サイボウズ株式会社

部下に怖いと思われるのは、「等身大の自分」を分かち合えていないから。リーダーはケアの気持ちを示そう

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 企業のリーダーやマネージャー
  • 人事や組織開発に関わる人々
  • チームビルディングに興味がある人
  • コーチングやコミュニケーションスキルに関心のある人
  • テレワーク環境でのマネジメントに課題を感じている人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事は、部下に「怖い」と思われるリーダーがどのようにしてチームメンバーとの関係性を改善できるかについて述べています。リーダーが等身大の自分を見せることや、部下と信頼関係を築くために自己開示が重要であることを教えてくれます。特に、フィードバックとアドバイスには違いがあり、フィードバックは事実の共有を目的に、アドバイスは行動を促すものであることが強調されています。対話を通じて部下の意見を尊重し、評価を加えずに聴くことで、自由に意見を出しやすい環境を作ることが重要だと示しています。また、リーダーはマイクロマネジメント的なアドバイスを控え、部下の考える力を引き出すことに重点を置くべきだとアドバイスしています。さらに、テレワーク環境においても、余白を確保しながらコミュニケーションを取ることで、信頼関係を築くことが大切であると述べています。結論として、ケアの気持ちを持ち、「余白」を大切にしながら、相手を理解しようとする試みを通じて、より良いチームワークが可能になることが強調されています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

部下に怖いと思われるのは、「等身大の自分」を分かち合えていないから。リーダーはケアの気持ちを示そう

多くのリーダーは、チームで成果を出すことが求められています。そして、仕事を円滑に進めるために、チームメンバーにアドバイスをします。

しかし、よかれと思ってアドバイスをしているにもかかわらず、メンバーとの間に距離が生まれたり、メンバーの自由な発想が出にくくなったりすることも。

サイボウズ財務経理部の田中那奈も、そんな悩みを抱えるリーダーの一人。意欲的にアドバイスをしてきた結果、周りから「怖い人」と思われている気がするのだそう。

こんなとき、リーダーは自らの考えや行動をどう変えればいいのでしょうか? コーチングやチームビルディングを専門とする、はぐくむ代表の小寺毅さんにお話を伺いました。

「怖い人」というイメージ。まずは等身大の自分を見せて、安心できる関係性を

田中 那奈
今日は、小寺さんに悩みを聞いていただきたくて。

わたし、チーム内で「怖い人」と思われている気がして……。どうしたものかと悩んでいるんです。
小寺 毅
なるほど、「怖い人」ですか。

小寺 毅(こでら・たけし)株式会社はぐくむ代表取締役。東京で生まれ、ソ連、アメリカ育ち。慶應義塾大学卒業後、株式会社フィッツコーポレーションにて新規商品企画を経て、2006年にはぐくむを創業。ただ漠然と働くのではなく、何のために働き、何のために生きるのかを問うコーチングや、自主自律な経営を支援する研修やチームセッションを企画・実施する。プロフェッショナルコーチとしても活躍。セムコスタイル・インスティテュート・ジャパン認定コンサルタント

田中 那奈
はい。わたしは財務経理部に所属していて、ポジション的にはリーダーにあたります。だから職務上、チームメンバーの作業をチェックする役割があるんです。

「せっかくならいい仕事をしたい!」と思って、積極的に意見を言ったり、細かくアドバイスしたり、と頑張ってきたつもりなんですが……。

どうも、周りから距離を置かれているような気がして。

田中那奈(たなか・なな)2006年新卒で住宅メーカーに入社し住宅営業に従事。その後、経理へ異動。産休・育休後一旦は復職するものの、2016年にサイボウズへ転職。現在は財務経理部に所属し、決算や予算管理、投資家向けの広報(IR)などを担当

小寺 毅
うん、うん。不安になってきたわけですね。田中さんが現時点で「こうすればよいのかな」と考えていることはありますか?
田中 那奈
ここ数年、試行錯誤するなかでふと気づいたのはのは、これまでの「アドバイス」は単なる「基準の押し付け」だったのかな、と。

相手の状況や仕事へのスタンスを思いやらず、自分の「こうあるべき」というエゴを押し付けて、一方的にアドバイスしていたんじゃないかって。
小寺 毅
おお、素晴らしい気づきですね。それからはどう対応したんですか?
田中 那奈
相手に「これをやってよ!」と期待するのではなく、事実を淡々と整理してフィードバックするようにしました。そうしたら、ちょっと気持ちがラクになったんです。

