サイボウズ株式会社

社長の引き継ぎ、どうする?「最強の青野を倒す人材」求む──三浦工業 宮内 大介×サイボウズ 青野 慶久

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 経営者
  • 人事担当者
  • 組織運営に関心のあるビジネスパーソン
  • 中小企業のリーダー
  • 企業の後継者育成に関心のある専門家
Point この記事を読んで得られる知識

この記事では、経営者の交代と企業文化の継承についてサイボウズの青野慶久氏と三浦工業の宮内大介氏が対談しています。サイボウズは従業員数が増加する中で、企業文化の維持と次世代への引き継ぎに苦労していますが、三浦工業の文化継承の方法から学ぼうとしています。

宮内氏は、創業者の理念をそのまま継ぐのではなく、その時代に適した形で適応させることが重要であると述べています。また、社長の任期を定め、現場に再び戻りたいと考える意向を示しており、組織は役割に応じた柔軟な変化が必要だと提案します。

一方、青野氏は、後継者育成の必要性を感じつつ、自身が最強である限り続投するつもりですが、社内では「経営塾」を通じたトップへの挑戦が奨励されています。日本企業の伝統的なピラミッド型組織の改善のためには、後継者選びを「椅子取りゲーム」にしない柔軟な考えが重要であると指摘しています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

社長の引き継ぎ、どうする?「最強の青野を倒す人材」求む──三浦工業 宮内 大介×サイボウズ 青野 慶久

フラットな組織でどんなときも公明正大に議論し、チームワークの輪を広げていく。サイボウズはそんな文化を大切にして成長してきました。

しかしサイボウズも、現在では従業員数1000名を超え、文化の共有に苦労する場面も増えてきています。多様な個性が行き交う社内で、会社文化を維持しながら、次世代に引き継ぐにはどうすればいいでしょうか。

この問題意識のもとでサイボウズ代表・青野慶久が今回お招きしたのは、“ミウラのボイラ”で知られる三浦工業株式会社のトップ・宮内大介さん。

同社は設立60年超、連結従業員数6000名を超える大企業でありながら、創業時からの文化を受け継いで新たな事業やブランディングを展開しています。

徐々に大企業化していくなかで、どのように文化を継承し、後進を育てていくべきか。2人の経営者が語り合いました。

「創業者だったらどうするか」を考える

青野
三浦工業さんは設立から60年超ということで、サイボウズと同じ愛媛県発祥の大先輩企業としてリスペクトしているんです。
宮内
ありがとうございます。私自身は4代目社長なんですよ。

宮内 大介(みやうち・だいすけ)。三浦工業株式会社 代表取締役 社長執行役員 CEO。1962年愛媛県松山市生まれ。1986年京都大学工学部資源工学科卒業。1997年三浦工業株式会社入社。首都圏事業本部長、米州事業本部長、アメリカ法人社長などを経て、2016年4月に代表取締役社長 社長執行役員に就任。同年6月より現職

青野
もう4代になられるんですね。

組織が巨大化していくなかで、どのように企業文化を継承して来たのかを学ばせていただきたいと思っています。
宮内
当社の場合は、創業者である故・三浦保が残した「三浦保伝説」のようなものが脈々と語り継がれていますね。
青野
カリスマ創業者がいまもなお、大きな存在感を放っていると。
宮内
ただ、私たちは「創業者がやってきたことをそのまま引き継ぐことが伝統ではない」とも考えています

設立から60年の間に外部環境は変わり続けてきました。いまも大きな変化の波にさらされています。その時々で「もしここに三浦保がいたら何をするだろうか」と思いを巡らせ、必要なスタンスを受け継いでいくことこそが三浦工業の伝統ではないかと。
青野
なるほど。創業者の歩みをただ真似るのではなく、その考え方を引き継いでいくことこそが重要なんですね。

いまのお話で思い出したことがあります。私はパナソニック出身ということもあって、同社の創業者である松下幸之助さんの考え方から大きな影響を受けてきたんですよ。

だけど松下幸之助さんの「水道哲学」だけはなかなか理解できなくて。

青野 慶久 (あおの・よしひさ)。サイボウズ代表取締役社長。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年サイボウズを設立。2005年に現職に就任。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など

宮内
電化製品を水道の水のように手に入れやすい価格で提供したい、という経営哲学ですね。
青野
はい。以前の私は「それって単なる安売りじゃないの?」と疑問に思っていました。

でも大阪・門真の松下幸之助記念館を訪れた際に、その疑問が解消されました。

記念館に陳列されている最初期のテレビは、現在の貨幣価値でいうと1000万円近い価格だったそうです。私はテレビが10万円以下で手に入る時代しか知らないから、水道哲学を理解できなかったんです。
宮内
松下幸之助さんは、いかにテレビを低価格で提供して人々を楽しませるかを真剣に考えていたんですね。
青野
そうした時代背景を知らないと、創業者の言葉の本質が理解できないのだと学びました。

考え方さえ理解できていれば、受け継いだモットーを新たな形で実行していけますね。

社長を務めた人にも、次のキャリアがあっていい

青野
以前、宮内さんと食事をごいっしょした際に話していたことを紹介してもよろしいでしょうか?
宮内
ええ、構いません。
青野
宮内さんは「もう一度、現場で新規事業を動かしてみたい」とおっしゃっていましたよね。あの言葉の真意が気になっていまして。
宮内
もう一度現場に身を置きたいというのは私の偽らざる思いです。社長になってからも現場にはちょこちょこ顔を出して、プレイヤーであり続けようとしてきました。
宮内
それに、ガバナンスなどの観点から1人の社長の任期が長くなりすぎるのはよろしくないとも考えています。

