サイボウズ株式会社

経験豊富な外国人社員が、数年で日本企業を去ってしまう本当の理由

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 日本企業で働く外国人社員
  • 日本企業の経営者
  • HR担当者
  • 異文化コミュニケーションに興味がある人
  • 多様性推進に関わる専門家
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読んで得られる知識は、日本の企業で働く外国人社員が直面する職場での課題とその背後にある理由についての洞察です。外国人社員は、しばしば自分のキャリアに対する不安や疑念を抱くことがあり、特に「これから何をしたいのか」という未来へのビジョンを見失いやすいことが示されています。このような状況は、日本企業の成長を支援する体制が不足していることが一因であり、結果として多くの外国人社員が数年内に企業を去ってしまうという問題が生じています。

また、外国人社員がやりがいやモチベーションを感じるためには、新しいスキルを身につけ成長する機会が必要であることが説明されています。外国人社員がどのようにキャリアを形成できるかについての明確なビジョンと、その実現を支援する仕組みが求められています。加えて、外国人社員への評価や昇進の際に生じる不公平感や不透明さも、キャリア形成の妨げになっていることに触れられています。

さらに、マネジメントのアプローチにおいて、外国人社員の成長を支援するためにはリスクを受け入れる姿勢が求められ、多様性を活かしたビジネス環境を構築するための提案が行われています。日本企業がグローバルな視点を持ち、外国人社員を長期的に繋ぎ止めるための戦略的な考え方と実行が必要であると示されています。

Text AI要約の元文章
サイボウズ

多様性、なんで避けてしまうんだろう?

経験豊富な外国人社員が、数年で日本企業を去ってしまう本当の理由

※この記事は、Kintopia掲載記事「Could Japanese Companies Do More To Motivate and Retain Foreign Workers?」の翻訳です。

「僕の働きぶりは十分なのか?」という疑問

僕はスイス育ちの白人男性だ。日本の中では少数派で、これまでも自分の立場やキャリアについて考えてきた。

2020年8月13日日本人の同僚に知ってほしいこと──欧米人の僕が、日本企業で初めてマイノリティになった苦悩と期待

しかし、新年を迎えてまた、自分のキャリアに疑問をもち始めている。

2021年の暮れ、人事考課や給与交渉、2022年の戦略立案などを終えた。と同時に、ほかのチームがどれだけ価値のある素晴らしい取り組みをやってきたのかに耳を傾けている。

すると、毎年のことながら「いまの僕の働きぶりは十分なのか」「自分の仕事に本当に意味はあるのか」「チームの取り組みに貢献できているだろうか」といった疑問が浮かんでくる。

日本で働く前は、こんな葛藤を抱えた記憶はない。疑問をもち始めたのは、母国での仕事を辞めて「日本で働く」という、新しい挑戦を始めた数年前のことだ。

僕が働くサイボウズは、それぞれの考えをオープンにできることが誇りだ。自分の疑念を上司や同僚にぶつけることもできる。すると、親切で気遣いが上手な日本人の上司や同僚からは、「アレックスさんはよくやってくれているし、本当に助かっていますよ!」と優しい答えが返ってくる。

でも……。どれだけ前向きな言葉をもらっても、「僕の働きぶりは十分なのか」といった疑念は、一向に晴れない。

そこで、似たような環境に身を置く外国人の友人や同僚に聞いて回ったところ、この現象は珍しくないことがわかってきた。もっと深刻なケースもあり、不満を募らせたり、意欲を失ったり、思い切って転職しようと考えている友人もいるほどだ。

僕ら外国人は、仕事のモチベーションをどこに見出せばよいのだろう?

