自分の得意なことや好きなことを活かして、楽しく働けているわけではない。でもそれが「普通」だからと、自分の気持ちに蓋をしてしまうこと、ありませんか?
もしかするとその「普通」を疑ってみるのもいいかもしれません。
今回は、フリーランスのイラストレーター、長谷美央莉さんに話を伺いました。元々会社員だった彼女は、自身の求める環境に身を置くために、会社を離れて単身で海外の大自然へ飛び込みました。そこで彼女が見つけたものとは。
人生の歩み方は100人100通りです。自分に向いていないと感じる社会から離れて「素直に楽しいと感じるかどうか」を追求してみるのも一つの選択肢です。
環境が行動や感性に及ぼす影響
本日の取材相手はわたしが大学生のころバイト先でお友達になった、長谷美央莉ちゃんです! 絵を描きながら国内外問わずさまざまな場所に住む彼女の生き方はいい意味でぶっ飛んでいます(笑)。
美央莉の話を聞いていると「人生なんとかなることが多いな」といつも気付きを得ています。 そんな彼女の生き方は、誰かの選択肢を広げるきっかけになるのではないかなと思い、今回は取材させていただくことにしました。
今日はよろしくお願いします! さっそくですが、美央莉のお仕事について教えてください。
よろしくお願いします! わたしはイラストレーターとして活動しています。タトゥーのデザインを作らせてもらったことも! あとはバイトもしてます。
長谷美央莉(はせみおり)。イラストレーター。作品のマーケット出品や、ウェディングボード作成や、ロゴ作成などを行う。
めっちゃ緊張したわ、本人が実際に入れたかはわからんけどな(笑)。
うんうん。でも、そんな依頼を受けるのって、美央莉の絵が人に訴えかける魅力を持ってるからやと思うねんな。絵を描くときに大事にしてることとかある?
えーそんなん言ってくれてありがとう(笑)。自然の中に行くとインスピレーションが湧いて描きたくなるかな。
たしかに美央莉の絵って自然がテーマよな。じゃあさ、東京みたいな都会にいるとあまりインスピレーション湧かない?
絵は描くねんけど種類がまじで変わった。変に万人受け狙ってるんかなって思っちゃうときある。
もっとシンプルになった。例えば、メキシコに住んでた時期があるんやけど、そのときは絵がめっちゃカラフルやったし木とかも枝まで細かく描いてた。今は色も前ほど使えなくなったし、全然違う。あのころみたいな絵はもう描けない。
もしかしたら8割の人は今の絵の方が好きって言うかもしれんけど、わたしは前の方が好き。
なるほど......。素人目線の質問になってしまうねんけどさ、色が使えなくなったってどういう意味やろ? 絵の具さえつければ物理的には可能やん? デザインが思い浮かばない感じ?
色つけても「あれ?」ってなっちゃうことが増えてんな。
日本帰ってきてから、絵に色をつけたときに、めっちゃ親とかに確認しちゃうようになって。「これ変?」って。
えーそうなんや、美央莉の感性やねんから「変」なんてないはずやのにな!
たしかにな! メキシコにいたときは人に確認することなんて1回もなかったのに不思議。
無意識のうちに「人にどう思われるか」みたいな視点が備わってしまったんかもな。
そうやと思う。服装とかもやっぱり「日本では浮くかな」みたいな観点で遠慮しちゃうことも全然ある。どこに身を置くかってめっちゃ大事やと思う。環境で人ってほんますぐ変わる。
ほんまそうやな。身を置いてる環境について意識してみるのって大事そうやな。
オフィスから大自然での生活へ
元々は東京で会社員やってたよな。社会人になってから今に至るまでの経緯を聞かせてもらえる?
