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なぜ「24時間対応」「誰にも会わない」フードバンクを開設できたのか? 地域の「困った」を解決した軌跡

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 地域活性化に興味がある人
  • コミュニティ支援に関心がある人
  • フードバンク運営者
  • 社会的課題解決を目指す起業家
  • 新しい取り組みにチャレンジしたい人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事は、岡山市北長瀬エリアでのフードバンク「コミュニティフリッジ」を中心に、地域の課題を解決するための取り組みについて取り上げています。コロナ禍で発生した地域コミュニティの困難を解決するため、無人のフードバンクを設置するに至った経緯が詳しく描かれています。

「北長瀬コミュニティフリッジ」は、24時間誰にも会わずに食料や日用品を受け取れるフードバンクで、電子ロックとクラウドデータベースによって無人で運営されています。このシステムは、サイボウズのkintoneを活用し、リスク管理と効率的な運営を実現しています。

起業家の石原達也さんは、新型コロナウイルスの影響で露呈した地域の諸問題に対し、迅速にPDCAサイクルを回し、必要なソリューションをスピーディに提供しました。問題解決への意識は「熱意」や「義務感」ではなく、個人の素朴な「なんとかしたい」という想いから始まったとされています。

また、取り組みは完璧である必要はなく、まずはできることから始め、小さな成功を積み重ねていくことが重要であることも示されています。このように、社会的課題への対応は、周囲の人々の協力や地域のニーズを理解し、タイミングを見計らって行動することが大切であるとされています。

さらに、こうしたコミュニティフリッジの形態は全国へと広がり、災害支援などへの活用も検討されており、単に食料を提供する以上の社会的意義を持ち始めています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

なぜ「24時間対応」「誰にも会わない」フードバンクを開設できたのか? 地域の「困った」を解決した軌跡

社会は複雑で、常に変化していくもの。その課題解決は容易なものばかりではありません。

岡山市北長瀬にある街づくり会社「北長瀬エリアマネジメント」の石原達也さん、新宅宝さんは、コロナ禍で表面化したフードバンクの課題を「仕組み」で解決しました。

そこにあったのは、「熱量」でも「仕事だから」でもない、個人的な「なんとかしなきゃ」という想いでした。

石原達也
北長瀬エリアマネジメントは、街づくり会社として、大きく分けると2つの取組をしています。

1つは、具体的な事業としての北長瀬駅前にある複合商業施設「ブランチ岡山北長瀬」内でのコワーキング運営や賑わいづくりと隣接する「北長瀬未来ふれあい総合公園」の指定管理です。公園の畑で野菜をつくったり、イベントを企画したりしています。

もう1つは、北長瀬地域のエリアマネジメント、つまり「街づくり」ですね。

石原達也(いしはら・たつや)。1977年岡山市生まれ。2015年に「みんなの集落研究所」を設立し地域コミュニティの課題解決支援を開始。2018年に「PS瀬戸内株式会社」を起業、社会的インパクト投資(SIB)を推進。2018年の西日本豪雨では災害支援にも取り組む。2019年に北長瀬エリアマネジメントを起業。2024年に同社代表を新宅さんに交代。持続可能な地域課題解決のビジネスモデルを構築し、多岐にわたる事業を展開。2024年これまでの経験を活かし課題解決の「仕組み」づくりに特化した合同会社「遠足計画」を島根県雲南市で起業

竹内義晴
2つの取り組みで街のにぎわいをつくっていらっしゃるのですね。
石原達也
北長瀬は新しい街です。岡山市中心市街地のベッドタウンで、小さいお子さんがおられる世帯も多くいます。また、単身でひとり暮らしをする若い方も多くいます。

それらの方々の暮らしにとって、「この場が、どういう意味を持つのか」が大切だと思っています。ホッとできる、暮らしの充実につながる、困った時にも支えてくれるウェルビーイングな場所になればいいな、と。

コロナ禍で聞こえてきた、地域の「困った」

石原達也
北長瀬エリアマネジメントを設立したのは2019年ですが、会社をつくってすぐにコロナ禍になりました。「コミュニティが大事だ」と思ってきたのに、 コミュニティの形成自体が難しくなってしまって。

一方、コロナ禍の影響で地域の方々からさまざまな「困った」が聞こえてきました。
竹内義晴
確かに、コロナ禍ではさまざまな制約がありました。
石原達也
たとえば、フリーランスの方からの「発注元の営業が止まり、仕事がなくなって生活が苦しい」といった声や、学生さんからの「アルバイト先の仕事がなくなってしんどい」という声。シングルの親御さんからは「生活がすごい苦しい」といった声が多く届きました。

