本田技研工業株式会社

人とマシンの意思疎通が街づくりを変える!?── はずれ値人材Meet Up! Vol.5

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 技術職に関心がある人々
  • AI技術に興味を持つ読者
  • 自動車産業に従事する技術者
  • 街づくりに関心のある都市計画者
  • 学術研究に携わる研究者
  • 共存型社会構築に興味のある政策担当者
Point この記事を読んで得られる知識

記事では、Hondaが取り組む「協調人工知能(CI)」を基にした次世代モビリティの開発について述べられています。この協調AIは、人と機械が信頼しあい、共存できる社会を目指しています。

記事中で取り上げられているのは、CIを用いた自動運転と運転支援技術、さらにマイクロモビリティを考慮した研究です。特に、CI自動運転技術は交通状況下での協調運転を目標にし、スムーズな走行を実現することを目指しています。また、CI運転支援技術はリスクを事前に予測し、運転者に知らせることで事故の回避に寄与するものです。

さらに、CIマイクロモビリティは「WaPOCHI」と「CiKoMa」の開発を進めています。「WaPOCHI」は人の移動をサポートするモビリティロボットで、人を認識し、安全に誘導します。「CiKoMa」は搭乗型のモビリティで自由に利用でき、交通状況に応じた柔軟な走行が可能です。

記事はルポ形式となっており、これらの技術開発がどのように進化し、社会の中でどのように活用される可能性があるのか考察されます。さらに、茨城県常総市で行われている「AIまちづくり」技術実証実験の背景と共に、はずれ値人材Meet Up! の影響についても触れています。これらのプロジェクトがAIや自動運転技術を街づくりにどう活かすかが議論の中心となっており、多様な視点から意見が交わされている様子が描かれています。

Text AI要約の元文章

一般的なモノサシでは測りきれないけれど、ときにミラクルな120点をたたき出す「はずれ値人材」。そんなメンバーが集い、さまざまなディスカッションをしてきた「はずれ値人材Meet Up!」。2025年2月12日に開催されたVol.5の様子をレポートします。

安井 裕司Yuji Yasui

本田技術研究所 先進技術研究所 知能化領域

1994年新卒入社。入社後、パワートレイン領域でのクリーンエンジン用システム制御の研究開発を経て、現在、協調人工知能を用いた自動運転・運転支援技術プロジェクトのリーダーおよび次世代モビリティの知能化研究における技術統括業務に従事。 

六本木に、さまざまな業界の「はずれ値人材」が集結

2021年1月に第1回が開催されて以来、5回目を迎えた「はずれ値人材Meet Up!」。「AIで社会をアップデートする」「人とマシンはわかり合えるのか」といったテーマでゲストを招いてトークセッションを行ったり、自動運転車の試乗体験を実施したり、さまざまな切り口で技術や社会の可能性を追究してきました。

今回は、東京・六本木にあるを会場に、「少人数×リアル開催」で実施。参加者は20名強という小規模ながら、完成車メーカーや部品メーカー、SIerのエンジニア、アカデミアの研究者といった技術のプロフェッショナルから、IT企業の営業担当者や街づくりに関わる人など、多様な「はずれ値人材」が参加しました。

AIと人が信頼し合い、協調・共存できる社会を実現する技術「Honda CI」

今回のテーマは、「Honda R&D ディープ技術談義の会」。まずは、Vol.1から企画に携わっている安井の講演からスタート。「すべての人に、『生活の可能性が拡がる喜び』を提供する」という2030年ビジョンに向けてHondaが開発に取り組む知能化モビリティについて紹介しました。

安井

「私たちは、人が気軽に移動できるようにするマイクロモビリティを研究しています。

その核になるのは、『Honda CI(Cooperative Intelligence)』と呼んでいる協調人工知能です。CIという名称には、AIやロボットと人が信頼し合って、協調・共存できる社会を実現するという想いを込めています」

CIを使った知能化モビリティの研究ラインは、「CI自動運転」、人の運転をCIがサポートする「CI運転支援」、街中の人とモノの移動を支える「CIマイクロモビリティ」の3つ。大きな特徴は、ユーザーとAI、周りの人びととAI、周りの環境とAIが、お互いの意思と行動をキャッチボールしながら共存することです。

