サイボウズ株式会社

「自分のやりたいこと」がないと、肩身がせまい?──『夢組』と『叶え組』がいるから、組織はうまく回るんです

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • マネージャー
  • 組織運営者
  • 企業経営者
  • 多様性を重視するビジネスパーソン
  • キャリアカウンセラー
Point この記事を読んで得られる知識

このインタビュー記事では、個々のメンバーが明確な夢や目標を持たずプレッシャーを感じている状況に対して、組織がどのように機能するかについて解説されています。著者は、夢を持つ『夢組』と、目標が曖昧でも組織の支援役として活動する『叶え組』の両方が存在しているからこそ、組織がうまく回るとしています。特に『叶え組』と呼ばれる人たちは、夢組が切り開いた道を整えたり、必要なサポートを行う重要な役割を担っているとされています。

記事では、マネージャーとしてはメンバーに自分の役割を自覚してもらい、適材適所でフォーメーションを整えることが大切と述べています。また、やりたいことが見えていないメンバーに対しては、できそうな仕事を与えることで役割を自覚させるプロセスを推奨しています。さらに、メンバーが自分の役割を理解するためには、周囲にボール(仕事の役割)があることを伝えることも重要としています。

フォーメーションの重要性や、やりたいことに対する人それぞれのアプローチの違いを認識することで、チーム全体の目標達成に向かって、それぞれの役割の価値を再認識することができ、長期的な視野で組織の目的地に向けた方向性を共有することが提言されています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

「自分のやりたいこと」がないと、肩身がせまい?──『夢組』と『叶え組』がいるから、組織はうまく回るんです

「やりたいことは何ですか?」

チームメンバーの個性や内発性を生かすために、日頃こうした問いかけをしているマネジャーは多いでしょう。

しかし、全員が明確な夢や目標を持っているわけではなく、中には「やりたいことを持たなければいけない」というプレッシャーを感じている人もいるかもしれません。

では、やりたいことがある人もない人も、心地よく働けるようにするためには、マネジャーはどうやって組織づくりをするとよいのでしょうか?

世界は夢組と叶え組でできている』著者であるSAC about cookies代表の桜林直子さんと、『「Doな人」「Beな人」チームワークにはどちらも大事』を書いたサイボウズビジネスマーケティング本部長の林田保が考えていきます。

「やりたいことがない」と、肩身が狭くてしんどい

林田 保
桜林さんは著書『世界は夢組と叶え組でできている』で、ご自身について「やりたいことがない人(以下、叶え組)」だと書かれていましたよね。そのことに、いつ気付いたんですか?
桜林 直子
中学生のときです。やりたいことがわからないから、先生に「将来の夢」を尋ねられても言えませんでした。

やりたいことがある気持ちがわからなくて、将来の夢を答えられる人は「先生を納得させるためにリップサービスで本心じゃないことを言っているのかな」と思っていたんです。

桜林 直子(さくらばやし なおこ)。1978年生まれ。2011年にクッキー屋「SAC about cookies」を開業する。自店のクッキー屋の運営のほか、店舗や企業のアドバイザー業務などを行う。noteにてコラム、エッセイなどを投稿、連載中。2020年よりマンツーマン雑談企画「サクちゃん聞いて」を開始。2020年3月にダイヤモンド社より著書『世界は夢組と叶え組でできている』発売。

林田 保
よくわかります。わたしも学生のときから、とくにやりたいことがなくて、「将来の夢」を書けない自分を責め続けていましたね。

「やりたいことは?」とよく聞かれるし、それに答えなきゃいけない圧を感じながら生きてきたので、ずっと肩身が狭くて。聞かれても何も思い浮かばず、「いや、とくにないです」みたいな。
桜林 直子
そうそう、ないから言えないんですよね。やりたいことがある人(以下、夢組)は「目標に向かってやることが決まるからいいな」と思う反面、わたしはそっち側じゃないなって。

