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無駄づくりのプロも、無駄に悩んでいた。「暇な時間がこわい」のはなぜ?──藤原麻里菜さん

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 働き方や生き方を見直したい人
  • 現代社会における生産性至上主義に疑問を感じている人
  • 仕事や生活において無駄と向き合いたい人
  • 藤原麻里菜さんに興味がある人
  • メンタルヘルスに関心がある人
Point この記事を読んで得られる知識

記事を通じて得られる知識は、藤原麻里菜さんが「無駄づくり」のプロであるにも関わらず、一時は「無駄」が怖いと感じていた経験についてです。彼女は暇な時間を恐れていたものの、最終的には無駄な時間を肯定的に捉える重要性に気づいたと語っています。現代社会では生産性がないと価値がないと感じられることが多いが、それは間違いであると主張しています。生産性のプレッシャーから解放されるために、自分自身の楽しさや満足感を重視することが重要であり、「生産性がない状態」を肯定する強さを持つ必要があると藤原さんは述べています。

また、合理性を求めすぎることが逆に暇な時間を怖くする原因になるため、時には無駄なことに時間を費やし、心を満たすことが大切であるとしています。このアプローチは、自己の価値基準を見つける手助けにもなり、好奇心のままに生きることで、価値のある新しいものが生まれる可能性を広げると考えられています。さらに、無駄なことにも意味や価値を見出すことができるという考えが、「無用の用」という哲学的な視点からも示されています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

無駄づくりのプロも、無駄に悩んでいた。「暇な時間がこわい」のはなぜ?──藤原麻里菜さん

「こんな無駄な時間を過ごして、自分は何をやっているんだろう」「暇な時間があると、なんだか不安になってしまう」。

こんなふうに「無駄がこわい」と思っている人は多いかもしれません。でもそもそも、どうしてわたしたちは「無駄がこわい」と思うのでしょうか?

今回、お話を伺ったのは株式会社無駄の代表・藤原麻里菜さん。2013年からYouTubeチャンネル「無駄づくり/ MUDAzukuri」を開設して、「札束で頬を撫でられるマシーン」など、これまでに200個以上の“無駄な”発明品を制作・配信しています。

そんな藤原さんですが、かつては「無駄がこわい」時期があったそう。一体何があったのでしょうか?

当時のお話を伺いながら、「無駄」とどう関わればいいかを教えてもらいました。

「生産性がない時間」が無価値に思えた

流石
藤原さんのインタビューやブログを拝見したのですが、「無駄が好きなのに、暇な時間ができると、その時間を埋めなきゃと焦っていた時期があった」と話していたのが印象的でした。

無駄づくりのプロでも、無駄な時間に焦ることがあるんだなと。
藤原
そうですね。少し前までは「暇な時間にも何かを生み出していないと、自分の存在価値はない」と思っていましたね。

2020年に入ったころ、コロナ禍で対面での活動が制限されてお仕事が減り、暇な時間が増えたんです。ただ、収入は減っても、国から支援金(※)のおかげで無駄づくりには打ち込めていました。

※奇想天外なことに挑む人を応援する、総務省「異能ベーションプログラム」を通過し、国から300万円の支援金を受けていた

藤原 麻里菜(ふじわら・まりな)。1993年生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。株式会社無駄 代表取締役社長。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とかつくり上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。

藤原
ところが、その1年後に支援金の契約が切れたころから、だんだんと元気がなくなってきて。コロナ禍で人とも気軽に会えないし、やることもそんなにありませんでした。

何か明確なきっかけがあったわけじゃないんですけど、だんだんと「無駄」を削って生産性のあることをしないといけない気がして、精神的に体調を崩してしまったんです。
流石
いろんなことが一気に重なって、心にゆとりがなくなってきたんですね。
藤原
はい。そうした焦燥感から、いままで楽しめていた「無駄」がこわくなったんです。家族や友人と過ごしていても、「生産性のない時間を過ごしていいのだろうか」と思ったりして。
流石
それまで、暇な時間は何をしていたんですか?
藤原
散歩しながら考え事したり、読書したりぼーっとしたりして、リフレッシュしていましたね。

でも、体調を崩してからは、そういうことができなくなり、無駄づくりのアイデアも浮かばなくなって。生産性のない状態を肯定できず、さらに苦しくなっていました。

必ずしも無駄なことから、何かが生まれなくてもいい

流石
いまは「無駄」への恐れはなくなったのでしょうか?
藤原
そうですね。もう元気になったので、暇な時間があってもこわくないですね。
流石
どうやって、「無駄」を肯定的に捉えられるようになったんですか?
藤原
これも何か特別なきっかけがあったわけではないのですが、とにかくものづくりのハードルを低くするようにしました。

