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失敗が養う「選ぶ力」は、タイパ思考では得られない──紀伊國屋書店ゆめタウン下松店・池田匡隆

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 働き方や生き方を模索している若者
  • 書籍に興味がある人
  • 自己啓発に関心がある人
  • プロフェッショナルとして成長したいビジネスマン
Point この記事を読んで得られる知識

この記事では、本を通じて働き方や生き方について多様な視点を持つことができる方法を紹介しています。紀伊國屋書店の池田匡隆さんを始めとする書店員の選書を通じて、働く上での「美学」を持つことや、その結果として仕事に楽しさを見出すことの重要性が語られます。「タイパ思考」や速さを重視する現代社会に対し、書籍は考える過程を重視し、個々の解釈を育む手段として位置づけられています。さらに、「自分のために料理を作る」という本を例に、料理を自炊することの効用を通じた自己啓発の可能性が議論され、過程を楽しむことが人生全般において重要であることが指摘されています。また、失敗を通じて選ぶ力を養うことができ、本を読み返すことで異なる時期に異なる気づきが得られる点も強調されています。これらを踏まえ、本は働き方や生き方に関する新たな発見のきっかけを提供するメディアとして再認識されています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

本とはたらく

失敗が養う「選ぶ力」は、タイパ思考では得られない──紀伊國屋書店ゆめタウン下松店・池田匡隆

働き方の価値観が多様化している時代に、本が教えてくれる働き方のヒント。

その可能性を掘り下げるべく、サイボウズ式の出版チームである「サイボウズ式ブックス」では、本のプロである書店員さんにお話を伺うことにしました。

今回お越しいただいたのは、紀伊國屋書店ゆめタウン下松(くだまつ)店の池田匡隆さん。人文書に詳しく、本が持つ「知」を届け続ける書店員さんです。

池田さんには、シェア型書店「ほんまる神保町」で開催中の企画「書店員さん選書リレー by サイボウズ式ブックス」にご協力いただきました。

自分なりの美学を持って働けば、楽しい仕事になる

選書のラインナップ、硬派な本から手に取りやすい本まで揃っていて、かっこいい選書ですね。今回のテーマ「働く+美学」はどう思いつかれたんですか?

森潤也(もり・じゅんや)。出版社勤務。宣伝プロモーションとデジタルマーケティングに携わりながら、編集者として書籍の編集も手掛ける。主な編集担当作に、凪良ゆう『わたしの美しい庭』、ほしおさなえ『活版印刷三日月堂』、やなせたかし『わたしが正義について語るなら』など。SNSで本についての発信を行っており、noteでは本づくりの裏側や、魅力的な書店の紹介記事を投稿している。

「書店員さん選書リレー」 池田さんの選書(2025年3月~4月)

選書テーマ:「働く+美学」
  • 『手仕事の日本』柳宗悦 岩波文庫
  • 『自分のために料理を作る』山口祐加 星野概念 晶文社
  • 『料理人という仕事』稲田俊輔 筑摩書房
  • 『庭とエスキース』奥山淳志 みすず書房
  • 『人類堆肥化計画』東千茅 創元社
  • 『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン 筑摩書房
  • 『不屈の棋士』大川慎太郎 講談社現代新書
  • 『瞬間を生きる』羽生善治、岡村啓嗣 PHP研究所
  • 『青い壺』有吉佐和子 文春文庫
  • 『雲を紡ぐ』伊吹有喜 文春文庫
  • 『大いなる眠り』レイモンド・チャンドラー ハヤカワ・ミステリ文庫
  • 『月と六ペンス』サマセット・モーム 新潮文庫
  • 『生きのびるための事務』坂口恭平、道草晴子 マガジンハウス
  • 『はたらかないで、たらふく食べたい』栗原康 筑摩書房
  • 『あなたのための短歌集』木下龍也 ナナロク社
  • 『ヨーロッパ退屈日記』伊丹十三 
  • 『言葉の贈り物』若松英輔 亜紀書房
池田
最初は「これからの働き方」や「チームワーク」といったテーマをイメージしていましたが、そうしたテーマの本はたくさんあります。

視点を変えて「個でどう働くか」という部分にフォーカスを当てたときに「美学」というテーマが浮かびました。

池田匡隆(いけだ・まさたか)。山口県下松(くだまつ)市にある「紀伊國屋書店ゆめタウン下松店」店長。管理業務を中心に、人文書、社会科学書、新書などに長く携わる。新書大賞選考委員・紀伊國屋じんぶん大賞選考委員も務める。

「美学」を持って働くと、どんな良いことがあるんでしょうか?
池田
仕事にこだわりがあれば、もっと極めようと思い、それが結果に繋がれば喜びが生まれます。

ただ働くだけだと、日々の仕事は単純作業の「労働」ですが、自分なりの美学を持って働けば「楽しい仕事」になるんです。

仕事が楽しくなれば生きることも楽しくなるので、人生全てに前向きな影響を与えてくれると思います。
ただ働くだけだと仕事は労働になる……という言葉が心に刺さります。選書した本は、どういう人に読んでほしいですか?
池田
若い人や、仕事がまだ手に馴染んでない人たちですね。苦しいこともありますが、仕事の中に楽しさを見出すきっかけにしてほしいです。