でもそのまま生きていくのはしんどいから、やりたいことがなくてもできることを考えようと、早めにあきらめていたかもしれません。

林田さんはいつ頃、叶え組の自分を受け入れることができましたか?
林田 保
きっかけは10年以上前、サイボウズのマネージャー合宿に参加したときですね。

当時の副社長からやりたいことを聞かれて、正直に「いや、とくにないです」と答えたんです。

すると、人生ではじめて「そういう生き方もありますよね」と言われて。「このままでいいんだ……!」と衝撃を受けましたね。

「フォーメーション」で考えたら、夢組も叶え組も欠かせない

林田 保
とはいえ、以前は自分のような叶え組の仕事って価値が低いんじゃないかな、と思っていました。

とくにやりたいことがないわたしは、夢組のアフターケアをする仕事が多くて。夢組が一気に切り開いた場所をきれいに整えながら道にしていく、みたいな。

その考えがなくなったのは、チームの「フォーメーション」を意識するようになってからです。

林田 保(はやしだ たもつ)。2002年、サイボウズ株式会社に入社。管理職として受注部門、コールセンター部門、マーケティング部門を担当。現在、執行役員 ビジネスマーケティング本部長。短時間勤務、複業、リモートワーク、午後から出社など、さまざまな働き方を宣言するメンバーのマネジメントをする。

桜林 直子
フォーメーション、ですか?
林田 保
はい。チームが理想へと進んでいけるフォーメーションを組むには、最初に道を切り開く人やそこから形にする人、トラブルを解決する人など、いろいろな役割が必要です。

だから、全員が夢組だとフォーメーションを組むことができません。夢組があまり興味のもてないことがあったとき、叶え組の力が必要になるからです。

そんなふうにフォーメーション上の役割分担を考えると、夢役と叶え組それぞれの仕事に価値の差はなく、どちらも重要なんだな、と。
桜林 直子
とてもよくわかります。わたしがかつて働いていた洋菓子店では、「いつか自分のお店を持ちたい」という夢組の人が多かったんです。

とくにやりたいことがないわたしは、広報や経理などお菓子をつくる・売る以外の仕事をすべて引き受けていました。
林田 保
まさに叶え組の仕事をしていたわけですね。
桜林 直子
はい。はじめは夢組の人からすれば、わたしの存在って「便利だな」くらいだったけど、会社が大きくなるにつれて変化が起きました。

自分たちが「やりたいこと」に専念できるのは、陰で支えている人がいるからだと、みんなが気づき始めたんです。

すると、あるタイミングでチームを引っ張る立場が逆転しました。「どうやら、あの人が裏でいろいろ握っているらしいぞ」と(笑)。
林田 保
よくわかります(笑)。叶え組の仕事を続けていくうちに、チームから求められることが増えていくんですよね。

みんなに「誰も手をつけたがらない仕事」があることを見せる

桜林 直子
マネジャーの立場から考えてみると、叶え組って「自分の役割」を言えるようになるまで、気が滅入りがちです。

夢組が落としていったボールを誰も拾わないとき、叶え組が「どうせわたしが拾うんでしょ」と無言で片付けていくことが多いので。

チームのために誰も手をつけたがらない仕事から、わざわざ順番に拾っていくのは、叶え組にとっての「あるある」で……。
林田 保
ええ、よくありますよね。
桜林 直子
ただそこで、自分の役割を自覚していれば、その仕事にも当事者意識を持てるようになる。

「どうせわたしが拾うんでしょ」じゃなくて、「わたしの役割は必要だよね」「これはお手伝いじゃなくて、わたしの仕事なんだ」と。

だから、マネジャーは「あなたの役割は何ですか?」と問いかけて、チームメンバーに気づかせる必要があると思っています。
林田 保
チームメンバーに「自分の役割」を自覚してもらえるように、マネジャーがサポートするわけですね。
桜林 直子
そうです。加えて、わたしは叶え組の社員には「“勝手”にボールを拾わないようにしよう」って伝えています。
林田 保
“勝手”にボールを拾わない?
桜林 直子
そもそも、夢組がボールを拾っていないのは「落ちているボール」が見えていないだけのことが多くて。悪気はないんです。