「これから何をしたいのか」が見出せない

モチベーションについて、サイボウズでは「モチベーション創造メソッド」というベン図をよく使う。

この図によれば、「やりたいこと」「やるべきこと」「できること」の3つが重なる部分が、自分にとって最適な仕事ということになる。つまりモチベーションの最大の源泉だ。

ただ、実際に自分の仕事に当てはめてみると、3つの重なる部分はそこそこ広いのだが、何かが足りないことに気づく。

まず、「やりたいこと」。僕が大好きな作業は、英語で「物を書く」「編集する」「コンテンツをつくる」仕事だ。これは十分にカバーされている。

次に、「やるべきこと」。上司や同僚は、僕の成果物に満足していて、仕事を続けてほしいと思っている。これも問題ない。

では「できること」はどうか。自己評価となるが、自分では、なかなかよい仕事をしていると信じている。だから、これも問題ない。

では、何が「足りない」と感じるのか? この図の惜しいところは、「いま」で止まっていて、「未来」がないことだ。人生は単純な「いま」の連続ではない。

僕の不安の根っこは、いまのベン図にはない4つ目の輪、「これから何をしたいか」、つまり、「未来」にある。

「これから何をしたいのか」──この質問に対する答えは、まだ見つかっていない。4つ目の輪を加えると、このベン図の美しさは失われてしまうかも知れない。

「やりたいこと(つまり、いま)」と「これから何をしたいか(つまり、未来)」をひとまとめにしようと考えたけれど、この2つはまったく違うコンセプトだ。いま「やりたいこと」と、僕が考える「キャリアアップやスキルアップにつながりそうなこと」はイコールとは限らない。

また、成長とは純粋に内発的なものだけではない。「やりたいこと」は自分次第だけれど、自分のキャリアを「どう成長させるか」は、チームや上司、仕事を取り巻く環境にも大きく左右される

この「これから何をしたいのか」が見出せないことこそが、スキルの高い日本人社員と外国人社員の、モチベーションの間にある最大の溝なのだ。

目の前の課題を解決するだけでは、モチベーションは上がらない

外国人社員に限らず、すべての人が「これから何をしたいのか」を見出すために、必要なキャリアの糧がいくつかある。

1つ目の糧は、社員自ら「新しいスキルを身に付ける」ことだ。これは、新しいことに挑戦し、困難に立ち向かうのが近道だ。

2つ目の糧は、社員が試行錯誤を繰り返し、時間をかけて成長する「機会を与える」ことだ。

母国スイスでは、マネジャーから段階的に重要な仕事を任されて、徐々に仕事の進め方にも主体性が与えられる仕組みになっていた。

僕は最初、公的機関で働いていたが、そのキャリアは非政府組織とのミーティングで詳細な議事録を取るところからスタートした。

数年後には、同じようなミーティングの進行役をしたり、1人で出席してインパクトの小さな決断を下したりする機会が与えられた。

もし、スイスで仕事を続けていたら、戦略や予算に関する発言力も次第に増し、「これから何をしたいのか」を見出しながら、マネジャー的な責任も負うようになっていただろう。

でも、日本では勝手が違う。僕は多文化のコミュニケーションスキルがある中途社員として採用された。つまり入社したときから、会社に期待される仕事はうまくこなせる状態で、多文化コミュニケーション以外のことは求められていなかった。

目の前にある、たったひとつの課題を解決するだけでは、「これから何をしたいのか」は見出せないし、モチベーションも上がりにくい

困難によって変化するモチベーション

また、仕事のモチベーションは、「望ましい困難」と「望ましくない困難」の、まったく違う2種類の困難でも変化する。「望ましい困難」は、挑戦から学びが得られる。「望ましくない困難」は時間の無駄で、不満を生む。

日本で働いていて経験した「望ましい困難」は、権限を伴う主体性の発揮だ。

現在の、英語でコンテンツをつくる仕事は自分が決定者なので、責任を伴うだけでなく、社内外の方々から仕事のアウトプットに関して直接フィードバックをもらう機会にも恵まれている。「これから何をしたいのか」を再確認する機会にもなっている。

「望ましくない困難」は、母国語ではない言語で行われる日々のコミュニケーションだ。自分の日本語はゆっくりと上達しているとはいえ、日本語を母国語とする人の流暢さにはかなわない。

