株式会社デンソー

これからの暮らしを支える、三方よしの「デザイン」って何だろう?

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • デザインに興味のある人
  • 暮らしを豊かにしたい人
  • プロダクトデザイナー
  • DIYや料理好きな人
  • YouTubeを参考にする視聴者
Point この記事を読んで得られる知識

この記事は、暮らしを豊かにするためのデザインについての奥平眞司さんと吉田理子さんの対談を通じて、現代社会で求められるデザインの姿とデザイナーとしての心構えについて述べています。奥平さんは、自身のYouTubeチャンネルで日々の暮らしの楽しさを伝えたり、『ki duki』という暮らし道具ブランドを通じて生活の気づきを提供しています。その一方で、デザインにおいて大切にしているのは、使い手の発見や喜びに寄り添った道具作り。デザインは、ユーザーに委ねる要素を持たせることで、ユーザー自身の発見と楽しみにつなげています。対話の中で、吉田さんはデンソーにおける製品デザインのアプローチを紹介し、特に安心・安全を優先しながらも自然体でありのままの姿勢を意識したデザインの重要性を説いています。さらにデザイン部では、HX(Human Experience Design)として、つくり手と使い手を超えて材料や社会的影響まで考慮する必要性を強調しています。これらのことを通して、デザインが持つ多様な価値の発見と、暮らしをよりよくするための提案がされています。

Text AI要約の元文章

2024.8.8

技術・デザイン

これからの暮らしを支える、三方よしの「デザイン」って何だろう?

「OKUDAIRA BASE」主宰・奥平眞司さんと考えた、これからの暮らしを支えるデザイナーのあり方

  • 奥平眞司(おくだいら まさし)

    YouTubeチャンネル「OKUDAIRA BASE」にて、日々の暮らしの様子を発信。チャンネル登録者数は36.3万人(2024年7月時点)。愛知県出身。福祉系大学卒業後、桑沢デザイン研究所にて空間デザインを学ぶ。料理やDIY、家族や友人を招いてのもてなし、物選び、整理整頓、キャンプや旅行など、あたらしい生き方、暮らし方をYouTubeにて配信中。2020年にブランド「ki duki」を立ち上げ、暮らし道具をデザインし、生活のなかにある楽しさや幸せを伝えている。

  • 吉田理子(よしだ あやこ)

    株式会社デンソー デザイン部所属。東京都立大学にて製品デザインを中心に学び、卒業後、2021年にデンソーへ入社。2023年には、自部署のウェブサイトをリニューアルするにあたり、デンソーデザイン部の世界観をありのままに伝えるコンテンツや、ビジュアルなど、デジタルで表現するコミュニケーションデザインを担当。現在は、製品デザインのほか、UI、グラフィックなどのさまざまな分野のデザインに挑戦している。

私たちの豊かな暮らしや生活を支えてくれる製品。その一つひとつには、豊かさを支えようとするつくり手や、デザイナーによる思いが込められています。

社会を構成する多様な人々のニーズや、環境負荷の低減など、デザインする上で考慮しなければならないことが増えるなか、これからのデザイナーにはどのような考えや心構えが必要なのでしょうか?

「現代的なデザインのヒント」を探るべく、チャンネル登録者数36万人を超える人気YouTubeチャンネル「OKUDAIRA BASE」を運営する奥平眞司さんと、デンソーデザイン部に所属するデザイナーの吉田理子の対談を実施。ふたりの対話から、現代に求められるデザインの姿を明らかにしていきます。

この記事の目次

    日々の暮らしに、新しい「きづき」を

    吉田:奥平さんのYouTubeチャンネルを以前から楽しく見ていて、今日はお話できるのを楽しみにしていました。YouTubeチャンネルのテーマも、料理、季節の手仕事、DIY、物選び、おもてなし、庭仕事など、幅広いですよね。

    奥平:ありがとうございます。YouTubeでは「暮らしそのものを味わい尽くすこと」をテーマに配信しています。その傍ら、暮らしのなかの「きづき」に出会える道具を目指した「ki duki」というオリジナルブランドも手がけているんです。

    吉田:実はわたしも「ki duki」の道具も普段の生活で愛用しています。

    奥平:ほんとですか?! 使ってもらえて嬉しいです! ありがとうございます。

    吉田:今日は「人々の暮らしや生活を支えるデザイン」をテーマに、まずは「ki duki」に込めた想いや製品の背景からお伺いしてもいいですか?

    奥平:はい。「ki duki」は、使ってもらう人にさまざまな“気づき”を楽しんでもらいたいという想いから始まりました。ブランドを始めた経緯には、ぼく自身の経験がすごく影響しているんです。

    吉田:どんなご経験だったのでしょう?