だからこそ、叶え組がボールを拾っていることにも気づかない。でも、そうなるとただの「便利な人」になっちゃいます。

そう思われないように、叶え組の社員には無言でボールを拾う前に「ここにボールがあるね。これは誰が拾うの?」と周囲に聞こう、と伝えています。
林田 保
なるほど。自分の役割をアピールするわけですね。
桜林 直子
はい。そうすることで、みんなは落ちているボールがあること、それを拾う人がいることを認識できる。

叶え組の役割を認識できれば、夢組は「代わりに“ボール拾い”をしてもらってごめんね」じゃなくて、「しっかり“仕事”をしてくれてありがとう」って言えるようになると思うんです。

できそうなことを任せて「自分の役割」を自覚してもらう

林田 保
より良いフォーメーションを組むうえでも、各メンバーが組織における自分の役割を自覚できるようにすることは、すごく大事だと思います。

一方で、なかには自分の役割を表明できない・したくない人もいる気がして。まさに昔のわたしがそうで、「いつかは夢組みたいに、目標に向かって思い切り進んでいく人になりたい」という人もいるはずです。
桜林 直子
「いまはまだやりたいことがないだけ」みたいな。
林田 保
そうです。表明できない・したくない人がいる場合、わたしはチームのなかですべきことから、できそうな仕事を探してお願いしています

その反応を見ながら、その人が夢組・叶え組どちらの傾向が強そうかを観察しているんです。
桜林 直子
なるほど、メンバー自身に表明してもらうんじゃなくて、マネジャーが客観的に判断していくわけですね。
林田 保
ええ。そのようにしながら、メンバーの特性に合わせた仕事をお願いして、フォーメーションを組んでいきます。

やる気が出ないことを無理にさせても、残念な結果になりやすいので、仕事や役割に人を当てはめることはしません

チーム全体の目的地を見せて、目立つ人だけを評価しない

桜林 直子
わたしも林田さんと同じように、みんなが適材適所にいるかどうかが気になるタイプです。

一人ひとりの特性と役割がうまくはまっていると気持ちいいし、向いていないことをさせるのは嫌なんですよね。

だからこそ、叶え組には「ボール拾いが得意なことは才能であり、立派な能力なんだよ」って伝えたいです。
林田 保
そうなんですよ……! 叶え組の中にはボール拾いに価値を感じられず、「後始末をさせられている」と思う人もいます。

でも、ポイントゲッターみたいな人もいれば、ボールを拾うような人もいるからこそ、チームでの仕事が成り立つわけで。

それぞれの役割が必要なことを、わたしもチームメンバーに伝えるようにしています。
桜林 直子
逆に言えば、上司がわかりやすい成果を出した人だけを評価すると、ボール拾いを地道にしている人はつらくなる。

だから、特定の誰かの活躍を評価するんじゃなくて、長期的な目線で「チームみんなで同じ方向に進めているか」を見ることが大事だなと思っています。

たとえば、売り上げが上がったりしても「みんなで頑張ったから、うまくいったね」と全体がうまくいっていることを評価しています。
林田 保
「この人のおかげで成功した」と言わないようにしているんですね。その点、チームみんなで同じ方向に進めるように工夫していることはありますか?
桜林 直子
あまり操作できるようなものじゃないんですけど、1つ大切なのは「チーム全体の目的地」を見せることです。

