サイボウズ株式会社

【覆面座談会】わたしたちが大企業を3年で辞めたワケ――どうすれば、若者たちが抱える会社への閉塞感をなくせるか?

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 若手社員
  • 人事担当者
  • 経営者
  • 転職希望者
  • キャリアカウンセラー
Point この記事を読んで得られる知識

この記事は、若手社員が大企業を3年以内に辞める理由についての実態を明らかにし、企業がどのように若手社員が抱える会社への閉塞感を解消できるかを探る内容です。座談会に参加した若手社員たちは、スキルが磨けない、出世競争の激しさ、会社の業務と顧客ニーズのズレ、自身のやりたい仕事とのギャップなどを辞職の理由に挙げています。また、転職時の年齢や転職先への不安、さらには退職が厳しい日本の社会構造といった悩みも共有されています。企業が今後どう変わるべきか、当事者たちの意見では、より多様な働き方の選択肢の提供、企業が自社の実態を偽りなく知らせること、職場の風通しを良くすることなどが求められています。さらに、人事制度の改革が企業の競争力を高める可能性があり、個人の価値観に対応した柔軟な働き方が推進されるべきだという提案も示されています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

20代、人事と向き合う。

【覆面座談会】わたしたちが大企業を3年で辞めたワケ――どうすれば、若者たちが抱える会社への閉塞感をなくせるか?

2021年の厚生労働省の報告によれば、新規大卒就職者の31.2%が、3年以内に離職しているといいます。しかも、こうした状況はこの数年に限った話ではなく、なんと30年近く続いています。

しかし、統計だけでは、なかなか若手社員たちの実際の胸の内まで知ることはできません。そこで今回は、彼らの生の声を聴くべく、実際に大企業を3年以内に辞めた若手社員4名を招き、座談会を実施しました。

モデレーターを務めたのは、自身も大企業を3年で辞めた経験を持ち、「社員が閉塞感を覚えず、幸せに働ける会社をつくりたい」という想いから、初の著書となる『拝啓 人事部長殿』を6月17日に上梓したサイボウズ人事部の髙木一史。

若者たちが会社を退職した理由、当時抱えていた不安や葛藤、これからの企業像について本音で語り合う様子をレポートしつつ、座談会を経て20代人事である髙木が何を感じたのかを記事の最後にまとめています。

スキルが磨けない、出世競争、顧客ニーズとの乖離……それぞれの退職理由

髙木
本日はわざわざサイボウズのオフィスまでお越しいただき、ありがとうございます。

まずは自己紹介も兼ねて、みなさんが大企業を3年以内に辞めた理由についてうかがえたらと思います。

髙木一史。サイボウズ人事本部 兼 チームワーク総研所属。東京大学教育学部卒業後、2016年トヨタ自動車株式会社に新卒入社。人事部にて労務(国内給与)、全社コミュニケーション促進施策の企画・運用を経験後、2019年サイボウズ株式会社に入社。主に人事制度、研修の企画・運用を担当し、そこで得た知見をチームワーク総研で発信している。6月17日にこれからの会社のあり方についてまとめた書籍『拝啓 人事部長殿』を上梓。

中村
僕の場合は、ビジネスマンとしてスキルが磨けないと思ったからです。

前職は大手の機械商社だったのですが、自分の力ではなく、会社のネームバリューだけで商品が売れてしまうことに危機感がありました。

大学時代の友人が仕事に励み、スキルアップしている姿を見ると「自分、大丈夫かな」と焦ったりもして。

それで自分のスキルを高められる環境を求め、社会人3年目の夏に外資の保険会社へ転職しました。

座談会はサイボウズのオフィスで行われた(2022年3月実施)

桜井
わたしは前職が銀行で、ファイナンシャルプランナーとして個人顧客向けに資産運用や資産承継などの提案をしていました。

入社前は、顧客の人生に寄り添う仕事ができると期待していたのですが、営業職だったこともあり、カードや保険の販売など、ノルマ達成のための仕事が中心になってしまい、入社前に思い描いていたイメージとのギャップを感じました

大企業特有の出世争いも苛烈で、そこに躍起になっている先輩たちを見て、「わたしはこうはなれないな」と。

いまは中小の出版会社へ転職し、総務と人事、社長の秘書周りを担当しています。
佐々木
僕はまだ退職していない(※取材当時)のですが、同じく銀行に勤めています。転職を考えた理由は、世の中の変化やニーズと銀行での仕事の仕方に乖離があると感じたからです。

桜井さんと同じく顧客のニーズに合わない提案をしなきゃいけなかったり、コロナ禍などで、これだけデジタル化が求められているのに印鑑文化がなかなかなくならなかったりして。

