株式会社デンソー

技術を商いに。デンソーの新組織が目指す「社会イノベーション」

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • モノづくりに関心のある人
  • 自動車業界の関係者
  • イノベーションに興味があるビジネスパーソン
  • 未来志向の技術開発者
  • 社会貢献を目指す企業経営者
Point この記事を読んで得られる知識

この記事は、デンソーが「100年後も社会から求められるモノづくり企業」を目指し、社会イノベーション事業開発統括部を立ち上げた背景とその目標について述べています。この新組織は、人流、物流、エネルギー流、資源流、データ流という5つの流れに重点を置いています。デンソーはこれらの流れを最適化し、社会システムのレジリエンスを高め、人々の幸福を持続的に循環させることを目指しています。

また、デンソーは従来の製造業から脱却し、「売り切り保証から生涯保証のビジネス」へ進化することを計画しています。これにより、商品のライフサイクル全域での価値提供を行い、持続可能な社会の実現に貢献するとしています。特に自動運転やHMI技術、次世代交通インフラシステムの構築、量子コンピューティングを活用した物流サービスなど、さまざまな技術を商業的な成果に結びつけることに注力しています。

さらに、デンソーは事業化ゲート審査を用いて新たなビジネスアイデアを育てるためのアプローチを展開します。これは多様なアイデアを早期に事業化できるよう、リソースの見積りや社会インパクトの検証を行う仕組みであり、それによりイノベーションの成功確率を高めようとしています。デンソーは社会変革を目指し内外のパートナーシップを強化することで、21世紀にふさわしい新しい市場と商品を開発し続けるとしています。

Text AI要約の元文章

2024.7.17

ビジョン・アイデア

技術を商いに。デンソーの新組織が目指す「社会イノベーション」

新組織を立ち上げた、統括部長の思い

「100年後も社会から求められるモノづくり企業となろう。」この想いで2023年に立ち上げられたのが社会イノベーション事業開発統括部です。いま、同組織を起点に、人流・物流・エネルギー流・資源流・データ流──これら5つの流れに大きな変革をもたらす、新たな事業の芽が生まれようとしています。

この記事の目次

    2035年、社会はどうなっているか?

    私たちは、先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態を生きています。いまから約10年後の2035年。世界はどのように変化しているのでしょうか。

    近年、気候変動要因とされる自然災害が多く発生することに加え、長期にわたったパンデミックの発生や突然の地域紛争の勃発により、食料や物資、エネルギーの供給が世界的に寸断される状況に直面しています。これらの体験と共に、生成AIなどの革新的な技術の出現が、私たちのこれまでの生活様式やコミュニケーションスタイル、価値観に対し、大きな変化をもたらし始めています。

    このような予測不可能な変化は、今後も続いていくと考えられます。すなわち、どんな環境に変わろうとも、社会活動を止めないレジリエントなシステムの構築や、地域の特徴に則した多様な価値観や幸福感に応える自立分散的な仕組みづくり、商品の品揃えが、今後強く求められていくはずです。

    「幸福循環社会」の実現に向けて、新たな組織を設立

    こうした社会づくりに向けていま何に取り組んでいくべきなのでしょうか。

    モノづくりに従事してきたデンソーは、人々の幸福により貢献していくために、2035年に向けて、「幸福循環社会」の実現に取り組んでいくことを発表しました。

    「環境」と「安心」という人類普遍の価値を満たしつつ、より良い社会づくりに邁進すべく、デンソーはモビリティ社会を取り巻く「5つの流れ」に注目。この5つの流れを最適化する技術開発と商品開発を行い、それらを大きな事業へと昇華させることで、人々の幸福が世界と未来にわたって循環し続ける社会の実現を目指します。

    人流・物流・エネルギー流・資源流・データ流──これら5つの流れにデンソーが培ってきた深く広い技術を組み合わせ、応用することで、幸福循環社会の姿が見えてきます。

    これら5つの流れは、それぞれどのような課題を、どのように解決しようとしているのでしょうか。 “流れ”ごとに見ていきましょう。

    人流

    移動のマイナス(交通死亡事故)をなくし多様なシーンに応える移動を提供することがミッション。自動運転に留まらず、暮らしと移動をシームレスにつなぐ情報提供システム、ドライバー支援を行うHMI(Human Machine Interface)、安心・安全でかつ自由な移動をもたらす次世代モビリティおよび次世代交通インフラ協調システムの構築に注力。

    物流

    ムダ・ロスを最少化し、環境と人にやさしくモノを移動させることがミッション。ドライバー不足や労働環境の改善といった物流業界の2024年問題にアプローチし、物流における大規模かつ複雑な最適化処理を可能にする量子コンピューティングを活用した、幹線中継輸送サービス「SLOC」の事業化を目指す。

    エネルギー流

    カーボンニュートラルなデンソーのモノづくりを社会へ普及させ、エネルギー循環社会を実現することがミッション。材料構造を原子レベルで最適化した高効率エネルギー変換材料、再エネを有効活用した工場・街向けエネルギー循環システム、充電・回収・メンテナンスのバッテリーサイクルを最適化するための、車載電池の状態データの収集と解析を可能にする「電池SOH(State of Health)診断技術」の開発を推進。