わたし一人が「みんなで目的地に向かって進んでいる」と思っていても、メンバーはどこに向かっているか、自分がどう役立っているか見えていない可能性もある。

だから、「全体的にこういう状態になったらいいよね、そのためにはみんなの役割が必要だよね」とメンバーに見せるようにしています

夢組か叶え組かは、その時々で変化する

桜林 直子
一般的には夢組がチームを引っ張っているイメージがあるかもしれません。でも、実際の仕事では、その役割って交代していくんです。

夢組の「これがやりたい!」という気持ちで一気に進める時期もあれば、やりたいことへの道筋を叶え組がつくることで進める時期もある、といったように。

だから、マネジャー側が「この人は夢組だからどんどんチャレンジしてもらう」「あの人は叶え組だからサポート役をしてもらう」と決めつけないことも大切だと思っています。
林田 保
うんうん、人って夢組と叶え組、どちらか一方に固定されるわけではないですよね。どちらかに傾きやすい気質はあっても、その時々で自分自身を構成する要素の割合が変わっていく。

そもそも、「やりたいことがない」のと「やりたくない」は違っていて。叶え組に見える人の中にはやりたくない(やる気がない)わけではなく、ただ単にやりたいことが思い浮かんでいない人もいます。

そのため、どちらのタイプもやりたいことが思い浮かんだり、やるべきことが決まったりすると馬力はあるんですよね。
桜林 直子
本当にその通りだと思います。
林田 保
人によって馬力を発揮できる分野が違うケースも考えられますよね。叶え組の気質がある人でも、特定の分野ではやりたいことを積極的に出すこともある。

だからこそ、マネジャーはチーム全体を見つつ、その時々で一人ひとりが馬力を出せそうな仕事をお願いすることが大事なんじゃないかな、と思っています。

本音を言い合える場所をつくれば、組織はうまく回っていく

桜林 直子
やる気はあるのに、やりたいことがない人は「何がやりたいの?」って聞かれると苦しいじゃないですか。

だから、そういう人が答えやすくなるように、マネージャーは「どうしても気になることはない?」と質問すればいいと思います。
林田 保
なるほど、問いかけを変えるとグンと答えやすくなりそうですね。
桜林 直子
「もっとこうしたらいいのに」と気づける人は、自分の考えを飲み込んでしまいがちです。「自分は何もしないのに、相手に注意だけしているみたい」と感じることがよくあるので。

でも、わたしは「口だけ出すのだって、才能じゃん」って思います。問題が起こりそうなことを共有してもらえたら、「じゃあ、どうする?」と議論できるようになる。だから、口だけでいいから全部言ってほしいんです。
林田 保
うんうん。
桜林 直子
もちろん、よかれと思って「もっとこうしたほうがいい」と口出ししても、一刻も早く前に進みたい人からは嫌な顔をされるかもしれません。

それでも「最終的に『言ってくれてありがとう』って思えるから、とにかく一回聞いて」と言えるかどうか。そこの信頼関係はすごく重要ですね。
林田 保
マネジャーが、チームメンバー同士何でも言い合えるような場づくりをする必要がありますよね。

夢組と叶え組が離れたところで言い合っていると関係性が悪くなるし、せっかく気づいた問題点も改善できない。

そうならないように、できれば同じ場所で当たり前のように口出しできるようにすることが重要です。
桜林 直子
おたがいが敵じゃないと思える場をつくれたら、マネジャーは「あとは、みなさんでどうぞ」とほぼ様子見をするくらいで、実はうまく回っていきますもんね。

企画:野阪拓海(ノオト)+サイボウズ式編集部 取材・執筆:流石香織 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)

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執筆

ライター

流石 香織

1987年生まれ、東京都在住。2014年からフリーライターとして活動。ビジネスやコミュニケーション、美容などのあらゆるテーマで、Web記事や書籍の執筆に携わる。

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撮影・イラスト

写真家

栃久保 誠

フリーランスフォトグラファー。人を撮ることを得意とし様々なジャンルの撮影、映像制作に携わる。旅好き。

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編集

ライター

野阪 拓海

コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。担当ジャンルは教育、多様性など。

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