就活の時点では、あんまりやりたいことわからなかったけど、とりあえず就職してん。でも実際はじめてみたら、想像してた仕事内容とはまったく違って。
1年目が終わるくらいのタイミングで、もう無理かもって感じはじめた。というのも、動悸がしたり、身体的にも結構しんどくなってきて。
いや、仕事がめっちゃきつかった訳でもないし、残業もそこまで多くなかった。それでも、どうしても続けられなかってんな。
当時書いてた日記を読み返したら「やり直しボタンがあったらそれを押してやり直したい」って書いてた(笑)。
なにより仕事は夜終わるから、夕日を見れないことがめっちゃ悲しくて。このままじゃやばいなって感じるようになった。自然を欲してたんやと思う。
ほんまそうやと思う。だから上司には「森に住みたいから辞めます」って言ってん。
たぶん。次の仕事見つけてから辞めなさいって引き止められて。上司は、わたしが次にやりたいことが特にないのに辞めるのが心配やったんやと思う。
たしかに、次やること決めてから辞めることが多いもんな。キャリアとかお金の心配はなかったん?
あったよ! それでも無理っていう気持ちが強かった。このときはそれどころじゃなくて、キャリアについては考えてなかったかな。お金に関しては、わりと貯金してたし、すぐに焦る感じではなかった。あと、本屋で読んだ本で、WWOOFっていう制度を知って。
そう、World Wide Opportunities on Organic Farmsの略で、 農場で無給で働く代わりに食事と宿泊場所を提供してもらうボランティアシステムがあるねん。WWOOFならお金かからんし、なんとかなるなって思ってん。
うん、だから仕事辞めたあとはハワイに行ってWWOOFした。
え、やばかった(笑)。指定の場所に行ったら、テントがあって、その中に板のベッドがあるだけやった。リビングとかトイレは別の建物にあるけど、自分のスペースはそのテントだけ。それでいて8時間労働。
そう、でもさすがにその環境はきつくて、そこで仲良くなった人がカウアイ島に行くって言うから、いっしょについて行った。
新しい場所は最高やった。2時間フルーツピッキングするだけでよかったし。オーナーたちは改造したバスみたいなところに住んでて、「こんな生き方もあるんや」って思った。そしてわたしたちの家にはドアも窓もなかった(笑)。
でも屋根があるし雨宿りはできた。トイレとかシャワーは別の小屋みたいなとこにあったかな。
ハワイで過ごした日々のイメージイラスト。ハワイの宿では夜中にネズミが食べ物を取りに来るため、食べ物には必ずカバーをしていないといけなかったり、クジラの鳴き声などをききながら寝ていたらしい。また、電気もないためヘッドライトを付けて生活をしていたそう。
まじか! 想像以上に自然の中での生活やったわ(笑)。ハワイにはどれくらいいたの?
3ヶ月くらい。それが楽しかったから、帰国後すぐにワーホリのビザとってオーストラリアに1年半行ったかな。
向こうではWWOOFしたり、2ヶ月くらいロードトリップしたりしてた。
うん、必要なお金って、ガソリン代と食品代とカフェ代くらいやったから、貯金切り崩してどうにかなったな。家賃がかからないだけでお金めっちゃ浮くなって思った(笑)。
あ、そうそう。1週間とか体洗えないことも全然あった。だから海とか川見つけたら、そこで洗ってた(笑)。足の裏とか常に真っ黒やった。洗濯物とかもできないから、服に水つけたらめっちゃ汚れ出てきてた。
言葉の壁を超えて絵でつながる
オーストラリアで仲良くなった子の影響で絵を描くようになった。
お母さんいわく、幼稚園の頃はよく絵を描いてたそうやねんけど、小学校入ってから、描かなくなったらしくて。
大学でもまったく描いてなかったし、ペンを握ることもなかった。だからその子の影響でまた楽しさを思い出したって感じだったかな。
じゃあ、その人との出会いは、その後の美央莉の人生にも結構影響あったんやな。
オーストラリアからの帰国後はどこおったん?
奄美大島で2ヶ月ほど車生活してた。この時初めてマーケットに自分が描いた絵を出店して売れてん。そのとき「買ってくれる人いるんや」って、少し自信がついたかも。
そのあと5ヶ月ほどメキシコ行った! で、メキシコから戻って今は日本にいるかな。
そう、メキシコでは、ビーチでやってるマーケットで絵を売ってた。
全然ペラペラとかじゃないけど、英語と赤ちゃんレベルのスペイン語でどうにか対応してたかな(笑)。
なるほど。美央莉の絵が言語の壁を取っ払ってたりもしたんかな?