    奥平:一人暮らしを始めた時、さまざまなキッチン道具を買って試したものの、結局は使わずに埃をかぶってしまう製品が多くあったんです。使わないものを棚にしまっておくのではなく、使い続けたいと思えるよい道具に出会いたくて、最初に購入したのが牛刀包丁でした。その包丁をきっかけに「切ることの楽しさ」に目覚め、料理がどんどん楽しくなって、おもてなしするのが好きになって、今度はその料理を写真に撮るのが好きになって……さまざまな趣味が増えていったんです。

    吉田:一本の包丁をきっかけに、暮らしが楽しくなったり新しい趣味につながったりしていたんですね。

    奥平:そうなんです。なので、YouTube配信や「ki duki」の道具が、視聴者に気づきを与えるものになったら、といつも考えています。例えば、オールシーズンで使える「uku」というグラスをデザインしたのですが、このグラスは少し変わった構造をしています。

    普通はグラスの底が一番下にあるのですが、「uku」はグラスの中腹あたりに底があるんです。そうすることで、熱い飲み物を入れた時でも底が上がっているので下のほうを持っても熱くありません。冷たい飲み物を入れても底が上がっているから氷も溶けづらく、水滴がテーブルにつかないので、グラスの下に布などを敷かなくても使えるんです。

    吉田:グラス一つにも、シンプルな形のなかに機能的な工夫がいくつも入っているんですね。

    奥平:底が少し上がっているので、飲み物を注いだり氷を入れたりした時に、反響して高級感のある良い音が聞こえるんです。見た目だけではない、五感で感じることの楽しさに気づいてもらえたら、と思ってつくりました。これは「ki duki」の道具全般にも共通していて、“目に見えない部分”を大切にしているんです。

    吉田:たしかに、奥平さんの動画を見ていると、いつも「音ってこんなにも情報量があるんだ!」と驚かされます。音だけで映像が浮かび上がるくらい、こだわられているように感じています。

    奥平:コーヒーを淹れている動画を観てくれた方から「音が心地よいからマネしてみたら楽しくなってきました」というコメントをいただいたことがあって、ものすごく嬉しかったんですよ。

    「暮らし」って、人が生きていく上で全員が避けては通れないことじゃないですか。今後、家事を機械に任せようとする時代が来るかもしれませんが、それでも人が暮らしに関わることはなくならないと思います。

    だからこそ、少しでも暮らしが楽しくなる「気づき」を伝えたい。何かのハウツーを教えるのではなく、雰囲気を感じ取ってもらって、少しでも暮らしが楽しみに変わったら素敵だなと、いつも考えています。

    自然体や「らしさ」を伝えるデザイン

    奥平:吉田さんはデンソーデザイン部(以下、デザイン部)に所属するなかで、何を大切にしながらデザインを手がけられているのですか?

    吉田:そうですね。決まった考え方やセオリーみたいなものを意識せず、その時々のプロジェクトに対してまっさらな気持ちで一から向き合っていくことを大切にしています。なので、毎回とても新鮮な気持ちです。

    奥平:実際にどのようなものをデザインされてきたのか教えてほしいです。

    吉田:私自身、デザイン部に所属するなかで、人々の生活をもっと豊かにするためのさまざまな製品のデザインに取り組んできました。その領域も、UI、グラフィック、展示空間など、多岐にわたるんです。

    例えば、デザイン部のウェブサイトのデザインを手がけたのですが、こうしたサイトって普通はスタイリッシュに、働く人たちをきれいに表現することが多いと思います。でも、そうした表現が私たちのデザインの考えとは少し違うんじゃないかと思って。

    部のメンバーと議論するうちに、かっこつけずにあえて生っぽい姿を見せる表現から生まれるかっこよさが、デンソーデザインらしさだと考えるようになり、部のメンバーの「らしさ」がそのまま伝わるようなサイトデザインにしたいと思ったんです。

    吉田さんがデザインしたデンソーデザイン部ウェブサイト

    奥平:だから、ありのままを伝えるような表現にしたと。

    吉田:そうなんです。デザイナーは自然体で映っていて、できる限り、その人らしい個性や話し方を残したウェブサイトになっています。サイトを見てくれた学生の方とお話したときに、「ウェブで見たままの姿でした」と言ってもらい、デザイン部メンバーの人格や様子がきちんと伝わっていることがわかって、とても嬉しかったんです。

    奥平:いまのお話を伺っていて、僕のYouTubeと似ている部分があると感じました。YouTubeの撮影をするときに、かっちりキメた動画にすればするほど再生数がまったく伸びないんです。むしろ、できるだけありのままを表現したほうが視聴者のみなさんに届くんですよね。なので、動画のなかでは料理中もビニール袋を出しっぱなしだったり、きゅうりを切っててそれが床に落ちたのもそのままにしたり……。

    吉田:そういう自然体な様子に親近感が湧くんですよね。

    奥平:ありがとうございます。

    「委ねること」と「安心・安全の追求」の2つのアプローチ

    吉田:もう少し、製品のデザインのことをいろいろと聞かせてください。製品開発時のインスピレーションや着想はどこから得ていますか?

