは大きな前進ですよね。

もう「テレワーク最高!」ですよ(笑)。

何を幸福だと感じるかは人それぞれ。「公平」と「幸福」は区別すべき

高橋
一方で、社内でテレワークができる職種とできない職種があることで、「不公平だからテレワーク自体をやめよう」と考える経営者も多いような気がします。

編集部の高橋団。この日は約1ヶ月ぶりに出社。オフィスの照明の付け方がわからず一瞬焦りました

青野
たしかに職種によっては取り組みが難しい現実もあると思います。

一方で世の中には、「公平にしないとみんなが不幸になってしまう」と考える人もいます。

でも本当にそうでしょうか? 実際の世の中はそうなっていません。「公平と幸福」は区別しなければいけないと思います。
高橋
それは、どういうことでしょうか。
青野
例えば、1つのホールケーキを3人で分ける場面を想像してみてください。公平に分けるのであれば3等分になりますよね。

ところがその3人を個別に見ていくと、事情はバラバラです。

A君はお腹が空いていなくて、B君はダイエット中、C君はとてもお腹が空いている。そんな状況だとしたら、ケーキはどう扱うべきだと思いますか?
高橋
全部C君にあげてもいいんじゃないでしょうか。
青野
ですよね。A君とB君にとっては、ケーキを分けてもらうことが「ありがた迷惑」になってしまうかもしれないんです。

その人が何を求めているのか、どうすれば幸福なのかは、確認しなければわかりません。これが公平と幸福を区別する考え方です。
高橋
従来は何も考えずに3等分にして渡していたものも、本当は個人の幸福を確認した上で、渡すか渡さないかも含めて考えていくべきなんですね。

今回で言えば、「テレワークをやりたいかどうか」確認した上で、続けるかどうか、実際に声を聞いてみることが大切ですね。
青野
パーソナライズですね。

一人ひとりのニーズを確認しながら応えていくということだと思います。

そうした個人のニーズを把握できていないから、「給料を上げたのに突然辞められてしまった」なんてことが起きるんです。
高橋
なるほど。でも、一人ひとりの声を聞くのって、すごく面倒じゃないですか?
青野
たしかに最初は面倒かもしれません。

でも、これが後々響いてくるんです。早い段階でわがままを聞いておいたほうが、組織にとってプラスだと思います。

人は「ばらついていて当たり前」だからチームが多様になる

神保
マネジメントに携わる人の中には、「個人のわがままを聞いていたら、生産性のばらつきが広がっていくのではないか」という懸念もあるように思います。

編集部の神保麻希。かれこれ半年ほど、出社していません。

青野
それは分かる気もします。

テレワークを選択する人が増えれば、一人ひとりの目の前でマネジメントすることはできなくなっていきますからね。

でも僕はそもそも、人は「ばらついていて当たり前」なんじゃないかと思うんです。

サイボウズには、ソフトウェアを作りたい人や売りたい人、プロモーションをやりたい人、サイボウズ式をやりたい人など、いろいろな人がいますよね。
神保
はい。
青野
明らかにばらついているし、その分だけ多様な人材がいます。だけど、それがいいんですよ。
神保
どういうことでしょうか?
青野
昔の日本なら、みんなが同じものをほしがっていました。
大きくて高品質なカラーテレビはまさに代表例。テレビをたくさん作って売れば儲かる「大量生産」の時代でした。

だから、画一的に同じような人を集めたほうが、マネジメントもやりやすかったんです。
神保
でも今はもう、テレビだけで儲かっている会社はありませんよね。
青野
はい。動画はスマホで見られるし、最新情報はSNSから得られます。

かつては予想もしなかった競合が現れている今は、変化し続ける多様なニーズに合わせて製品開発を続ける「多品種・小ロット」の時代です。

Appleは最近では時計を作っているけれど、もはやデバイス屋さんなのか音楽屋さんなのか時計屋さんなのか分からないですよね。

誰が誰と競合するか予測できない時代なので、バラバラな人たちを組み合わせ、柔軟に組み替えられる組織が強いんです。

思わぬ仕事に繋がるから、自分を語れる組織であるべき

アレックス
多様な人が交わってアイデアを出し合っていくという意味では、雑談が大切だとよく言われます。

でもテレワークでは、仕事以外の雑談がしづらいのも事実です。特に気持ちの部分も含めて。

編集部のアレックス・ストゥレ。最近イヤホンを新調しました

青野
どこまでが仕事で、どこからが仕事じゃないのか。その線引きが難しいですよね。

しかし、プライベートまで共有するといいことがあります。

サイボウズのグループウェアに「プロレス部」というスペースがあり、僕も入っているんですけど。

サイボウズのグループウェア上にある「プロレス部」スペース。1年に1回、お正月にみんなでプロレスを見に行きます。

アレックス
みんな、「青野さんはプロレス好きなんだ」と知ってますよね。
青野
これが実は大切なことなんです。

あるとき、某有名プロレス団体の社長が、商談でサイボウズ本社を訪れてくれたことがありました。

僕には事前にメンバーが共有してくれていたので、当日はその団体の最新Tシャツを着てお出迎えしたんです。

結果、商談は見事に成功。もちろん僕がTシャツを着ていたからという理由だけではないと思いますが(笑)。
アレックス
なるほど。
一見すると仕事にかかわらないと思うようなことでも、互いに知っておくことで仕事につながる場面もあるんですね。
青野
そうですね。

