サイボウズ株式会社

評価から離れてただ共にいる時間をつくる。光明寺・松本紹圭さんに聞く、おそれに強いチームの生み出し方

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • ビジネスマン
  • 組織で働く人々
  • リーダーシップに興味がある人
  • 自己成長を追求する人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読むことで、現代のビジネス環境において、失敗を恐れることの多い人々がどのようにしてその恐れを克服し、強いチームを築くかについての視点を得ることができます。松本紹圭さんのインタビューを通じて、人は年齢を重ねるにつれ「自我」が芽生え、自分と他者の視線を気にするようになり、その結果、失敗を恐れるようになるという心理的な背景が解説されます。この恐れと上手に付き合うためには、やりたいことや夢を必ずしも実現しなければならないものとは考えず、現実の中で少しずつ行動していくことが重要であると指摘されています。自分の思い込みから生まれる恐れを外部に共有することで、その力を弱め、現実とのギャップを埋めることができるといいます。また、常に新しい人間関係を築くことで、他者の価値観に触れ、自分の思い込みを見直す機会を得られることも示唆されています。さらに、チーム内では、リーダーが自らの弱点を共有することで、メンバーが不安を自由に共有できる環境を作ることが効果的であると述べられています。最後に、仕事の成果や評価から一歩離れ、一緒に過ごす時間を大切にすることで、おそれのないチームを形成する方法の一つとして、日常的な活動を通じて共に過ごす時間を持つことの重要性が語られています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

評価から離れてただ共にいる時間をつくる。光明寺・松本紹圭さんに聞く、おそれに強いチームの生み出し方

「失敗してもいいから、やってみて」

先行きの見えなさがつのる、今のビジネス環境。日本でもこの数年、“イノベーション”や“チャレンジ”を意識し、具体的な取り組みを進める企業がかなり増えたように感じます。

とはいえ、誰だって「失敗するのはこわい」。まして仕事にかかわることとなると、自分のキャリアへの影響を考えてしまい、新しい挑戦に踏み出しきれない人も多いでしょう。

そうした「おそれ」を克服するヒントが、長く人の心と向き合い続けてきた仏教にあるのではないか。光明寺(東京神谷町)の僧侶である松本紹圭さんにお話を伺いました。

松本紹圭(まつもと・しょうけい)さん。1979年北海道生まれ。現代仏教僧(Contemporary Buddhist)。世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leader、Global Future Council Member。武蔵野大学客員准教授。東京大学文学部哲学科卒。2010年、ロータリー財団国際親善奨学生としてインド商科大学院(ISB)でMBA取得。2012年、住職向けのお寺経営塾「未来の住職塾」を開講し、8年間で700名以上の宗派や地域を超えた僧侶の卒業生を輩出。著書多数、『お坊さんが教えるこころが整う掃除の本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は世界15ヶ国語以上で翻訳出版。「松本紹圭の方丈庵」noteマガジン発行。「Temple Morning Radio」ポッドキャストは平日毎朝6時に配信中

「他者からどう見られるか」の視点がおそれを生む?

佐々木 将史
今日のテーマは、仕事における「おそれ」との付き合い方なのですが、それを考える上で、最初にお聞きしたいことがあるんです。
松本 紹圭
はい、なんでしょう。
佐々木 将史
おそれの感情を抱くことは「そもそも人として避けられないのでは?」と思っていて。

たとえば、私には4人の子どもがいます。彼らを育てるなかで感じるのが、幼い頃は色んなことにためらいなくチャレンジしていたのに、成長していくなかで失敗をおそれる回数が増えているってことなんです。

どうしてだろうと。
松本 紹圭
おもしろい問いですね。たしかに、赤ちゃんのとる行動からは、失敗も成功も感じられません。

その変化にはおそらく、「自我」の確立が大きく関係しているのではないでしょうか。
佐々木 将史
自我ですか……?
松本 紹圭
「私とはこういうものだ」「こうありたい」と考えるようになることですね。

自我が確立すると、“自分”と“他者”をわけてとらえられるようになります。言い換えると「人からどう見られるか」という視点が獲得されるんです。

そうすると、自らが思い描くイメージと、他者から見られている姿との“ズレ”が気になってきます。
佐々木 将史
その結果、ありたい姿から外れることにもどかしさやおそろしさを感じてしまう、と。
松本 紹圭
そうなんです。でも、ありたい姿も他者からの視線をイメージすることも、自分自身が作り出したものでしかないんです。