それで、まったくモチベーションを保てず、スキルアップにもつながらないと感じて、退職を決意しました。

実はちょうど一昨日内定をいただき、昨日上司に退職を打ち明けたところです。
佐々木
そうしたら今日、支店長や部長に呼ばれて、何回も面談をすることになって。

いまちょっと疲れているので、今日はみなさんとお話しして、元気をいただきたいなと思っています(笑)。
髙木
それはお疲れさまでした。では最後に平岡さん、いかがでしょう?
平岡
はい。わたしは4月までは映像制作会社で人事を務めていました。退職に至った理由の1つは、個人的に「人事」という仕事の中で心理的負担を感じることが多かったからです。
髙木
そうだったんですね。
平岡
それにわたしはもともと、映像制作会社にはクリエイター志望で応募していて。だから改めて、創作物を通して人に喜びを感じてもらえるような仕事がしたいと思い、退職を決意しました。

今年4月から社会人専門のスクールに1年間通って、転職はその後、行う予定です。
髙木
スキルアップや成長の実感が持てないこと、どこまでも出世競争に励む先輩の姿、本当に顧客のためになっているのか悩んでしまうような仕事、世の中の流れと仕事の仕方の乖離、自分のやりたいことと目の前のやるべきことのギャップ……。

人によって退職理由はほんとさまざまですね。

転職タイミングも悩みのひとつ? 「あと1年」と先延ばししていると、なかなか辞められない状況も

髙木
ちなみに、転職するときって、年齢のことは考えましたか?
佐々木
僕は転職するなら早いほうがいいと思っていました。上司からは「あと1年続けたら?」と言われたんですけど、あと1年続けて何が習得できるかピンとこなくて。

100%のスキル習得を求めるなら1年では足りないし、そのスキルって銀行内だけしか通用しない気がして。だったら早く辞めて、次の挑戦をしようと思いました
桜井
あと1年、もう1年……と先延ばししているうちに、どんどん辞めにくくなりそうですよね。
髙木
会社によっては一度退職するともとの会社には戻れない、出戻り禁止のところもありますが、みなさんの会社はいかがでしたか?
桜井
わたしのところは出戻りOKでした。経営層からも辞めるとき「いつでも帰ってきていいからね」と言われました。
平岡
わたしのところも、NGではないですが、実際に戻ってきているイメージはあまりないですね。

退職はしましたが、会社自体は好きなので、職種を変えてクリエイターとして戻ることができるのなら、最高だなと思います。
髙木
会社との離れ方にもいろんなパターンがあってもいいのかもしれませんね。

サイボウズだと、もともと正社員として週5日働いていた人が音楽活動をするため退職し、現在は業務委託として働くケースがあります。

ほかにも、副業で起業した人が、週4日、3日……と徐々にサイボウズの業務割合を減らしつつ、最終的に独立したという事例も。
平岡
そういう選択肢があると社員側としてはすごく嬉しいですよね。ただ、人事的な視点で見ると、実際に制度としてどうやって成り立たせるのかという心配はあります。
髙木
なるほど。確かに労務管理のハードルはあがりますね。職場のマネジメント負荷も高くなりそうです。

ただ、個人的には情報技術をうまく活用することで、管理やコミュニケーションのコストがさがり、マネジャーを支援する体制づくりもしやすくなるんじゃないか、と思っています。

若手社員たちが抱える、未来への漠然とした不安感

髙木
辞めるなら早いほうがいいとわかっていても、いざその決断をするのは勇気がいると思っていて。みなさんは、退職するまではけっこう悩みましたか?
中村
僕は悩みましたね。実際、前職の同期からも「辞められない」という悩みをよく聞いていて。
髙木
辞めたいと思っていても、辞められないと。
中村
はい。会社や働き方に対してモヤモヤしていることがあっても、転職先が見つかるのか、そこでちゃんとやっていけるのかもよくわからない。

将来的に結婚して子どもができたらお金もかかりますし、少子高齢化で働き手が減っていく中で年金をもらえる保証もない

いろんな漠然とした不安があって、どうしても保守的な考え方になってしまう面があるんです。
平岡
すごくよく分かります。わたしも「安定を求める気持ち」と「チャレンジしたい気持ち」がせめぎ合って、なかなか退職に踏み切れませんでした

そういう気持ちを上司に思い切って打ち明けてみたことがあるんですけど、「『大企業だから安泰』とかないよ」と真顔で言われて、はっとして。
髙木
実際、大企業もリストラはありますし、何が正解かはわからなくなってきていますよね。

