サイボウズ株式会社

繊細さは「どうにもならないもの」ではない。「期待しないこと」こそが、働き方の改善につながる

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • HSP(Highly Sensitive Person)とされる繊細な人
  • 職場環境を改善したいと考える働き手
  • 繊細な人とどのように接すれば良いか悩む人
  • 多様性のある職場づくりに関心のある管理職
  • メンタルヘルスに関心のある人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事では、繊細な人々についての理解と共に、彼らが職場で快適に働くための対策を議論しています。繊細さを持つ人々は、その性質ゆえに他人の強い言葉や否定的な行動に対して過敏に反応し、ストレスを感じやすくなります。しかし、繊細さを「どうにもならないもの」として諦めず、その原因を理解し、適切に対処することで苦痛を和らげることができるとされています。特に大切なのは"相手に期待しない"ことで、自分の理想に完全に一致しないことを許容する姿勢が必要です。これにより、ストレスを軽減し、柔軟な対応が可能になります。

さらに、職場でのチーム全体が繊細さについての理解を深め、組織レベルで対策を検討することが重要だとされています。これにより、繊細な人々も他の人々と共に活躍しやすい環境が作られます。また、個人としては、他人のために耳を傾け自己重要感を満たすコミュニケーションを心がけることが、健全で多様性を尊重する職場文化の形成に寄与するとされます。このようなコミュニケーションを意識することで、相手との良好な関係構築が促され、繊細さの度合いに関係なく、多様な人々が働きやすくなると結論付けられています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

繊細さは「どうにもならないもの」ではない。「期待しないこと」こそが、働き方の改善につながる

「誰かが喧嘩をしている声を聞くと、自分のことじゃないのに具合が悪くなってしまう」「相手を不快にさせないか細かい部分が気になって、なかなかメールを送れない」

心細やかで繊細な人は、こうした悩みを抱えることが多いもの。その繊細な気質は「HSP(Highly Sensitive Person)」と呼ばれ、5人に1人の割合でいるとされています。

一方で、「繊細な人」にかかわる人の中には、その細やかな気質にとまどい、どう接していいか悩むことも少なくありません。

では、感じ方が異なる人同士が、ともに健やかに働くためにはどうすればいいのでしょうか。

今回、サイボウズ式編集部では、SNSにて「繊細さに関する悩み」を募集。『繊細な人が快適に暮らすための習慣 医者が教えるHSP対策』(KADOKAWA)の著者で、精神科医の西脇俊二さんに、集まったお悩みに対する原因と対策法について教えてもらいました。

「HSP=どうにもならないもの」ではない

早川大輝
HSPの話題となると、その繊細さを「大切にすべき個性」だと称賛する意見をよく聞きます。

しかし、それは同時に「繊細さゆえの傷つきやすさや、不便さは受け入れなくてはいけない」とも言っているような気がしてモヤモヤしてしまいます。
西脇俊二
確かに「個性」というと一見、聞こえがよいですよね。実際、わたしもHSP当事者として、繊細さという個性を肯定的に見ています。

一方で、繊細さを「なおらないし、なおすべきものでもない」としてとらえるのは、苦しんでいる当事者にとって身も蓋もないことです。

なぜなら、「なおらない前提」にとどまっていると、対処法がひたすら自衛に徹することになってしまうからです。

西脇 俊二(にしわき しゅんじ)。精神科医・ハタイクリニック院長。弘前大学医学部卒業。多数のメディア出演のほか、ドラマ『僕の歩く道』『相棒』『グッド・ドクター』、映画『ATARU』など医療監修でも活躍。

早川大輝
それだと「人の言動に傷つけられないよう、あまり深くかかわらないでおこう」というふうに、自分の行動を制限しないといけなくなりますよね。

でも、生まれもっての性質を変えられない以上、繊細さはどうすることもできないようにも思います。
西脇俊二
少なくとも、わたしは繊細さを「どうしようもないもの」だとは思っていません。

もちろん、繊細という「性質」を変えることはできないのですが、繊細であるがゆえに感じてしまう「苦痛」を和らげることはできると考えています。

大切なのは、自分がどんなことに、なぜ苦痛を感じるのか、その原因を把握すること。原因にアプローチすることで、同じ出来事でも感じ方を変えることができるはずです。

「相手に期待しない」ことの大切さ

早川大輝
実は今回、「繊細さに関する悩み」について、事前にSNSで募集しました。

その悩みを先生に読んでもらい、それぞれの原因と対策について教えていただきたいです!
西脇俊二
わかりました。ひとつずつ見ていきましょうか。
早川大輝
初めは、「言葉遣い・声色」に関する悩みです。

