サイボウズ株式会社

サイボウズの「全員取締役化」どう思いました?──株式市場の専門家・東証にきいてみた

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 経営者
  • 株主
  • 企業のガバナンスに興味がある人
  • 新しい組織体制に関心があるビジネスパーソン
  • サイボウズのファンや関係者
Point この記事を読んで得られる知識

この対談記事を通じて、読者はサイボウズが取締役を社内募集し、全員を取締役に選任した背景とその意義について知ることができる。特に、サイボウズが目指す企業統治(ガバナンス)の新しい形とその根底にある同社のスピリットについて理解を深めることができる。取締役という役割を全社員が担うことにより、情報の透明性と組織の一体性を高めようとする試みであることが説明される。この記事では、サイボウズという企業のユニークな挑戦について、東京証券取引所の幹部の視点からの考察も含めて提供されており、企業のガバナンスの進化についての理解を促進する。また、組織内外の透明性を高めることや、企業がどのようにして株主や社会と関わり合うべきかという議論がなされており、これからの企業経営のあり方への洞察も得られる。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

サイボウズの「全員取締役化」どう思いました?──株式市場の専門家・東証にきいてみた

取締役を社内募集したサイボウズ。2021年3月28日の株主総会で、立候補した17人全員を取締役に選任しました。その中には新卒1年目の社員もおり、企業統治(ガバナンス)の新たな形として反響を呼びました。

一方で「そんなふうに取締役を選んで大丈夫なの?」「サイボウズが目指す、会社のあり方がよくわからない」という不安や疑問の声もあります。

そこで、東京証券取引所の取締役専務執行役員である小沼泰之さんと、サイボウズ副社長の山田理の対談を実施。多くの上場企業のガバナンスを見てきた小沼さんの目には、「サイボウズの取締役の社内募集(=全員取締役化)」はどう映ったのでしょうか。

企業の変化にともない、ガバナンスのルールも変化しつつある

山田 理
小沼さんとは今回の取締役社内募集の取り組みを発表してすぐに、意見交換をさせていただきましたね。
小沼 泰之
はい、その節はありがとうございました。

山田さん自ら「サイボウズはぶっ飛んでます」と話していた通り、いい意味でぶっ飛んでいて最高におもしろかったですね。

小沼 泰之(こぬま・やすゆき)。株式会社東京証券取引所 取締役専務執行役員。1961年生まれ。84年東京証券取引所入所。国際企画部、上場部、上場推進部などを経て、11年4月執行役員兼上場推進部長。16年4月常務執行役員。20年4月から現職。ETFをはじめとするアセットバック商品に関する上場制度の整備と商品開発支援、国内外の企業の新規上場、上場企業の企業価値向上に向けたプロモーションを担当

山田 理
そう言っていただいてうれしいです。実は僕、東証にはすごく硬い印象をもっていて。

でも小沼さんと話すなかで、東証も新しい市場区分をつくる(※)など、時代に合わせて柔軟に変化しようとしていることを知りました。

ひょっとすると、硬いイメージばかり先行して、東証が「本当に伝えたいこと」は、世間にあまり伝わってないんじゃないか、と。

※2022年4月4日より、現行の第一部・第二部・マザーズ・JASDAQの4区分から、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3区分となる

小沼 泰之
硬いイメージがあるとは、よく言われますね(苦笑)。
山田 理
僕自身まだとらえきれていないことも多いと思うので、今日は株式会社のあり方や取締役制度をテーマとしつつ、そのあたりもぜひ伺えれば(笑)。

山田理(やまだ・おさむ @osamu419)。サイボウズ 副社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任。2020年に組織戦略室を新設し、本格的なグローバル展開に向けた組織づくりに取り組んでいる。著書に『最軽量のマネジメント』『カイシャインの心得: 幸せに働くために更新したい大切なこと

小沼 泰之
わたしは仕事柄、さまざまな会社の幹部の方とお話ししているのですが、「サイボウズほど真剣に社員全員でガバナンスを考えている会社は、そう多くないだろうな」と感じたんですよね。
山田 理
ありがとうございます。

