サイボウズ株式会社

「自律って言うほど簡単じゃない?」サイボウズ人事「社員のキャリア」の悩みを武石恵美子教授にぶつけてみた

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • サイボウズの社員
  • 企業の人事担当者
  • キャリアデザインに興味のある人
  • 組織運営に関心のあるビジネスリーダー
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読むことで得られる知識として、まず、サイボウズが「100人いたら100通りの働き方」を実現するために取組んでいる働き方の多様性と社員のキャリア自律を促進する取り組みが紹介されています。しかし、その中でも社員の半数ほどがキャリアについて困っていると感じている現状が浮き彫りとなっています。これは、選択肢が多いものの、どのように選ぶべきか分からないために生じている問題として解釈されています。

武石恵美子教授は、キャリアに対する不安は一般的であり、特に予測不可能な今の時代には自然な感情であると述べています。しかし、それだけでなく、組織としてどのようにキャリア自律を支援できるかを考える必要があるとしています。単に選択肢を増やすだけでなく、選択できる状況を整えるための支援が必要とされています。

さらに、武石教授は「自律」という概念は単に個人が選択することだけでなく、提案を受け入れることも含まれると述べています。特に上司からの提案が納得できるものであり、それに基づいて行動することも自律の一形態として考えられています。このように、どのように納得性を持たせ、組織の期待を伝えるかが重要視されています。

一方で、組織全体の最適化を進めるためには、個別の最適化とのバランスを取る必要があります。そのため、社員一人ひとりが自分の仕事と組織全体の戦略との関連を理解し、適切に自己のキャリアを構築する仕組みが求められています。特に、上司による支援と組織の方向性を理解させるコミュニケーションが欠かせないとされています。

最後に、キャリアの発展は単なる現在の延長ではなく、過去からの繋がりと未来に向けた視野が必要であるとの視点が示されています。個人の選択を促すために、一人ひとりの過去の選択を振り返り、未来にどう結びつけていくかを考えることが重要とされています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

「自律って言うほど簡単じゃない?」サイボウズ人事「社員のキャリア」の悩みを武石恵美子教授にぶつけてみた

サイボウズでは、「100人いたら100通りの働き方」があってよい、という考え方のもと、働き方に関するさまざまな取り組みをしてきました。

キャリアについても、「会社が決める」のではなく、それぞれのステップに合わせて「自分で選択する」自律性を大切にしています。

しかし、キャリアに関するアンケートを取ったところ、社員の2人に1人が「キャリアについて困っている」という結果となりました。

「今後、人事としてどのような支援をしていけばいいのか」──そこで、社員のキャリア自律と組織のあり方について、法政大学キャリアデザイン学部教授の武石惠美子先生に、サイボウズ人事の石川憂季が悩みをぶつけました。

石川 憂季
サイボウズでは2023年秋にキャリアに関するアンケートを実施しました。サイボウズの社員は1000人ほど。約600人が回答しました。

そのうち300人強が「キャリアについて困っている」と答えたんです。

「何について困っているのか?」を聞くと、「ロールモデルがいない」「そもそも、キャリアの考え方がわからない」など、根本的なところで悩んでいることがわかりました。

数字も内容も、わたしにとっては衝撃でした。
武石 恵美子
衝撃を受けたのは、「サイボウズだから、もうちょっと自律しているだろう」って思われたんだろうと思いますが……。

武石恵美子(たけいし・えみこ)。 法政大学 キャリアデザイン学部教授。博士(社会科学)。筑波大学第二学群人間学類卒業後、労働省(現 厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所、東京大学社会科学研究所助教授等を経て、2006年4月より法政大学に。著書に『キャリア開発論〈第2版〉: 自律性と多様性に向き合う』(中央経済社)など

武石 恵美子
まず、自身のキャリアに対して「不安だ」という気持ちを抱くのは、当たり前だと思うんです。いまのような、先が見えない時代の中では、余計に。

逆に、不安じゃなかったら能天気すぎます(笑)

なので、取り立てて「課題だ」と思わなくていいんじゃないかと思います。
石川 憂季
そう言っていただけると、少しホッとしました。
武石 恵美子
とはいえ、「じゃあ、何から考えればいいか」となりますよね。

自律とは「選択できる」ことだけなのか?

石川 憂季
これまでサイボウズでは、自律性として「自分で選択する」ことを大切にしてきました。そこで、選択肢をいっぱい用意してきたんですけど、アンケート結果から「選択肢はあるけど、選べない」みたいな状況なのかな、と。

石川憂季(いしかわ・ゆうき)。2016年4月、大手建設会社に総合職として新卒入社。本社の人事部、財務部を経験したのち、2020年5月にサイボウズに人事として入社。採用業務を中心に、キャリアコンサルタントの資格を生かして、キャリア支援の制度企画や人事制度を社外に発信するなど、広報業務もおこなっている

