サイボウズ株式会社

「がんばるな、ニッポン」って傲慢じゃないですか? ──サイボウズ青野に聞く「がんばる」が評価されなくなる理由

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 企業経営者
  • 働き方改革に興味がある人
  • 現代の働き方に悩んでいる会社員
  • 自己管理やストレス管理に関心がある人
  • サイボウズの活動に興味を持つ人
Point この記事を読んで得られる知識

記事は、サイボウズの代表である青野慶久氏が、同社のメッセージ『がんばるな、ニッポン』について語る内容です。このメッセージは、日本社会で長年価値とされてきた「がんばること」を再考することを促します。青野氏は、「がんばること」の一面である、困難に耐えることが必ずしも良い結果につながらないことを指摘します。現代の働き方では、「がんばり」が自己犠牲につながる場合があるため、それを判断する際に重要なポイントとして、"楽しんでいるか""成果につながっているか"の視点を挙げます。また、何のためにがんばるのかを見失わないための手段として、選択肢を増やすことの重要性とテクノロジーの活用を述べています。職場では、すべての社員が持続可能な形で働けるよう、情報共有の重要性と、本人の幸せを優先した働き方を推奨しています。そして、個々の耐えられる点が異なるため、チームワークを通じて得意分野を活かすことの意義を説いています。青野氏は、的確に柔軟な選択をし、個性を尊重することで、誰もが幸せに働ける社会の実現を目指すと締めくくっています。

Text AI要約の元文章
サイボウズ

そのがんばりは、何のため?

「がんばるな、ニッポン」って傲慢じゃないですか? ──サイボウズ青野に聞く「がんばる」が評価されなくなる理由

今年の3月からサイボウズが訴求してきた『がんばるな、ニッポン』のメッセージ。

ただ、「がんばるな」といきなり言われても、がんばることに価値を置いてきた人のなかには、「一体、どうすればいいの……?」「がんばることの何が悪い!」と戸惑いや不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで、どうしてこんな大胆なメッセージを打ち出すことになったのか、サイボウズ代表の青野慶久に聞いてみました。

「がんばる=困難に耐えて努力する」? 

流石
正直なところ、サイボウズのCMを観て、私は戸惑いました。
青野
流石さんはどのあたりに戸惑われたのでしょうか?  
流石
サイボウズが伝えたいメッセージはすごくわかるんです。テレワークという働き方の「選択肢」が増えることで、人々の暮らしがより豊かになることにも共感します。

ただ「がんばるな」という言葉があまりに強くて……「がんばるな、ニッポン」って傲慢じゃないですか?
青野
正直、傲慢だとは思います(笑)。実は、サイボウズ社内でも、そうした議論はありました。

でも、これからの時代に大切な選択肢だと思ったので、どうしても伝えたかったんです。 私たちも、今回の広告を出すにあたって、「がんばることって、どういうものなんだろう」と深く考えさせられました。

青野慶久(あおの・よしひさ)。1997年8月、愛媛県松山市でサイボウズを設立し、2005年4月に代表取締役社長に就任(現任)。ここ数年はメディア出演が増えつつあるが、できるだけオンライン出演で出張をがんばらないようにしている

流石
そうだったんですね。
青野
誤解しないでほしいのは、すべてのがんばりを否定したいわけじゃないんです。

「がんばる」の定義のひとつとして「あることをなしとげようと、困難に耐えて努力する」とあります。これが僕には引っかかりました。

「がんばる」の定義

  • (1)あることをなしとげようと、困難に耐えて努力する。
  • (2)自分の意見を強く押し通す。我を張る。
  • (3)ある場所を占めて、動こうとしない。
  • 流石
    具体的には、どこの部分に引っかかったんですか?
    青野
    「ぐっと耐えないといけない」の部分ですね。

    同じランニングでも、「うわっ、きつい」と険しい顔で苦しそうに走る人もいれば、笑顔で楽しそうに走る人もいるじゃないですか。同じことをしているはずなのに、この差はなんだろうかと。

