サイボウズ株式会社

8億人の飢餓を救うビジネスと年商3億円のパン屋が生まれた意外な共通点──TABLE FOR TWO土井暁子×平田はる香

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • ビジネスに興味がある人
  • ソーシャルプロジェクトに興味がある人
  • 社会貢献に関心がある人
  • 地方でのビジネスに関心がある人
  • 企業の社会的責任に興味がある人
Point この記事を読んで得られる知識

この対談記事から得られる知識は、ビジネスには多様なアプローチが存在し、成功するためにはオリジナリティあふれるビジネスモデルが重要であるということです。TABLE FOR TWO(TFT)とパンと日用品の店「わざわざ」は、一見異なる分野の取り組みですが、「飢餓」と「肥満」を同時に解決する革新的なモデルや、小売店としての多様な要素の組み合わせによる独自性を実現しています。

特にTFTは寄付を「無理なく続けられる活動」として位置づけ、ユーザーの日常行動が自然と社会貢献に繋がるような仕組みを作り出しています。これにより、人々に「良いことをしている」という自発的な動機を与えることが可能になっています。一方で、「わざわざ」は健康や環境、地元コミュニティへの貢献を暗にサポートしながら、楽しさやおいしさを売りにすることで、ユーザーにとって魅力的な選択肢となっています。

また、両者は共に「北風と太陽」寓話の太陽的アプローチを取り入れ、強制や押し付けがない形での関与を促しています。地域性の取り扱いや、新しいことへの挑戦の際にも、人々が自然に感じて行動する流れを作ることの意義が強調されています。さらに、時代に即した変化や、柔軟な伝え方をしていくことの重要性についても言及されています。他者に理解され共感を得られるためには、時代の流れや社会の変容に合わせて自らも変わる必要性を痛感しているとされています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

「ふつう」を、問い直してみよう。

8億人の飢餓を救うビジネスと年商3億円のパン屋が生まれた意外な共通点──TABLE FOR TWO土井暁子×平田はる香

世界人口の8億人の飢餓と20億人の肥満を同時に改善するソーシャルプロジェクト「TABLE FOR TWO(以下TFT)」。

長野県で小売業を主体とした事業を展開し、年商3億円超に至ったパンと日用品の店「わざわざ」。

まったく共通点のないように見える2つの取り組みですが、ビジネス上の戦略や哲学には、従来とは異なる数多くの共通点があります。

今回サイボウズ式では、TFTの事務局長・土井暁子さんと、わざわざの平田はる香さんの対談を実施。「北風と太陽」をキーワード盛り上がった対談の様子を、お届けします。

複数の要素を組み合わせ、独自のビジネスモデルに

平田
TFTとわざわざって、ビジネスのジャンルが全然違いますよね。でも、いくつかの共通点があるように思うんです。
土井
たとえば、どんなことでしょうか?
平田
1つは、複数の要素を組み合わせて、オリジナリティのあるビジネスモデルを生み出していることです。

TFTでは「飢餓」と「肥満」という2つの課題を、同時に改善する活動をされていますよね。

TABLE FOR TWO(=TFT)プログラムは、先進国で1食とるごとに 開発途上国に1食が贈られる「2人のための食卓」がコンセプトの仕組み。肥満や生活習慣病予防のためにカロリーを抑えた定食や食品を購入すると、1食につき20円の寄付金が、TFTを通じて開発途上国の子ども1食分の学校給食になる。企業・団体でもっとも多く導入されているほか、「寄付つきウォーキングイベント」などのプログラムがある。

平田
わざわざも、「わたしにできることで、人の役に立つこと」を複数かけ合わせていて。「パンづくり」、「ファッション」、「Webデザイン」といった複数の要素を"小売店"という形で表現しているんです。

これらの要素は、幼少期からパン作りをしていたり、ファッションの専門学校に通っていたり、DJ活動のために自分のホームページをつくっていたりと、わたしの経験から出てきたものです。

でも、どれもこれも中途半端で、どれかひとつのスキルでは一流にはなれない。そこで「全部かけ合わせたらおもしろいんじゃないか」と思ったんです。
土井
なるほど。複数の要素がうまく組み合わさることで、ほかにはないインパクトのあるビジネスモデルが生まれるわけですね。

たしかに、わたしは2009年からTFTに関わっていますが、活動をはじめて知ったとき、かなり衝撃を受けました。というのも、TFTのプログラムでは誰も犠牲にならず、開発途上国と先進国双方の人々の健康を同時に改善できるから。