そこで、「われわれにできることないか?」と、さまざまな取り組みをはじめました。その中の1つが公共冷蔵庫「北長瀬コミュニティフリッジ」です。

北長瀬コミュニティフリッジは、ブランチ岡山北長瀬内に設置した公共冷蔵庫。食料品・日用品の支援を必要とされる方が、24時間取りに行くことができる

時間や人目を気にせず、24時間食料品・日用品を取りに行ける

石原達也
フードバンクの支援自体は以前からありました。でも「人に会ってもらうこと自体に、抵抗感がある」という声が多くありました。

「それならば、フードバンクを無人でできる方法はないか?」ということになったんです。

海外に、鍵を開放した小屋の中に食べ物を置いておいて、必要な人が誰でも持っていくことができる「コミュニティフリッジ」という取り組みがあります。

ただ、それをそのまま日本でやっては「犯罪に使われるんじゃないか?」といったリスクがあります。というより、そもそも商業施設側から、OKが出そうにありません。
竹内義晴
確かに。
石原達也
そこで「何かいい方法はないか?」と議論を重ねた結果、「電子ロックとクラウドのデータベースを組み合わせれば、無人で運営できるんじゃないか?」と。

そこで具体的なシステムについて以前から知り合いだった、kintoneエバンジェリストの細谷さんに相談しました。細谷さんはサイボウズのkintoneを使って、NPOなどの業務改善を支援されている方です。

そこで、具体的にできそうだと確信をもち、そして、実現できたのがコミュニティフリッジなんです。

取り組みは「タイミングが大切」

新宅宝
この4年間、石原さんとともに過ごし、一緒に仕事をしてきて感じるのは、課題を解決する取り組み方として「社会で起きていることを自分ごととして受け取り」「自分なりに解決方法を考え」その発信を「どのタイミングでやるか」がとても大事だな、と。

新宅宝(しんたく・たから)。1988年倉敷市生まれ。2019年一般社団法人北長瀬エリアマネジメント専務理事として就任。2024年に石原さんから代表理事を交代。2021年デザインや映像制作のYOTTA株式会社を立ち上げ複業として活動。また神社でパクチーを祀る神社のイベント「岡山パクチー奉納祭」などを企画し他域の賑わいづくりにも参画

新宅宝
コミュニティフリッジも、やろうと思えばコロナ禍前でも需要はあったと思います。でも、コロナ禍によって、地域の中の「困っている」が可視化されました。「いま、解決しないと!」と、スピード感をもって取り組めましたよね。

コロナ禍があったから、これだけ助け合いの文化が生まれたし、寄付者さんも利用者さんも増えたんじゃないかと思います。
石原達也
僕らはベンチャーっぽいというか、課題とニーズがあるんだったら、そこからPDCAをまわすのがすごい速いんです。
新宅宝
コミュニティフリッジは3ヶ月ぐらいでできましたよね。
石原達也
そうだね。
石原達也
コミュニティフリッジの立ち上げも、「建屋をどうするか」とか、システムも「ネット環境を含めて確保できるか」とか。課題はたくさんありました。

ただ、僕らの中でそれが、やらない理由にはならなかった。「それはクリアしていけばいいよね」って感じが強かったかもしれないですね。

動機はシンプル。個人の「なんとかしたい」

竹内義晴
目の前に困っている人がいたとき、「大変だよね」で終わる人もたくさんいます。何が、お2人を突き動かすのでしょうか?
新宅宝
「課題を解決したい!」みたいな熱量とか、「仕事だから」とかではないんです。「地域で困っている人がいる」それを「なんとかしたいな」っていう、個人的な、シンプルな気持ちなんですよ。
石原達也
「食べるものに困っている人がいるから、とりあえず、気にせず取りに来れるようにしようよ」とか、「とはいえ、働かなくちゃいけないから、夜中になる人もいるし、明け方になる人もいる。好きな時間に取りに来れるようにしないと意味ないよね」とか。

電子ロックとタブレットの操作で、食料品・日用品の受け取りが可能。「寄付者リスト」「利用者リスト」「在庫」の情報管理はkintoneで行なっている

新宅宝
お金だけで考えるとコミュニティフリッジは全然儲かりません。ただ、大きなマイナスにならなければ継続した活動が可能です。お金だけでは解決できないのがまちづくりだと思っています。