よい反応がもらえなくても、しっかりと手を動かして、できあがったものを人に見せて反応をもらい、また考える。そのサイクルさえきちんと回せていればいい、と。
流石
逆に言えば、それまではものづくりのハードルが過度に高くなっていたのですね。
藤原
そうですね。たぶん誰もわたしに期待していないのに、期待されているように思っちゃったんでしょうね。

生産性がなくて苦しかったとき、「みんなをもっと驚かせるような、おもしろいものをつくらなきゃいけない」と思い込んでいて。

それなのによいアイデアが思い浮かばず、「わたし、ものづくりの才能がないな」と落ち込みました。

でも、最終的には「才能があるかどうかじゃなくて、アイデアを形にするために、とにかく手を動かすことが重要なんだ」という考え方にたどりついたんです
流石
その結果、どんな変化があったんですか?
藤原
ものづくりだけでなく、日常生活においても、ちょっとしたことで満足できるようになりましたね。

特別なことが起きなかった日でも、「コーヒーが美味しかったな」「お店で変な人を見かけたな」とか。
流石
心にゆとりがある感じがしますね……!
藤原
現代社会では「生産性がないと価値がない」と感じて、苦しくなる人が多いと思うんです。かつてのわたしもそうでした。

でも、いまは肯定するべきものだと考えていて。「生産性がある」とされる既存のタスクをなぞっているだけでは、新しいことは生まれないんです。何かしらの革新は、無駄なことから生まれるわけで。

もちろん必ずしも無駄なことから、何かが生まれなくてもいいんですよね。生産性がない時間を肯定できるだけの強さを持つ必要があると思っています。

「心が満足すること」に集中するための合理性

流石
藤原さんのように、暇な時間を肯定できる人にあこがれます。理由はわからないんですけど、「無駄」がめちゃめちゃこわいんですよね。
藤原
「無駄」ってこわいですよね。実はわたしも、無駄づくりの過程は合理的に進めているんです。

その一例が、プログラミングでコードを書くときです。自力だと1時間くらいかかるので、ChatGPTを使って5分間くらいで完成させることもあります。
流石
テクノロジーをうまく活用しているんですね。
藤原
そうすれば、「自分でするからこそ、心が満足できること」に集中できるので。

たとえば、料理が好きな人は、他人に料理をつくってもらうよりも、自力でつくったほうが満足できるはずです。

そんなふうに「自分でするのが楽しい」と思えることの時間を確保するために、自分以外にもできることはテクノロジーや他人の力に頼ることもあります。

「ただ楽しいから」で自分を納得させていい

藤原
ただ、合理性を求めていくと、「もっと効率的に進めたい」と工夫するようになって、生産性のない暇な時間がますますこわくなります。

好きなことができる余裕を生み出すために効率化しているのに、効率化するためのタスク処理に追われてしまう。それでは心が潤いません。
流石
まさに本末転倒ですね……。どうすれば、その状態を回避できるのでしょうか?
藤原
1日に5分間だけでもいいので、無駄なことをするのがおすすめです。

仕事のスキルアップなど役立つことじゃなくて、踊るでも歌うでもとにかく自分の心が豊かになることをやってみる。

すると、たとえ生産性がなくても、「楽しい」という本能が満たされて、心が満足するはずです。
流石
まずは「楽しい」を感じることが大事だ、と。
藤原
そうです。子どものころって、成長につながるかどうかを考えず、「ただ楽しいから」という理由で遊びに夢中になれましたよね。

そういう原始的な理由で、自分を納得させていいと思うんです。わたしの無駄づくりも、いちばんの動機は「ただ楽しいから」ですし。

「好きなこと」を好きであり続けるために、無駄な時間をつくる

藤原
体調を崩したとき、わたしがいちばんこわかったのは、これまで好きだったことに興味が湧かなくなったことでした。

でも唯一、ものづくりだけは楽しいと思えて。ものづくりみたいに、自分の心が満足することに時間を費やすのはこわくないんですよね。
流石
たしかに、「楽しい」という気持ちを満たす手段がなくなるほうがこわいですね。
藤原
そうなんです。ただ、「何かすごいものをつくらなきゃ」と焦ってしまうと、好きなことでも楽しいと思えなくなってきます。好きなことが「なんだか楽しくないな」と思い始めたら、疲れのサインです。