それまで「社会貢献」といえば、自己犠牲のイメージが強かったので、複数の要素を組み合わせることでwin-winの関係を目指せる仕組みがあることに驚きましたね。

土井暁子(どい・あきこ)。明治大学公共政策大学院 ガバナンス研究科修了。 西武百貨店で経理のキャリアをスタートし、 ウォルト・ディズニー・ジャパン、 ビー・ブラウンエースクラップジャパン(独医療機器メーカー)の外資法人で財務経理全般に携わる。 2009年からTFTのサポーター、2019年に職員として入職。事務局長。

入り口のつくり方は「太陽アプローチ」

平田
TFTとは「入り口のつくり方」も、似ているなと。それは、イソップ寓話の『北風と太陽』でいう“太陽タイプ”であることです。

従来のビジネスモデルでは、ユーザーを不安がらせたり、必要性を煽り立てたりして、半ば強制的に行動を促すことが少なくありません。これは“北風タイプ”です。

一方、TFTは”太陽タイプ”。日々の生活に欠かせない食事を「健康的にする」ことで、一部を寄付金に還元する仕組みになっています。

こうすることで、ユーザーには「いいことをしている」という気持ちが生まれて自ら寄付したくなります

もしかしたら、寄付している意識がないまま寄付している人もいるかもしれませんよね。
土井
そうですね。TFTは、日本国内では715団体(2022年12月末現在)に導入していただいております。その理由のひとつが無理せずに続けられることだと考えていて。

「社員食堂でヘルシーメニューを選ぶだけで社会貢献できる」という手軽さ・導入のしやすさは大切にしています。
平田
わざわざも、その点は意識しています。わざわざの商品は、ユーザーの健康や生産者の労働環境づくり、自然環境への影響にもこだわってはいます。

でも、ほとんどのユーザーはその仕組みを意識していません。わざわざが提供する「おいしい、楽しい、おもしろい」といった価値に魅力を感じて、商品を購入しているんです。

そうしてわざわざの商品を使い続けていくうちに、いつの間にか健康な社会につながっていくわけです。

わたしたちが行っているのは、言ってみれば“太陽アプローチ”ですね。

平田はる香(ひらた・はるか)。パンと日用品の店「わざわざ」代表取締役1976年生まれ。2009年、長野県東御市の山の上に趣味であった日用品の収集とパンの製造を掛け合わせた店「わざわざ」を1人で開業する。だんだんとスタッフが増え、2017年に株式会社わざわざを設立した。2019年、東御市内に2店舗目となる喫茶・ギャラリー・本屋「問tou」を出店。2020年度には、従業員20数名で年商が3億3千万円に到達。2023年、3店舗目となるコンビニ型店舗「わざマート」、4店舗目となる体験型施設「よき生活研究所」を同市内に出店。

ユーザーを飽きさせない工夫

平田
わざわざが北風アプローチではなく、太陽アプローチをするのは、世界中の人たちが健康的に暮らせる社会になってほしいからです。

厚生労働省の発表によると、日本人の死亡原因の約6割が生活習慣病由来だそうです。でも、そのことを気にせず、不健康な生活を送る人もいます。
土井
未病の段階では、どうしても健康を意識しにくいですよね。
平田
そうなんです。だからこそ、ユーザーの意識を変えるのではなく、ユーザーが興味関心を持てることを提供して「おいしい、楽しい、おもしろいことをしていたら、いつの間にか元気に長生きできちゃった」という仕組みにしたんです。
土井
興味関心を持てることなら、誰でも気軽に参加できますよね。

たとえば、目の前の食べ物が生活習慣病につながるとわかっていても、誘惑に勝つのはなかなか難しいでしょう。

でも、「ヘルシーメニューを選ぶだけで社会貢献できる」みたいな、「誰かのために」という選択肢があれば、その誘惑にも勝ちやすくなるんです。
平田
たしかに何か1つでも後押しするものがあれば、選択を変えることがありますよね。
土井
TFTでは、参加企業における従業員の運動不足解消や生活習慣病の予防、メンタルヘルス不調の解消を目的とした、心と体の健康増進プログラムも提供しています。