叶えたいのは単純に、安心・安全な地域であり、住みやすいって思ってもらうこと
石原達也
この街で暮らす人が、みんな楽しく暮らせることが一番です。

コロナ禍のときは「困っている人がいる」という明確な状況がありました。それを「どうにかしたいな」と。「できることがあるなら、ちょっとずつでもしたいな」と思いましたよね。
竹内義晴
行動の動機は、自分のなかに生じた、とてもシンプルな気持ちなのですね。
石原達也
僕らだけでなく地域に暮らす人もそうだと思うんです。街に暮らす人の中には困っている人もいれば、何かしらで助けられる人、助けたいと思っている人もいます。

「お中元やお歳暮でもらったものがあるから」といって持ってきてくださる方もおられれば、ニュースで大変な子どもがいることを知って「ここに持ってくればいいんだ」とお菓子を買ってきた人もいます。

そういう人がたくさんいて、何かあったときには、おたがいに無理なく支え合う。そういう街って素敵というか、いいじゃないですか。いい人がたくさんいるわけですから。

岡山市北長瀬駅前にある複合商業施設「ブランチ」。公園内では地域住民の笑顔があふれる

竹内義晴
一方で、新たなことをはじめようとすると、お金の問題もありそうです。
石原達也
確かに、もしもこれを「行政に提案して、補助金いただいて……」だったら、このスピードでは絶対にできないと思います。そこを解決するのが「仕組み」です。

自分たちがやるからには、事業としてプラスにはならないけれど、大きなマイナスにはならない。そうしないと、続けることが難しくなってしまう。

そこで、「このシステムは〇〇でやって、この部分は〇〇の人にやってもらえばコストはかからないよね」といったアイデアを最初に考える。そして「これなら行けるんじゃないか?」となったらはじめる感じですね。

完璧を求めず、できることからスタート

竹内義晴
自分のなかに生じた「なんとかしたい」を形にしようとするとき、周囲からの抵抗もありそうです。
新宅宝
どうしても「80点以上のものをつくらないとリリースできない」みたいな制約をつくってしまいます。「かっこいいものをつくらないといけない」と。

でも、どんな取り組みも最初から完璧な形にはならないじゃないですか。80点以上のものをつくるためには、準備にすごく時間がかかります。

そこは、いい意味で割り切るというか。細かなことはあまり気にせずやってみることが大事かなぁと。

あとは、自分たちで全部やらないことも大切だと思います。kintoneの仕組みもそうですし、冷凍庫や冷蔵庫もそうです。メディアに出たことによって、冷蔵庫はメーカーさんが、棚はリサイクルショップの社長さんが「寄付するよ」といってくれました。
竹内義晴
自分たちでできそうな小さな種をみつけて、とりあえずやってみる。すると「それ、いいね!」と言ってくれる人が出てきて、少しずつ育っていく、と。
石原達也
完璧な手法とか、すべてがそれで解決するようなものが世の中にありません。できることからスタートしてPDCAをまわす。自分たちで「やめる」と言わない限り失敗していない……というつもりで関わっています。

「何かをやりたい」とき、何からはじめるか

竹内義晴
ところで、「人の役に立ちたい」と考えている人はたくさんいるんじゃないかと思います。

ですが、何からはじめたらいいのか分からない方もいらっしゃるんじゃないかと思っていて。
まず一歩踏み出したり、協力者を増やしたりするために何をすればいいんでしょう?
新宅宝
ひとりじゃ解決できないと思うので、誰か、相談する人は必要ですよね。
竹内義晴
新宅さんの場合は、どうされていたんですか?
石原達也
イベントで会ったのが最初だよね?
新宅宝
そうですね。当時は岡山で「何か新しいことしたいな」と思っていたときでした。

でも、岡山に全然知り合いがいなかったので、まずは「知り合いを増やそう」「岡山のことを知ろう」と思って、手当たり次第に挑みました。イベントに参加したり、お手伝いしたり。
石原達也
面白そうなことやっている、やろうとしているところに参加した……。
新宅宝
それはありますね。イベントにはめちゃくちゃ参加しました。あとは、自分でもトライ & エラーはしましたね。イベントを企画したり。
竹内義晴
いろんなところに顔を出して接点をつくっていったんですね。
石原達也
人に誘われたら、最初はそれを断らずに、バンバン行くのが大事じゃないかなと思います。そのうち「手伝って」と言われるようになるから、つながりがつくられていきますよね。

