先端技術研究所発のイノベーション創出へ。
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- 日本のビジネスに興味がある人
- イノベーションに関心のある若者
- キャリアを模索している学生
- エンジニアリングやデザイン分野の専門家
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デンソーの先端技術研究所での共創活動を推進する中西由衣さんと千田樹絵子さんは、それぞれの経験と異なるバックグラウンドを活かして、社外とのコラボレーションを促進しています。中西さんは化学生命工学を専攻し、英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アートでの経験を通じ、科学とデザインの融合を追求しています。一方、千田さんは有機化学と生物化学の研究背景を持ち、ものづくりに対する情熱からスタートアップとの共創を模索しています。
彼らの仕事は前例のない課題に対する挑戦であり、特に説得力のある選択を求められますが、互いの協力関係を通じてイノベーションにつなげようとしています。共創を実現するためには、異なる分野の知識を持つ者同士のコラボレーションが不可欠であり、デンソーではそのための制度づくりや場づくりに注力しています。このような活動により、社内外の幅広い専門家との連携が進められており、それが未来のモビリティ社会の形成に貢献しています。
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2024.6.28
キャリア・生き方先端技術研究所発のイノベーション創出へ。
「共創」を推進する若手コンビの奮闘
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なかにし ゆい中西 由衣
大学と大学院で化学生命工学を専攻し、2019年にデンソー入社。先端技術研究所のマテリアル研究部を経て、22年から社外修行トレーニーとして英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)へ。23年10月から現在の同研究所先端研企画室に所属し、イノベーション創出をめざして社外との共創の場づくりを進める。
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せんだ きえこ千田 樹絵子
大学、大学院で有機化学と生物化学にまたがる分野を研究し、2018年にデンソー入社。コックピット製造部を経て、22年からベンチャーキャピタルに出向。23年12月から現在の先端技術研究所先端研企画室に所属し、イノベーション創出に向けて、共創を引き起こすための制度設計や施策づくりに尽力している。
将来のデンソーのコア技術を探索して磨く先端技術研究所が今、力を入れようとしているのは、イノベーションを生み出すための社外との「共創」です。活動を進めるのが、中西 由衣と千田 樹絵子。同じ中学校・高校の同級生という若手コンビが、これまで歩んできた道のりや、前例も正解もない難題に挑むやりがいを語ります。
この記事の目次
想定外の初任地に、適性とやりがいを見いだす
──先端研企画室で現在タッグを組む2人ですが、学生時代はそれぞれ何を研究していたのですか。
中西:大学と大学院で化学生命工学を専攻していました。大学では、生物がどのようにタンパク質合成の品質管理をしているのか、大学院では神経細胞のように特殊な形をした細胞について、どのように形態形成が制御されているのかを、それぞれ研究していました。もともと「生命」に関心があって。DNAを分析すると動物や植物の成り立ちがわかるのですが、そのようにプログラミングされていること自体に不思議とおもしろみを感じていましたね。
千田:私は大学院まで、有機化学と生命化学にまたがる分野を研究していました。化学の道に進んだのは実験が好きだったのと、当時の先生が研究についておもしろそうに語っている姿が印象的だったから。研究室では有機合成や細胞実験、動物実験など、さまざまな手法で研究を進めていました。
──そこからなぜ、デンソーへ?
千田:一番の理由は私自身、ものづくりが好きだと感じたからです。真理を追究する基礎研究よりも機能を作り出すことに魅力を感じて、デンソーなら実践できるのではないかと思いました。最終的には、入社前に参加したインターンシップで接した社員の皆さんの人柄が良かったことが決め手になりましたね。皆さん優しくて、仕事に対して情熱を持っているのが伝わってきました。
