3月30日に開催されたチームワーク経営シンポジウム2019「新しいカイシャとティール組織について語ろう」。
ゲストは伊那食品工業・最高顧問の塚越寛さん、FC今治オーナーの岡田武史さん、『ティール組織』解説者の嘉村賢州さん、エコノミストの崔真淑さん。サイボウズ代表取締役社長の青野慶久を合わせた計5名で「どうすればカイシャは進化するのか」を考えました。
後半は参加者からの質疑応答タイム。前半
の白熱した議論を受けて、オンライン経由で会場から届いた質問は100個を超えました。「心を鬼にした」青野さんが一部を抜粋して、登壇者の方々と語り合いました。
「いい組織」をつくりたいけど、そもそも「いい組織」ってなんだろう。
2019年5月 8日「ティール組織=全員が幸せになれる組織」とは限らない──主体性や自由がプレッシャーになる人もいる
不健康の辛さを知っていたから、「利他の精神」が身についた
まずは、たくさんの方から来ていた「塚越さんのような経営者になるにはどうすればいいのでしょうか」という質問です。
塚越さんは、今のような利他の精神や、社員の方々を家族だと思って大切にする考えをもともとお持ちでしたか?
いやいや、生まれつきの性格ではないですよ。私は17歳から3年間、肺結核でずっと入院して、思春期の間は寝ていないといけなかったんです。
その辛さを知っているから、他の人にはできる限り優しくしたいと思うようになりました。そして社員にも「他人に『ありがとう』と言われるような、利他の精神をもちなさい」と伝えてきました。
塚越寛(つかこし・ひろし)。伊那食品工業株式会社最高顧問。原料の海草の価格に大きく左右される相場商品だった寒天の安定供給体制を確立し、寒天の成分を活用した医薬、バイオ、介護食といった新商品開発に取り組んで新たな市場を開拓。48年間連続で増収増益という金字塔を打ち立てる。黄綬褒章のほか、日刊工業新聞社による最優秀経営者賞など受賞(章)多数。著書に『いい会社をつくりましょう』(文屋)、『リストラなしの「年輪経営」』(光文社)、『幸せになる生き方、働き方』(PHP研究所)などがある
最初から利他の精神をもった人だけを採用していたわけではないんですね。
そうですね。僕がずっと言っていくうちに、社員にも少しずつ考え方が浸透してきました。自分の考えがブレなかったのが良かったのかな、と思っています。
シンポジウムの前半では、塚越さんから「人生一度きり」という言葉が何度か出ていました。17歳からの3年間が、塚越さんの死生観をつくったんですね。
社内の作業環境をしっかり整えて、健康診断も必ず行ってもらうのも、社員に病気になってほしくないからです。
病気だけではなく、事故にあいにくいよう、営業所は閑静な住宅街においています。
作業効率としては悪いかもしれないけど、社員の安全を守るためには絶対に必要なことなんです。それに、そこまで考えあげたら、社員も「この会社のために」と思ってくれるでしょう。
なるほど。社長の利他の精神が、社員の利他の精神を引き出しているんですね。
業績が下がっている会社の経営者ほど、お付きの人がゾロゾロやってくる
次に崔さんに「イケてる社長とイケてない社長を見分けるのはどうすればいいのでしょうか」という質問がきています。
経営者の「モラル」と「利益」のバランス感覚が大切だと思います。経営者のバランスを見るために、いろいろなポイントがありますが、私が注目しているのは、社外取締役です。
アメリカの研究で、「S&P500」という米国株式市場に組み込まれている上場会社の社外取締役の94%が、CEOの同級生や元同僚だったり、友達チームだったと結果が発表されています。同時に、その仲良しの度合いが高いほど企業価値がよろしくないという話があります。
社外取締役は取締役の1票をもっているので、はっきり言ってうるさい存在じゃないですか。そのポジションにあえて仲間や友人ではなく関係ない人を置いているのは「自分を律することができる経営者」だと判断する材料になります。
崔 真淑(さい・ますみ)。株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。2018年より同大学の博士後期課程に在籍。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現 :大和証券)に入社。アナリストとして資本市場分析に携わり、当時最年少の女性アナリストとして、NHKなどの主要メディアで経済解説者に抜擢される。2012年独立後、経済学を軸に、経済ニュース解説、経済・資本市場分析を得意とするエコノミスト・コンサルタントとして活動
社外取締役を置いてないサイボウズとしては耳が痛い話ですね。
すみません。もちろん、全部に当てはまる話ではないですよ。
経営者が厳しい環境に自分をおく覚悟がないとやれないぞ、と。
あとはあくまで個人の経験談ですが、番組などで経営者とご一緒するときに、業績が下がっている会社ほどお付きの人がゾロゾロと多くて、うまくいっている会社ほど少人数で来る印象です。それも自己顕示欲の表れなのかな、と。
なるほど。こういう「俺すごいんだぞ」とアピールするような経営者って、組織の色でいうと何色なんでしょうか。
アンバーやオレンジが当てはまると思います。要は、このふたつは地位を表明することで統率しやすくなる組織です。
指示を誰にあおげばいいのかわからないと現場が混乱するので、明らかに上であると示さないといけないんでしょうね。