わたしはそれだけは避けたいし、好きなことを好きなまま続けていくことをいちばん重視していて。だからこそ、続けるための努力は必要だと思うんです。
流石
たとえば、藤原さんはどんな努力をしているんですか?
藤原
好きなことでも寝食忘れて没頭するのではなく、ちゃんと暇な時間をつくって休むようにしていますね。ほかにも、しっかりとスケジューリングして、タスクを詰め込みすぎないとか。

そうやって自己管理しながら、「無駄づくりはもうしたくない」と思わないように自分の心を守っているんです。

人間は「無駄なこと」にも意味を見出せる

流石
活躍している人を見ると、「自分はこんな無駄な時間を過ごしていいのかな……」と焦るんですよね。
藤原
その気持ち、わかります。でも、そういう気持ちに振り回されるのが人生な気がしますけどね。

そもそも人間って、無意味なことが苦手なんですよ。だから、何かの役に立ちたいし、何かしなきゃいけないと思ってしまう。
流石
すごく心当たりがあります……。
藤原
でも、人間は無意味なことに意味を持たせることもできるんです。それを示すのが中国古代の『荘子』に出てくる「無用の用(むようのよう)」の大木のお話。

建築材料などに使えない木は、切り取られることないため、大木へと成長します。すると、無用だったその大木の陰で、みんなが休憩したりするようになる。

そんなふうに世間的には役立たないとされているものが、別の意味で非常に大切な役割を果たすこともあるんです。
流石
言われてみると、世の中には「無用の用」に当てはまるものがたくさんありますね。
藤原
人間は何にでも意味を見出すことができるので、絶対的に無価値なものはないと思います。
流石
無駄づくりのプロである藤原さんにとっても「価値のある無駄」と「価値のない無駄」はあるのでしょうか?
藤原
ありますね。行政関連の紙書類などの印刷やスキャンを繰り返すのは、わたしにとって「価値のない無駄」なので、デジタルで完結してほしいって思いますね。

逆に、わたしにとって「価値のある無駄」でも、別の人にとって「価値のない無駄」になることもあります。

例えば、わたしは旅行の記念品として、現地の石とか木の枝を拾うのが好きなんです。でも、わたしが拾ったものを見た夫は「どうしてゴミを拾うの?」と。ものごとの価値は、ひとつの物差しで決められないんですよね。

「役立つかどうか」ではなく、好奇心のままに無駄なことと向き合う

流石
では最後にあらためて、わたしたちが「無駄」を恐れずに、自立的にかかわるためにはどうすればいいと思いますか?
藤原
SNSなどの注意を引かれるものからはいったん離れて、暇な時間を過ごすのがいいんじゃないかなと。

たとえば、登って降りるだけの滑り台って、よくよく考えると無駄ですよね。それを前のめりでやってみるとか。何の価値にもつながらないんですけど、楽しくて満足できるかもしれません。
流石
受動的に暇を埋めてくれるものではなく、能動的に暇な時間を過ごしてみる、と。
藤原
そうですね。わたしは社会の基準ではなく、「わたしはこれが好き」という自分を基準とした価値観をもって、生きることが大切だと思うんです。

その自分基準の価値を見つけるには、いろいろと無駄なことに挑戦しながら、「楽しい」と心が満たされる感覚に敏感になる必要があります
流石
「無駄」と自立的に関わることは、自分なりの価値基準を知るためにも、大切なんですね。

でも、その「無駄」が結果的に何の役にも立たない場合もあるわけで、熱量高く向き合えるかどうか不安です……。
藤原
世界有数の学術研究機関であるプリンストン高等研究所を創設したエイブラハム・フレクスナーが言った「『有用性』という言葉を捨てて、人間精神を解放せよ」という言葉がわたしは大好きで。

何かをするときに「役立つかどうか」でふるいにかけて、役立つからするんじゃなくて、好奇心に従ってあえて役立たない無駄なこともしてみる。

そうすることで、今日まで無駄だと思っていたことでも明日からは価値が生まれて、自分の可能性を広げられるかもしれません。

寛容な心を持っていれば、すべてが価値あるものに見えます。だからこそ、ただ好奇心のままに生きていってほしいですね。

企画:深水麻初 取材・執筆:流石香織 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海/ノオト

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執筆

ライター

流石 香織

1987年生まれ、東京都在住。2014年からフリーライターとして活動。ビジネスやコミュニケーション、美容などのあらゆるテーマで、Web記事や書籍の執筆に携わる。

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撮影・イラスト

写真家

栃久保 誠

フリーランスフォトグラファー。人を撮ることを得意とし様々なジャンルの撮影、映像制作に携わる。旅好き。

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編集

ライター

野阪 拓海

コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。担当ジャンルは教育、多様性など。

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