あーそれはあるかも。泊まってたホステルのオーナーに「絵描いてるねん〜」って自分の絵を見せたら、うちの壁にも描いてよって言ってもらえた。
この人は英語全然できない人やったから言語で通じ合うことは難しかったけど、絵の依頼をしてくれるってことは「あ、本当にいいと思ってくれてるんや〜」っていうのが感じられた。
ほんとそうやな。壁の絵なんてずっと残るものやし、本当にいいと思ってないと依頼しないよな。
そうそう。描く代わりに、タダで泊まらせてもらえたし、めっちゃ楽しかった。「知り合いも壁に描いてくれる人探してるよ」って言って別の仕事も紹介してくれたし。
おー、繋がってくねえ! 言語の壁があっても、絵で心が通じ合ったんやな。
そうやな。言語の壁もあるし、そもそもわたし口下手やから、絵の方が気持ちを伝えられる気がする。
なるほど、コミュニケーションの取り方も、人それぞれやな。
そう。あと、物々交換ができるようになったのも新鮮やったかも!
うん、マーケット出品してたら、「わたしの出してるこれあげるからあなたの絵ちょうだい」って言ってくる人が結構いて。
わたしの絵を使って、その交渉ができるようになったのが嬉しかった。
へ〜! 絵がお金みたいな役割を果たしてるんやね。生きていくにはお金が絶対必要やと思ってたけど、環境次第では、その前提さえも少し変わるのかもな。
人生どうにか「する」と思えるようになった
美央莉は特殊な経験をたくさんしてるけどさ、人生の軸とかってあったりする?
軸かー、なんやろ(笑)。わたしふにゃふにゃしてるからあんまり軸ないかも。あ、美味しいお水が飲めるところにいること!
そうやな、自然の近くに住んでることは大事な気がするわ。あとは、何事もどうにかなるって思うようにしてるかも。
後先考えるの嫌いやねん。もちろんこの先の不安なんてたくさんあるけど「考えても無理!」ってなる(笑)。
それが美央莉の性格なら、ありのままを受け入れるのって大事よね。
うん。なんとかしないといけないときがどうせくるからな。何かが起こっても、どうにかしていこうって思えるようにもなった。
オーストラリアとかでも、明日寝る場所がないみたいなことは全然あったけど、なんとかなるって思うしかなかったし、実際なんとかなった。
実は私も美央莉の話に勝手に励まされてる! 人生がハードモードなときも、美央莉を思い出して、いや、きっとどうにかなるんやろうなって(笑)。
ええー嬉しい(笑)。あーでもどうにかなるとか言ってるけど、いつも人に助けられてるから、人への感謝は忘れないようにしないとって思ってる。日本にいる間は実家に住ませてもらったりしてるし。
うんうん。あと美央莉は、人生の棚卸しがめっちゃできてるんやろなって、見てて思う。
そのときの自分にとって大切なものと、そうでもないものが明確というか。例えば、少し極端な例かもしれんけど、車で生活できるから家はいらんわ、とか。
キャリアも、当初は一旦考えずに、生活する環境を整えてたけど、今はイラストレーターとして意欲的に活動してるし。
たしかに。でも、ていねいに棚卸しをしてるっていうより、自分の心が動く方向に素直に動いてる感じかな。逆に心がときめかないことはしない。
なるほど。意識的に取捨選択してるっていうよりは、自分の心に素直に行動してるんやね。で、それに合わせて生活スタイルをカスタマイズしてるんか。
その考え方やと、心身ともにポジティブな状態になりやすそう。そうなると、人間関係や仕事とか、他の側面でも前向きな循環が生まれやすそうやね。
企画・執筆:鮫島みな イラスト:長谷美央莉 編集:高橋団、神保麻希
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