まずは、「CI自動運転」と「CI運転支援」について、安井はこう説明します。

安井

「CI自動運転が目標とするのは、交通参加者と協調し、譲り合いながら自由に安全に走れること。人が運転する際、渋滞しているところで右折をしたり、高速道路で合流したりする時にタイミングが難しくてヒヤッとすることがあると思います。そういった際に、周りのクルマや歩行者などと協調してスムーズな走行を実現します。

CI運転支援は、従来の『リスクに直面したら避ける』運転支援ではなく、AIが『リスクをあらかじめ予測する』技術です。たとえば、前方に駐車車両があり、その後ろに自転車がいるとします。自転車は駐車車両を避けるために車道の中央に出てくる。それをAIが予測して、ドライバーに教えるのです。事前にドライバーにリスクを知らせることで、ドライバーは急ブレーキを踏むことなく事故を回避することができます」

人とモノの自由な移動を実現するCIマイクロモビリティ

イベント会場を移動するWaPOCHI(ワポチ)

CIマイクロモビリティは、「いつでも・どこでも・どこへでも」人とモノの自由な移動を実現するモビリティ。現在開発を進めているのは、「WaPOCHI(ワポチ)」と「CiKoMa(サイコマ)」です。

安井

「WaPOCHIは、人の『歩きたい』という気持ちを支えるモビリティロボットです。人をカメラで認識して、先導または追従しながら移動します。同じような服装の人がいても、背格好を覚えてユーザーを見分け、周りの人にぶつからないようについていくことができるのです。

とくに高齢者の場合、歩くことで健康につながりますが、人がたくさんいる場所では転倒のリスクもありますよね。そんな場面では、さっと前に出て先導し、安全を確保しながら誘導します。

さらに、WaPOCHIが荷物を持ってあげることで、安心して散歩ができる。そうやって健康増進につなげていき、いきいきとした生活をおくってほしいという想いで開発しています」

搭乗型のマイクロモビリティCiKoMa(サイコマ)。画像ははずれ値人材Meet Up! Vol.4より

CiKoMaは、ひとり~数人までの乗員数を想定したマイクロモビリティ。必要な時に呼んで乗車し、任意の場所で乗り捨てることができる気軽な移動手段となることをめざしています。

安井

「たとえば、『ここで停めて』と言葉で指示を出すと停まるのですが、交差点など危険な場所や交通ルール違反になるところでは停まりません。ほかにも、『〇〇が食べたい』などの目的を伝えると行き先を提案してくれるコミュニケーションも可能です。

このように、CIは言葉や振る舞いで意思疎通ができる点が特徴です。また、ほとんどの自動運転は高性能地図を使って走りますが、私たちが開発しているシステムは、人間と同じようにカメラで道路や周りの人を認識して走ります。ですから、障害物があれば自在に軌道を修正しながら、人や自転車と共存して走ることができるのです」

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「自由な移動の喜び」を一人ひとりが実感できる社会の実現を目指した「Honda CI マイクロモビリティ」

はずれ値人材Meet Up!がきっかけで進化していく「AIまちづくり」

Hondaは、2022年から茨城県常総市と「AIまちづくり」技術実証実験協定を締結しています。常総市にある「アグリサイエンスバレー常総」でCiKoMaの実証実験を行っているほか、野外研修施設「水海道あすなろの里」では、境界が不明瞭な道路を走れる技術を研究するなど、「AIまちづくり」に向けた技術実証実験を進めています。

この街づくりには、はずれ値人材Meet Up!が大きく関わっていると安井は話します。

安井

「常総市が提唱しているAIまちづくり『スパイラルアップモデル』は、商農工を連携させた6次産業にAIのロボットや自動運転を組み合わせて街を活性化していくというモデルです。

じつはこのモデルは、はずれ値人材Meet Up! Vol.2で街づくりについてディスカッションをした時に出たアイデアなのです。このアイデアを常総市に提案したことが、実際の活動につながりました。

そして今、常総市はスパイラルアップモデル2を打ち出していて、AI×教育で人材育成にも取り組もうと動いています。このイベントがきっかけになって、街づくりがどんどん活性化している。こういった成果を受け、今日は次のステージに進むためのディスカッションを皆さんとしたいと思います」

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Honda×茨城県常総市の「AIまちづくり」技術実証実験が地方の未来を変える?