    奥平:特別なことはしてはいないんです。でも、日常生活で引っかかる部分がヒントになって「ki duki」の道具になることは多いんですよ。

    例えば、一般的に計量スプーンは柄が短くて平らで、使い終わったらすぐに引き出しにしまうものですよね。なので、もう少し遊び心があり、さまざまなシーンで使えるものにしたいと考えました。それで生まれたのが「eda」です。この計量スプーンは、柄を通常より少し長くつくってあって、枝切りばさみでちょっと切って自分に合った長さにすることができます。「自分の生活スタイルに合った使い方をしてもらえるように」というコンセプトでつくりました。

    吉田:「こうやって使うべき」という押しつけがなく、むしろ「あなたはこれをどう使う?」という投げかけがされているような感じですね。その使い手に委ねるバランスがとても素敵だと思います。

    奥平:そうですね。「ki duki」の道具は使い手にかなり委ねているかもしれません。ものづくり一般では、ついつい新しい機能を付け足してしまいがちですが、自分はデザインする途中で「ここで止めておこう、自由度を残しておこう」という設計を心がけています。

    例えば、計量カップの「tori」も、熱いものを入れても熱が逃げにくい構造なのでお茶用や、あるいはピッチャーなど、幅広い使われ方をしている製品です。

    デザインをしている僕が使い方を限定しすぎると、暮らしのなかでの発見や気づきがうまれにくい気がして、さまざまな使い方や発見につながる道具になることを意識しているんです。

    吉田:自分なりに工夫することで楽しくなる感覚ってありますよね。また、作り手の意図を超えて、価値が拡張されていくのは嬉しいですよね。

    一方で、私たちがデザインするデンソーの製品は、安心・安全第一を掲げていて、たしかな品質で製品やサービスを提供することを心がけています。そのため、時には安心・安全のために使い方を規定していくことが求められるケースもある気がしています。

    使い手の創造性を刺激し、使い方を委ねるデザインと、安全性をとことん追求することでお客様が安心して使えるデザイン。どちらが良い・悪いではなく、それぞれの根底にあるのは、つくり手としてどのようなことを考え、使う人にどのような価値を届けるかしっかり考えることではないでしょうか。いまの社会ではどちらも重要な考えだと思います。

    奥平:そうですね。デザインも答えはひとつではないし、つくり手ごとにそれぞれの価値や魅力があると思います。

    つくり手、つかい手、そして社会への配慮が行き届いたデザインへ

    吉田:先ほどはインスピレーションの源についてお伺いしましたが、その後、実際にデザインを進める上で気をつけていることはありますか?

    奥平:そうですね。最初はスケッチを書いてコンセプトを決めるのですが、自分のなかで形が見えてきたら、すぐに動画やSNSでアンケートを取ります。また、スタッフに連絡して、実際に試作品を使ってもらって使い勝手や感想をもらうなど、使い手の方々の生の声を大事にしているんです。

    吉田さんは、どのように製品のデザインを進めていきますか?

    吉田:使い手をはじめとするさまざまなステークホルダーの生活や気持ちを想定しながらデザインをしていく点は私も同じです。

    例えば、トラックのエンジン停止時に使用する「Everycool(エブリクール)」という停車時クーラーのデザインを担当したことがあります。トラックドライバーの方が荷物を運んでいる時の待ち時間に、エンジンを切った状態でも冷たい風を浴びて休めるように、と考えられた製品です。

    こちらの製品は、トラック座席後方のベッド付近に取り付けられているのですが、寝ころんだ際に足元のスペースを確保するために筐体(きょうたい)の下の部分を大きくえぐった形になっています。これは、プロトタイプをユーザーの方に体験いただくなかで出てきた意見がデザインに反映されています。

    ここまでえぐらなくても、助手席を前に倒せば、ある程度のスペースを確保できるのですが、運転して疲れ切ったタイミングで、わざわざ助手席を倒してスペースを確保するのは面倒くさいというコメントがありました。そういったユーザーの方々のリアルな声を聞き、デザインに落とし込んでいます。

    それ以外にも、法改正の側面からどのような影響があるのかなど、現場だけではなく、運行会社、環境などのさまざまなステークホルダーの立場を考えながらデザインを進めていきました。

    右:停車時クーラー「Everycool(エブリクール)」。足が伸ばせる形状にデザインされている。

    奥平:相手の視点に立って考えているのですね。素晴らしいです。

    吉田:いま、デザイン部ではHX(Human Experience Design)という考え方をベースに、つくり手とつかい手はもちろんのこと、その前の材料のことや、その先にある社会全体への影響も考え、‟多様な価値観と幸福感に応える"ために、私たちはどのように向き合い貢献していく必要があるのか?ということを常々、話しているんです。

    奥平さんとお話するなかで、つかい手とつくり手の関係性の変化、自然体や「らしさ」を伝える重要性など、これからの人々の暮らしや生活を豊かにするためのさまざまなヒントをいただけた気がします。今日は、本当ありがとうございました。

    奥平:こちらこそ、いろいろとお話できて嬉しかったです。それぞれのアプローチは異なると思うのですが、吉田さんがおっしゃったように、自然体や「らしさ」をいかに伝えるかという点で共通点が多くある気がしました。また、お話を伺うなかで、吉田さんやデンソーデザイン部さんの取り組みの軸が伝わってきました!今日は本当にありがとうございました。

    技術・デザイン

    執筆:inquire 撮影:BLUE COLOR DESIGN

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