そのため指名委員会で社長の任期について決めて、社内にも共有しました。
青野
ご自身の任期に期限を設けたのですか。これは大きな決断ですね。
宮内
会社を船に例えるなら、社長はすなわち船長。航海士や機関士と同じく役割の一つに過ぎないんです。

そのキャプテンシートに誰が座るのかは、時々の適任で決めればいいと思っています。状況によっては、もっともリーダーシップを発揮できる人間が航海士を務めるべき場面も訪れるかもしれません。
青野
同感です。

日本企業の多くはピラミッド型の組織構造で、若手から課長・部長へ、運が良ければ役員や社長へ昇進し、その先は会長、顧問、相談役などの役割に限定されていました。

でも実はそれだけではない。社長を務めた人にも次のキャリアがあるという概念が一般的になれば、日本の固定化された組織のありようが変わるかもしれません。
宮内
おっしゃる通りですね。

私は、組織には最低でも2つの軸が必要だと思っているんです。既存事業でより「ベター」を求める軸と、新規事業の「ユニーク」を求める軸です。

ベターを追いかけなければ企業は成長できませんが、同時にユニークな違いを生み出していかなければ成長の可能性が広がりません。

自社はいまどの軸に注力すべきなのか。それをみんなで議論し、「宮内はユニークな違いを生み出すことに注力すべき」という結論になれば、私は喜んで新規事業の現場に飛び込みますよ。

「青野と戦って勝つ」人間が現れるまで

青野
私自身も、そろそろ後継者について考えなければいけない時期になってきたと感じています。
宮内
青野さんには創業者としてサイボウズを立ち上げ、ここまで成長させてきた自負があるでしょう。その思いが強ければ強いほど、誰かに経営を引き継ぐのは難しいのでは?
青野
はい。本音を言えば後継者のことなんて考えたくもありません(笑)

これは起業家の特性なのかもしれませんが、どうしても「俺が俺が」となってしまって。
宮内
分かる気がします。青野さんはいまのまま、「俺が俺が」志向のままでいいのかもしれませんね。
青野
そうでしょうか?
宮内
逆に言えば、青野さんを超える人間が社内から出てくるまで待てばいいんですよ。青野さんがサイボウズのなかで最強である以上は、ずっと青野さんがやればいい。

その代わり、「青野さんと戦って倒す」ための舞台を社員のために作らなければいけないと思います。
青野
たしかに……。事業作りや組織作りで社員と戦っていなければ、いずれは弱体化した私が君臨し続けてしまうことになるかもしれません。
宮内
そうなる前に、ですよね。青野さんがもし誰かに負けたら、潔く社長の座を明け渡すべきだと思います。

いまはまだ若いから社員と本気で戦っても勝てる。でも年を重ねていくと、そうも言っていられなくなるかもしれません。そのときにさっと身を引かないと、いわゆる「老害」になってしまうわけです。

「椅子取りゲーム」になりがちな後継者選びを変えるには?

青野
考えてみれば、プロレスでもボクシングでも、チャンピオンは防衛戦を戦い続ける宿命にあるわけですよね。勝ってチャンピオンベルトを防衛できればいいけれど、もし一度でも負ければその座を降りなければいけない。
宮内
そして後進の育成に力を入れる。これがある意味では王道なのかもしれません。
青野
実は最近、社内に「経営塾」を立ち上げたんです。

現状のサイボウズでは各機能ごとに本部があり、その上に私が君臨しています。この体制だと私が営業やマーケティング、開発などの全体像を見られるので、その視点で私に勝てる人が出てきません。

しかし、私と同じように全体を見られる人を増やさなければ、会社がどんどん縦割り化してしまうでしょう。
宮内
大企業病に陥っていく第一歩ですね。
青野
はい。だからこそ経営塾を通じて、私と同じリングに上がってくれる人を増やしたいと思っています。
宮内
いいですね。最初からトップダウンで後継者を選ぼうとすると椅子取りゲームになってしまいますから。
青野
そして、どんどん内向き志向になってしまう。それだけは避けたいですね。
宮内
青野さんが最強の存在として君臨しているいまだからこそ、この取り組みが奏功するのではないでしょうか。

やるからには、本気で青野さんを超えようとする人が現れることを期待したいですね。

もし負けたら、青野さんはどうするんですか?
青野
簡単に降りるつもりはありませんが、もし私が負けたら……そのときにやりたいことは宮内さんと同じです。
宮内
私と同じ?
青野
はい。誰かに社長の役割を任せることができたら、私も現場にどっぷりと浸かって、全力でコミットしてみたいです。

考えれば考えるほど、「早く俺を倒してくれ!」という思いになってきましたね(笑)

企画:神保麻希・高橋団 執筆:多田慎介 撮影:高橋団

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本企画は、三浦工業が運営するオウンドメディア「ミウラplus」編集部との共同取材として実施しました。「ミウラplus」では、おふたりが「オモロイ」をヒントに語り合う対談記事を公開中です!

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執筆

ライター

多田 慎介

1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。

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撮影・イラスト

編集部

高橋団

2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。

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編集

編集部

神保 麻希

サイボウズ株式会社 マーケティング本部所属。 立教大学 文学科 文芸・思想専修 卒業後、新卒で総合PR代理店に入社。その後ライフスタイル系メディアの広告営業・プランナーを経て、2019年よりサイボウズに入社。

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