「わからないなりにもがくこと」の大切さを教えてくれる本とは

働くことを考える上で、おすすめの本をお伺いしたいです。
池田
料理家・山口祐加さんの『自分のために料理を作る』という本です。

誰かのために料理を作るときは頑張ろうとしますけど、一人だとカップラーメンで済ますことがありますよね。でも、もっと自分を慈しむために作っていいんです。

仕事帰りで適当になってしまう晩御飯も、ひと手間加えるだけで料理と呼んでいいんだよ、という希望をもらえる一冊です。

『自分のために料理を作る』(山口祐加・星野概念/晶文社刊)
著者のもとに寄せられた「自分のために料理が作れない」人々の声。「誰かのためにだったら料理をつくれるけど、自分のためとなると面倒で、適当になってしまう」。そんな「自分のために料理ができない」と感じている世帯も年齢もばらばらな6名の参加者を、著者が3ヵ月間「自炊コーチ」! その後、精神科医の星野概念さんと共に、気持ちの変化や発見などについてインタビューすることで、「何が起こっているのか」が明らかになる――。「自分で料理して食べる」ことの実践法と、その「効用」を伝える、自炊をしながら健やかに暮らしたい人を応援する一冊。(晶文社ホームページより)

食事を補給作業にしてしまいがちなので、読んでみたいです。レシピではなくエッセイのような本ですか?
池田
むしろ自己啓発に近い本です。一般の人の悩みに寄り添いながら調理する章がありますが、料理を通して心が解きほぐされるんですよ。

過程を大切にすることや、手間暇をかけて積み重ねることの意味を教えてもらえます。
なるほど。できあがった料理ではなく、その過程を大事にすべきなんですね。生きることもそうだし、働くことにおいても学びが多そうです。
池田
まさにその通りで、最近、社会全体で考える行為がおろそかになっているように感じます。

答えをすぐ求めるのではなく、わからないなりにやってみたり、もがいてみたり、失敗したり。料理と同じで、働くうえでもプロセスが大切なんです。
「考える行為がおろそかになってないか」というのは大事なご指摘で、自分自身も思い当たる節があります。
池田
今回の選書企画では将棋の棋士の本も入れています。将棋の最適な指し手はコンピューターが瞬時に教えてくれますが、棋士たちは答えにたどり着くために十時間考えたりします。

でも答えを知っていることと理解していることはまったく別で、考えるプロセスを経ることで自分の血肉になるんじゃないでしょうか。

失敗した経験があるから選ぶ力が養われていく

働くことを考える上で、本がヒントをくれることはありますか?
池田
タイパ重視の世の中なので、欲しい答えを最速でくれるのは本ではないのかもしれません。でも、読書は過程を養うものなんです。本を一冊読み切った時間こそが考える力を与えてくれます。
映像も過程の時間を楽しむことができますよね。他のメディアと比べて、本ならではの良さはありますか?
池田
映像は情報量が多いぶん、「こんな見方もできるんじゃないかな?」という解釈の余地が本より少ないのではないでしょうか。

本は文字というシンプルな表現方法だからこそ、受け取りかたが人によって異なったりします。そこに正解はなくて、自分で考えることを求められるのが本なのかなと思います。
人によって受け取り方が違うというのは、たしかに本の特徴かもしれません。
池田
人によっても違うし、自分の中でも受け取り方が変わったりします。

僕は同じ本を読み返すことがありますけど、20代で読むとき、30代で読むとき、子供が生まれてから読むときで、感じ方が変わったりします。

昔はピンとこなかった内容が理解できることもあるし、その逆もある。読み返すごとに気づきがあるんですよ。
本は廃れなさがあるとも言えますね。読み返すに値する作品を見つけるのも大変じゃないですか?
池田
面白いと思うのは、十冊のうち一冊のときもあります。

でも残る九冊が自分に刺さらなかったからこそその一冊が輝いているわけで、読んだ時間は決して無駄ではない。

失敗した経験があるから選ぶ力が養われていく部分もあると思います。

企画・編集:小野寺真央(サイボウズ) 執筆:森潤也 撮影:高橋団(サイボウズ)

サイボウズ式特集「本とはたらく」

働き方の価値観が多様化し、どのように働き、どのように生きるのかが問われている現代。そんな時代にあって、「本」というメディアは「働くこと」を自分で見つめ直すきっかけをくれるのではないでしょうか。「本を読むこと」を通じて、私たちと一緒に、仕事やチームワークに繋がる新たな発見を探しに行きませんか?

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執筆

ライター

森潤也

出版社勤務。宣伝プロモーションとデジタルマーケティングに携わりながら、編集者として書籍の編集も手掛ける。SNSで本についての発信を行っており、noteでは本づくりの裏側や、魅力的な書店の紹介記事を投稿している。

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撮影・イラスト

編集部

高橋団

2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。

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編集

編集部

小野寺 真央

サイボウズ式ブックス副編集長。メーカー、出版社勤務を経て、2022年にサイボウズ入社。趣味は読書・演劇・VTuber・語学勉強・ラジオ・旅行。複業で小説の編集をしている。将来の夢はラジオパーソナリティ。

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