個人的には、いろんなトレードオフを受けいれた上で会社に残る、という選択もすごく大事だと思っています。転職してむしろうまくいかなくなるというケースもあるわけなので。

会社選びは「自分にとって何が大切か」で選ぶ時代へ

桜井
わたしは「自分にとって何が安定か」を見極める力ってすごく大切だと思っていて。

わたしの転職先は、大手志向だった新卒就活時には選択肢に入らなかった中小企業です。でも、残業はあまりないし、上司も早く帰ってお子さんの食事を作ったりしていて。

いまの自分にとっては、理想の働き方ができる会社なんです。
髙木
自分に合う会社が見つかったんですね。
桜井
もちろん、大きい企業でしかできないこともありますし、ネームバリューだけで就職先を選んで、幸せになれる人もいると思います。

でも、わたしみたいにそうはなれない人もいる。希望の働き方を叶えるために、ちゃんと自分の価値観と照らし合わせて頭を使って会社を選ばないといけないんだなと思いました。
平岡
「自分にとって何が大切か」を考え直すタイミングが、社会人3年目くらいにようやく来る感じもしますよね。

職場の雰囲気やコミュニケーション……会社の風土に悩むことも

髙木
ここまでは、退職についてのエピソードを中心にうかがったのですが、実際に働く中で疑問や違和感を抱いたことはありましたか?
桜井
わたしが勤めていた支店は、同期の過半数が3年以内で辞めていて。その大きな原因は、風通しの悪さにあったと思います。

実際、前職の上司から「若手はもっと意見を出せ」と言われたので、意見を出してみたら「お前ら分かっとらん。俺が教えてやる」と返されたこともあって……。
髙木
そんなふうに言われると、ますます意見を出しづらい……。現場の意見や問題意識が共有されにくい風土というのは確かにもやもやしますね。
桜井
問題があると知られると、出世に響くというのもあるんでしょうね。特に役員候補の役職者にもなると、失敗を起こしたくないのだと思います。

個人の価値観の多様化に対応できる、働き方の選択肢が必要

髙木
最後にみなさんに伺いたいのですが、若手の視点から今後企業はどんなふうに変わっていったらいいと思いますか?
佐々木
そうですね、もう少し仕事の仕方を自分で選択できる余地を広げてほしいですね。

銀行では2、3年に1回必ず異動、転勤させられるのですが、いま取り組んでいる仕事や顧客に長く向き合いたいと考えている人も多いと思います。

もちろん、それには顧客との関係性が密になりすぎてはいけないとか、金融業界特有の理由もあります。

でも、仕事が選べる余地があることで、より活躍できるようになる人もいると思うんです。
中村
僕は企業は求職者に対して、もっと自社のカラーを伝えたほうがいいんじゃないかなって思います。

入社前の段階で「うちの会社はこうだよ」と一人ひとりに偽りなく伝えていったほうが、入社後のミスマッチが減ると思うので。
佐々木
たしかに。自分も就活時の説明会では、キラキラした仕事をしている人ばかりが紹介されていたんですが、実際そんな仕事ができるのは本当に一握りで。

最近は見直しが進んで、現実的な仕事内容の紹介にシフトしてきているようですが、入社前の期待とのギャップを埋める努力は必要だと思いますね。

キャリアアップをしたい人から仕事をほどほどにしたい人まで、いろいろな人が共存できる会社へ

平岡
わたしは、日本の人材市場って、年齢を重ねるにつれ転職が難しくなっていくように感じるんです。

だから、転職するなら若いうちにチャレンジしなきゃと焦ってしまう自分もいて。

人生は一度きりだからこそ、もっと気軽にいろんな仕事を経験できるといいなって思うんです。
髙木
たしかに、やりたいことが1つだけとは限らないですし、いろいろ経験していく中でやりたいことが見つかることもありますよね。
桜井
わたしの場合、今回の座談会の趣旨と少しズレてしまうかもしれないんですが、仕事を人生の中心としていない人たちも受け入れてくれる環境が、会社の中にあるといいなって思います。

そもそもわたしは、仕事で自己実現をしたいとはあまり思っていなくて。転職したのも、前職では理想の働き方を受け入れてもらうのが難しいと感じたからなんです。
髙木
バリバリ働いてスキルアップしたい人、特定の仕事にこだわりを持って取り組みたい人、ほどほどに働いてプライベートを楽しみたい人、いろんな人が共存できる環境のある会社になればいいですよね。
桜井
そういう意味では、これからは、自分の理想の働き方ができる会社を選ぶという考え方でもいいのかなと思いますね。
佐々木
でも、そういう柔軟な働き方をするためには、企業の収益力が必要だと思うので、なかなか難しいところもありますよね。
髙木
それはすごくわかります。柔軟な働き方が会社としての成果に結びつかなければ意味がありませんからね。

