自分たちが本当にいいと思うものを、できる限り何かを犠牲にすることなく、嘘をつかず正直につくり、届けていきたい。
頭ではそう願っていても、「流行に乗らないと」「売れるものをつくらないと」など、いろんな事情と心情が絡まり合って、理想通りかたちしていくのは難しいようにも思います。
すこやかなものづくりをして、健康的に事業を回していくためには?
「健康的な消費のために」という姿勢のもと、買う人もつくる人も売る人も、ブランドに関わる人が幸せであれるヘルシーな服と仕組みをつくる、アパレルブランドfoufouのマール・コウサカさん。
「くらし、気持ち、ピカピカ」をモットーに、大阪の町工場で、残業をせず家庭生活も大切に、高品質でちょっとユニークな商品を開発する木村石鹸工業株式会社(以下、木村石鹸)の木村祥一郎さん。
服と石鹸。商品をつくり届けるおふたりは「すこやかなものづくりと事業」をどうやってかたちにしているのでしょうか。オンラインでつないだ画面越しに、語り合ってもらいました。
自分たちがファンでいられるものをつくる
今日はおふたりに「すこやかなものづくりと事業」についてお聞きしていきます。
さっそくですが、それぞれが考える“いいもの”をつくるために、意識していることはありますか?
僕らがつくりたいのは、ほどよくおしゃれで、質が良くて、しかも手に届く価格。まとう人の価値観にフィットする、日常を楽しく揺らすような服です。
マール・コウサカさん。1990年生まれ。東京都出身。大学卒業後、文化服装学院のII部服飾科(夜間)に入学。2016年、在学中に「foufou(フーフー)」を立ち上げる。2020年9月に初の著書となる『すこやかな服』(晶文社)を上梓
foufouのコンセプト「健康的な消費のために」に通じますね。
そのために、自分の「こだわり」にこだわらないことを意識しています。つまりこだわらないことを決めるんです。
foufouの服は1人でつくっているわけではありません。どちらかと言うとバンドに近くて、デモテープを渡してメンバーにベースラインを決めてもらう感じです。
一人でやっていても、いつか行き詰まってしまうと思っているので、たとえ自分のこだわりをひっくり返したとしても、常にfoufouを拡張していけるものづくりのかたちを探し続けていますね。
foufouの人気シリーズ「THE DRESS」。写真はgrand fond blanc #03(グランフォンブラン)
5年前に自社ブランドを始めて、製造から販売までの責任を全部自分たちで取る必要性が出てきたときに、1つ決めたことがあるんです。
それは、つくり手である自分たちが愛着を持って使い続けられるものをつくることです。たとえ結果が出なかったとしても、自分たちが最後までその商品のファンであろうと。
木村祥一郎(きむら・しょういちろう)さん。1972年生まれ。1995年大学時代の仲間数名とITベンチャー企業を立ち上げ。以来18年間、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月家業である木村石鹸工業株式会社へ。2016年9月、4代目社長に就任。石鹸を現代的にデザインした自社ブランド商品を展開
そのために僕がしていることは、失敗を恐れずものづくりができる環境をつくることです。
というのも、長い間OEM(受託製造)だけをやっていたので、メーカーでありながら、自分たちでものをつくることに慣れていなくて、リスクや失敗を恐れていたんです。
だから、失敗してもいい、けれどつくることから逃げない。マーケティングありきではなく、自分たちが使いたいものを自分たちで生み出す。ここ5年間は、そういう文化をつくることに力を入れてきたつもりです。
目標は売上の数字ではなく「自分たちがどうありたいか」
たとえば、新しい商品を開発するとき、つくりたい人が他部署に直接掛け合って熱意を伝えて、やりたかったらつくっていいことにしています。
以前は、営業部から開発部に「依頼書」を出して社内で審査をしていたんですが、その仕組みを変えました。
2020年12月には新卒2,3年目メンバーがボディスクラブ「goomoo」を開発。クラウドファウンディングも初日に目標を達成していました。ちなみに、当初開発メンバーが立てた販売目標は5つだったとか......
あとは、会社として売上高を第一の目標として掲げるのをやめました。
真面目な会社なので、僕が数字の目標を立てるとみんな必死に追いかけるんですが、足りない分を無理やりつくり上げて達成をしたときに、その中身に対して、本当にこれでいいのかな? と思うようになって。
数字の魔力にとらわられすぎてしまうのは危険だと思ったので、昨年から、会社の目標を売上の数字ではなく、自分たちがどうありたいかという「状態」に変えたんです。
すごくよくわかります。社会や個人に対して「自分たちがどうありたいか」を考えていかないとブレていって、芯がなくなっちゃう。
僕らは一度も売上の数字目標を設定したことがないし、前年比で一喜一憂することもなくて。目先の売上を取るためにセールや広告のような小手先のドーピング的な施策を打つ「数字とのレース」はしません。
僕は最初からその姿勢でやっていたので、チームも混乱することはないんですが、木村さんのように途中で方針を変えた場合、現場をどう動かしていったんですか?