その中の1つが寄付つきウォーキングです。目標歩数を歩くと、開発途上国の子どもたちに給食を寄付するという仕組みになっています。

普段はそれだけ歩く習慣がない人でも、「給食を寄付できること」がモチベーションになって参加者が増えた事例があります。

ちなみに、プログラム内容は「1日5000歩」「週2回6000歩」など自由にカスタマイズできます。企業・団体がそれぞれに合った内容を考えて実施するからこそ手軽に続けやすくなり、よりプログラムが拡がっていくんです。

反対も応援もされない、新たな田舎ポジション

土井
わざわざでは、たくさんのチャレンジをされていますが、これまでに地域の人から反発を受けることってありましたか?
平田
よく意外だと言われるんですが、実はほとんどなくて。移住者が「地域をよくしよう」と新しいことにチャレンジして、その地域の人たちからの反対に遭って退散するのは、地方での“あるある”です。

だからこそ、東京から長野県に移住したとき、それだけはやっちゃいけないと考えました。この地域が好きで引っ越してきたんだから、地域の人の声を守ろう、と。
土井
「郷に入れば郷に従え」みたいな感じですか?
平田
まさにそのとおりです。だから、地域行事にも積極的に取り組みますし、婦人会のバレーにも7年間参加していました。

ただ、それは自分のできる範囲内でしています。地域の会合への参加を打診されたら、「参加できるときはしますが、本業がいそがしくて、中心メンバーにはなれないかもしれません」と正直に話すようにしています。
土井
そうやって地域の人からも、応援される企業になれた感じでしょうか?
平田
いえ、よくも悪くも、地域の人からの 応援はないんですよ。地域の人からすれば、「ああ、わざわざって山の上にあるよね」という存在だと思います。
土井
本当にそこにあるのが自然というか、馴染んでいる感じなんですね。
平田
そうですね。その地域に馴染むことを最優先にしてきて、「よい企業」を過剰にアピールすることもしてこなかったので。

わざわざをはじめたときと同じように、地域との関わり方も「わたしにできることで、人の役に立つ」というスタンスを淡々と守っているのかもしれないです。
土井
移住者として、反対も応援もされない。はじめて聞きました。
平田
その意味では、わざわざは「新しい田舎ポジション」をつくろうとしているのかもしれないですね。

田舎って、以前は濃密な人間関係で付き合うことが当たり前でした。でも、田舎と都会の境目がなくなってきたいま、わざわざは地域の人たちとフラットな関係性をつくろうとしているんだと思います。

田舎で移住者がビジネスをしようと思ったら、一気に何かを変えようとしないほうがよくて。あまり変えようともせず、迎合しようともせず、じっくりと関係性を構築したほうがいいんです。

気持ちは伝えても、ノウハウは押し付けない

平田
社会貢献につながる活動を伝えていく際、想いが強いからこそ北風アプローチ的に押し付け感が出てしまう側面があると思っていて。

TFTでは自分たちの活動を伝えていくとき、どんなことを意識しているんでしょうか?
土井
まずは「社会貢献が必要だからTFTプログラムをやりましょう」と参加者に義務感を押し付けないようにしていますね。

ただ、「開発途上国と先進国双方の人々の健康を同時に改善する」というTFTのミッションを伝えるときには、「我々はこのミッションを絶対に達成したいんです!」という気持ちの部分を伝えるようにしています。
平田
「わたしたちは、こうしたい」と気持ちを伝えることは、すごく大切ですよね。わたしも地方でのビジネスや移住について講演するとき、ノウハウは伝えないようにしていて。

「自分がなぜこれをやりたいと思ったのか?」「これからどうしていきたいのか?」といった心の部分を中心にお話するんです。
土井
どうしてノウハウを伝えないようにしているんですか?
平田
ノウハウって方程式のようなもので、それを知ると自分のビジネスにすぐ当てはめて考えようとしちゃうんです。

でも、人それぞれに強みやビジネスの内容が違うのに、わたしが見つけたノウハウと同じことをしても、結果は出ません。

自分の頭で考えたり、自分なりのノウハウを見つけたりして事業は伸びるわけで、それこそが本当の学びなんです。

だからこそ、ノウハウよりも気持ちや考え方の部分を伝えて、各々に「自分が何をしたいか?」「これからどうしていきたいか?」という問いを持ち帰ってもらうようにしています。

世の中に活動を拡げるため、自ら変化していくことが必要

平田
周りから共感されつつ事業を伸ばしていくには、気持ちを伝えるほかに何が必要だと思いますか?
土井
やっぱり自ら変わっていくことが大事だなと。社員食堂が閉鎖するなどして寄付が一気に減ってしまったコロナ禍で、TFTは本当に変わらざるを得えませんでした。