強い言葉、思いやりに欠けたコメントが苦手です。わたしは誰かに向けられた言葉であっても、自分が傷つくような感覚に陥ってしまいます。

人が怒られているのを聞くのがとても苦手です。大きな声で電話している人も苦手で、他人の感情が自分にも伝播しているような感覚になり、居心地が悪く感じます。

早川大輝
要約すると、「他人に向けられたものであっても、怒りの声や、思いやりの欠けた言葉に遭遇すると、不安に思ってしまう」というものですね。

これは、なぜそう感じてしまうのでしょうか?
西脇俊二
繊細さに関する悩みのほとんどに共通することなのですが、これには2つの理由があります。

1つめは、脳の構造の問題。脳には偏桃体(へんとうたい)と呼ばれる、感情を司る部位があります。この偏桃体は、強い刺激にはフィルターをかけ、刺激を弱める機能があるんです。

ところが、繊細な人はこのフィルターが弱く、外部からの刺激をダイレクトに受け取ってしまう。そのため、ストレスを感じやすくなっていると考えられています。
早川大輝
なるほど。一般的には気にならないことでも気になってしまうのは、そういった理由から生じているんですね。
西脇俊二
そして、2つめは、他人に対する期待が強すぎること。
早川大輝
他人に対する期待?
西脇俊二
他人の言動に傷つくのは、「もっとよい言動を期待していた」からです。

簡単に言うと、完璧主義だからですね。自分の中に「こうあるべきだ」という強い気持ちがあると、それゆえに細かいことが気になってしまいます。

同様に、周りの人に対しても無意識のうちに完璧を求めてしまい、「自分のイメージから外れた」ときに裏切られたと感じ、強いストレスを抱いてしまうのです。
早川大輝
どう対策すればいいのでしょうか?
西脇俊二
まずは、自分がストレスを感じる理由を知ることですね。不安とは、理由のわからないものに対して抱くものなので、理由がわかるだけでも少しは安心できます。

そのうえで、とにかく「他人に期待しない」練習をしましょう。
早川大輝
他人に期待しない、と聞くとなんだか寂しい気もしますが……。
西脇俊二
そうかもしれないですね。ただ、これは正確に言うと「100%自分のイメージ通りになると期待しない」という意味です。世の中、完璧な人なんていないじゃないですか。
早川大輝
たしかに、自分のイメージ通りにだけ動いてくれる人なんていないですね。
西脇俊二
他人に期待していると、自分のイメージとのズレが気になり、「相手を変えよう」と考えてしまう。これは期待とのギャップを埋めるためのアプローチです。

しかし、他人に期待していなければ、「相手を変えよう」とは思いません。目の前の出来事に対して「どうすればいいだろう?」とフラットに考えることができ、一歩進んだ対策を講じることができます。

繊細さの度合いを問わず、これを意識するだけで人間関係におけるストレスを大きく軽減できると思いますよ。

人に相談するのが苦手な人は、まず目的を明確化する

早川大輝
続いては、他人の反応を気にしすぎてしまう、というお悩みです。

オフィスで電話をかけているとき、同僚に変な言葉遣いをしていると思われているのではないか、と不安になってしまう。

自分の体調がすぐれない時でも、周りのことを考えると、どうしても弱音を吐くこと(体調がすぐれないことを周りに伝えること)ができないと感じてしまいます。

西脇俊二
これは、いわゆる「エクスポージャー(=暴露)不安」ですね。人は、普段見せていない部分を見せることに緊張や不安を覚えるのですが、それが強く出ると他人に気を遣いすぎてしまうのです。
早川大輝
この問題には、どんな対策がありますか?
西脇俊二
有効的な対策は、これも「他人に期待しない」ことです。あえて極端な言い方をしますが、どんなに親しい関係でも、相手からしたらあなたの悩みは「どうでもいいこと」です。

もちろん話を聞いている間は、親身になっていっしょに悩んでくれます。しかし、それが終わればその人は自分の生活に戻り、また別の関心ごとを見つけるでしょう。だから、重くならず、軽く考えればいいんです。
早川大輝
必要以上に相手の関心を高く見積もらず、ラクに構えていい、と。

