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- 自動車業界の開発者
- BEV(電気自動車)に興味がある人
- モータの技術革新に関心のある人
- エンジニアリング系の学生
- 電動車両の進化に関心がある消費者
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この記事を通して、読者は電気自動車(BEV)の心臓部であるeAxleの開発について理解を深めることができる。
eAxleとはモータ、インバータ、ギアユニットを一体化した電動駆動ユニットであり、その開発は車両の高効率化と小型化を目指している。このユニットはBEVの普及に寄与することが期待され、特にバッテリーの削減によるコスト低下がメリットとして挙げられる。
開発現場では、第3世代eAxleの開発が進められており、2027年の市場投入を目指している。この新しいユニットは、従来モデルよりも圧倒的に小型化され、高効率を達成することを目標としている。また、アイシンの強みとして、過去のハイブリッドシステム開発の経験が挙げられ、社内のスペシャリストとの協業による競争力の向上が図られている。
開発チームは、材料技術や生産技術も積極的に取り入れ、新しいアイテムを創出するための環境を構築している。こうした取り組みを通じて、モータの構成要素をゼロから見直し、潜在的な技術の可能性を探索しているのが印象的だ。
さらに、プロジェクトの進行に際し、設計チームはモータの要素技術の最適化を進め、システム全体の効率を向上させようとしている。彼らはそれぞれ異なる役割を担い、協力しながら高効率なeAxleの開発に励んでいることが分かる。
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モータをゼロから見直し、超小型化・高効率化を目指す
――おふたりは一体どのような開発に?
K.A:我々はBEV用のモータの先行開発を行っています。
T.T:補足して言うと「eAxle(イーアクスル)」に組み込まれるモータ、ですね。
――eAxleとは?
K.A:モータとインバータ、ギアユニットを一体化した電動駆動ユニットで、BEVの心臓部となるシステムです。将来的にはいくつかのサイズをラインナップして、さまざまな車種に搭載できるように展開する予定です。
――なるほど。特定の車種向けではない「先行開発」ということですが、目指すゴールはどこになるのでしょうか。
K.A:BEVの普及です。既にいくつかのBEVが市販されていますが、本格的な普及の実現までには航続距離や価格などの壁があります。当社がこれまでガソリン車向けのパワートレイン開発などで培った経験や技術を生かし、それらの問題解決に貢献しようというのが大きな目標です。
T.T:充電インフラなど他の問題もありますが、我々は小型高効率のモータ開発でeAxleの進化に貢献していくということですね。
――eAxleが進化すると、私たちユーザーにはどのようなメリットがあるのでしょう?
K.A:BEVの車両価格の多くを占めるのが、シートの下にびっしりと敷き詰められたバッテリーなんです。例えばeAxleを含めBEVの電費が10%向上されれば、バッテリーも10%削れることになります。ですのですごくシンプルに言ってしまえば、モータが高効率になれば、その分BEVの価格が下がるという構造になっています。
T.T:その他にも、eAxleが小さくなれば車両設計の自由度が増すので、客室や荷室が大きくとれたり、さまざまなメリットがあります。
――現状はどこまで開発が進んでいますか。
T.T:eAxleは「3世代構想」で開発が進められていて、2022年の夏現在、第1世代のeAxleが既に市場投入されています。現在は第2世代、第3世代のユニットの開発が進められています。
K.A:我々が担当しているのは最後の第3世代向けのモータで、2027年の市場投入を目指しています。
――第3世代eAxleは、第1・第2世代とどこが違うのでしょうか。
T.T:機密事項が多くてあまり具体的には答えられないのですが、「測ってわかるレベルではなく、パッと見て誰でもわかるレベルで小型化する」ことがひとつですね。その圧倒的な小ささと高効率化を同時に実現させるという、かなり高い山を登っています。
――「圧倒的小型化」なんて、本当に実現できるのですか?
K.A:今一度原理原則に立ち戻って、モータを構成するひとつひとつの要素についてゼロから突き詰めることから始めています。見えていない部分も多く確定的なことは言えませんが、可能性は十分にあると考えています。
――世界中のライバルとの開発競争において、アイシンの強みとは?
