サイボウズ株式会社

フラットな組織を守り抜くために「トップダウンをあきらめ、自分が間違っている可能性を受け入れた」

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 経営者
  • 組織のリーダー
  • 人事担当者
  • 組織改革を考えているビジネスパーソン
  • 企業の文化変革に興味がある人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事は、フラットな組織構造とその運営に関するインサイトを提供しています。主に、トップダウン型からフラット型に移行する意義やその過程で生じる問題について述べられています。サイボウズの青野慶久社長の経験談を元に、フラットな組織でどのように経営を進めていくべきかが話題にされています。

フラットな組織では、社員一人一人のニーズを満たしコミュニケーションをオープンにすることが離職率低下につながり、結果的に組織の柔軟性やアジリティを高める要因となることが示されています。また、ビジネスモデルの転換をスムーズに行うためには、フラットな組織への移行と社員のモチベーション向上が重要であるとも述べられています。

さらに、フラットな組織を成功させるには、意思決定の権限を現場に委譲し、顧客に適切な判断が素早くできる環境を作ることが大切だという考えが示されています。組織内での対立を解決するための明確なプロセスを持つことがポイントとして挙げられ、自律的な個人やチームが問題を解決できない場合はリーダーシップチームが介入するといった方法も紹介されています。

最後に、フラットな組織が必ずしも全ての従業員に合うわけではなく、変革に馴染めない20%の従業員が離脱する可能性があることも指摘されています。このため、企業文化を次世代のリーダーに継承し、守るためのガバナンスの仕組みを強化する必要があることが語られています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

フラットな組織を守り抜くために「トップダウンをあきらめ、自分が間違っている可能性を受け入れた」

フラットな組織モデルは、自分の仕事をより自由にコントロールできることから、世界中で人気を博しています。

しかし、フラットな組織にも問題はあります。カリスマ的なリーダーが対立や意思決定、文化の違いを解決するための明確な仕組みを持たずに、経営改革を推進することが多いのです。

サイボウズ社長の青野慶久は、経営陣が交代したときに、組織改革がうまくいかないのではないかと心配しています。

コーポレート・レーベルズ 共同設立者かつ経営思想家のヨースト ・ミナールさんとピム ・デ・モーアさんとの対話で、フラットな組織の成功のヒントを探りました。

Corporate Rebelsの共同設立者 Pim de Morree(ピム ・デ・モーア:写真左)さん、Joost Minnaar(ヨースト ・ミナール)さん。2016年、時代遅れの働き方に起因するフラストレーションから会社勤めを辞めた。「仕事をもっと楽しくする」というミッションを元に、世界中を飛び回り、世界で最も先進的な組織を調査している。ブログ「Corporate Rebels」の執筆や書籍『Corporate Rebels:Make Work More Fun』の出版を通じて、企業へのアドバイスや基調講演を行い、組織に働き方を根本的に変えるよう働きかけている。Thinkers50では「Top 30 Emergent Management Thinkers」に評価され、2019 Thinkers50 Radar Awardを受賞。「経営を再活性化する新しい声」の1人に選ばれている

※この記事は、Kintopia掲載記事「Do Flat Organizations Still Need Top-Down Leadership?」の抄訳です。

退職の理由は人それぞれ、1人1人に向き合う覚悟

青野
サイボウズにようこそ。今日は、新しい組織に関する対話ができればと思います。
ピム
サイボウズは元々トップダウン型の組織だったものの、そこからフラットな組織に移行していると聞きました。まずは、なぜトップダウン型から脱却しようと思ったのですか?

ピム ・デ・モーアさん

青野
わたしがCEOに就任した2005年は、離職率が28%でした。毎週のように送別会が開かれていたんですよね。

どうにかしないといけないと思い、離職者に「なぜそうなったか」を聞いてみたんです。

退職の理由は人それぞれでした。いつまで、どこで、いくらで働きたいのか、自分なりの考えを持っていたんです。
ピム
なるほど。
青野
離職率を下げるには、社員1人ひとりのニーズをどう満たすかを考えるしかありませんでした。

サイボウズで実践しているフラットでオープンなコミュニケーションは、その気づきの延長線上にあるんです。
ヨースト
会社全体が柔軟な働き方に変わり、収益も大きく伸びましたよね。これは意図的でしたか?