でも、頭ではわかっていても、「そもそも相談してもいいことなのか」「ささいなことで悩んでいる、と思われないか」などと考え込んでしまいそうです。
西脇俊二
その場合は、人に話を聞いてもらうときの目的を明確にするのがいいと思います。「聞いてほしい」だけなのか、「アドバイスがほしい」のか。

事前に目的を明確にしておくと、人に相談する価値があるのか公平に判断しやすくなりますよ。
早川大輝
相談する前に目的を明示してもらえると、相手も話が聞きやすくていいですね。話を聞いてもらうことの申し訳なさも少なくなりそうです。
西脇俊二
もちろん、どんなに小さなことだったとしても、一人で抱え悩んでいるのであれば、相談してもいいんです。それで少しでも楽になるのであれば、相談する価値はありますよ。

それに、人は思っている以上に「相談されるとうれしい」ものです。相談されるということは、頼りにされている証ですから。

気にすることでストレスを感じるのなら、開き直るのもひとつの方法

早川大輝
こちらは文章にまつわる、お悩みです。

ビジネスメールを送るのが苦手です。何度も下書きを書いては消す、を繰り返してしまいます。

ていねいな説明、言い回しを含むと長文になってしまうので、悩みに悩んで、簡素な文章でお送りしてしまうことがあり、それがまた結果的に失礼な体裁になっているように思えて……。

返信がくるまでメールボックスを10分おきに何度もリフレッシュして確認してしまいます。

西脇俊二
他人に対して、気を遣いすぎる人は、過去に人間関係で失敗している人が多いですね。人間関係に対する不安が強いので、嫌われたくないからとやりすぎてしまうんです。
早川大輝
でも、これまでの悩みと比べると、ネガティブなことばかりでもないように思います。いろいろな人に伝わるように気を配って文章を書けるのは、いいことですよね。
西脇俊二
そうですね。ほかにも、美しさにこだわりを持つケースも多いです。

「ここは改行したほうがきれいに見える」など、ほかの人からすると、どうでもいいんじゃないかと思うようなことでも、こだわって作り込むことができる。ここはひとつの長所だと思います。

一方で、そういった行為に対して「無駄なことに時間をかけているな」と自分で思ってしまうのも繊細な人の特徴。どちらかというと、必要以上にクヨクヨして、ストレスを感じているのが問題なのかなと思います。
早川大輝
気にしなくていいということですか?
西脇俊二
いっそのこと開き直るほうが効果的なこともあります。細かな表現にこだわるのにも理由があるはずで、「改行の位置がきれいだと気持ちいい」というのも立派な理由です。

時間がかかってしまうことを申し訳なく思っているのかもしれませんが、最初からそのこだわりにかかる時間を考慮してスケジューリングをすれば問題ないと思います。

自分への期待が高すぎるからこそ、自己嫌悪になる

早川大輝
「ささいなことを気にし過ぎて、必要以上にクヨクヨしてしまう」という点では、以下の悩みも共通するかもしれません。

他人の意見に対して「これまでの背景を考えると、そんな考えにはならないはず」「もっと俯瞰的に見て、判断したほうがいいのに」とよく感じてしまいます。

それが気になるトピックだと、数日間頭から離れないです。そうしてささいなことに悩み続ける自分は、器が小さいな~といつも思っています(笑)。

早川大輝
これは他人への期待値の高さもあると思いますが、自分への嫌悪感もありますね。
西脇俊二
自己批判をするのも、他人だけでなく、自分に対しても期待値が高すぎるためだと思います。

「もっとよい自分」を期待しているからこそ、その期待と一致しないことに嫌悪感を抱き、傷ついてしまう。結果的に、自己評価を下げることにつながってしまうわけです。
早川大輝
ということは、自分に対しても「期待をしない」練習が必要なんですね。
西脇俊二
そうですね。理想の自分を思い浮かべることはいいのですが、「自分が、必ずしも自分の描くイメージ通りだと期待しないこと」が重要です。

