サイボウズ株式会社

「超男性的」な社風は、男性も苦しめる

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 働く環境や企業文化に関心のあるビジネスパーソン
  • 経営者やマネージャー
  • 人事担当者
  • 多様性推進に興味のある一般読者
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読むことで、読者は職場における過度に男性的な文化がいかに有害であるかを理解できます。この文化は、長時間労働や激しい競争が常態化し、弱点を一切見せないことが求められるもので、多くの場合、男性以外の人々により大きな圧力と不利益をもたらします。また、信頼と協調を重んじるインクルーシブな職場文化が、長期的な組織の成功に繋がることも学べます。さらに、こうした有害な文化を見極め、改善していくための具体的なアプローチとして、マネージャーの行動を変える研修や、社員の率直な意見を促進するための心理的安全性が重要であることが示されています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

多様性、なんで避けてしまうんだろう?

「超男性的」な社風は、男性も苦しめる

長時間労働や、激しい競争、チームメンバーに弱みを見せないことが当たり前な社風──。

この、いわゆる「超男性的」な社風とは、どういったものなのでしょうか。また、それはなぜ有害で、どのように変われると良いのか。

組織行動及び人的資源分野の専門家である、カリス・チェン博士にサイボウズ式編集部のアレックスが取材しました。

※この記事は、Kintopia掲載記事「Everyone, Including Men, Suffers in a Hyper-Masculine Work Culture」の抄訳です。

有害な職場環境を知る手がかり

アレックス
まず職場環境がよくない時に表れるサインを教えてください。
カリス
有害な労働環境の最たる兆候といえば、短期間にたくさんの社員が退職し、離職率が高くなることでしょう。

ほかにも噂話、裏切り、陰口、手柄の横取りなども行動に表れるネガティブなサインとして警戒すべきです。

こうしたわかりやすい兆候だけでなく、信頼感や連携の欠如、会社の問題を口に出すことへの抵抗感など、目立ちにくい兆候もあります。

同様に、社員のエンゲージメント調査でも労働環境の質を判断できます。社員が仕事に没頭できない、あまり意欲が湧かないというならば、職場環境に問題があるのかも知れません。
アレックス
こうした行動に表れる兆候の多くは、個人の問題ともいえそうです。意欲の低下が見られる、あるいは意見が出てこない時、環境的な問題と個人的な問題をどうやって見分ければいいですか。
カリス
簡単には見分けがつかない場合もありますね。アレックスさんの例にでてきた兆候を示しているのが1人〜2人なら、社員と組織の相性が悪いのかもしれません。しかし、有害な職場環境では、優秀な人材をはじめ、社員の大半がやる気を失うこともあります。

「はっきりと意見を言うべきだ」と伝えるだけでは不十分なのがやっかいです。多くの社員が不満を抱えていても、実際に認知できるほどパフォーマンスが低下している社員は数名程度で、誰も率先して問題提起をしようとしない可能性もあります。
アレックス
課題が表面化しないこともあるんですね。
カリス
オーストラリアでは、前向きでオープンな企業風土の醸成を促進するマネージャー・リーダー向け研修が数多く実施されています。

そこで最初に取り上げるのがボディーランゲージです。なかには口では「意見をどうぞ」と言いながら、実際に社員が問題提起をすると否定的なボディーランゲージが出てしまうマネージャーもいます。

通常は第一歩としてマネージャー陣の行動を変え、その後、組織の変化に着手します。リーダーが意見を受け入れ、問題解決ができるようになったら、こうした事例をエビデンスとして活用して、ほかの社員にも問題提起を促します。

こうした行動パターンを実行できれば、ある問題が環境に起因するのか、個人に起因するのか分かりやすくなるはずです。

カリス・チェン。豪ブリスベンのグリフィス大学 労働・組織・健康センター(WOW)に所属する組織行動及び人的資源分野の研究員。研究テーマは仕事と生活の接点、フレキシブルな働き方やリモートワーク、自己効力感、仕事関連のストレスや燃え尽き症候群、リーダーと部下の交流など。オーストラリア国立大学にて組織行動および人的資源学の博士号を取得