正直、現場はまだ混乱しています。特に営業は売上目標がないのは難しい。
そこで、あわせて評価制度も変えました。社員それぞれが自ら目標を決めて、自分が提供する価値に見合った給与を自己申告するようにしたんです。
会社は投資家のような感覚で、結果ではなく、その人の過去の実績や想い、人柄を総合的に見て判断して、未来に対する提案にお金を払います。
そうした評価制度の下、自らが立てた目標の中に売上数値を入れてくる社員もいます。
会社全体では数字は追わないけれど、追いたい社員は数字を追っているかたちですね。
利益の範囲内で、損得を忘れさせる
売上の数字目標がないということは、数字はまったく気にされないんでしょうか?
いや、数字はめちゃくちゃ気にします。売りたいし売れたい。
というのも僕は、服をつくることはある意味、加害者になることだと思っているんです。
そう。1つは環境に対してです。素材になる木を1本切るとか、つくり始めた段階で環境に影響を与えているので、無駄な廃棄は出したくない。つまり、つくったものはちゃんと売りきりたい。長く時間がかかってもちゃんと続けていれば売れていきます。
もう1つは、職人さんやスタッフ、関わる人に対してです。僕がつくりたい服を一緒につくってもらっているわけなので、成果というかたちでちゃんと返したい。だから、売れなくてもいいとはまったく思ってなくて、1着1着、1人1人の「1」という数字は常に気にかけています。
数字は気にするけれど、追わないし、追われない。絶妙なバランスなんですが。
マールさんの本『すこやかな服』を読ませてもらって、合理性と非合理性のバランスをものすごく考えていらっしゃるなあと感動しました。
会社では、数字を見て合理的な判断をする方がわかりやすいんですが、中にいるのは人ですからね。合理的な判断の積み重ねだけでは仕事は面白くならない。
非合理な選択をすることも大事だと思っているんです。
合理的なものと非合理的なものを選択する、そのバランスはどう保っているのですか?
内側で仕組みをつくってしっかり利益を出して、外側はロマンチックに見せて損得を忘れさせる。つまり「ロマンとそろばんのバランス」を取る。
これは最近、クラシコムの青木さんとお話してその通りだなと腑に落ちたことなんですが、好きなブランドやお店で買い物をするとき、人って損得を忘れるじゃないですか? でも商売をしている自分たちは完全に損得を忘れることはできない。
だから、仕組みをつくってちゃんと利益を出した上で、一見無駄に思えるようなことをして、損得を忘れるような体験を提供していく。無理をすることなく、利益の範囲内で、お客さんに還元することが大切だと思ってます。
なるほどなあ、その通りですね。非合理的なことでも、全体から見たら、ちゃんと筋が通っていることってありますよね。
合理性を追わないところに、オリジナリティが生まれる
そう思います。だから僕はむしろ、非合理的なハプニングを待っていますね。なぜなら、合理的なやり方を積み重ねていけば、誰にでも真似できるものになってしまうから。
ハプニングが起きて合理的には解釈できない方に進めば、思わぬ出会いがあったり、思わぬところにたどり着いたり、オリジナリティが生まれていく。そういう、自分では予想も解釈もしきれないことの積み重ねがブランドをつくっていくと思っています。
だから何かを判断するとき、僕は合理性よりも、自分がワクワクするか、現場が盛り上がるかを考えます。
自分が企んでいることで、まずは社内を驚かせたいんですよね。だから、心が踊ることを思いついても雑談などでもあまり話さないようにしています。
考えていることを小出しにすると、然るべきタイミングで発表したときの盛り上がりが小さくなるじゃないですか!