中西:私は、自動車部品メーカーには幅広いコア技術があり、それをモビリティだけでなく新しい領域にも生かすなど、より広い視野で未来社会づくりができそうだと思ったからです。いろいろな分野に関わり、多くの専門技術に触れ、その道の専門家に会いたいな、とも。そして私も、人に魅力を感じました。入社前に会った社員の皆さんは、協力関係にある社外の人たちを尊重するなど謙虚な姿勢で、なおかつ、自らの研究や技術について楽しそうに話していて。そのような人たちがいる環境で働きたいと思ったんです。
──千田さんは、最初に配属されたコックピット製造部時代がターニングポイントになったとか。
千田:そうなんです。私はインターンシップで経験させていただいた材料技術部への配属を希望していたのですが、結果的にコックピット製造部の現場に配属され、量産製品の担当になりました。正直なところ、当初は配属に戸惑いを抱いていました。
でも次第に、この仕事に自分の適性を感じるようになったんです。任せてもらえる業務の範囲が広く、入社2、3年目でも大きな設備を導入したり、新製品を担当したりと、一気に吸収して進められることが肌に合っていました。自分が担当したメーターが実際にクルマに備えられているのを見ると、やりがいを感じましたね。
──今振り返ると、大事な経験でしたね。
千田:はい、なくてはならない経験だったと実感しています。ものづくりの会社として、現場で生産した製品を売り、その利益で今、私たちが研究開発の仕事をしている。研究開発も生産もどちらも大切な仕事なのですが、製造現場が日々、魂を込めてものをつくって会社を支えているということを体感できたことに、大きな意味があったと思っています。
大学や他社との共創へ、制度設計と場づくりに尽力
──中西さんは入社4年目から、社外修行トレーニーとしてロイヤル・カレッジ・オブ・アート(以下、RCA)に行ったとのことですが、どのような経緯だったのですか。
中西:もともとデザインやイラストを描くことが好きで、大学院時代にはRCAのデザイナーと共に、科学とデザインを掛け合わせて未来を想像するプロジェクトに参加していました。科学の研究を学外の人たちに伝え、一緒に未来を考えることに興味を持ったんです。ただ、それをキャリアにすることは考えられず、まずは研究していた化学や生命を軸にデンソーに入社しました。
中西:ところが、当時のプロジェクトのことが忘れられず、RCAに入学し、学び直したいと思っていることを上司に相談したんです。そうしたところ、「社外修行トレーニー制度を利用してRCAに行ってはどうか」と勧められて渡英。科学の分野で客観的に物事を捉えてきた環境から飛び出し、アートの分野で主体的に物事を捉え直す環境に1年間、身を置きました。個人の体験を身体的に表現することを突き詰めているアーティストの先生や、友人との出会いは本当に刺激的で。人と違う自分を大切にし、異なる考えも受け入れることで、世界は新しい発見や見方を得られるのだと実感しましたね。
──千田さんも入社5年目から、社外修行トレーニーでベンチャーキャピタルへ出向していたのですよね。
千田:はい。入社5年目から1年間、志願して東京のベンチャーキャピタルに出向しました。私は生まれてからずっと愛知県で過ごしていたので、県外に出て新しいことにチャレンジしたくなったんです。愛知は自動車関連産業が中心となっていますが、東京には実に多種多様な業界やビジネス、スタートアップがあります。彼ら、彼女らと話すことで、斬新な発想が次々と生まれ、自分の知る世界の狭さや「常識」の偏りを体感したんです。外部との関わりが重要だと思い知った日々でした。
──社外で大きな学びを得た2人は今、先端研企画室でどんな仕事を?
千田:私たちは、先端研究開発を通じてイノベーションを生み出すための共創活動を担当しています。私は共創をどう引き起こしていくかを考えると共に、自動車業界のTier1からモビリティ社会のTier1へと提供価値を広げるため、新価値を創出する制度設計を進めています。
具体的には、共創相手と連携する枠組みづくりです。今、主に考えているのが大学の共創。私たちがやりたいいくつかの施策は、本当に大学側が求めているものなのか、などについて、大学の先生方から意見を集めているところです。このほか、スタートアップや大企業との共創も仕掛けていけるように準備しています。
中西:未来が予測できない今だからこそ、先端研究開発のコアや強みを大切にしつつ、外部との共創を積極的に進めることが欠かせません。私は今、共創を起こすための場づくりを任されていて、空間デザイン会社や社内のデザイン部と共に、体験を設計しています。
──体験を設計するとは?