石川 憂季
また、自分で選ぶと「自分の選べる範囲でしか選べない」というか。「この中から選ぶことが、その人にとって本当に幸せなことなのか」といった課題もあります。

場合によっては、人に選んでもらうから、開ける可能性もありますよね。そのバランスを、どう取ればいいのかな? というところで悩んでいます。
武石 恵美子
キャリア自律の一番ピュアな定義は、「自分で選んで、理想に向かって努力をしながら、その道を切り拓いていく」だと思います。

けれども、それができる人って、ごくごくわずかですよね。

特に、日本はジョブ型ではないので、「キャリアを選ぶ」という場面が少なかったこともあります。
石川 憂季
「選択できる個人」を、組織として支援していく仕組みをどう作るか? を考えなきゃな……と思ってるところです。

「日本的な自律」を再定義する

武石 恵美子
わたし、「日本的な自律って、何かな?」と考えた時に、広義な意味での「納得性」だと思っていて。
石川 憂季
納得性……ですか?
武石 恵美子
たとえば、転勤でも何でもいいですけど、上司から「あそこへ行け!」と言われたものに対して、いままでは嫌と言えずに、しぶしぶ従っていましたよね。

この「有無も言わさず」というのが、非常につらい状況にあったわけです。

でも、「行け」と言われた時に、「なぜ、そこ行かなきゃいけないのか?」「そこで、自分は何を期待されてるのか?」といったことを、ちゃんと説明してもらう。

そして、「なるほど。そういうことなら行きましょう!」となっていたら、それは1つの自律だと思うんです。
石川 憂季
つまり、自分で選ぶことばかりが自律とは限らない、ということですね。
武石 恵美子
人に言われたことでも、自分の中で消化し、納得して一歩踏み出せたら、それは自律のひとつの姿だと思います。そういうものが、日本の仕組みの中での、自律のあり方なんじゃないかと思っています。
石川 憂季
そういえば、先ほどのアンケートでも、約600人のうち7割ぐらいが、「周囲からの提案が欲しい」「納得できれば、そこに挑戦したい」と回答していた社員がいました。

本当に支援したいのは「声をあげられない人」

石川 憂季
ただ、提案するにも技術が必要そうです。いままでサイボウズでは「自律が大事」とか「自分で選択する」みたいなところを大事にしてきました。なので、提案する技術は人によってまちまちで。

また、提案したくても「何に悩んでいるのか見えにくい」ことも課題です。ここ数年で、社員が急激に増えたこともありますし、コロナ禍によってリモート環境で働くことが当たり前になったこともあります。
武石 恵美子
「家庭内で困ってること」とか、「いま、こんなことに興味持っている」みたいな、仕事と関係ない話は、ますます話しにくくなっていますよね。
石川 憂季
そうなんです。ミーティングやマネジャーとの1on1も、予定を入れて話すから話す内容が決まってしまって、偶発的な話がしにくい状況があるなと思っていて。
武石 恵美子
興味深い悩みですよね。「それを言うのはちょっと恥ずかしい……」というようなことも、あるのかもしれませんね。
石川 憂季
わたしはキャリアコンサルタントの資格を持っています。キャリアの相談窓口として、社員から「相談したいんですけど……」と言われたら、相談にのりたい。でも、声をあげてくれないと助けられない。

本当に支援したいのは、そういった声をあげれない人や制度を使えない人なんです。じゃないと、動ける人と動けない人で、すごい差が出ちゃうので。
武石 恵美子
キャリア研修はやっていないんですか?
石川 憂季
毎年9月に「キャリアを考える月間」というキャンペーンを打って、毎週研修をやっています。ただ、いつも同じ顔ぶれになっちゃうんです。

本当は、出てこない人ほど支援したいんですけど、自律を大切にしている分、強制的な研修はなかなかできなくて……。
武石 恵美子
強制しちゃうと反発が来るのかな?
石川 憂季
そうですね。社内炎上する危険がありますね(笑)
武石 恵美子
反発や炎上があってもいいじゃないですか! やってみたら?(笑)

個別最適が進んだ結果、出てきた「全体最適の問題」

石川 憂季
キャリア自律には、もう1つの課題があります。社員一人ひとりの個別の最適化が進んだ結果、会社全体の最適化が弱くなってきたことです。

いままでは「100人100通りの働き方」を掲げてきました。そのために「人事は選択肢を用意するから、あとは好きなように選んでね」というコミュニケーションが多かったんです。
武石 恵美子
「100人100通り」という言葉をはじめてお聞きした時、「すごく魅力的だな」と思いました。
石川 憂季
その結果、個別の最適化は進みました。たとえば、社員の可能性を広げ、業務とのミスマッチを減らす「大人の体験入部」という制度があります。

ただ、個人の「やりたい」を優先して異動や役割変更を行なうと、「いまはA部署に人員が必要だから、現在の部署から異動してほしい」のように、事業の変化に合わせて組織を戦略的に変えることが難しくなります。

実際、いま組織として「みんなで事業を盛り上げていこうよ」「もっと製品を世の中に広めていこうよ」という方向にベクトルを動かしていきたいのですが、個人の幸福と戦略的な組織運営との間には、バランスが必要だな、と。