改善を重ね、ある程度のレベルに到達しても、社内でできることが増えるわけではない。

英語のコンテンツを作成するために採用されたのだから、日本語のコミュニケーションが上達すれば同僚との関係にはプラスになっても、アウトプットは大きく変化しないのだ。

時間の経過とともに、日常的に経験する「望ましくない困難」は減ってきたけれど、それがキャリアアップにつながり「これから何をしたいのか」を見出す機会になっているとは言えない。

年度末の人事考課では「望ましくない困難」は考慮に入れてもらえないため、悪循環につながっていく。上司が期待するのは、「現時点で日本人の同僚とほぼ互角にできるようになったこと」ではなく、「どんな新しい価値を会社に提供できたか」なのだ。

自分の実績の全体像を示せなければ、昇進の機会は減り、長期的には、高いスキルをもった外国人社員の多くが身動きが取れない状態になってしまう。

採用時に想定されていた狭い範囲の仕事以上のキャリアップを支援してくれる仕組みがない、もしくは限られていて、「これから何をしたいのか」を見出すまでには至らないのだ。

これが、経験豊富な人材の多くが、数年で日本企業を去ってしまう理由である。

専門分野に特化して、成長したいスペシャリスト型のキャリアを目指すなら問題はないが、分野を広げて新しいスキルを身に付けたい人には大きなマイナスになる。

外国人社員の成長を支援するために必要なこと

外国人社員の成長を支援する仕組みをつくるためには、かなりの労力と想像力が必要だ。

サイボウズの日本人マネジャーにしてみれば、自分たちの経験と重なる部分が多いため、新卒社員が会社で成長していく姿を想像するほうがずっと簡単だ。だから、マネジャー陣を批判するわけにもいかない。

その中で、外国人社員が「これから何をしたいのか」を見出すために、何が必要なのか。それは、難易度の高い「新たなチャレンジを支援する」ことだ。

だが、それは会社としてリスクが高いことがある。マネジャーに英語力がなければ、十分に成果物を監督したり、評価したりできないからだ。

そのリスクを避けるために、日本企業がよく使う解決策は「高い英語力をもつ日本人を採用する、または昇進させる」方法と、「英語を母語とするシニアレベルの人材を採用する」方法だ。

しかし、日本人マネジャーが考える「高い英語力」は、そもそも国際的なビジネスのコミュニケーションに必要とされるレベルに達していない場合が多い。

そのため、どちらの方法も、外国人社員の成長を妨げてしまうか、あるいは大きく遅らせてしまう。

その結果、経験豊富な外国人社員の多くが、数年で日本企業を去ってしまうのである。

このように、外国人社員の成長を支援するのは難しい。でも僕は、現状を変えられると信じたい。

日本企業が外国人社員をつなぎとめる2つの提案

このような挫折を経験してきたものの、外国語を使って異国文化のなかで働くことで得られるメリットは数多い。

多文化でバランスが取れた多様性のある環境で働くと、同質的な職場とはかけ離れたクリエイティブ思考やワクワク感が生まれる。

裏を返せば、キャリア形成の道は狭まっても、その分、人としての成長や成熟の可能性が広がるといえるかもしれない。

日本で働き始めてからは、自分の強みや弱み、偏見、またメンタルの限界について多くを学ぶことができた。その上、忍耐力や共感する力が高まっただけでなく、異文化間で緊張や衝突を招きそうな要素に早く気づけるようになった。

そして大局的な見方ができるようになり、ライターとしての発想力やバランスが高まった。

それでも、自分のキャリアと向き合い、次のステップを考えなければいけない時は必ず来る。日本企業が本気で、高いスキルをもった外国人社員をつなぎとめ、グローバルに存在感を拡大したいのなら、改めて2つの提案をしたい。