サイボウズは、全社員が「チームワークあふれる社会を創る」という共通の理想を持って会社を運営してきました。

そのため、たとえ常識外れの案だとしても、理想の実現に結びつくものであれば「こういうのもありじゃない?」と提案したくなるのだと思います。
小沼 泰之
なるほど。サイボウズのように最先端の取り組みをする企業の声は徐々に大きくなっていて。長い目で見れば、企業のガバナンスのあり方も少しずつ変わってきています。

ただ、取引所は共通のインフラみたいなもので、約3800社ある上場企業に共通の取り決めをつくる必要がある。そうすると、最先端を行く企業の期待に応えられない面もあるんですよね。
山田 理
そこは難しいですよね。

僕自身、取締役のあり方も含めて、会社法などガバナンスにかかわるルールに対しては、「もっとこうしてほしい」という気持ちもあります。
小沼 泰之
会社法も、広範な会社を対象として、健全な会社経営を行うことを目的につくられたものなんです。

多くの人々の努力や議論の積み重ねで作り上げた法律ですが、現状に即した形を検討すべき部分も出てきていると思います。

情報の透明性が保たれているからこそ、全員取締役化に挑戦できた

山田 理
今回の対談の本題でもあるのですが、小沼さんはサイボウズの取締役の社内募集にどのような印象を持たれましたか?
小沼 泰之
新しいタイプの組織体制で、1つの大きなチャレンジとして、根底のスピリットにとても共感しました。

取締役会には、組織の透明性や整合性を図るために、2人以上は社外取締役を入れるのが一般的です。でも、サイボウズは取締役17人が全員社員ですよね。

これは、根幹に「会社の業務を透明化して、社員間の情報格差をなくし、チーム一丸となって会社を運営していく」というサイボウズのスピリットがあるから実現できたのかな、と。
山田 理
そこまで理解していただいて、すごくうれしいです。

基本的にサイボウズでは、すべての情報がオープン。メンバー全員が普段の業務から重要な意思決定までアクセスできるので、悪いことをしようと思ってもできない。

だから、社員全員で組織の透明性や整合性を保てる環境があるかな、と。
小沼 泰之
なるほど。
山田 理
誤解を恐れずに言えば、サイボウズの理想に共感してくれる人であれば、取締役は誰がなってもいいんです。

そもそも「組織の一つひとつの意思決定に対して、自身の行動を正していこう」とメンバー全員が考えているかどうかが重要だと思います。

取締役でなくても、取締役としての役割をもつ意識でいてほしいんですよね。いわば、社員全員の取締役化です。
小沼 泰之
そうした意識の象徴として、17人の取締役がいる、と。

選出された取締役の性別や年代、職種などもバラバラですよね。

多様性や独立性(※)の観点からは、斬新な取締役の選出だと感じました。

※他者からのコントロ ールや利害関係の影響を受けず、独立した存在として公正不偏の態度を保持すること

取締役は、会社が健全に運営されるための1つの仕組みに過ぎない

山田 理
日本の会社って、経営者と大株主が同じ「オーナー企業」が多いんですよね。

ごく少数の人たちが会社を保持・経営し、大きな権力を持っています。そして、彼らから評価された人に権限が渡され、そのように出世してきた人が取締役になりがちだなと。

その結果、社内では上の人の顔色を伺って、気に入られることしか言いづらい雰囲気になっちゃうな、と。
小沼 泰之
それが行きすぎると隠蔽体質が強まって、不祥事が起こりやすくなる懸念もありますよね。
山田 理
そう思います。その点、サイボウズは重要な意思決定に関する会議や議事録にも、自由にアクセスできるようになっていて、誰もが意見を出せる仕組みをつくっています。

だからこそ、取締役だけが意思決定や管理監督を行うのではなく、社員全員でできたらいいんじゃないかなと思っていて。そこが世の中の流れとの違いかな、と。
小沼 泰之
わたしも取締役の機能については、株主の考え方に沿っていれば、いろんなやり方があっていいと思います。

あくまで取締役は、会社が健全に運営されるための1つの仕組みに過ぎないので。

ただ、会社は株主だけでなく、従業員、お客様、サプライヤーなど社会全体の中で、中長期の理念を達成するための「社会の公器」だと思うんです。

だから、「短期でいかに利益を上げるか」という一部の株主からのプレッシャーだけに応えればいいわけではありません
山田 理
株主との関係性をしっかり構築して、そうした中長期的な視点で、会社の方針を理解してもらう必要がありますよね。
小沼 泰之
はい。その点、サイボウズでは株主のみなさんとの腹を割ったディスカッションの場として、株主会議を行っていますよね。