そういう吸収力や行動力が、思っていることを形にしていくポイントでしょうね。

仕組みで社会が「ちょっと幸せ」に

竹内義晴
サイボウズでは、社会課題を解決するために、さまざまな取り組みをする「ソーシャルデザインラボ」というチームがあります。

たとえば災害支援。水害や地震など、大きな災害があったとき、サイボウズのkintoneを使って、被害状況などの情報を共有する仕組みを提供しています。

このように、ツールによって社会課題が解決できることもあるんじゃないかなと思っていて。
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石原達也
データを蓄積して、それをどう効率よく使うかは、どんなことにも関わってくることだと思いますね。

北長瀬式のコミュニティフリッジは、われわれが志したところまではできました。これからは、現在の仕組みを横展開して、もっといろんなことに広げられればいいなと思っています。

コミュニティフリッジの仕組みは全国14地域に広がっている。2024年度中に、4地域ほど増える予定

新宅宝
もともとは食料支援の仕組みですが、「災害発生時の食料支援に使えないか」といった検証もはじまっています。各団体さんで仕組みが少しずつ拡張されているのはうれしいですね。
石原達也
海外には、コーヒーを飲むときに2杯分のお金を払っておいて、1杯は自分のため、もう1杯は欲しい人が来たら飲めるようにしておく仕組みがあるそうです。

こういう、みんながちょっと幸せになる文化は、仕組みが実装されると実現するわけですよね。支え合い、助け合いが、肩肘張らず自然にできるといいなと思います。
竹内義晴
仕組みがあるから、文化ができていくことがありますね。

少しずつでも形にすると人生面白い

新宅宝
やりたいと思うことがあれば自分なりにチャレンジしてみて、形にすることが大事だと思います。

自分でやってみると色々なことが見えてくるので改善点は修正します。また、他人からのアドバイスを聞いてさらに修正します。

「やってみた」という経験値を増やしていくことは、これからのチャレンジの仕上がり具合をグッと早めることができる貴重な経験だと思っています。
竹内義晴
経験を重ねることで、精度があがっていくということですね。
新宅宝
プラスして思うのは、チャレンジしてみたいものが「誰の役にも立たなくてもいい」ということです。自分の好きなことを追求していくだけでもいいと思います。結果を出せなくても落ち込むことはありません。

面白いのは、意外にも数年後、数十年後に誰かの役に立つことがあることです。また、異なる複数のチャレンジが融合して、新しい可能性が見つかることもあります。
竹内義晴
確かに、「あれとこれを組み合わせたら……」なんて思うことがあります。
新宅宝
自分のチャレンジした経験が、誰かの助けや再活用できる瞬間に出会えると改めて人生って面白いなって感じます。自分が想像していないような場で役に立つことの面白さがあります

これは、エリアマネジメントというよりも、人生のなかでも同じことが言えると思っています。まず、何事にもやってみないと何もわからないですもん。

これからも北長瀬が盛り上がっていき、また、支え合える地域になっていけるように多くの方と一緒に色々なチャレンジをしていけたら嬉しいです。
石原達也
少しずつでも、なにかをやったほうが人生は面白いんじゃないかと思います。いろんな人と出会うと、人生が楽しくなるでしょうし。

「どこかに就職して、それをずっとやる」みたいなこれまでのシステムは、いろんな意味で無理が来ていると思います。

街づくりも、関心がある方々が自分ごととして動いていけばいくほど、社会は変わっていきます。そっちのほうがスタンダードになると思っています。北長瀬でも、ぜひみなさんとごいっしょできたらうれしいです。

新しい「ふつう」をつくる

石原達也
まちづくり会社をつくる時に、僕が勝手に言っていたコンセプトは「新しいふつうをつくる」でした。

「ふつう」と言った時点で、周りを排除する感じがあって。まるでふつうじゃないものが悪いみたいで、非常に罪深い言葉です。

そのくせ「キミ、ふつうだね」って言われるといい気がしないっていう(笑)

いろんなことにチャレンジすることで、ふつうの概念が変わっていく。そんな未来になるといいですよね。

北長瀬コミュニティフリッジの詳しい取り組みは、サイボウズチーム応援ライセンスのページでも紹介しています。

企画・執筆・編集・撮影:竹内義晴

2023年8月29日「なんで、ふつうにできないの?」そう浴びせられてきた人たちへ。

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執筆

編集部

竹内 義晴

サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。

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