株式会社アイシン

欧州の顧客と渡り合う中、語学力だけでは意思疎通できないことを知った。

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 営業職の新人や若手社員
  • 国際ビジネスに興味がある人
  • 自動車業界での仕事に興味がある人
  • 語学を活かした仕事を希望する人
Point この記事を読んで得られる知識

記事では、欧米営業部での業務と、特に欧州の大手OEM向けの営業活動についてのリアルな体験が紹介されています。新規受注の獲得から受注後のサポートに至るまでの営業プロセスが説明され、その中でのコミュニケーションの難しさや異文化との交渉のポイントが述べられています。また、製造工程や製品に関する技術的な知識を持つ重要性も語られています。

著者は言語の背景を活かしつつも、ものづくりの知識を学び、工場見学において有効に説明することで顧客に信頼を与えています。さらに、グローバルな取引の場では、日本と欧州のビジネス文化の違いに直面しつつ、相手に正確にこちらの意図を伝えるための提案資料作成への工夫も取り組んでいます。

また、オンライン時代への移行により、生産現場の視察をオンラインで行う工夫も紹介されています。現地での直接交渉が困難な状況下でも、カメラを用いて遠隔地の工場の様子を顧客に伝える試みがなされています。さらに、自動車業界における先進的な製品の提案と競争の厳しさも描かれています。

Text AI要約の元文章

現場の思いを英語で分かりやすく伝え交渉する難しさ

私が所属する欧米営業部の業務領域は主にふたつ。ひとつは新規受注を獲得するための活動で、お客さまから「こういうものつくれる?」といった引き合いをいただくこともあれば、お客さまのニーズに合致する商品を企画し、こちらから売り込みに行く機会も増えています。もうひとつが受注後に欧米のお客さまと本社の技術者や工場とを橋渡しし、設計の検討から試作、量産化までの道筋を支えていく営業活動です。海外の現地法人営業メンバーと一緒にコストや日程に関わる交渉の一端を担います。

 

現在は欧州の大手OEM(完成車メーカー)向けにARS(※)を中心とした走行安全に関連する製品・ユニットの営業活動を担っています。私はどちらかというと後者の受注後活動を任されることが多いのですが、以前、英国からいらっしゃったお客さま御一行を案内したことがあります。当時はじめての当社との取引ということもあり「どのような工場、どのような工程で製造するのか見たい」と。

 

私は外国語学部の出身で、ものづくりに関する専門知識はほぼゼロの状態で入社しました。しかし入社後の数年間、工場で原価企画をする部署に配属されていて、そのときの経験がここで役に立ちました。例えば電子部品は回路基盤の上にチップを載せて・・・という基礎的な構造、製造工程についての知識を得ていたため、工場見学中に質疑を受けたときも、専門的な話をうまく伝えられたと思います。まだまだ日々勉強することばかりですが、自分の言葉で説明したことにお客さまがうなずいてくれる瞬間は充実感があります。

 

その後、私は途中で別のプロジェクトに移りましたが、つい先日、無事量産にこぎつけたと聞きます。はじめての製品がうまくいけば、今後の取引拡大につながるので、重要な役割を果たせたことにホッとしています。確かに苦労はありますが、ずっとやりたかった仕事なので、楽しく働けています。

 

※ARS:Active Rear Steeringの頭文字をとったもので、車両の状況に応じて前輪だけでなく後輪も左右に動かすことで、よりスムーズな走行を実現させるユニット

違いを乗り越える創意工夫を

小さい頃から海外への憧れがあり、高校生の頃にニュージーランドへ留学を経験。大学は外国語学部に進学し、さまざまな国へと旅行に出かけましたが、「もっと海外のことを知りたい!」とグローバルに働けるアイシン(当時:アイシン精機)に入社しました。

 

しかし実際に仕事をしてみると、憧れだけではなんともならない、さまざまな壁にぶつかります。ひとつはビジネス文化の違い。欧州の方は「まずイエスかノーか答えてくれ!」「結論を先に言ってくれ!」と、とにかくまわりくどい話し方を嫌います。日本人は前段から結論に至る流れを重要視するので、その違いにはじめは面食らいますね。

 

お客さまと会話する中で、こちらは「理解していただけた」と思っていても、相手に誤って伝わっていることが多々あります。ですから、提案資料はビジュアルを多用するなど、できるだけ分かりやすいものをつくるよう工夫しています。文化も商習慣も違う方々とわかり合うことはやはり難しく、言葉が通じるだけでは十分といえません。今後はそうした違いを理解した上で交渉を進めていけるような折衝能力を磨いていきたいですね。

 

嬉しい発見も多くあります。以前は根拠のない先入観で、ある国に対してややネガティブなイメージを抱いていました。しかしその国の方と働き、その印象はガラッと変わりました。とても親切で、サポーティブで、勉強熱心で。もっとこの国の人たちと一緒に働きたい、もっと知りたいと思うようになり、現在はまたプライベートでも行ってみたいと思うほどです。今後も、まだあまり接したことのない国と仕事をするチャンスもあると思うので、それが今からとても楽しみです。

来るべきモビリティ社会に向けて

新型コロナウイルスの感染が広がる前には、海外出張にも行ったことがあります。メールや電話でのやりとりでなかなか話がまとまらないときに現地に行って直接説明し、面直で議論を交わしました。私たちメーカーは現地現物(※1)を大切にしていますが、2020年以降は国をまたいだ移動が制限され、それも難しくなりました。感染拡大がより深刻だった欧州拠点で働く仲間たちやお客さまも相当苦労があったと思います。

 

当時担当していた英国のお客さまから「製造品質を確認したい。日本に行きたい」との要望を受けたことがあります。以前のように来ていただくわけにはいかない状況です。「どうしよう?」と、社内およびお客さまとさまざまな方策を検討した結果、オンラインでやってみようという話になりました。英国と日本の工場をオンラインでつなぎ、私が手にしたカメラで製造工程を写しながら、リアルタイムで解説を添える生中継です。苦肉の策ではありましたが、気になっている部分を確認いただけたようでよかったです。

 

私が扱う走行安全領域には、先進的な製品もあります。以前ドライバーモニターシステム(※2)をドイツのOEMに提案し、もう少しで採用というところまでいきましたが、最終局面で受注を逃してしまいました。非常に悔しい思いをしましたが、こうした次世代の自動運転や電動化にかかわる製品は、上司からも「積極拡販だ!」とハッパをかけられているので、これからどんどん提案していきたいと思います。自動車業界が変遷する中、欧州でのポジショニングを争う重要な役割を担っていることに身が引き締まるとともに、やりがいも感じています。

 

※1 現地現物:実際に現場に出かけ、現物を見て、どんな問題が起きているのかを正確に把握した上で、解決に取り組むことが重要であるという考え方

※2 ドライバーモニターシステム:車載カメラで車室内のドライバーの運転状態を監視し、居眠りや脇見運転を検知した際にアラートを出すなどの制御を行うシステム

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