過度に男性的な社風は、誰も得をしない

アレックス
有害な労働環境のひとつとして、「過度に男性的な職場」について書いていらっしゃいますが、 詳しく教えてもらえますか。
カリス
過度に男性的な風土には4つの特徴的な行動パターンがあります。1つ目は何よりも仕事を優先すること、つまり健康、家族、プライベートより仕事の位置づけが高いという特徴です。

2つ目は激しい競争です。個人主義的な傾向が強く、アイデアを分かち合うのはまれで、あまり互いを助け合おうとはしません。

3つ目は決して弱点を見せないことです。常に力と自信がみなぎっているように自分を見せたいと考えます。

4つ目は精神力と体力の顕示です。いっさい休憩を必要としないロボットさながら、長時間働きます。
アレックス
そんな社風でも男性にはメリットがあるんですか。
カリス
過度に男性的な風土では誰も得をしません。短期的に見れば、競争の勝利者にとってはメリットがあるかも知れませんが、そのうち代償の方がメリットを上回っていきます。

男性は長時間労働や仕事最優先を強いられ、「男なんだからしっかりしろ」と言われ続けるプレッシャーを感じるようになります。

ただ女性やマイノリティの状況の方が、さらに深刻です。この競争に参加せざるを得ないだけでなく、勝ち目がありそうなら、激しい反発に合うかも知れません。

「女なんだから、もっと理解と思いやりを示したらどうだ。そんなに力んで自己主張しなくてもいい」と思われたり、言われたりします。
アレックス
こういった環境にいると、長期的にはどんな影響がありますか。
カリス
極度のバーンアウト(燃え尽き症候群)の人と似たような症状が現れます。たとえば脱毛やストレスによる体重減少といった身体症状です。不安によって、偏頭痛を訴える人も多いです。

また失望、悲哀、不安といった負の感情を経験する人もいます。こうした感情が山積して職場で解放できないと、家族への八つ当たりのような形でほかの場所で発散されます。

ひとつ指摘したいのは、過度に男性的な職場にいる社員が常に居心地が悪いと感じているのではない点です。

よくあるのは、ジェットコースターのような感情の浮き沈みで、好調と不調を繰り返します。不調だと非常に不機嫌になり、意欲や仕事の遂行能力の低下といった影響が出てきます。
アレックス
そういった環境だと、遂行能力の低下は悪循環の始まりといえそうですね。
カリス
おっしゃるとおりです。負の感情を抱くと、遂行能力が低下し、さらに負の感情が生まれます。こうして悪循環が続いていくのです。

構造的なダブルスタンダード

アレックス
過度に男性的な風土の職場に身を置く女性やマイノリティは、どんな課題に直面していますか。
カリス
先ほどお話しした特徴は、一般的に男性に備わっているもので、男性の方が行動に移しやすいんです。女性とマイノリティがこうした男性の行動を目にすると、生き残るためには自分も同じ行動をすべきだと感じます。

感情を表に出さず、いつも強気で自信に満ちて、同僚の男性よりも頑張っている女性にみなさんも心当たりがあるでしょう。元実業家の米国人女性エリザベス・ホームズのように、同様の地位にある男性を真似て、低い声で話すような人までいます。
アレックス
なるほど。
カリス
ここまで極端なことをする女性は、極めて上手に駆け引きしているのかもしれませんが、同僚からは不自然な行為だとみなされ、批判や孤立につながります。

政治家として男性的なコミュニケーションスタイルで知られるヒラリー・クリントンも批判にさらされました。彼女の行動はメディアの標的になっていましたが、男性のリーダーが同じように行動していたら、受け入れられ、普通だと考えられたでしょう。
アレックス
先ほど「男性に備わっている特徴」とおっしゃいましたが、どういう意味でしょうか。
カリス
環境(育ち)か遺伝(本来の性質)かという議論の話です。遺伝子的に男性の方が体力があるという無意識の通念が存在します。多くの文化では、男性は幼いころから男らしく、はっきり主張すべきだと教えられます。