    自分のがんばりがゴールに対して適切な「耐え」なのかどうか、一度落ち着いて考えてみることはすごく大切だと思います。

    客観的に自分を観察する「立ち止まる勇気」が必要

    青野
    たとえば、オフィスに9時に出社するなんていうルールも、まさにその典型じゃないでしょうか。

    本来は、何か目的があってそうしていたはずなのに、いつのまにか9時に来ることが目的になってしまっている。そのように手段が目的になってしまっていることが、社会には往々にしてあります。
    流石
    手段が目的化していないかどうか、自分ではなかなか気づきにくいものです。

    青野さんは、どうやってがんばることを判断しているのでしょう?
    青野
    僕は2つの切り口があると思っていて。それは「楽しめているかどうか」と「成果につながっているかどうか」です。

    「人生」は幸せになるものだと考えるなら、その手段を楽しめたほうがいいという理由がひとつ。それにせっかく耐えながら仕事しても、成果が伴わなかったら、そのがんばりは無意味になってしまいます。
    流石
    うーん、私はがんばらないで成功した人をあんまり見たことがなくて。

    「がんばらないと成功できない」と思っているから、振り返る余裕をなかなか持てないのかもしれません。
    青野
    まずは、立ち止まる習慣を意識することだと思うんです。
    流石
    ハイテンションになってしまうと、なかなか止まらなくなりますもんね。
    青野
    そうなんですよ。でも、耐え続けていると、気づかぬ間にそのストレスが蓄積されて、いきなり倒れてしまう人がいます。

    うまく自分自身を乗りこなすためにも、立ち止まるのは必要な力ではないでしょうか。

    すべての「がんばり」で結果が必ず出るのは、ヒーローものの世界だけ

    流石
    よく考えたら、目的に沿ってがんばるのって当たり前のことですよね。

    それなのに、どうして「がんばれば結果に結びつく」と過信しちゃうのでしょう?
    青野
    子どものときにテレビやアニメでよく見る、スーパーヒーローの影響があるかもしれません。

    彼らは、がんばった分だけ成果が出るじゃないですか。「がんばろう」という気持ちだけで、一発逆転で敵キャラに勝てちゃう。でも現実で「そうはならないじゃん!」って(笑)
    流石
    そんな超人的な力、都合よく出せませんよね(笑)
    青野
    ただ、僕もがんばることが好きなので、がんばらないことには、いつも葛藤がありますけどね。
    流石
    えっ、そうなんですか?
    青野
    「100%がんばっている自分」って好きなんですよ。サイボウズを立ち上げたときは、夜中の3時でも「まだまだ働けるぞ!」と寝ずに仕事していましたから。
    流石
    まさに、ワーカーホリックの状態ですね。
    青野
    それである日、玄関に倒れ込んでしまって……。意識はあるのに身体が動かなくて、「うわ、これが過労死ってやつか」と死を覚悟しました。その翌朝、生きていたからよかったんですけど。
    流石
    本当に、ご無事でよかったです……。
    青野
    その時は「ついに自分の絶頂期が来た!」と思って、無限のパワーを手にしたような勘違いをしていて。

    今だったら、あのときの自分に「お前、普通の人間だから、寝ておかないと大変だよ」って言います(笑)

    スーパーヒーローになることは諦めた

    流石
    社長という立場だからこそ、「がんばらなくちゃ」と思うことは多々ありそうです。
    青野
    そうですね。2010年に1回目の育休を取ったときも「社長なんだから、育児中もがんばって仕事をリードして、問題解決しなければいけない」と思っていて。

    ただ、育児に手一杯で、会社で起きるトラブルに割く時間がなく、「自分って本当にダメだわ……」と落ち込んだんです。
    流石
    そのとき、どう考えたんですか? 
    青野
    「スーパーヒーローになることはあきらめよう」と思いました。自分の理想にこだわるよりも、メンバーが主体的に解決しているなら、よいリーダーになれているんじゃないかって。
    流石
    すぐに、そうやって気持ちを切り替えることができたんですね。
    青野
    いやいや。長年染み付いた考えを、そんな簡単にパッとは切り替えられませんよ。未だに何年もかけて「がんばらない訓練」をしているんです。
    流石
    そっか、少しずつでいいんですよね……。とはいえ、がんばらないといけないときもありますよね?  
    青野
    そうですね。そこで最近では、ツールの力を借りるようにしています。