中西:たとえば他の企業や大学の方々を招き、私たちが普段どのような研究活動を行っているのかを実際に体験してもらうという方法があります。初めにオリエンテーションをした上で、私たちが考える社会課題を示し、どうアプローチしていくかを一緒に考えたり、私たちの実験室で技術や研究を見ていただいたり。最後にこれまでの実績を見せて、信頼していただく。そういう一連の体験の設計を進めているところです。
何を実現するための共創なのか、どうしたら共創を引き起こせるのか、フォーカスすべき相手は誰なのか。さらには研究所そのものの在り方にも考えを巡らせるなど、大きなコンセプトを行き来することが多いですね。
前例も正解もない仕事。選択に説得力を持たせる難しさ
──今の仕事で、難しさを感じる部分はありますか。
中西:前例も正解もない仕事で、一つひとつの選択について説得力を持たせるのが難しいと感じています。まずは、大きな概念を捉え直し、目的や理由を説明しながら提案していくのですが、やはり多様な人々のそれぞれの思いがある中で推進していくことが難しいですね。
千田:中西さんの思い、よくわかります。私たちが「この部分をこうやって変えていかなきゃいけないよね」とイノベーションをめざしていても、議論を重ねていくうちに違う形になり、最終的に「これって本当にイノベーティブなこと?」となってしまう可能性はあると思っていて。そういう意味で、どの部分をコアで持ち、どこまで突き通すかが難しいところですね。
──そんな困難を乗り越えるとき、心のよりどころにしているのは何ですか。
中西:千田さんの存在です(笑)。千田さんが加わったことで、かなり心強くなり、前に進んでいる感覚がするんです。2人で意見が合わない場合でも最後まで議論し尽くし、最適と思える解にたどり着くという作業を毎日やっていて、とてもやりがいを感じます。
千田:少し気恥ずかしいですが、うれしいです。
──今の仕事を進める上で、課題だと感じる部分は。
中西:社外との共創に向けて理系だけでなく、文系の社会学や行動学など、幅広い分野の先生方とタッグを組むためには、私たち企業側から、仕事内容ややりたいことなどをもっと開示していくべきだと思っています。
千田:その通りですね。デンソーの研究開発はこれまで、自前主義でテーマを突き詰めてきましたし、研究所自体も積極的に外に出て、さまざまな業種の人たちと交流するような場面は少なかったと思います。でも不確実性が高まる現代では、今まで足を踏み入れなかった領域、まったく関わってこなかった人たちとの接触を増やし、何か新しいものを生み出すことが大事ではないでしょうか。
選んだ道を「正解」にする。できない理由を探すより、突破を
──普段、大事にしている価値観を教えてください。
中西:音楽や絵画、本などに接して自分の心が動いた瞬間に、敏感になることです。「私は今、どうしてこんなにときめいたんだろう」「違和感を覚えたんだろう」などと考えるようにしています。
RCA時代、アーティストたちが「他人にはない感覚」をとても大切にしているのを見て、だからこそ独自の表現ができるのだなと思ったんです。逆にそれがないと、仕事でもみんなと同じ意見、同じものしか生まれません。なので、私も日ごろの生活から小さなことに気づき、自分自身や世界への理解を深めようとしています。そのほうがきっと、人生が豊かになりますよね。
千田:私が大切にしているのは、強い思いを持つ人を否定しないということですね。大学での研究や社会での事業開発、スタートアップでは、やりたいことに熱狂している人こそが物事を成し遂げているなと、出向中に感じたんです。だから、「他の物事を差し置いてでもやりたいことが、企業としてやるべきこととマッチしている」という状況をつくる手助けをしていきたいですね。仮に実現が難しい場合でも、熱意を持っている人の話を聞いて共感し、思いを打ち上げるような土壌をつくっていけないかと考えています。
──今後、さらに挑戦していきたいことはありますか。
中西:研究者とデザイナー双方の立場を理解できる懸け橋のような存在になり、さまざまな研究を世に広げていきたいです。そのためには私自身、幅広い分野の知識を習得しながら、領域を横断して新しいテーマを立ち上げたり、今ない技術を編み出したりしていきたいですね。なるべく多くの人と関わり、話に耳を傾けて学び、自分なりの成果物を出すことを繰り返していくつもりです。
千田:私は今、アカデミアに向けた共創施策を中心に手がけていますが、これからは企業やスタートアップ向けの施策にも取り組みたいです。出向中に学んだスタートアップエコシステムや、事業にまつわる知識を生かしていきたいですね。そして何事も、チャレンジするのに遅すぎることはないと思っています。実は今、逃げ続けてきた英語に向き合おうと英会話を習っていて。純粋に、英語をしゃべれるようになりたいんですよね。仕事に生かせる場面も出てくると思います。
──最後に、デンソーを志望する人たちへメッセージをお願いします。
千田:新入社員にとって、配属される部署や地域が希望通りになるとは限りませんが、自分の思い描いたものと偶発的なもののバランスを、ぜひ大事にしてほしいです。
というのも私の場合、製造の部署に配属されたことが当初は腑に落ちない状況でしたが、実は適性があったということに後々気づきました。それに、製造部から出向を経て先端技術研究所へ、という異質なキャリアだからこそ、今の職場を客観的に見られるというメリットもあります。
中西:先端研究開発からトレーニーとして芸術系の大学に行ったのは初めてのケースで、私のキャリアも特殊だと思います。それが実現できたのは自分の努力だけではなく、環境に恵まれ、周りに後押ししてくれる人たちがいたからです。
今後、何かの分岐点に立って、「どの道が正解なんだろう」と迷うことがあるかもしれません。どの道を選んだとしても、その後の取り組みによって正解にしていくことが肝心なのではないでしょうか。自戒を込めて言いますが、できない理由を探すより、やりたいと思ったら勢いでやってみる。そうすることで意外と、後からよいものがついてくるかもしれません。
※ 記載内容は2024年5月時点のものです
キャリア・生き方執筆:PR Table 撮影:BLUE COLOR DESIGN
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