企業は、“社会貢献したい“気持ちをどう後押しできる?
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- 企業経営者
- 企業のCSR担当者
- 社会貢献活動に興味のある個人
- ボランティアや寄付活動に関心のある人
- 企業の社会的役割に興味を持つ研究者や学生
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「はあとふる基金」はデンソーグループの社員と退職者からの寄付を募ることで、地域社会や社会貢献活動を支えるための基金です。この基金により、地域団体への助成や社員の自主的な社会貢献活動の支援が行われています。基金は企業が地域と密接な関係を築くための重要な手段となっており、特に会員の推薦プロセスを通じて、支援が本当に必要な団体に助成金が行き届くようにしています。助成金は主に環境保全、安心安全な街づくり、障がい者福祉などの分野に使われています。また、社員が自主的に立ち上げる社会貢献プロジェクトにも助成が行われ、社会的課題に対する意識を高める活動が推進されています。はあとふる基金は寄付者の数を増やす施策を続け、2023年度時点で会員数は8000人、寄付総額は4億円に達しています。
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2024.4.25
ビジョン・アイデア企業は、“社会貢献したい“気持ちをどう後押しできる?
会員数8000人、寄付総額4億円まで成長している「デンソーグループのはあとふる基金」とは
寄付やボランティア活動は、社会課題の解決につながる個人でも貢献できる身近なアプローチです。しかし、いざ社会貢献に取り組むとなっても、ボランティア活動に参加するための最初の一歩を踏み出すハードルが高かったり、少額では大きな貢献につながりにくいと寄付を躊躇してしまうこともあるかもしれません。
そのような中、2005年よりデンソーグループでは「はあとふる基金」を運営しています。社員と退職者の有志から寄付を募り、社会貢献活動をする個人や団体の支援に充てる基金であり、一人ひとりが社会のためのアクションを起こすきっかけとなる仕組みです。今回はその活動の全体像を紹介しつつ、社会課題の解決に向けて一企業としてできることを考えます。
この記事の目次
企業も、個人も、社会貢献活動が求められる時代
環境問題や、様々な社会課題が深刻化するなかで、その解決に向けて行動を起こす必要性が高まっています。その中で、個人でもできる社会貢献活動として知られているのが、寄付やボランティアです。実際に社会課題の解決のために活動する非営利団体の多くは、寄付やボランティアによる支援によって支えられています。
しかしながら、社会貢献をしたいと考える個人が増えているにもかかわらず、行動に至る人の数は限られている状況があります。内閣府の「社会意識に関する世論調査」では、2022年時点で社会貢献に意欲を示している人の割合は64.3%であり、ここ20年間、多少の増減はあれど、緩やかな上昇傾向にあります。しかし、同年の「市民の社会貢献に関する実態調査」では、ボランティアに従事した人の割合は17.4%ほどであり、20年間ほぼ横ばいです。
また、個人に留まらず企業においても社会貢献が求められています。これまで企業は経済的価値を追求することで、多くのサービスや製品、雇用をもたらし、人々の豊かな暮らしを支えてきました。しかし、負の側面として気候変動や格差の増加といった課題も存在し、企業にはこれらの課題への対処が求められるようになっています。
このような背景を踏まえて、デンソーは2000年に大量生産/大量消費モデルからの脱却や、経済発展と環境保全の両立に向けた経営方針「デンソーエコビジョン」を策定。廃棄物や二酸化炭素の削減など、環境負荷の低減に向けた具体的な行動計画を設定し、取り組んできました。また、2006年に「デンソーグループ社会貢献活動基本方針」を定め、「環境との共生・安心安全な街づくり・人づくり(青少年育成・障がい者福祉)」を注力領域として、社会への包括的な価値提供を進めています。
社員による基金を通じて、地域と関係性をつくる
企業や個人における社会貢献の重要性が高まるなかで、デンソーでは個人の社会貢献活動をサポートするための取り組みとしてはあとふる基金を2005年に設立。
はあとふる基金は、有志の社員から毎月100円/口を給与・賞与などから天引きして積み立てたり、退職者からの銀行振込や社員からの現金による寄付を募ったりすることで、地域団体や社員による社会貢献・ボランティア企画への寄付、自然災害義援金などに充てる基金です。2023年度時点で会員数8000人、寄付総額4億円、寄付先件数1000件ほどに成長しています。
はあとふる基金では寄付総額の約9割を「地域団体への助成」「会員の自主企画への助成」に充てています。現状では、220の地域団体に対して1団体あたり13万円を助成しており、会員の自主企画に対しては申請があったものに対して1つの企画あたり10万円を支援。また、残り1割を「東日本大震災被災地への助成」「自然災害被災地支援」に充てています。
「地域団体への助成」については、会員の居住地または勤務先の都道府県にある団体を対象として、学童保育や障がい者支援施設、動物保護団体など、社会貢献に取り組む団体に金銭的な支援を実施しています。
具体的な支援先として、何らかの理由で親と離れ離れに暮らさざるを得ない子どもたちのための児童養護施設、岡崎平和学園があります。支援を受けた子どもからは、下記のような手紙が届いたといいます。