それってすごくもったいないと思うんです。社内を沸かせることができれば、お客さんも沸かせることができると思うので。
ありますね。たとえば、トレンドを一切無視して生まれた商品があります。
「12/JU-NI」というシャンプーは開発者自身がほしいものを5年かけてつくりました。
シャンプーって薬事法で言えることが制限されているんです。だから、普通は「ノンシリコン」「ボタニカル」などアピールできる流行の要素を先に決めてから処方を組むんです。
でも、このシャンプーはただひたすら開発者がほしいものをつくった。そしたら、語れるものが一切ない製品ができてしまって(笑)。
既存の枠組みや言葉で語るのが難しくなってしまったんですね。
はい。だから正直、最初は売れるか心配でした(笑)。
ところが、今の流行、王道やマーケティング要素は一切排除して、「髪に本当にいいこと」だけを追求したことに、この商品だけのストーリーが生まれたんですね。
12/JU-NIのクラウドファウンディングでは750人を超える方からの支援が集まりました
ワクワクすることや自分たちが本気でほしいもの、非合理な選択をすることで、foufouだけのオリジナリティ、木村石鹸だけのユニークさが生まれるんですね。
大ヒットは狙わず、シンプルに着実に長く成果を上げていく
マールさんの本を読んでいてハッとさせられたのが、「セールをしない」ということ。
「定価で買う人を大事にするため」だとおっしゃっていて、反省すると同時に勇気付けられました。
僕はできるだけ商売をシンプルにしたいと思っています。その基本姿勢の一つが「服屋であり続ける。いろんなものに手を出さない」。しかもセールはしない。
セールって、早い段階で定価で買ってくれたお客さんが損をする仕組みだと思っていて。僕らは新作を待ち望んで買ってくれたお客さんを大切にしたい。ただそれだけのことなんです。
一度セールをやってしまうと、その売上を超えていくために、またセールをしないといけなくなりますもんね。
それから、「買うという選択肢を一番最後に持ってきてほしい」というのもすごいなと思いました。
セールと一緒で単純に、衝動買いの人の「1」とファンでいてくれる人の「1」が同じように結果に出ちゃうのが怖いんですよね。
セールや衝動で売れてしまったものを来年どう超えていくか。それこそセールや広告を打ってドーピングするしかない。
僕は怖がりなんで、手堅く、一段一段を登っていきたいんです。わかりやすいシンプルな仕組みの中で、できるだけ細く、着実に利益を出していく。ひたすらそれを積み重ねているだけです。
うちもここ数年は、大ヒットを狙うなと言っています。
爆発的なヒットが生まれて売上が上がったとしても、翌年0になったら、その分穴埋めをしないといけない思考になってしまう。
打ち上げ花火的なものではなく、5年、10年、細く長く使い続けてもらえるものをつくろう。そういう姿勢でやっています。
同じです。僕は卸売もしないしセールもしないので、業界において“異色”“新しい”と言われるんですが、逆に“古い”んだと思います。
要は、シンプルに自分の手元から届けているだけなんです。昔からのシンプルな商売のやり方を模倣すると、新しく見えるんだなあと感じています。
卸売りをしていないfoufouはポップアップを出すのが難しいため、一軒家などを借りて試着できる機会を設けています。これまでにないfoufouならではのユニークな取り組みのひとつです
変わりゆく中で、ずっと変わらない芯を保ち続ける
すこやかで正直なものづくりや仕組みづくりをされているおふたりですが、そのことを意識するきっかけはあったのでしょうか?
単純に僕が消費者として、今のアパレルの商売のやり方がヘルシーじゃないなあと思ったんですよね。安価な海外で製作して国内工場は縮小、前倒しで行われるセール、働きやすいとは言えない労働環境。本当にそのやり方しかないの? って。
インターネットを通して、nutteのように縫製職人さんともつながれて、BASEやSTORESのようにお店も開けるようになった。
小さくても自分の手元から届けていくやり方で、もっとヘルシーなものづくりとお店ができる。そう思って始めて、今も変わらずにやっているだけなんです。
nutteではプロの職人に縫製を依頼することができます。インターネットを通じたサービスが、個人のものづくりの幅を広げています
「僕が」というよりは「会社が」そうだったんですよね。今でこそ「ワークライフバランス」と言われますが、うちの会社は昔からずっと大事にしていて。仕事の上に生活があるのか、生活の上に仕事があるのか。単なる価値観だと思いますが、木村石鹸は後者。
家庭で使うものをつくっているので、自分たちの製品をちゃんと使う生活を大事にする。残業は限りなくゼロに近いです。
僕はもともとIT企業にいたので、初めは定時に帰ることに慣れませんでしたが、生活用品を作っているのでより、家庭を犠牲にして成り立つ事業であってはならないと今は思っています。いい悪いではなく、根付いてきた文化として守っていきたいと。
foufouも木村石鹸も、ずっと変わらない芯が中心にありますね。
僕らは、時代によって仕組みややり方を変えても、「誰かの健康的な消費のために」という姿勢は変えない。
foufouようなブランドがどうなっていくのか僕自身も気になるので、この姿勢で、今もこれからもやっていこうと思っています。
木村石鹸の経営理念は「くらし、気持ち、ピカピカ」。
会社に染み付いている経営理念や文化、自分たちの価値観は変わらずにずっと大事にしていきいですね。
企画・編集・撮影:高橋団/執筆:徳瑠里香
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