キャリア自律には、マネジャーの力量が必要

武石 恵美子
それでは「自分がやっていることが、組織のどこに結びついているか考えさせる」といったことはやっていますか?
石川 憂季
マネジャーによって、そういったコミュニケーションができている人と、できていない人に差がありますね。
武石 恵美子
キャリア自律には、上司の力量も必要ですよね。

組織として「我が社は何のために活動しているんだ?」ということが大切なのに、「うちの会社は、わがままが言える会社だから……」のように、間違ったメッセージを伝えているとしたらまずいです。

「自律」と「自由放任」は違います。そこを履き違えちゃうと、ただの「みんながわがままを言って、居心地だけがいい会社」になってしまいます
石川 憂季
マネジャー自身が、いままでそういったコミュニケーションを受けてきてないから、どう支援すればいいのかわからない問題もあります。
武石 恵美子
でも、その状況でマネジメントをやってはダメですよね。それは、マネジャーとしての役割の半分ぐらいを放棄していることになります。

マネジャーも専門職だと思います。「キャリア支援ができる」とか、「育成ができる」といった能力をマネジメント力として位置付けて、評価できる仕組みが必要ですよね。
石川 憂季
現状、社員の目標設定も任意になっていて、人事が確認できるわけではありません。誰がちゃんと支援されていて、誰がそうじゃないか? みたいな仕組みは考えたいと思っています。

ただ、ルールを作って、つまんない会社にはしたくなくて。ワクワクみんなで働けるみたいなところは大事にしたいですね。
武石 恵美子
サイボウズさんは、すごく自由な雰囲気とか多様な働き方に寄与してきた施策がたくさんあったんだと思います。

それをうまく生かしながら、全体最適につながる仕組みがあるといいですね。

キャリアは「いま」が起点じゃない

石川 憂季
個人の選択と、会社の方向性をうまくつなげられたらいいですよね。
武石 恵美子
キャリアって、ワクワク感だけではないと思うんです。「あっち行くと大変そうだから、ここでいいや」と選択していくと、どんどん自由放任で、成長しなくていい人になっていきます。

キャリアは、未来につながっていくものですし、選択にも責任が伴います。自分に対する責任もあるし、組織に対する責任もあるし。

「いま辛いけど、ここを頑張ると成長できる」とか、「これによって、自分がどう変われるか?」みたいに、未来のキャリアとどうつながっていくかを考えられることが大事だと思います。
石川 憂季
そうですね。
武石 恵美子
また、キャリアの起点って、時間軸で考えると「いま」じゃないんですよね。キャリアは過去から繋がっているものでもあります。「いままで、何をしてきたか」っていうところの延長に、これからを考える。それが一番考えやすいですよね。

「あなたはどんな時に頑張れましたか?」とかね。

未来に対して、いまこの場で「選べ」と言われても、なかなか選べないかもしれませんが、過去には、いろんな分かれ道があったはず。

「あの時わたし、何を大事にして選んだかな」みたいな「選択した理由」を振り返ることは、すごく大事なことなんじゃないかなと思います。
石川 憂季
「選択する力をどう身につけていくか?」みたいなことですかね?
武石 恵美子
そうですね。いろんな偶然があったとき、「これは自分にとって大事か?」と思えるかどうかですよね。「これは捨てていいけど、これはなんか気になる」というように。

その「気になる」っていう感度を、いかに上げていくか? というところだと思うんですよ。

その感度と、組織をちゃんと結びつけて、「わたしがいまやっているこのことって、うちの会社のどこに役立つのかな?」を考えてもらう仕掛けが必要ですよね。

自分ごととして、仕事をどうとらえ直すか?

石川 憂季
コミュニケーションを取り、本人の納得感を得ながら、自身のキャリアと、会社の方向性をつなげていく仕組みが必要そうです。
武石 恵美子
「5年、10年後どうしたいか?」を考える。つまり、自分ごととして、仕事をもう1回捉え直す機会が必要なんじゃないかと思います。キャリア研修って、そういうことですよね。

わたし、伝統的な会社で働いている人が、最高に自律していたときって就活のときだと思っていて。
石川 憂季
就活のときが……ですか?
武石 恵美子
就活のときに自己分析をしたり、業界研究をしたりするじゃないですか。学生だから限界はありますけど、それなりに、自分を振り返る機会になります。

転職しようとすると、職務経歴書とか書きますけど、転職もしないでずっと会社にいると、そういう節目がないまま過ごしてきているので、改めて、自分と向き合うことがありません
石川 憂季
自分と向き合う機会が必要だ、と。
武石 恵美子
たとえば、3年に1回「あなたはこれから転職すると思って、職務経歴書を書いてみなさい」とか、「どこで勝負できると思うか、強みを考えてみましょう」とか、そういうワークショップをやるっていうのは、1つあるかなと思いますね。
石川 憂季
自分で「好きなタイミングで考えて」って言ったら後回しにしますもんね(笑)
武石 恵美子
絶対やらないです(笑)。「自分で考えよう」という人はなかなかいないので、そういう機会を作るのは、人事が支援できることかなと思いますね。
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執筆

編集部

竹内 義晴

サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。

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撮影・イラスト

編集部

高橋団

2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。

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