嘉村 賢州(かむら・けんしゅう)。場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome's vi代表理事。コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)。京都市未来まちづくり100人委員会元運営事務局長。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORGLAB)」を設立、現在に至る。『ティール組織』(英治出版)解説者
いい組織には「美学」と「勝利」のどちらも必要
岡田さんに、シンプルながら鋭い質問が届いています。「“いいチーム”ってなんでしょうか。絶対に必要な条件はありますか」。
「美学」と「勝利」どちらも追い求めることですかね。サッカーには「勝ち負け」があるから、それを前提に考えないといけない。「勝つ」のはいい組織に必要な条件のひとつです。
ただ、日本では美学を大切にしすぎるんですよね。たとえば、「武士は食わねど高楊枝」という言葉があります。「いや、食わないと戦えないでしょ」と個人的には思うんですが、なぜか現実よりも美学を重んじてしまうんですね。
岡田武史(おかだ・たけし)。株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長。大学卒業後、古河電気工業に入社し、サッカー日本代表に選出。引退後はクラブサッカーチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。Jリーグでのチーム監督を経た後、2007年から再び日本代表監督を務め、10年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、14年11月四国リーグ(現 JFL)FC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる
ブラジルW杯のときに、選手がカメラの前で「俺たちのサッカーやります」と、口をそろえて言っていたんですよ。それを見ながら、「ああ、やばいなあ」と思って。
当時監督をしていたザッケローニに会って食事をする機会があったので、「ああいうことを言っているときはよくないぞ」と言ったら、怒って帰っちゃった。
W杯に負けたあとザッケローニから「お前が言っていたことはわかった。でもな、まさかW杯で死に物狂いで戦わないやつがいると思うか?」と言われたんです。
「俺たちのサッカー」が大事なのはいいけど、死に物狂いで勝たないといけないんですよ。「俺たちのサッカー」には、口にはしていない「だから負けてもしょうがない」という言い訳がついている。
いいチームは、当然美学やポリシーをもっていないといけない。しかし同時に結果も出さないといけないんです。
どっちかなら誰だってできる。なので、両方を追ってはじめて「いいチーム」といえるのかな、と。
組織で必要なのは、ホワイトパワーで自立して、モチベーションを上げていくこと
それは会社も同じですよね。「幸せだ」と言っていても、会社が倒産してしまっては意味がない。
試合に勝つような条件が会社にも必要なんですよ。ただ、そういう中でも最も大切なのは「人生の幸福」だと忘れてはいけないと思うんですよね。
それが社員のモチベーションにつながります。やる気と言ってしまうと月並みですが、たとえばティールも、そのための組織形態ですよね。
そのモチベーションが、主体的にうちから湧き出るモチベーションか、周りから煽られて上がるモチベーションのふたつがあると思っていて。
たとえば日本がホーム以外のW杯で戦ってベスト16にいったのは、僕と西野朗さんのときだけ。どちらも、周りから叩かれて叩かれて湧き出てきた、ブラックパワーなんです。
一方、ヨーロッパの南西のチームは「僕らは勝つのが好きだ」と言う。これホワイトパワーなんですよ。
ブラックパワーは強烈なエネルギーだけど短期的。長期的に見れば、日本人がホワイトパワーで自立して、モチベーションを上げていく必要があると思います。
たしかに憎しみの場合、その強烈なパワーをずっと保つのは難しいですもんね。
青野慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ株式会社 代表取締役社長。大学卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年サイボウズを設立。2005年に代表取締役社長に就任し、現在はチームワーク総研所長も兼任している。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を7分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、売り上げの半分を超えるまでに成長。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある
だから組織にとって大事なのは、自立した選手を育てること。「監督があんなことを言ったから」と他人のせいにしがちだけど、プレイも人生も、自分で選べるんですから。
いやあ、おもしろいですね。モチベーションが2種類ある、というのは新たな発見でした。
主体的に出てくるモチベーションをどう引き出していくのか、これは考えていく必要がありそうです。
文:園田もなか/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:小野奈那子
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