株主と会社の距離感や連絡の密度が、一般的な日本の会社に比べるとより密接で、価値観を共有している

その中でこそ、今回の施策があるのだと理解しました。

「株主会議2021」イベントの様子。『「ともに理想に向かうワクワク感」は、株主への利益還元になりますか? 株主会議で考えた』

山田 理
まさにそのとおりで。株主もチームの一員として、いっしょにサイボウズを盛り上げていけたらなと考えています。
小沼 泰之
いいですね。最近では株主側からも「中長期的にしっかりとしたビジョンを持って経営してくれないと困る」という声も増えてきています。

そういう意味で、取締役に期待される役割も、実質的に幅広く求められるようになってきたのかな、と。

大株主=経営者という構造が分散化したら、取締役会の機能も変化する

山田 理
次に僕らが考えなくてはいけないのは、「社会の公器」としての会社のガバナンスがどうあるべきなのか、だと思っていて。

個人的には、会社の内部と外部という隔たりをなくすことが必要だと考えています。

たとえば、一部の大株主がいる状態から、株式を分散してたくさんの株主がいる状態にするとか。
小沼 泰之
たしかに大株主=経営者という状態だと、大株主以外の一般の株主の権限が弱くなっちゃいますよね。

その意味では、今後は「一般の株主の権利がちゃんと守られているか?」を見るのも、取締役の機能になっていく気がします
山田 理
たしかに。
小沼 泰之
そして、実際に株式が分散化して「大株主=経営者」という構造が変化すれば、その機能自体いらなくなるかもしれない。

取締役には、「会社の活動が本当に社会貢献になっているか?」という株主からの問いかけに対して、応えていく姿勢が求められるようになる

そのときに、取締役会のメンバーがどれだけ多様性に配慮しているか、さまざまな人の意見を反映しているかが注視されるようになるでしょう。

取締役会は、経営の意志決定や承認をもらうための場ではなく、別の意義も出てくるんじゃないでしょうか。
山田 理
個人的な理想としては、サイボウズの事業に興味がある人に取締役をやってもらいたくて。

意思決定にかかわるだけでなく、そのプロセスを世の中に発信するメディア的な役割も、取締役の意義としてはありえそうですよね。

「社会の公器」となった会社の取締役には、社内だけでなく、社外に対しても情報をオープンにしていくことが求められるんじゃないか、と。
小沼 泰之
取締役が行う日次の業務執行は、代表執行役も含めた執行役員に権限委譲し、社内で機動的にやってもらう、と。

そのプロセスの中で、全社員参加型の議論をして、情報がオープンになっていけば、なお素晴らしいですよね。

個人的にも、取締役や取締役会が次のステージでどうあるべきかを自問自答していたので、お話を聞いてすごく勉強になりました。

社外の助言、気づきをどう取り入れていくか?

山田 理
今回のサイボウズの取り組みについて、さらに意識・議論するとよい点や、よりチャレンジできそうなことがあれば、アドバイスをいただけないでしょうか?
小沼 泰之
社外の人の知恵や助言、気づきをどう有効活用し、社内に取り入れていくかはまだ工夫の余地がありそうかな、と。

日本取引所グループ(東証の親会社)では過半数が社外取締役なんですが、彼らから「そういう発想があったんだ」と気付かされることも多くて。
山田 理
なるほど。僕自身、20代の頃から仲間とともにサイボウズという会社をつくってきたので、やっぱり自分たちの考えに固執してしまい、外が見えていないこともあったんです。

特に、新入社員や中途メンバーの声が重要な意見となっていて、それも1つの「社外のアドバイス」と捉えられるな、と。

だから小沼さんのおっしゃる通り、外からのアドバイスや助言が大切ですし、そういう役割として取締役もしくは監査役も必要だなって思います。
小沼 泰之
もうひとつ、取締役会、経営会議、株主総会や株主会議など、それぞれ機能をどう分けて、何を議題にすべきかを考えてみてもいいかもしれません。