実際に他者になって自分を見ることって、『君の名は』のようなことが起きない限りはできませんよね(笑)。

おそれについて考えるときに、“ひとり相撲”になっていないかは見直すといいと思います。

やりたいことや夢、目標は呪いにもなり得る

佐々木 将史
会社組織で働く上で、おそれを感じることも多いと思うんです。
松本 紹圭
たしかに、働いている方と話すと、「わたしまだ会社になにも貢献できてないんですけど、このままいてもいいんでしょうか」「価値提供できているんですかね」と気にする人が多いですね。
佐々木 将史
役に立てている実感がないと、不安になる気持ちわかります……。
松本 紹圭
それは労働市場にある評価基準が、自分の中に強くすり込まれてしまっているのかもしれません。

たとえば就職活動だと、そこで求められる人材や価値を把握して、必要なスキルを磨き、アピールすることで内定を得ていきますよね。
佐々木 将史
たしかに、そうやって入った会社でなにかしら価値を提供できないと、自分は不要だと思いやすいですね。
松本 紹圭
幼少期から社会人にいたるまで「やりたいことや夢を持て、目標に向かってがんばれ」と言われ続けることで、すり込まれている感覚もあると思います。

やりたいことや夢を、今は達成していないものととらえると、「自分には足りないものがある」感覚が生み出されます。それは、ある種の“呪い”にもなり得ると思うんです。
佐々木 将史
やりたいことがない自分をダメだと思ってしまったり、夢が実現できていないことを失敗ととらえて現状に不安を感じてしまったりしてしまう、と。
松本 紹圭
仮に目標を達成できたとしても、その状態を維持できなくなることに不安を感じることもあるでしょう。

でもそれらが実現できなくても失敗ではない
と思うんです。
佐々木 将史
失敗ではない……?
松本 紹圭
そもそも、やりたいことや夢、目標は絶対に実現しなければいけないものではないですよね。

たとえば、佐々木さんが5年後に「こうなってたらいい」という理想を描いたとします。実際に5年後の自分が、以前と同じ理想を描いていると思いますか?
佐々木 将史
5年あったら、理想に対する考え方やそもそも求めるものが変わる気がします。
松本 紹圭
新しく視野が開けたり、全然別のことができるようになっていたりするかもしれないですよね。

つまり、今掲げている理想は、現時点で自分が決めたものに過ぎないわけです。
佐々木 将史
実現しなければ幸せになれないようなものではないんですね。
松本 紹圭
そうなんです。仏教の教えでは、どこかに絶対的な幸せがあるから、それを目指そうとは言われません。そうではなく、1人ひとりが「より苦しまない状態」を考えていくことを大切にしているんです。

やりたいことや夢、目標をモチベーションのひとつにすることはあっていい。それらを実現しようとする行為自体にやりがいを感じることもあるはずです。

ただ、必ず実現しなければいけないと考えるとおそれを生む場合があります。とらわれ過ぎないようにすることが大切です。

自分の外に共有することで不安の肥大化をさける

佐々木 将史
実際に職場で仕事をするときに、「失敗したくない」という気持ちとどう付き合っていけばいいのでしょうか?
松本 紹圭
不安を実際に口に出すことですね。話しやすい人に共有するところからはじめるとか。

自分の中だけで考えていると、過去の失敗パターンをあてはめて、どんどん不安を肥大化させて「モンスター」を生み出してしまいます。
佐々木 将史
サイボウズ社長の青野も、自分の思い込みや固定観念をモンスターと呼んでいるんです!

自分が当たり前だと思っていても、他者にとってはそうじゃないことがたくさんある。だからこそモンスターをチームに共有して、個人の認識をとらえなおしていけると考えています。

今年のテーマは「モンスターへの挑戦状」。ここでのモンスターとは、実在するものではなく、私たちが頭の中で作り出している思い込みを指します。会場ではみなさんのモンスターを募集中です。 pic.twitter.com/xbItbxRyZF