ヨースト ・ミナールさん

青野
いいえ、離職率と収益は別の問題だと思っています。

収益が伸びたのは、クラウドサービスの重要性に気づき、ビジネスモデルを機敏に転換できたことが大きいです。

ただ、スムーズに転換できたのは、社員の離職率の低下やモチベーション向上を先に進めていたからだと感じています。

フラットな組織は、意思決定権を現場に移譲する

青野
ほかの企業でも、フラットな組織モデルを採用することで、ビジネスのアジリティ(俊敏性)を向上させられるのでしょうか?
ヨースト
間違いなくそうです。パンデミック時にはフラットで分散型の組織を採用し、進歩的な経営を進めた企業が、新しい課題に取り組み、柔軟性を高められました。
青野
フラットな組織を運営するポイントはありますか?
ヨースト
意思決定の権限を現場のチームに委譲することです。顧客にとって最適で迅速な意思決定ができるようになります。
青野
2人が見た企業で、成功している企業はありますか?
ヨースト
オランダの医療機関ビュートゾルフは、ピラミッド型ではなく、まるで生き物のような組織モデルを採用しています。
青野
生き物ですか。
ヨースト
そうです。それは自律的なチームということでもあります。

自分たちが助けを必要とし、協調して行動することに意味があるときだけ、ほかのチームに頼るんです。危機が発生すると、自律的なチームは即座に情報共有をして、ほかのチームに行動を促します。

トップダウン型では、すべての情報は指揮系統の上下に移動しなければなりません。分散型組織の方が柔軟性があるのは当然です。

トップダウンをあきらめ、自分が間違っている可能性を受け入れた

ピム
サイボウズが組織モデルを変えようと思ったきっかけはありますか?
青野
組織運営の考え方が変わったことが大きいですね。

以前は、上から命令することでしか効率的な経営ができないと思っていました。でも、うまくいかなかったんです。
ピム
どう、うまくいかなかったのですか?
青野
例えば、ある社員が副業の許可を求めてきたとします。これまでは「何を言っているんだ!」「まだ、うちの会社で学ぶべきことがたくさんあるはずだ!」と答えていたと思うんです。
ピム
わかります。
青野
でも、それをあきらめました。

相手の言い分に耳を傾け、尊重するようにして、自分が間違っている可能性を受け入れることにしたんです。

サイボウズ 青野慶久

ヨースト
その考え方を嫌う人や、トップダウンの働き方を手放せないマネージャーはいたのでしょうか。
青野
もちろんです。古いやり方にしがみつく人もいましたが、厳しく対応することにしました。

柔軟な働き方を認めない管理職には、部下をつけずに、チームを離れてもらうようにしました。
ヨースト
この決断だけは、トップダウンだったんですね。
青野
この1点だけは譲れませんでした。お互いの多様なニーズを尊重するためには、トップダウンの決断を貫くしかないと思っていたんです。
ヨースト
お話を聞いて、フラットな組織モデルを実現するためには、3つのパターンがあることを思い出しました。
1)トップリーダーの努力によって実現する
2)フラットな組織からはじめて、規模を拡大する(ビュートゾルフのような形)
3)伝統的な組織構造から、ボトムアップで進歩的な組織に移行する
ヨースト
3つ目は最もまれですが、オランダのeコマースサイト「Bol.com」では、1人の社員の発案により、全社的な改革運動が起こりました。

ボトムアップアプローチでは、管理職が改革プロジェクトに賛同することが必要です。1つのチームや部署で変革の取り組みが始まる例も、多く見受けられます。

企業文化を守るのがリーダーの役目、命令はしないが「しつこく言う」

ヨースト
CEOの役割がトップダウンの経営でなければ、何だと思いますか?
青野
会社のカルチャー(文化)を守ることかなと思います。社内の文化が尊重されていない部分があれば、そこに介入していくんです。

どれだけささいなことであったとしても、企業文化に沿った組織運営がなされていないと感じれば状況、問題提起をし、マネージャーと話をします。
ヨースト
話をするだけで、命令するわけではないのですね。
青野
命令するのではなく、しつこく言うんですよね。

オープンコミュニケーション文化の大きなメリットは、透明性です。社内で議論したり、問題を抱えている人がいれば、すぐに分かります。

サイボウズには1200人以上の社員がいるので、オープンなコミュニケーションプラットフォームでなければ、現状を把握できないんですよね。
青野
オープンなコミュニケーションは、心理的な安全性なしには成り立ちません。企業文化を守るためには、安全性を確保することが重要です。

人々が恐れや疑いを抱くことなく、自分の考えを話すことができるようにしなければならないのです。
ヨースト
そうだと思います。
青野
ほかのフラットな組織では、どのようにバランスをとっているのでしょうか?
ピム
フラットな組織で成功しているところは、個人・チーム間の対立を解決するための明確なプロセスを持っています
青野
CEOはトップダウンで命令することなく、どのように対立に対処しているのでしょうか?
ピム
訪問した組織では、たとえ経営体制がフラットであっても、リーダーシップチームが存在していました。