K.A:アイシンはハイブリッドシステムやATの開発を長年やってきたので、そこで培われた技術を結集すれば競争力のある製品がつくれると考えています。さらにモータやギアトレイン以外にも熱マネジメントや車両制御をはじめ、さまざまなスペシャリストが社内にいますので、そういった自社の強みを出せる術を模索しながら、開発に取り組んでいます。
T.T:アイシンは自動車のパワートレインを長年やってきたので、その経験を生かして客室の静音性や加速フィーリングの良さなど、エンドユーザーの嬉しさにつながるものをつくりたいですね。
会社からの期待が大きい分、やりがいも大きい
――開発現場ではそれぞれどのような役割を?
K.A:私はモータの各要素技術の開発を推進するとともに、システム全体の最適化を図る旗振り役として、組織横断型の開発プロジェクトの企画・推進などを担っています。
T.T:私はモータの電磁気設計に携わっています。新材料の検討や磁石の配置、ローターの形状などを工夫しながら、さまざまなアプローチで高出力かつ高効率なモータの開発に取り組んでいます。
――T.Tさんはキャリア入社で、前職でもモータ開発に携わっていたとか。
T.T:はい。エコシップと呼ばれる船舶に使われるモータを開発していました。当時からモータ関連の文献を読んでいて、革新的な試みをしているのがほとんど自動車の駆動用モータだったんですね。それで興味を持ったのがきっかけです。
――船ですか。やはり乗用車とは違うものですか。
T.T:船は大きいですからね。機関室の音はうるさくて当たり前なので、それほど音を気にして設計しませんし、操縦する人も限られています。その点BEVは多くのユーザーが乗る製品ですから、静音性や乗り心地の良さの追求も重要な開発テーマです。そのあたりは船とだいぶ違いますね。
K.A:ですので、例えばギアや車軸がモータのトルクを受け取る際の効率や、音や振動の制御も重要な開発テーマになってきます。トータルパッケージを考えるといろいろと苦労するところが出てきますね。
――なるほど。先ほど「社内のスペシャリストと協業する」というお話がありましたが?
K.A:モータ開発は今後、設計技術のみならず、材料や生産技術が競争力向上のカギを握ると考えています。そこで我々は材料技術や生産技術を交えて議論する場を設け、そこで出てきたアイテムを一緒に開発するなど新しいやり方を積極的に取り入れてます。
T.T:設計だけですと、どうしても独りよがりになってしまう部分があります。例えば小型化だけを考えれば理想的な形状というのはあるのですが、量産できなければ意味はありません。そうならないように早い段階から意見をもらっているわけです。
――専門領域が違うと、やはり考え方も違うものなのでしょうか?
K.A:目指す方向は同じです。ただし、我々設計技術者は、どちらかというとニーズから考えます。電費が良い方がいいとか、充電は短い方がいいとか、そういう目線でアイテムを考えたりすることが多い。一方、材料技術とか生産技術はどちらかというとシーズ寄りの発想ですから、ニーズとシーズをつきあわせることで新しいものが生まれるという環境があると思います。
T.T:彼らからは「こういう技術があるけどうまく使えないかな」「こういう材料あるんだけどどうかな」といった提案も多いんです。我々とうまくコラボできた時に、新しいアイテムが生まれるという経験もこれまでにありました。
――会社の命運を背負うキーデバイスということで苦労も多いかと思いますが、どのようなシーンでやりがいを感じますか。
K.A:各グループでつくったものをひとつのeAxleに組み上げテスト走行を行うのですが、自分たちがつくったユニットを搭載した試験用車両が走っている姿を見ていると、なんというか「みんなで頑張ってきてよかったな」という気持ちが湧いてきますね。
T.T:終わった後にみんなで記念写真撮ったりしますよね(笑)。
K.A:そうそう。役員が来ることもあって、激励の言葉をもらったりすると、会社からの期待の大きさと責任の大きさを改めて感じますね。