でも今度は、「本当にこんなフィードバックで伝わるのだろうか」と悩むようになって……。
小寺 毅
「加減がわからない」という、新たな課題が出てきたんですね。
田中 那奈
そうなんです。だから、もっとおたがいのことを知っていれば、相手がどういうフィードバックを求めているかわかるかなって思うんです。

でも、そんなコミュニケーションを取ってきてなくて……。突然改まって「さあ、ザツダンしましょう!」なんて言い出したら、多分みんなびっくりしちゃう(笑)。
小寺 毅
なるほど、非常に悩ましい話ですね(笑)。

理解を深め合うための第一歩は、生存を脅かされない関係性を築くこと

小寺 毅
つまるところ、田中さんは一方的なフィードバックにならないように、おたがいの理解を深めたいと考えているんですね。
田中 那奈
はい、そのとおりです。
小寺 毅
では、そのために何がポイントになるかといえば、生存を脅かされない関係性を築くことです。

「自分が意見をいうことで、なにか不利になるんじゃないか」という不安があると、なかなか本音を話せませんよね?
田中 那奈
そうですね。
小寺 毅
現代の日本では、「身体の生存」を脅かされることはほとんどありませんが、「精神的な生存」を脅かされる危険はけっこうあります。

待遇が下がるとか、尊厳を傷つけられるとか。それを恐れる関係性では、本音で語り合うのは難しい。
田中 那奈
では、精神的な生存が担保されるようにすればいい、と。
小寺 毅
はい。ただ、職場ではどうしても上下関係が生まれやすくて。部下からすれば、上司は経験も権限もある強い立場です。

そうなると部下は、常に上司の反応を伺うようになる。「この人はわたしをどう思っているんだろう?」「自分の意見を聞いて、どう処遇するつもりなのか」と警戒してしまうのです。

この前提がある上で、よりよい関係を築くには、上司から先に自己開示をするのが重要です。
田中 那奈
自己開示……。たとえばわたしだったら、「みんなにどう思われているのか不安です」といった悩みを正直に話したほうがいい、ということですか?
小寺 毅
その通り。自己開示というのは、いわば自分の手札を見せる行為。「この人(上司)はこう考えているんだな」とわかれば、部下は自然と気持ちがゆるむはずです。

逆に、上司が手札を見せないままに「あなた(部下)は、何を考えているの?」なんてたずねたら、とっても怖いじゃないですか(笑)。
田中 那奈
たしかに(笑)。
小寺 毅
だからこそ、上司から自己開示するんです。等身大の悩み、苦しみ、葛藤を正直に出せるかどうか。それが、部下に本音を分かち合ってもらうための第一歩になります

善意ですれ違うからこそ、部下の前でカッコつけなくていい

田中 那奈
そう考えると、わたしは「アドバイスの仕方」以前に、人間関係の構築ができていなかったのかもしれません……。

友人にはいくらでも素で話せるのに、チームメンバーに対しては、自分の「人となり」をあまり見せられていない気がします。

とはいえ、いざ自己開示をしようとすると、ついついカッコつけちゃうんですよね。
小寺 毅
またしても、いい気づきですね。メンバーの前でカッコつけちゃう理由、田中さんは何だと思いますか?
田中 那奈
うーん……。やっぱり、「ダメなやつだと思われたくないから」でしょうか。そんなふうに思われたら、もう信頼してもらえないんじゃないかな、と。
小寺 毅
不安になりますよね。ただ一方で、悪意をもってメンバーを攻撃しよう、なんて考える人は少ないと思うんです。

みんな、それぞれの立場でチームをよくしようと思っている。言い換えれば、すべての行動は善意から始まっているはずなんです。

ついカッコつけてしまうのも、「信頼してほしい」という善意スタートの行動なのに、結果的に部下の警戒心を高めている。いわば、善意がすれ違っているわけです。
田中 那奈
あぁ、耳が痛いです……。
小寺 毅
だからこそ、「おたがいのことを知り、チームをよくしたい」という目的に立ち帰れば、きっと別のアプローチが見えてくるはず。