万が一、自律的な個人やチームが問題を解決できない場合、リーダーシップチームが介入することができるのです。
青野
うんうん。
ピム
会話やアドバイス、仲裁を中心とした「合意形成プロセス」など、チームが利用できる仕組みがあります。

どんな紛争解決プロセスを選ぶにしても、まずは会話と自律的な解決を最大化して、紛争の拡大を最小限に抑えることが重要です。

フラットな組織文化には「個人の責任」が必要

ピム
社員全員が自分の働き方を実現するとなると、人事部にとっては悪夢のような話ですね。どうやって効率的に運営するんですか?
青野
「100人100通り」という考え方と「個人の責任」、どちらか一方が欠けてもダメだと思っています。サイボウズでは、社員のセルフマネジメント能力が求められます。

例えば、自分の理想の働き方と給与希望を文章にして、上司に提出してもらっています。そうすることで、自分が何を大切にしているのか、全員が考えるようになるんです。
ピム
そうですか。
青野
さらに大きな課題もあります。社員のニーズが常に変わり、新しい働き方が常に出てくることです。100人100通りの働き方を実現するために、終わりはありません。
ヨースト
サイボウズは、アメリカにもオフィスがありますね。企業文化の違いはありますか?
青野
うーん、特にないですね。最初はアメリカ式のトップダウン経営や、業績連動型の賞与も試したんですけど、うまくいきませんでした。

100人100通りの働き方に移行したことで、人材の定着率も上がりました。
ヨースト
そうだったのですね。
青野
はい。アメリカ・オフィスの運営を日本のサイボウズと同じにすることで、みんな去っていくのではと懸念していましたが、結果は逆でした。

アメリカに住む人たちの中にも、現在のいわゆるアメリカ式のマネジメントに共感していない人は多いのだと気づかされました。

100人100通りの働き方は、それでも万人向けではない

青野
それでも「100人100通りの働き方」は、万人に合うとは限らないことが分かったんです。

自分が望む働き方を理解し、嫌なことは積極的に伝えられる自立度の高い人は、快適に過ごせるはずです。

一方、仕組みがすでにできあがっていて、自分から積極的に動かなくてもいい組織構造を望む人は、苦労するかもしれません。
ヨースト
そうですね。
青野
フラットな組織体制は、誰にでも通用する可能性がありますか?
ヨースト
万人向けではないかもしれませんが、多くの人には有効です。

どのように働きたいかと聞いて「上司に指示され、重要なことはすべてヒエラルキーで決めたい」と答える人はあまりいないでしょう。
ヨースト
わたしたちのフラットな組織に関する調査では、約20%の従業員が先進的な働き方になじめないという理由で、新しい組織モデルから最終的に離脱するといわれています。

しかし、そのような人は通常、権限を失った人や中間管理職の人たちであり、最前線にいる人ではない傾向があります。ほかの人に対する権限が小さくなることを受け入れられないんですよね。

いずれ来るトップの交代、企業文化を守り抜くには

青野
次のリーダーへの引き継ぎについてもお聞きしたいです。

もし僕がCEOを退任することになった場合、これまで築いてきた企業文化が、次のCEOの下で崩れてしまうのは嫌なんですよね。
ピム
新しいリーダーが登場すると、多くの場合、より伝統的な企業文化や働き方に戻ってしまいます。それを防ぐには、ガバナンスの仕組みを明確にすることです。

社員がお互いにどう接するべきか、プロセスはどうあるべきかを明確に示してください。個々の性格に関係なく、同じように機能するのが目標です。
青野
ポイントはありますか。
ピム
独裁ではなく、民主主義を考えるといいですよ。

チェック・アンド・バランスをどう取り、どうすれば権限を社内に分散し、プロセスを明確にできるか。自問自答することがおすすめです。
青野
企業には、憲法や法律が必要でしょうか。
ヨースト
憲法はちょっと無理があるかもしれませんね。

そうだ、分散型の組織を持つスウェーデンの銀行「ハンデルスバンケン」では、リーダーが権威主義的になりすぎた場合、従業員はそれを変えるための力と影響力を持っています。もしリーダーがその力を廃止しようとしたら、従業員は去ってしまうでしょう

サイボウズの社員が自律性を発揮し、自分の働き方をコントロールすることが重要という考え方と同じように、リーダーに対する権限も与えています。
青野
そうなのですね。
ヨースト
もし、リーダーがその仕組みを廃止しようとしたら、社員は全員辞めてしまうでしょう。

従業員がリーダーをコントロールできるようにすることは、文化の継続性を確保するための方法といえます。
執筆:Alex Steullet/写真:高橋 団
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執筆

撮影・イラスト

編集部

高橋団

2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。

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