「このままでは、わたしたちのミッションに届かないかもしれない」と思いはじめたとき、いままでのやり方にしがみつくのではなく、新しいことにもチャレンジしなきゃいけないことを痛感しました。

そうしてはじめた新たな取り組みが、興味をもってもらえる1つのきっかけになる可能性もあるので。
平田
わざわざも同じ考えです。わたしたちは変わっていくために、2つの視点をもっています。

1つは、「どこで売るか」を変えること。小売業は定番商品を売り続けたり1店舗だけで継続したりすると、ユーザーから飽きられちゃうんです。

だから、ハーフビルド(※)で建てた「わざわざ」を20回ほどリニューアルオープンしました。また同一市内に、喫茶・ギャラリー・本屋「問tou」やコンビニ型店舗「わざマート」、体験型施設「よき生活研究所」などを出店して、ユーザーに飽きられないようにしています。

※基礎工事や躯体・外壁・屋根など、家の強度や安全性に関する重要な部分をプロの業者に任せ、自分でできるところは自分で施工(DIY)する建築手法

土井
たしかに「老舗」と呼ばれる歴史ある企業も、シーズンごとに新商品を販売するなど、飽きられない工夫をしながら生き残っていますね。
平田
はい。そしてもう1つは、世界の変容に合わせて、伝え方を変えることです。

いまは世界中で「環境に配慮するのがよい会社」という雰囲気があって、「国産小麦」や「天然酵母」といったキャッチフレーズは広く受け入れられるようになっています。

でも、わざわざをはじめた2009年ごろ、環境問題や食生活への関心が高い人は、わりとニッチな存在でした。

だから当時は「国産小麦」や「天然酵母」と書いた看板を出していたら、意識の高い人ばかりが集まるようになったんです。
土井
なるほど、ごく一部の人にだけ刺さるフレーズになっていたわけですね。
平田
はい。でも、わたしは健康志向の人だけじゃなくて、みんなが健康になっていくことをしたかったんです。だから、あえて看板を外しました。

そして、お店に来てくれた人だけに「健康や環境に配慮していること」をわかりやすくご案内するようにしたんです。それを繰り返すなかで「わざわざを利用していたら、いつの間にか健康になっていた、環境にいいことをしていた」という仕組みにしようと考えました。
土井
よりたくさんの人が健康になっていくように、伝え方を変えたんですね。
平田
ええ。同じことをやっていても、時代ごとに伝わり方は変わってきます。だからこそ、時代に合わせて伝え方を変えることが大切です。

それなのに、自分たちの思いをただ伝えるだけで、「相手にどう伝わるか」をあまり気にしていない人が少なくありません。ブランドに込めた価値や思いをちゃんと伝えることで、周りから共感を得ながら、持続していく事業になるのだと思います。

サイボウズ式特集「ふつうを、問い直してみよう。」

世の中にある、「ふつう」という言葉。「みんなと同じ」という意味で使われていますが、「ふつう」って、実は一人一人違うもの。長時間労働が「ふつう」な人もいれば、家族第一が「ふつう」な人もいる。世の中ではなく、それぞれの「ふつう」を尊重することが必要なのではないでしょうか。サイボウズ式ブックスから発売された『山の上のパン屋に人が集まるわけ』をきっかけに、さまざまな人と一緒に「ふつう」について考えてみます。

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取材・執筆:流石香織/撮影:栃久保誠/編集:野阪拓海(ノオト)

2023年5月24日どうしたら自分の「ふつう」を大事に生きられる?——『山の上のパン屋にひとが集まるわけ』無料公開
2023年6月27日多様な「ふつう」に寛容でいられるのは、理念や文化がしっかりある組織だから──平田はる香×青野慶久

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執筆

ライター

流石 香織

1987年生まれ、東京都在住。2014年からフリーライターとして活動。ビジネスやコミュニケーション、美容などのあらゆるテーマで、Web記事や書籍の執筆に携わる。

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撮影・イラスト

写真家

栃久保 誠

フリーランスフォトグラファー。人を撮ることを得意とし様々なジャンルの撮影、映像制作に携わる。旅好き。

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編集

ライター

野阪 拓海

コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。担当ジャンルは教育、多様性など。

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