部下の前でカッコつけるのではなく、弱さや本音も公開する。そうすることで、部下もまた、悩みや本音を話しやすい環境が生まれ、強い絆が結ばれるのではないでしょうか。

「怖い」と思われないためには、まずフィードバックからの「対話」を意識する

田中 那奈
ふと思ったのですが、仕事と違って子育てでは、カッコつけずに等身大の自分を見せているんです。それでも子どもからは「ママ、怖い」と言われてしまって……。

冒頭の悩みに戻るのですが、「怖い」と思われないようにするには、どうすればいいんでしょうか。
小寺 毅
そうですね。では、まずは「アドバイス」と「フィードバック」の違いから考えてみましょう。

そもそも、アドバイスとは「相手に行動を促す声かけ」です。一方、フィードバックとは「客観的な事実を認識してもらう声かけ」を指します。

よいフィードバックをするには、以下のように、3つのステップを踏む必要があります。

1. 事実だけを伝える
2. 事実に対して自分が感じたことを伝える
3. 相手に問いかける

田中 那奈
ふむふむ。
小寺 毅
たとえば、学校のテスト結果について、子どもにフィードバックするなら、こんな形になります。

1. 今回は算数の点数が〇〇点だったね(事実)
2. わたしは、〇〇点は低い点数だと思ったよ。もう少し勉強法を工夫したほうがいいと思う(感じたこと)
3. あなたはどう思う?(問いかけ)

田中 那奈
なるほど。それぞれのステップには、どのような意味があるんですか?
小寺 毅
まずステップ1では、事実に対する評価は一旦脇に置きます

先ほどの例で言えば、「今回の算数の点数は〇〇点だったね」と伝える形です。
田中 那奈
あくまでも客観的に、情報を共有する、と。
小寺 毅
はい。次に、ステップ2では自分が感じていることを伝えます。このとき、事実に対する認識合わせと自身の解釈を意識します。

今回のケースであれば、「○○点は、満足できない点数だ」が事実かどうかを、子どもとすり合わせておくわけです。

その上で、「もっと勉強時間を増やしてほしい」「勉強法がよくなかった」といった自身の解釈を伝えます。
田中 那奈
たしかに。事実に対する認識を合わせておかないと、解釈が大きくすれ違う可能性もありますね。
小寺 毅
ええ。そして、ステップ3では、提示した解釈に対して、「あなたはどう思う?」と問いかけましょう。フィードバックから対話につなげていくイメージです。
田中 那奈
なるほど。この方法なら、一方的なフィードバックにはなりにくそうです。

とはいえ、気を抜くとつい、望む方向に「圧」をかけちゃいそうで……。あらかじめ用意された結論(勉強しなさい)に誘導してしまうのでは、と。
小寺 毅
おっしゃる通りです。そこは本当に気をつけなければいけない。難しいですが、対策は「心がける」ほかありません。

自分の「こうすべきだ」という基準や、怒りの感情を脇に置く訓練が日々求められます

アドバイスによって、メンバーとの距離が生じ、可能性を閉じ込めてしまうことも

小寺 毅
さて、それではアドバイスについて考えていきましょう。

アドバイスって、実はとても「怖い」行為なんです
田中 那奈
まさに「怖い人」と思われているのが悩みなので、気になります!
小寺 毅
「事実の共有」を目的とするフィードバックに対し、アドバイスは相手になんらかの行動を促す、一歩踏み込んだ行為になります。

そして、アドバイスが効果を発揮するには、そもそも「アドバイスを受け入れられる関係性」がなくてはならない。

これが構築できていないと、たとえ「よかれと思って」のアドバイスでも、相手との距離はどんどん遠のいてしまいます。
田中 那奈
そう考えると、わたしが「周りから距離を取られている」と感じたのは、信頼関係がないままにアドバイスをしていたからなんですね。再び、耳が痛いです……。
小寺 毅
もう1つ怖いのは、部下の可能性や考える力をつぶしてしまうことです。

アドバイスできるのは、自分の知っている範囲だけなんです。だから、先回りしてアドバイスをしてしまうと、部下の思考も「上司の知っている範囲」に閉ざされてしまいます
田中 那奈
それも、わたしが感じていた課題の1つです……。
小寺 毅
そうならないためには、やはり対話が重要です。

メンバーが思うままに意見を発信し、上司も知らなかった領域が拓けていく。それが理想です。

安心安全な関係性を築くには、相手の考えを良い・悪いで評価しないこと

田中 那奈
では、メンバーが安心して自分の意見を言える環境をつくるには、リーダーはどうすればいいのでしょうか?
小寺 毅
たくさん質問して、その回答に対して良い・悪いという「評価」をしないことです。