今日は「3年で大企業を辞めた若手社員」という括りでみなさんに集まっていただきました。

実際にお話を聞いてみて、「若手社員」とひとくくりにはできない、働くことへの多様な理想や価値観があるなと思いました。

改めて、本日はご協力いただきありがとうございました。

結びに代えて、髙木からのコメント

改めて思ったのは「3年で辞めた若手」とひとくくりにしても実に多様な個性の人がいる、ということです。

会社の外でも通用するスキルを身につけ、バリバリ成長していきたい人。出世競争に伴う苛烈な働き方よりも、ワークライフバランスを大事にしたい人。一向にデジタル化が進まない仕事の進め方に違和感を覚えた人。実業務と顧客ニーズにギャップを感じている人。取り組む仕事にこだわりのある人。いくつかの仕事を複数経験してみたい人。

多様な個性を自覚、表明することに慣れているいまの若い世代が活躍していくために、今後、どのような人事制度が必要なのか、改めて考えさせられました。

ほかにも、辞めた理由の1つに、本音をなかなか言いづらいといった会社の「風土」を挙げている人や、年齢が上がるにつれ転職がしづらくなるという、日本社会の構造にまで踏み込む発言をする人もいました。

とはいえ、いまの会社のしくみを変えることが会社の利益にもつながらなければ、それは意味がないよね、という現実的な話もありました。

会社の「閉塞感」には、個人の価値観、会社の事業の状態、日本社会の構造など、さまざまな要因が複雑に絡み合っていて、人事制度を変えただけで、状況を劇的に改善する、というのは難しいのかもしれません。

それでも、社内に人事制度の選択肢を増やしていくことは、閉塞感をなくすきっかけの1つにはなるんじゃないかと思っています。

時間や場所、職務を限定する正社員という選択肢が社内に増えていけば、ワークライフバランスを大事にしたい人や、特定の仕事にこだわりがある人も活躍できる幅が広がるかもしれません。

また、市場価値に近い報酬体系で評価される人が出てくれば、外部労働市場もいまよりは発達してくるかもしれません。

1つの会社の中で出世することだけがモチベーションじゃなくなっていけば、上司の顔色を伺ってオープンに問題をあげることができない、という風土も多少は緩和されるかもしれません。

副業や兼務が一般的になることで、いろんな仕事を経験してみたい、という人にも活躍のチャンスが増える可能性もあります。

そして、こうした人事制度改革を、日本中の会社が(もちろん各社それぞれの事情に合わせた形で)推し進めていくことで、相乗効果が生まれ、日本社会全体で競争力を高めていく(パイを増やしていく)ことができれば理想的です。

これからもたくさんの人から意見をもらうことで、閉塞感のない会社はどうすればつくることができるのか、探求し続けたいと思いました。

拝啓 人事部長殿』(著:髙木一史)
トヨタを3年で辞めた若手人事が、「どうすれば日本の大企業の閉塞感をなくせるのか?」という問いを掲げ、その回答を手紙形式でまとめた1冊。12社への制度事例の取材、日本の人事制度の歴史、サイボウズの変革の変遷を学ぶ中で見つけた「どうすれば会社は変わっていくことができるのか?」「これからの組織に必要なものはなにか?」を提案しています。

企画:高部哲男/執筆:中森りほ/編集:野阪拓海(ノオト)/撮影:栃久保誠

20代、人事と向き合う。

人事の仕事とはなんでしょうか? サイボウズの20代若手人事の髙木一史は、人事の仕事は「会社の理想と個人の幸福を両立させること」だと先輩たちから教わってきました。しかし、いま会社の理想も、個人の幸福も多様化し、唯一の正解を見つけづらい時代になってきています。そんな中で、これから会社はどう変わっていったらいいのでしょうか。6月17日に人事に関する書籍『拝啓 人事部長殿』を上梓した髙木が、若手なりの視点で掘り下げます。

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執筆

ライター

中森りほ

旅が大好きな東京在住のフリーライター&編集者。生き方・働き方系を考えるインタビュー、グルメ、旅、温泉、カルチャー系が好きです。

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撮影・イラスト

写真家

栃久保 誠

フリーランスフォトグラファー。人を撮ることを得意とし様々なジャンルの撮影、映像制作に携わる。旅好き。

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編集

ライター

野阪 拓海

コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。担当ジャンルは教育、多様性など。

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