— 青野慶久/aono@cybozu (@aono) December 5, 2019
松本 紹圭
いいですね。自分の外に不安を出すことで、モンスターの力は弱まっていきます。なぜなら肥大化するイメージを「現実にきちんとつないでいく」ことができるからです。
佐々木 将史
自分の思い込みであるモンスターとうまく付き合っていくために、他にできることはあるのでしょうか?
松本 紹圭
常に自分を「新しい人間関係」のなかに置くのもいいと思います。そうすると違う価値観に出会ったり、自分のなかにある思い込みに気づくきっかけになるんです。
佐々木 将史
はじめましての人だけがいる場所に飛び込まなくても、新しい人間関係が生まれる環境であればいいのですね。

他部署の人とお互いの仕事について情報交換してみたり、社外の人が現在のチームに出入りしたりすることで関係性が変わる場合もあるのかなと。
松本 紹圭
そうですね。逆にどんなにいい人間関係があったとしても、固定化されると「しがらみ」に変わってしまう場合があります。

自分の状態を安定させるには、常に動き続けた方がいいんです。自分自身を外に開いて移り変わっていく。その揺らぎが既存の関係のなかでも変化を生んでいきます。

仕事の成果や評価から離れて“ただ共にある”環境をつくる

佐々木 将史
おそれを共有し合えるチームをつくるためにできることはなんでしょうか?
松本 紹圭
リーダーが率先して「弱さ」を共有することが重要だと思います。

リーダーが自分の不安や苦手をさらけ出すことで、メンバーも「誰しも完璧じゃないんだ」と思えるようになるのではないでしょうか。

その結果「わたしも不安を共有してみようかな」と連鎖が生まれてくるはずです。
佐々木 将史
なるほど。失敗をおそれている人がチームにいるときにメンバーとしてできることはありますか?
松本 紹圭
まずは「ただ共にある」ことですかね。仕事の成果や評価などから離れて、ただ一緒にいるだけの時間を作ってみるのがいいかもしれません。

その人が抱えている不安やおそれと付き合っていくには、まず本人が気づいて自分自身で行動を起こしていくしかありません。

決して誰かが代わってあげることはできない。そのためにも、まずは自ら言葉にしてもらうしかない
んですね。

それがしやすい環境を作り、話をしてくれたら、ただ聞く。それが大切だと思います。
佐々木 将史
仕事の成果や評価から離れて、ただ一緒にいる環境……。大切さはわかるのですが、実際に実現するのが難しそうです。
松本 紹圭
私が手応えを感じているのは「掃除」ですね。朝にみんなで、一緒に掃除をする。

掃除は、そこに上下のヒエラルキーが発生しづらく、人とも比較しにくいからです。出せる価値とか、アウトプットをさほど気にしなくて済むんですよ。
松本 紹圭
あと、少し前まで会社の中で機能していたなと感じるのは喫煙所です。複雑な理由を抜きに、ただ一緒にいることができる。「隣りの人よりうまく吸えてるだろうか」とか考えないでしょう(笑)。
佐々木 将史
そうですね(笑)。
松本 紹圭
ただ、今は健康上の理由からおすすめすることはできないので、それに代わるものを見つける必要はあります。

こう考えると、リアルオフィスは「ただ一緒にいるための口実」が意識せずとも作りやすい環境だったのかもしれませんね。
佐々木 将史
たしかに。テレワークが進んでいくと、リアルオフィスのような環境を再現するにはより工夫が必要ですね。
松本 紹圭
そうですね。テレワークになると、成果物以外のものがより見えづらくなる。

すると生産性の物差しから離れるのが難しくなって、おそれが生まれやすい状況になっているのかもしれません。
佐々木 将史
だからこそ不安を共有してみることが大切になってくるのですね。
松本 紹圭
はい。時間はかかるかもしれませんが、少しづつでも焦らず、おそれや不安と付き合っていくことを大切にしてほしいと思っています。
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企画・編集:木村和博/執筆:佐々木将史/イラスト:あさののい

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執筆

ライター

佐々木 将史

保育・幼児教育の出版社に10年勤め、’17に滋賀へ移住。保育・福祉をベースに、さまざまな領域での情報発信、広報、経営者の専属編集業、インタビューギフトサービスの運営などを行う。保育士で4児(双子×双子)の父。

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撮影・イラスト

イラストレーター

あさののい

千葉県出身、2012年から岡山県に移住。書籍やチラシ、webなどさまざまな媒体でマンガやイラストを描いている。岡山県奈義町での生活を綴ったマンガ「こんにちは、なぎさん」をwebにて更新中。

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編集

ライター

木村和博

フリーランスの編集者・ライター。

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