自分の意見に対して評価されている感覚があると、「いいことを言わなくちゃ」という強迫観念が生じてしまうものなんです。

だからこそ、いろいろな考え方や選択肢を受け止めるオープンなマインドで、相手の意見をたくさん聴く。

それを繰り返していけば、徐々に「評価されている」という感覚がなくなり、自由に話しやすくなります。
田中 那奈
たしかに。これまで自分は良い・悪いの評価を置いていたので、相手を怖がらせるような質問をしていたかもしれません。

しかも、そのことにまったく自覚がありませんでした。一連の振り返りで、アドバイスや質問をするのが、ちょっぴり「怖く」なってきました……。
小寺 毅
そうですよね。その怖さを認識しながら、試行錯誤していくことが非常に大事だと感じています。

それと、リーダーは次の2点も意識するとよいでしょう。1つは、「自分のアドバイスは、万能ではない」と胸に刻むこと。こうした姿勢なら、自然と伝え方も柔らかくなってくるはずです。

もう1つは、ときに相手に問いかけてみること。「尊敬する〇〇さんは、この状況をどう打開すると思う?」「自分が自分にアドバイスするなら、何を伝える?」とか。相手の考えを引き出す意識で、質問してみるといいでしょう。

アドバイスも、質問も、ていねいに付き合いさえすれば、相手への理解を深める手段になるはず。ポイントを押さえつつ、どんどん実践してみてください。

リモート・対面限らず、余白をつくって「ケアの気持ち」を示そう

田中 那奈
今日は本当に勉強になりました。思い返してみると、人との関係の築き方を学んだことって、これまでなかったなと。

就業時間中は業務のことで頭がいっぱいだったので、コミュニケーションに時間を使うのは、どこか違うなと感じていました。

でも、仕事の一環として、コミュニケーションの時間を積極的に確保したほうがよいのかもしれません
小寺 毅
うん、うん。そうですね。
田中 那奈
特にいまはテレワークになって、コミュニケーションが取りにくいんです。社会全体がもう、信頼関係が築きにくい状況なのかなって。
小寺 毅
その根底にあるのは、「余白」に対する感覚・考え方だと思うんです。

いまの会社って、最短最速で利益を生んで、効率も重視して、という風潮がありますよね。そこにテレワークが普及して、コミュニケーションの「余白」がますます削られていく。

結果、関係性を築きにくくなり、チームワークをうまく発揮できなくなる。
田中 那奈
本当にそうなんです。問題が起きた後に報告を受けて、困ることがよくあるなぁと思っていて。

そういうとき、「そんなに悩んでいたなら、もっと早く言ってくれればよかったのに!」と感じていました。

でも、もともと業務の「余白」で適切にコミュニケーションを取れていたら、そんなふうにならなかったのかなって。

ひょっとすると、いま多くの会社が効率を求めるがゆえに、非効率になっているのかも。仕事を円滑に進めるには、「余白」が大事だったんですね。
小寺 毅
しかし残念なことに、「余白」の大事さを認識できない人もいるでしょう。

そういう人には、まず「余白」を削ったことで生じた「痛み」に気付いてもらう必要があります。部下が相談しづらい雰囲気になっているとか、チームの一体感がなくなっているとか。

時に立ち止まって、「どこかに痛みがないか? 本当にこれでいいのか?」と内省することが求められています。
田中 那奈
それこそ、「無駄な時間を削ぎ落として、より多くのタスクをこなそう」という善意で「余白」を削っているのかもしれませんよね。

その前提を頭に置いた上で、おたがいに話し合う場をもつのがいいのかも。
小寺 毅
おっしゃる通りです。リモートであれ対面であれ、リーダーに必要な資質は「〇〇さんが大事ですよ」というケアの気持ちです。

一方的に「アドバイスしてやろう」ではなく、相手をケアする気持ちがあるかどうか。そして、その気持ちをどう表現できているか。

これらを定期的に自己点検しつつ、試行錯誤を重ねれば、きっとよいチームになるでしょう。

企画:横山智之(サイボウズ) 執筆:夏野かおる 編集:野阪拓海(ノオト)

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執筆

ライター

夏野かおる

フリーランスの編集者・ライター。高等学校教諭一種免許状(国語)保有。京都大学大学院博士課程指導認定退学(博士論文準備中)。ライターとしての専門分野はICT教育・STEAM教育。趣味はゲーム。

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編集

ライター

野阪 拓海

コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。担当ジャンルは教育、多様性など。

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