    資源流

    限られた資源を循環させるモノづくりの実現で、廃棄物と地球環境負荷を最小化し、クリエイティブなモノづくりをさらに促進することがミッション。クルマの解体・再生を自動化する自動精緻解体システムの開発や、静脈産業との連携により、廃車部材から得たリサイクル材を使って新車で使用する部品製造につなげることで、“Car to Car”を実現する循環型エコシステムの構築の一翼を担うことを目指す。

    データ流

    緻密なデータで人とモノと情報の流れをつなぎ、新たな価値を見出すことがミッション。バッテリートレーサビリティシステムの開発、パートナー連携によるグローバル標準のデータ流通プラットフォームの構築を足掛かりに、精緻なデータの活用により、脱炭素、脱廃棄を実現する“循環型社会”、人・クルマ・社会をつなぎ幸福を循環・拡張する社会づくりに挑戦。

    この「5つの流れ」への価値提供は、モノをつくって販売する従来型の製造業からの脱皮、すなわち、“売り切り保証のビジネスから生涯保証のビジネスへの進化”を意味します。商品の利用時にもお客様に寄り添い、さらに商品の利用終了時には確実に次の新しい商品へと生まれ変わらせる“ライフサイクル全域”において価値を提供し続けていく会社になっていこうとしています。こうした21世紀に求められる新しいモノづくりのスタンダードをつくっていく部署が2023年に立ち上がりました。それが、「社会イノベーション事業開発統括部」です。

    この部が目指しているのは、デンソーを「100年後も社会から求められる企業」にすること。有限のエネルギーと資源を循環させ、人間の“創造性”がもっともっと自由に発揮できる幸福循環社会を実現すべく走り始めています。本部署の統括部長である加藤 充は、その設立背景をこのように語ります。

    「良いモノをひたすらつくり続けるだけの会社では未来はありません。つくったものを循環させ、次なる新しい価値・新しいモノへとつなげる、新たな社会の仕組みと事業が必要である。そうした思いをもって社会イノベーション事業開発統括部を設立しました」(加藤)

    事業化ゲート審査でアイデアを膨らませ、「技術を商いに」転換

    部として描いたビジョンを実現するためには、開発から事業化までのステップをスピーディーかつ一つひとつ丁寧に進めていくことが求められます。加えて、種々のアイデアを組み合わせ、スケール感のある事業へと組み上げながら事業化の成功確度を高めていくためには、それを支える仕組みが欠かせません。

    そこで大事にしているのが、個の情熱と実現への行動力を組織として最大限に引き上げる「事業化のゲート審査」、通称「ステージゲートディスカッション」です。

    「ステージゲートは0から2の段階に分けられており、ステージゲート0では取り組むべきテーマか否かの選定を行い、ステージゲート1ではプロトタイプの評価を行いながらお客さまや社会にとって価値の高い商品を開発し、ステージゲート2で事業スケールの確度を見積もり、事業化の最終判断をします」(加藤)

    デンソーのゲート審査の特徴は、ステージゲート0と1の間にあるといいます。ステージゲート0では、多様な人材が集まるデンソーの強みを活かすべく、間口を広くして受け入れます。そこで選定したテーマについては、ゲート0直後に、それらを進める上でのリスクや障害の大きさの把握、必要なリソースの見積もり、社会的インパクトの大きさなどを主要マネジメント層全員で深く議論し、組織として前進させるか否かを決定します。

    「事業にしていくというのは覚悟と責任が伴います。それを“個”に負わせることはしません。我々デンソーは覚悟と責任を“チームプライド”として挑戦する会社ですから。

    テーマを出してくれた人が一心不乱にゴールに向かって走れるようにすべきことは何か、を全員が“当事者”として検討し、チームとして支援・後押しをします。一旦選定したテーマを取り下げることももちろん行いますが、それは組織としての決断であり、個の責任・評価にはしません。

    社会課題の本質を捉え、すぐに行動を起こせる“アクティブ人材”が必要不可欠です。そういう人材を輩出する仕組み、組織づくりをしていきたいです」(加藤)

    ステージゲート1に進んだプロジェクトでは、実証実験を繰り返しながらお客さまや市場のニーズを探りますが、早い段階からR&D部門(研究開発)にも参画してもらい、R&D部門が研究してきた「先端技術」も取り込みながら商品性を高めます。他社との技術的な差別化や先進性は、お客様の持続的成長と社会にイノベーションを起こす上でも重要な視点です。

    「どのような世界をつくりたいのか?その実現のためにはどのような技術が必要なのか?技術サイドと事業サイドが初期段階から同じテーブルに着いて、認識や価値観をすり合わせながら作り込んでいくのです。技術と事業の密な連携が『技術を商いに』する上での重要な要素となるため、スムーズな連携が生み出せるような会社としての仕組みづくりも進めています」(加藤)