どんなに一流の人でも「自分の理想を常に体現できている」という人はまずいないでしょう。

白か黒かではなく、「自分はまだ、理想の自分ではない」というグレーゾーンを許容した自己評価ができると、自分のことを受け入れやすくなるのではと思います。

個人だけではなく、組織レベルで繊細さを理解することが、これからの課題

早川大輝
今回募集した悩みの中には、相手の繊細さに想像を巡らせることに限界を感じている声もありました。

直属の後輩は繊細なタイプです。正直相手の繊細さを想像することには限界があり、知らぬ間に傷つけてしまっているように思います。ただ、わたしはそれに気づけず、予防ができていません。

正直、相手が繊細すぎることに、気を揉んでいます。自分の想像を超えたところで相手が傷ついていたりする場合、こちらで考えた打開策を施してもうまくいきません。

西脇俊二
たしかに「最近、繊細さを訴える人が増えて、やりづらい」と感じる人もいるかもしれません。

ただ、わたしは繊細さゆえに困難を抱えている人の数自体は、いまも昔も変わらないと考えています。

かつて、うつ病は「メンタルが弱い、ごく一部の人がなる病」と思われていました。いまでは著名人がうつ病を公表するようになり、「誰しもなり得る病」として認知されています。

それと同じように、繊細さが世間に認知され始めているのだと思います。
早川大輝
なるほど。では組織として、感じ方の異なる人がいることに、わたしたちはどのように向き合っていくのがいいのでしょうか。
西脇俊二
「繊細さゆえに困難を抱える人がいる」という前提のもと、組織レベルでその知識や対策法を身につけるべきだと思います。

やっぱり、日本の企業では「そんなに傷つきやすくては社会人としてやっていけない。根性で乗り越えなきゃ」といった精神論がまだまだ根強く残っています。

組織全体として、繊細さによる困難があると理解していれば、たとえばチームとしてどんな対策ができるか、というアプローチもできますよね。今後はそうした考え方が当たり前になっていくといいなと思います。
早川大輝
西脇先生は、繊細さの度合いが異なる人たちがともに働きやすい職場とは、どのような環境だと思いますか?
西脇俊二
職場の雰囲気が穏やかで温かく、同僚と和やかな関係を築くことができ、かつ一人ひとりの個性を大切にする文化があること。

こうした環境であれば、どんな人であっても働きやすいのではないでしょうか。
早川大輝
その環境をつくるために、個人や組織としてできることはありますか?
西脇俊二
これまでにお伝えしてきた「期待をしないこと」。そして、相手の「自己重要感」を満たすコミュニケーションですね。
早川大輝
自己重要感?
西脇俊二
自己重要感とは、相手から「大切にされている」と感じることです。繊細な人は、すでに相手を思いやる習慣を持っているので、身につけやすいかもしれません。
早川大輝
具体的にはどんなコミュニケーションをすればいいんですか?
西脇俊二
「肯定」「承認」「理解」など、相手が喜ぶことを意識すればいいんです。ポイントは、自分ではなく相手のための会話であること。

たとえば、高そうな腕時計をしている人に、「その腕時計ステキですね」とほめると、喜んで話してくれることが多いです。

自分にはあまり興味がない話題だったとしても、相手が関心のある、話したそうにしていることを汲み取って耳を傾ける。これが「相手のための会話」ですね。
早川大輝
なるほど。たしかに他人から言われるとうれしい言葉や、「この話を誰かにしたいなあ」というタイミングって人それぞれありますよね。
西脇俊二
ええ。「相手をコントロールしているようで嫌だ」という人もいるかもしれませんが、相手が求めるものを把握し、それに沿うことも思いやりだと思います。

どんな人間も、自己重要感を満たしてくれる相手には好意を抱き、大切にします。そうした関係性が組織の中で広がっていけば、繊細さの度合いは関係なく、多様な人が働きやすい環境に近づけるのではないでしょうか。
執筆:早川 大輝 撮影:栃久保 誠 企画・編集:野阪 拓海/ノオト
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執筆

ライター

早川大輝

1992年生まれ。Web系編集プロダクションを経て、フリーランスの編集者・ライターに。「エンタメ」や「食」「生活」に関する記事制作をよく行う。趣味は「記録」。最近の関心ごとは「独り言」。

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撮影・イラスト

写真家

栃久保 誠

フリーランスフォトグラファー。人を撮ることを得意とし様々なジャンルの撮影、映像制作に携わる。旅好き。

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編集

ライター

野阪 拓海

コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。担当ジャンルは教育、多様性など。

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