東証が一般論としてよくお話しているのは、取締役会の「議長」を社外の人にお願いするやり方ですね。

経営会議の中身を見てもらって、「取締役会ではこういうことを議論するべきだ」という議題の抽出をしてもらうんです。

そうして外の目からの評価が入ることで、執行と監督の役割分担が期待されます。実際に最近、取締役会議長を社外の人にお願いするようなケースも出てきていますね。

長期的視点で社会貢献を考える、オープンな会社が少しずつ増えている。
山田 理
「社内の文化を醸成していくこと」は、企業のガバナンスにつながっていくと思っています。

これはある意味、欧米的な利益追求型のガバナンスと逆行する考え方だと思うのですが、小沼さんはどのような印象をお持ちですか?
小沼 泰之
ガバナンスを文化の醸成と考えるのは、日本でも欧米でも企業運営の王道だと思います。

実際に欧米では「短期的に利益が出ても、続かないんじゃ意味がない」と、行き過ぎた利益追求を反省する企業が少しずつ増えてきています。

その結果、「社会にとって、自分たちの会社は何のためにあるんだろう」と、長期的な視点で企業の目的や理念を考えながら経営をする動きが来ていますね。
山田 理
ある種、短期利益追求による副作用が来ているわけですね。
小沼 泰之
はい。その点、サイボウズでは定款にも理念を書き込んで、文化の醸成に力を入れていますよね。

欧米でも、ミッションステートメント(※)を掲げる企業が増えてきています。

社員一人ひとりがミッションステートメントを実践して、会社運営にかかわるような自律分散型の組織になっていると思います。

そういう意味で、サイボウズの考えは世界の流れに沿っているのかなと思います。

※企業・従業員が共有する価値観・社会的使命であるミッションを、実際の行動指針や方針として、より具体化したもの

山田 理
今後、国内でも中長期視点で理念を掲げる自律分散型の企業は増えていきそうでしょうか?
小沼 泰之
情報伝達が速く、オープンに物事を決めていく会社は、少しずつ増えてきていると思います。

もちろん、大きな組織ではヒエラルキー型のほうが意思決定が速い場合もあるし、業界によってもだいぶ違うと思います。

しかし、全体の割合としてはフラットな組織へと移行しているのではないでしょうか。
山田 理
たしかに。他社のお話を伺っていて、その機運の高まりは感じますね。
小沼 泰之
サイボウズの取り組みが世の中に知られていくと、いろんな会社にとって刺激になると思いますよ。

社会の変化の中で、株主と会社の経営者、あるいは従業員の方、それを取り巻くいろんな関係者の方々とのコミュニケーションの取り方や関係はどんどん変わっていくでしょう。

今回の対談で改めて、そうした社会の変化を見据えておかないといけないと感じました。
山田 理
ありがとうございます。

「フラットな組織」はガバナンスの土台にもなる

山田 理
サイボウズは自律分散型でフラットな組織だと思われがちですが、本当に目指したいのは「情報をフラットにすること」なんです。

ヒエラルキー型の組織自体が悪いのではなくて、意思決定する人に情報が集中していることや、ヒエラルキー上位の人が情報をコントロールしていることが問題だと思っています。

情報格差がないことが大事であって、権限の格差はあってもいい。まさにそこがコーポレートガバナンスに直結していくのかな、と。
小沼 泰之
情報格差がないっていうのは、大きなポイントですよね。
山田 理
権限のヒエラルキーはあってもいいけど、情報はフラットに。その上で、人間関係もフランクにしましょう、という感じですかね。
小沼 泰之
結構多くの企業がそう思って、人間関係もフランクな感じにしようと取り組んでいらっしゃると思います。

親しみを込めて「社長~!」「●●さん〜!」と、フランクに呼ばれている会社はいっぱいありますから。
山田 理
東証も、実はそんな感じですか?
小沼 泰之
そうですね。内部から見ると、うちは意外にフランクだと思っているんですけどね(笑)。

企画:神保麻希(サイボウズ) 執筆:中森りほ 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)

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執筆

ライター

中森りほ

旅が大好きな東京在住のフリーライター&編集者。生き方・働き方系を考えるインタビュー、グルメ、旅、温泉、カルチャー系が好きです。

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撮影・イラスト

写真家

栃久保 誠

フリーランスフォトグラファー。人を撮ることを得意とし様々なジャンルの撮影、映像制作に携わる。旅好き。

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編集

ライター

野阪 拓海

コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。担当ジャンルは教育、多様性など。

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