一方、女性は献身的に家族の世話をする役割を果たすようにと言われて育ちます。このような構造的なダブルスタンダードが職場にも持ち込まれるのです。

信頼と協調を重んじる

アレックス
一般的な動向と個人の経験にうまく折り合いをつけられないのが、この話題の厄介なところです。

有害な男性的行動をしない男性も多く、この話題が出ると自分が攻撃されていると感じる人もいるでしょう。こういう男性には、どんなふうに話題を振ったらいいでしょう。
カリス
過度に男性的な社風を話題にする時は、必ず相手の男性のことを考えたアプローチを取ってください。

職場環境はチームの実績や健康に影響し、相手の男性が問題の一因でないとしても、長期的に見れば影響は彼自身にも及ぶのだと説明します。

過度に男性的な社風が業績悪化と離職率の上昇を招くことを示す研究結果はたくさんあります。たいていの場合、そこから会話を始めるといいと思いますよ。
アレックス
マネージャー陣にはどう話を持って行けばいいでしょう。
カリス
まずマネージャーもわたしたちと同じ人間ですから、大勢の社員を管理しようとする中である問題に気づけなかったとしても、辛く当たってはいけません。

マネージャーと話をするには、まずマネージャー自身が親近感を持ってもらう必要があります。マネージャーには、できるだけ頻繁に部下と接点を持つようにアドバイスしたいですね。

仕事への意欲が少しでも低下したり、普段より発言が少なかったりすれば、すぐに根本的な原因の究明に着手できます。
アレックス
確かに、普段の会話の中にヒントはありそうですね。
カリス
なかにはマネージャーには直接話しにくい問題もあるでしょう。性的暴行やいじめといった問題を報告する匿名の相談先を用意しておくことも大切です。

「匿名」といいながら、実際には社員支援プログラムに寄せられた内容はマネージャー陣に報告されていて、報告した社員が反感を買うという問題が多発しているので、必ず匿名になるように気をつけてください。

非公式の相談先を設けて社員自らが管理している革新的な企業もあります。この方法だと、もっと対等ですね。
アレックス
過度に男性的な社風の代わりにどのような社風を取り入れると良さそうでしょうか? また、そちらの方が優れている理由も教えてください。
カリス
勤続年数や外見ではなく、個人の貢献によって評価されるインクルーシブな社風がよさそうですね。

そしてカリスマや自信などに注目するのもやめましょう。カリスマや自信では仕事の遂行能力は予見できませんから。

仕事の遂行能力を予見するのは、信頼と協調です。短期的には、人を蹴落とせば成功するかも知れません。でも数十年に渡って成長し続ける組織を目指すならば、インクルーシブで対等であること、そして一体感こそが何よりも大切です。
アレックス
なぜそのような組織は数十年に渡って成長し続けることができるのでしょうか?
カリス
こうした組織が成長し続けるのは、「組織市民行動」が促されるからです。これは、従業員たちが見返りを求めることなく、組織全体の効率を促進するために自発的に他者を支援する行動を指します。

社員が心理的に安全だと感じれば、率直な意見が出てきて、さまざまな問題をより早く解決できます。そして事業環境も上向き、最終的には業績も向上します。これこそインクルーシブな社風はビジネスにも有効だという証拠なのです。
執筆:Alex Steullet/翻訳:ファーガソン麻里絵/編集:鮫島みな

サイボウズ式特集「多様性、なんで避けてしまうんだろう?」

ここ最近、よく耳にする「多様性」という言葉。むずかしそう、間違った言動をしそうで怖い——。そんな想いを抱えている方もいるのではないでしょうか。サイボウズでも「多様性」を大事にしていますが、わからないこともたくさんあります。この特集では、みなさんといっしょに多様性の「むずかしさ」をほぐし、生きやすく、働きやすくなるヒントを見つけられたらいいなと思うのです。

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