    たとえば、何か任せたい仕事が出てきたら、グループウェア上の「青野慶久からの無茶ぶり」というスペースで、適任と思われる人に助け舟を求めているんです。

    サイボウズのグループウェア「Garoon」内にある「青野慶久からの無茶ぶり」スペース。グループメンションを活用することによって、一度のメッセージで担当チーム全員に直接連絡できる

    流石
    助け舟、ですか? 
    青野
    はい。ときどきわたしに営業案件のご紹介をいただくことがあるのですが、 そのときは営業の現場チームに直接お願いをしています。
    流石
    でも、それって営業現場をがんばらせることになりませんか?

    青野さんから依頼が来たタイミングで、現場でトラブルが発生していたり、ちょうど案件が重なっていたりする状況も考えられると思います。

    そんな時に社長から無茶ぶりが飛んできたら、かなりの負担になると思うのですが……。
    青野
    そうならないことがグループウェアの強みかもしれません。

    社員全員に情報が公開されているからこそ、対応可能な有志が自ら手を挙げて仕事を巻き取ってくれるんです。情報が公開されている分、周りの人の負担や仕事量が見えやすい環境があるのだと思います。
    流石
    たしかに。これはメールと違って、すべてのやりとりが共有できるグループウェアならではの良さかもしれませんね。

    やりとりが全社に公開されているので、依頼したチームがいそがしかったり、案件の担当外でも、適切なチームにつないでもらえる

    何を「圧倒的優先」にするかを決める

    流石
    ツール以外で、ほかに工夫されていることがあれば知りたいです。 
    青野
    そうですね、あとは単純にあきらめることも大事だと思います。できないものはできないと割り切る。
    流石
    なるほど。青野さんはあきらめるときに悔しくなったりしないんですか? 
    青野
    うーん、ありますよ。自分のあきらめたことをする人を見たときは、心の中で葛藤が常に起こりますね。

    ただ、自分の中で「優先順位」が決まっているので、それに当てはまらないものは「あきらめよう」と反射的に考えられるようになりました。
    流石
    優先順位で決めるとは? 
    青野
    「これはがんばらないぞ」を決めるのは「何を優先するか」の話だと思っていて。

    一生のうちで、欲しいものすべては手に入れられません。何かを成し遂げた人でも、何かを諦めてきているはずです。
    流石
    そうですね……。その全部が好きで、やりたいことだったとしても。
    青野
    はい。だからこそ何を取って、何を残すかと考えていく必要があります。
    流石
    ちなみに、青野さんの「がんばらないこと」って何ですか? 
    青野
    たくさんあります。「夜の会食」や「ゴルフ」とか。優先順位で考えたら、それはがんばらなくていいかなと。
    流石
    なるほど。ちなみに、社会人経験の少ない新入社員だと、がんばらないことを決めるのは難しそうなイメージですが。
    青野
    何を優先するかは、目の前の出来事からどんどん学べると思います。一番手本になりやすいのは上司でしょうか。

    それに何かを優先してがんばるとき、「今月はこうする」「今日はこれをしよう」と期限を短くしていけば“自分のこだわりの軸”を持ちやすくなるはずです。
    流石
    短時間に取捨選択するトレーニングにもなりますね。
    青野
    はい。それに、いったん優先順位を決めても、その順番は入れ替えてもいいんです。

    自分という存在は進化しながら、変化もしていくものですから。僕も何を優先するかは、常に自問自答しています。

    「不幸にがんばらせる」と、会社から人が離れていく

    流石
    世の中には、「がんばり」を強要しない会社も出てきているんだなと思いました。
    青野
    みんなが耐えながら働くのではなく、耐えなくても利益が出るビジネスモデルにすればいいと思うんです。