1つ目は、目の前にある、たったひとつの「課題を簡単に解決する」ために外国人を雇うのではなく、時間とともに「事業の拡大につながる戦力」として位置付けることだ。

外国人社員のキャリア形成は採用時から考え始めたほうがよいだろう。

「グローバル市場で販売したいから、英語が堪能な営業スタッフを採用しよう」という考え方に陥りやすいが、それだけでは不十分だ。

「これから3年後、5年後、どんな役割を果たしてもらいたいか」「社内で成長できる環境を提供できるのか」「外国人社員をマネジャー職や経営幹部に登用する気持ちは本当にあるのか」

こうした問いに答えが出たら、それを適切な形で伝えて、公平で透明性のある評価・昇進の基準を設けることが重要だ。マネジャーが部下の仕事をきちんと評価できなければ、部下は本能的に不公平感を募らせてしまう。

チームの包括性を意識しながら積極的にコミュニケーションを図り、チームメンバーの人となりを知る。そして、自分の業務がどう組織のミッションとつながっているかをメンバーに認識してもらう他に方法はない。

2つ目は、意思疎通や難易度の高い新たなチャレンジを支援する際の「リスクを受け入れる」ことだ。

発想力の強化とグローバルな拡大のチャンスの代償として、意思疎通の困難はある程度避けられない。思うように部下を管理できないと感じるからといって、その部下に与える自由や挑戦の機会を制限してはならない。

マネジメントしやすい同僚が先に昇進したり、後から採用された社員によってキャリアアップの道が妨げられたりすることに我慢できず、去ってしまう外国人社員の姿を僕は数多く目の当たりにしてきた。

特に日本では、外国人人材の供給がそもそも少ない。その中の一人が蓄積してきた業務と組織のノウハウをもって退職すると、会社にとっては長期的な損失になってしまう。

「異なる文化の調和」がつながりと協調を創る

同僚と話をしていると、この現象は外国人社員だけではなく、日本人の同僚にも起きていることが分かってきた。

自分に何が期待されているのかを積極的に話し合ったり、社員の成長のために、意思疎通や難易度の高い新たなチャレンジを支援するリスクを負ったりすることで、マネジャーと違うスキルや経歴をもった社員全員が恩恵を受けられる。

上司がキャリアプランを考えてくれたとしても、自分の成長には自分で責任を負うべきタイミングがやってくる。その時に大切なのは担当する専門的な業務に集中することではなく、全社の成長や発展に向けて積極的に活動する姿勢だ。

ベン図の4つ目の輪「これから何をしたいか」の答えに辿り着く上では、「これからのチームの活動において、自分がどんな役割を果たすべきか」を知ることが欠かせない

いくら多様性に富んだ社員を雇っても、採用した人全員を包括できるような環境を確立しなければ、事業の成功にはつながらない。

このような話題について、マネジャーと語り合える環境にいる僕は恵まれていると思う。自分の成果や評価基準だけでなく、市場性のあるスキルの向上やキャリアアップの機会についても遠慮なく話ができる。

それでも僕の疑念は晴れない。日本人の同僚が綿密で意欲的なチームづくりの戦略立案に多大な労力を費やしているのを見ると、英語の業務体制はかなり遅れを取っていると思わずにはいられない。

とはいえ、人とは違う将来を目指す道を選んだ以上、この不安とは付き合い続けていくのだということも理解している。異なる文化の調和は、双方にとって斬新な試みだ。

マネジメント側が外国人社員の抱える課題をオープンに話し合い、長期計画立案への参加を歓迎し、僕のためにある程度のリスクを負ってくれる限り、自分の疑念は脇にやって、時間と努力を費やしたいと思う。

つながりと協調があふれる社会を創る──この長期的な目標には、それだけの価値があるのだから。

執筆:Alex Steullet/翻訳:ファーガソン麻里絵/編集:竹内義晴/イラスト:マツナガエイコ

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執筆

撮影・イラスト

イラストレーター

松永 映子

イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。

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編集

編集部

竹内 義晴

サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。

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