    こうしたステージゲートディスカッションを用いたチーム一丸の活動を通じて、デンソーが保有しているさまざまな技術を商いに変えていく──社会イノベーション事業開発統括部の重要な役割のひとつでもあります。

    新たな貢献をしていくために、デンソー自身も変革が必要

    「幸福循環社会」の実現のためには人や組織の変革も欠かせません。デンソー自身も大きな変化を起こしていく必要があります。

    デンソーのメイン事業である自動車部品領域では、先人の尽力により、我々の部品を使って「市場」に届けてくれるお客様が常に存在しています。「市場・お客様・商品」がエコシステムとして既に確立されているといえます。

    「社会イノベーションの領域はこれまでとは異なり、たとえ技術があったとしても市場がない、商品をつくっても社会の仕組みのなかに組み込まれない、結果としてお客様を多く得られないといったケースが非常に多いです。つまり、市場・お客様・商品のどれも欠けることなく、技術とともに適切に噛み合った状態で育んでいかなければならない。この点は、デンソーにとっての大きなチャレンジになると考えており、市場開拓、お客様開拓、商品開発、技術開発がオールインワンで協業し合う組織が必要だと思うのです」(加藤)

    社会イノベーション事業開発統括部の組織体制は、新たな市場の姿、商品の姿を素早く具現化することが可能な構成としています。

    「それぞれの事業化テーマについてお客様の懐に深く入り込み、市場形成、商品企画を行う事業化チーム(縦串機能)と、各テーマで取得した市場の声・お客様の声を素早くプロトタイプに落とし込んだり、全テーマを俯瞰して技術の標準化を行ったりする開発チーム、および組織全体を俯瞰し、テーマの加減速の提案・リソースの最適化などを促す実行支援チーム(横串機能)が常に一対となって推進しています」(加藤)

    さらに加藤は、事業開発を加速するために、「自由演技」と「自社を知る」ことが大切であると話を続けます。

    「未知の領域を切り拓いていくためには、上司が提案・指示したタスクをこなす『規定演技』ではなく、市場・お客様の声やトレンドを読み取り、市場・お客様の発想や期待を超える“アイデア”と“実現のストーリー”を自ら創り、思いっ切りよく動く『自由演技』が求められるとメンバーに伝えています。

    さらにその上で、『自社を知ること』もメンバーには意識してもらっています。社会にインパクトを与える価値を創出していく過程において、『自分がやりたいから』という思いだけで進めるのではなく、デンソーの強みや技術を深く理解した上で、そこに自身の熱量を掛け合わせ価値を生み出していく。デンソーという信頼のブランドと幅広い技術ラインナップをフルに活かすことで、共感を超える、大きな共鳴・共振が起こせるものだと思っています」(加藤)

    「未来の世代」に制約を与えないための挑戦を

    新しい事業を生み出す役割にある社会イノベーション事業開発統括部がこれから目指す未来について、加藤は「現代の豊かな社会の営みが未来の制約となり、未来の世代の“創造力の発揮”を阻害しない世界をつくりたい」と自身の思いを語ります。

    「エネルギーや資源が枯渇している。地球が温暖化している。新しいモノをつくることは地球の持続可能性を失わせる——こんな制約は絶対に作りたくない。未来の世代が自由に創造的な営みをできない世界には絶対にしたくない。

    ------サステイナブル&クリエイティブ------

    これこそが、モノづくりが大好きな私たちが目指す姿なのです。」(加藤)

    このような世界は、デンソー単体で作り上げられるものではありません。だからこそ、社外も含めた多くのパートナーの皆様と共にありたい未来の姿を描きながら、その実現に向け果敢に挑戦していくことが重要だと加藤は言葉を続けます。

    「デンソーが描く新しい社会像に共鳴してくださる仲間やエコシステムを横断したパートナーも徐々に増えてきていると実感しています。共創を積み重ね、その具現化をスピーディーに行い、これまでにない市場、21世紀の価値にピッタリ沿う商品・技術を作り上げていきたいと思います。同時に共鳴・共振いただけるお客様に寄り添い、お客様の価値をどんどん高め、社会をイノベートする、スケール感のある事業へと成長させていきたいと思います。

    現在、社会イノベーション事業開発統括部は5つの流れを軸に取り組みを進めていますが、いずれ、いまは存在しない新しい『流れ』も生み出していきたいと思っています。これからも社会に必要とされる会社であり続けるために、たくさんの仲間やパートナーの皆様とともに挑戦を続けていきます」(加藤)

    ビジョン・アイデア

    執筆:inquire 撮影:BLUE COLOR DESIGN

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    https://www.denso.com/jp/ja/driven-base/project/vision/

    ・デンソーは、「100年後も社会から求められるモノづくり企業となろう」という思いで「社会イノベーション事業開発統括部」を設立。

    ・同部署を起点に、5つの流れ(人流・物流・エネルギー流・資源流・データ流)に大きな変革をもたらす、新たな事業開発を行っている。

    ・本部署は「縦串と横串の組織体制」を構築し、社内外とのコラボレーションによって新たなる事業を育てようとしている。

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