    「労働時間に比例して利益が出るビジネスモデル」から脱け出さなきゃいけません。
    流石
    そのためにもテクノロジーを使うんですね。
    青野
    はい。それに「人手不足」と言われる世の中で、人を不幸にさせるようながんばらせ方をしていると、会社から人が離れていって、経営者の理想から遠ざかってしまうはずです。
    流石
    不幸にさせるようながんばらせ方、ですか? 
    青野
    大量採用した人たちを一斉にがんばらせてみて、心が折れた人は辞めてもらうような方法のことです。

    そんな「焼畑農業」のような仕組みを今の時代にすれば、人が離れていって持続しないでしょう。
    流石
    昔と同じやり方では通用しないんですね。
    青野
    そう思います。そもそも、今の社会は選択肢が少ないからこそ、がんばるしかない場面が多くなっています。選択肢が増えれば、耐える必要がなくなるんです。
    流石
    なるほど。ちなみに、リーダーが選択肢を増やす気がない場合、がんばりすぎている組織で働く人は、どうすればいいのでしょう?
    青野
    一度立ち止まって「そもそも、これは何のための手段なのか?」と話し合える環境にできるといいですよね。

    それに「その組織から去る」という手段も常に残されていると思いますよ。

    わがままを言えば、誰も我慢しない社会を創っていける

    流石
    最初こそ戸惑いましたが、青野さんの考えがわかったら「自分のがんばり」を改めて考えてみようと思いました。

    ただ、「がんばらない」って強者の理論のような気もして……。

    たとえばベビーシッターに子育てをお願いしたくても金銭的な理由でできないとか、がんばる以外の選択肢がないケースはどうしたらいいのでしょう? 
    青野
    ケースバイケースですが、考えられることは2つあります。

    1つは情報を共有することです。たとえば「困っていることは区役所に行けば頼れる制度がある」という情報を知れば、がんばる以外の方法に気づけるかもしれません。

    もう1つは、社会全体がもっとがんばらないことで、困ったときに手を差し伸べられる余裕を持てる人が増えればいいなと。
    流石
    なるほど。
    青野
    それに「耐えることが苦しい」と声をあげるのがダメなわけじゃないんです。むしろ、わがままを言ったほうがいい。

    自分には耐えられないことでも、それがほかの人にとっては我慢じゃないことがあるからです。
    流石
    「自分はこんなに嫌いなことが、どうしてあなたはそんな楽しそうにできるの?」と驚くときがありますね。
    青野
    まさに、そんなふうに一人ひとり耐えられるポイントが違うからこそ、それを組み合わせていけばいい。

    「ピッチャーをやりたい」と言う人がいたら、キャッチャーをやりたい人としてはラッキーですよね。その結果、お互いに好きなことができれば、幸福度も生産性も上がるはずです。
    流石
    「苦手なことをやれ」と言われることほど、苦痛なことってないですもんね。
    青野
    「我慢は美徳」ではなく、むしろ、わがままを言うようにすれば、誰も我慢しなくていい社会を創れるはずです。

    僕たちは、一部の人たちだけが耐えて、歯を食いしばっている状況ではなく、誰も我慢せずに一人ひとりの個性がうまく組み合わさった「チームワークあふれる社会」を創っていきたいんです。

    文・流石香織/編集・松尾奈々絵(ノオト)/撮影・栃久保誠/企画・熱田優香/今井豪人

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    • 青野慶久

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    執筆

    ライター

    流石 香織

    1987年生まれ、東京都在住。2014年からフリーライターとして活動。ビジネスやコミュニケーション、美容などのあらゆるテーマで、Web記事や書籍の執筆に携わる。

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    撮影・イラスト

    写真家

    栃久保 誠

    フリーランスフォトグラファー。人を撮ることを得意とし様々なジャンルの撮影、映像制作に携わる。旅好き。

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    編集

    ライター

    松尾 奈々絵

    コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。担当ジャンルは働き方や街紹介メディアなど。

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