経営者やマネジャーは、「みんな自分の好きなことやわがまま語っていいんだよ」「多様な人がいる中で、組織を作るんだよ」というメッセージと共に積極的に発信していくべきでしょう。

自分のこだわりポイントは趣味でも何でも、発信しておくべきだと思います。

天龍さんと対談させていただいた上、本の帯まで書くという幸運。長年プロレスファンをやってきてよかったー。天龍さんは大好きなレスラーで、3年前の引退試合では両国国技館で号泣してました。本もとても面白いです! https://t.co/vJ4pNGhtFW

— 青野慶久/aono@cybozu (@aono) October 31, 2018
青野が「最も嬉しかった」と語るのは、偉大なプロレスラーである天龍源一郎さんとの対談。「本の帯まで書かせてもらったんです!」と取材当日も熱く語ってくれました。

相手との共感を省いたわがままは、単なるわがまま

高橋
経営者やマネジャーの立場で考えると、メンバーそれぞれの「個人のわがまま」を引き出すことにはどんな意味があるんでしょうか?
青野
自分が神様のように事業の未来を予想でき、「この戦略で必ず成功する」と言い切れるなら、個人のわがままを引き出す必要はありません。

でも僕には、そんな自信はないんです。
高橋
自信がない……。
青野
かつては事業に失敗しちゃったこともあるし、組織が崩壊しかけたこともあるし。

だから今は、みんなからわがままを引き出したほうが成功すると思っています。
高橋
経営者やマネジャーが、自分の範疇を超えた部分でアイデアを引き出す意味でも、メンバーのわがままを大事にしたほうがいいと。
青野
そうですね。

ただし、どんなわがままでも大事にするわけではありません。僕の判断基準は、理念に向かっているかどうか。

僕は、個人のわがままを実現できる人には「高い共感力」があると思っています。
青野
例えば「外回りのコーヒーを経費で出してほしい」はわがままですよね。

でも、「お客様のために活動できるよう、外回り中のカフェで仕事したい」ということだったら、「チームワークあふれる社会を創る」というサイボウズの理念に通じます。

単なるわがままではなく、理念に沿ったわがままなので、コーヒー代すら、会社の経費にしちゃいます。
高橋
組織の中でわがままを言うときにはまず、相手の理想をしっかり理解していることが必要ですね。
青野
はい。相手との共感を省いたわがままは、単なるわがままなんです。
高橋
そうした意味では、組織や上司の理想が見えない環境はきついですね。組織に良い変化を与えられるわがままを言えないので、働きにくさにもつながりそうです。
青野
今後はそれが問われると思います。

みんながオフィスにいないときにも、いかに理想を伝えられるかが問われる。

これからは、経営者やマネジャーが日頃から理想を伝えられているかどうかが分かれ道となって、求心力を維持できる会社と人が離れていく会社に二極化していってしまうのではないでしょうか。

「優秀かどうか」よりも「個性が生かせるかどうか」

神保
ここまでのお話から、経営者やマネジャーが「いろいろな個性があっていいんだ」という前提を持つことで、組織に新しい可能性をもたらしてくれるのだと感じました。

そうなると、「人の優秀さ」についての考え方も変わっていくような気がします。
青野
先日、テレビ東京の『カンブリア宮殿』に出演した際には、インタビュアーの村上龍さんから「自由に働けるようにしているのは優秀な人材をつなぎとめたいからでは?」と聞かれました。
青野
番組内でもお答えしましたが、僕はその感覚はないんです。いろいろな人がいて、いろいろな組み合わせができるからこそ組織は強い。

むしろ、画一的に「優秀な人」のイメージを決めて、同じような人ばかり採用するほうが怖い
ですよ。
神保
でも多くの会社では、みんなに同じような「優秀さ」を目指させようとしているのかもしれません。

新卒の中で誰か1人、ずば抜けた存在がいたら、「あの人を目指そう」というロールモデルにされがちです。
青野
僕たちは子どもの頃から、優秀さのイメージを刷り込まれているのかもしれませんね。

学校では「全教科の合計点が高い人が優秀」という定義がありました。

だけど世の中に出たら、合計点で争うことはしないじゃないですか。営業が得意な人にあえて開発をさせることは少ないと思います。
神保
一人で高い合計点を目指さなくても、チームで目指せばいいですもんね。
青野
そうですね。

会社としてはそれぞれの部門に得意領域を持つ人が入ってほしいし、突出した能力がなくても、後ろから応援することが上手な人もいます。そうなると、誰が優秀かなんて分からなくなってくるんですよね。

だから、経営者やマネジャーは一人ひとりが最大限の力を発揮できるように個人と向き合っていくべきだと思います。大切なのは一律の管理ではなく、一人ひとりと向き合えるかどうか。

そのためには、働きやすい環境を自分で選択できる制度があるといいですよね。テレワークを今よりもっと当たり前にしていくことも、その選択肢の1つだと思います。

企画:高橋団、神保麻希、アレックス・ストゥレ(サイボウズ) /執筆:多田 慎介/撮影:加藤甫

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執筆

ライター

多田 慎介

1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。

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撮影・イラスト

写真家

加藤 甫

独立前より日本各地のプロジェクトの撮影を住み込みで行う。現在は様々な媒体での撮影の他、アートプロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスなど中長期的なプロジェクトに企画段階から伴走する撮影を数多く担当している。

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編集

編集部

高橋団

2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。

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