「デンソーさんのおかげで部活のユニフォームを買ってもらえた。今年1年間勉強では1番をとり続けることが出来た。良い成績をとっておくと将来の就職先の選択肢を広げることができると思う。今は努力し続けたい。将来は自動車関連の仕事やか公務員に就いて、世のため人のために尽くせるような人になりたい。本当にありがとうございました」
デンソーは、こうした地域の団体に支援していくことの意義を、総務部 ソーシャルリレーション室 鈴木友香は次のように語ります。
「企業がより多くの人々に価値を届けていくためには、地域との連携が大切です。はあとふる基金による助成を通じて地域団体と広く関わりを持つことで、企業と地域との信頼関係を築いていければと思っています」(鈴木)
助成団体を決定する際には、会員からの推薦(推薦者と団体が知り合いであることが条件)を行い、集まったものの中から選考委員が最終選定をします。このプロセスについても、企業と地域との関係性をより密接なものにするべく設計したもの、と鈴木は続けます。
「はあとふる基金は、助成のための仕組みであると同時に、会員一人ひとりの社会貢献活動を促すための取り組みです。もともと助成先を決定する際には、全国の団体から公募したうえで、会員投票を行うプロセスをとっていました。しかし、『会員に寄付活動をより自分ごと化してもらいたい』、『主体的に地域団体と関わってもらいたい』という意図から、会員推薦のプロセスを採用。今では地域でお世話になっている事業者の方々に恩返しをする手段のひとつとしても、はあとふる基金は活用されています」(鈴木)
さらには、会員による推薦を実施することで本当に支援を必要としている団体に助成金が行き届くようになった、と鈴木は続けます。
「公募からの会員投票というプロセスを実施するなかでは、社会的関心の高いプロジェクトに票数が集中するため、当事者の少ないマイノリティ課題へのアプローチが難しいことや、団体による企画書作成(申し込み)の負担が大きいといった課題が挙げられていました。現在のプロセスを採用することで、団体の負担を少なくするとともに、その団体がどれほど支援を必要としているかという軸で助成先を選べるようになりました」(鈴木)
「アクションを起こす」きっかけとしての基金
さらに、はあとふる基金では、会員が社会貢献を目的としたプロジェクトを立ち上げた際に最大10万円の助成を行います。プロジェクトメンバーは5人以上、活動を推進する上で社外のステークホルダーを巻き込むという条件があるものの、これまで75件の活動への支援が実施されてきました。
具体的なプロジェクトの例として、2024年に開催したデンソー社内の有志による「映画『杜人(もりびと)〜環境再生医・矢野智徳の挑戦』上映会・前田監督トークイベント」があります。「杜人」は、人間よりも自然に従うという理念をもつ、造園家で環境再生医の矢野智徳氏を追ったドキュメンタリー作品。イベント当日はデンソーの名古屋オフィスに前田せつ子監督をお招きし、トークイベントも開催されました。本上映会の企画を担当した有志メンバーは「災害に関わる課題解決のアプローチについて、学び、共感する場をつくるために開催した」と、取り組みを振り返ります。
「映画『杜人』上映会・前田監督トークイベント」は一事例にすぎません。さまざまな領域で会員の自主企画は行われていますが、そうした企画への助成は社員一人ひとりの行動を促すために行っている、と鈴木は語ります。
「企業活動と社会貢献活動を両立するのは、なかなかハードルが高いのが実際のところだと思います。本制度を通じてそのようなハードルを下げていきたい。会員による社会貢献プロジェクトの立ち上げ数をひとつでも増やしていくことが、基金を運営する上での目標です」(鈴木)
継続的に、社会に価値を提供できる仕組みを
継続的に基金を運営するには、寄付者となる社員の増加が欠かせません。これまで、はあとふる基金の運営委員会は会員数増加の施策として、数多くの取り組みを推進してきました。
例えば、デンソー内の食堂で指定のメニューを注文すると、1食ごとに10円が基金に充てられるハートフルメニューの設置や会員登録の電子化、食堂などの社員が多く集まる場所での直接の声掛けなどが具体的な活動です。寄付や会員登録までの導線を整備するとともに、心理的なハードルも下げていくことで、2020年以降に約1,000人ほど会員数が増えたといいます。
「財団の形態ではなく、社員による基金でこれだけの規模が実現できているのは、デンソー内にビジョンに共感してくれる方々が多くいるからだと思います。はあとふる基金は、会員数が増えれば増えるほど、支援できる団体数や助成額も多くなっていく仕組みです。だからこそ、今後も規模の拡大に向けて活動を続けていけたらと思っています。そのためには会員登録のハードルを下げる仕組みづくりが大切です」(鈴木)
はあとふる基金をめぐる今後の展望について「より大きなインパクトを出していくために、基金の規模を拡大していきたい」と鈴木は続けます。
「運営委員会では、これからも規模の拡大に向けた取り組みを推進していきます。はあとふる基金は企業や企業人が経済価値の追求や基幹事業の推進といった枠組みを超えて社会に価値を提供できる仕組み。ぜひ基金の活動の輪にご参加いただければ幸いです」(鈴木)
ビジョン・アイデア執筆:inquire 撮影:BLUE COLOR DESIGN
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