技術と街づくりをどうやって両立させるか──ワイガヤで交通課題と向き合う

「次のステージに進むためのディスカッションをしたい」という安井の言葉でスタートしたのは、年齢や職位にとらわれずワイワイガヤガヤと腹を割って議論するHonda独自の文化「ワイガヤ」。参加者が3グループに分かれ、Hondaの社員とともに技術談義を行いました。

そのなかのひとつ、「急速に深刻化する交通課題。われわれはどう戦うのか」をテーマにしたワイガヤの内容を紹介します。

参加したのは、完成車メーカーのソフトウェアエンジニア、運転に関するAIの研究開発を行う研究者や学生、都市計画などに携わる人など。まずはHondaのメンバーから、議論したい社会課題とその課題に向けた取り組み、取り組みを支える技術について紹介がありました。

【交通課題】

  • ドライバー不足などによる公共交通手段の減少で、とくに地方で交通困難者が増加
  • 交通手段だけではなく道路やトンネルなどインフラの維持も困難になっている

【課題に対する取り組み】

  • 女性の採用強化などによるドライバーの確保
  • ライドシェアなど公共交通機関に頼らない移動手段の拡充
  • テクノロジーを活用したインフラ保守の自動化

【取り組みを支える技術】

  • 運行ルールの最適化や検査修繕箇所の判別をするためのAI認識やデータ分析
  • ドローンや衛星などを使って危険な箇所を発見するセンシング

こういった現状を踏まえ、技術面や街づくりの観点からさまざまな課題や解決のためのアイデアが飛び交いました。

参加者A

「LLM(大規模言語モデル)のおかげで、AIが人の代わりをできる範囲が広がる可能性が出てきましたよね。インフラ保全のための短期計画策定など、人手不足を補える分野もあると思います。一方で、安全を担保するためには『人の確認が必要』という考えもあります」

参加者B

「たしかに、AIは見落としや感情による差異はありませんが、専門家の技術にはまだ追いついていないですからね。また、交通課題の深刻な地方は人口も減っているので、AIを使いこなせる人材が不足しているという課題もあります。リスキリングやキャリアチェンジなどの支援も必要です」

参加者C

「ドライバー不足は自動運転で解決できる部分があるとして、もっと根本の問題もありますよね。たとえば、自動運転に必要な道路の白線が消えていたり、そもそもクルマが走れる道がなかったりという場所も多いと思います」

参加者D

「そうですね。インフラを整備するにしても、補修箇所を見つけるために現在もっとも効率が良いのはクルマですが、そのためには道路が必要です。ドローンを使ったものなど、現状のインフラを飛び越えて人の代わりになるものを開発する必要があります」

参加者E

「技術があれば解決できることもありますが、既存のインフラや街の動線を大きく変えることが難しい以上、都市計画において技術がどこまで許されるかという課題がありますよね」

参加者F

「実用的なものを作るためには、街全体をデザインしていくことにリアリティーを持ち、民間企業と行政が技術面とインフラ面の両方から連携して進めていくことが必要です。技術者から街づくりを担う側に一番求めるものは何でしょうか?」

参加者G

「技術や課題に対する市民のリテラシー向上が必須ではないでしょうか。たとえば、バス専用道などを活用した大量輸送システムのBRT(バス・ラピッド・トランジット)を作ることなどはできそうですが、その知識や発想が浸透しないと受け入れてもらえません。そういった意味でも、教育との連携も不可欠だと感じます」

幅広い視点からのディープな技術談義が、移動と暮らしを進化させるアイデアに

そのほかのグループのテーマは、「Level4自動運転を支える“真のAI”は何か」「2040年、未来の“街”と“モビリティ”を皆で予測」。いずれも技術面だけにとどまらず、国際競争、安全との両立、社会的な理解など、幅広い視点から「ディープな技術談義」が行われました。

自動運転をテーマにしたワイガヤでは、自動運転を支えるAIにおける課題として、レアケースも含めた学習データの収集とAIが正しく認識できるように加工するアノテーション、地域で異なる交通ルールや環境に対応するためのデータ収集とモデル開発などが挙げられました。

また、国際比較の観点では、中国では国家主導によりスピード感ある開発や連携が進んでいる一方、日本では自動車メーカーの連携の難しさや政策面での課題があること。開発には膨大な資金が必要であり、企業間の競争と協調のバランスが重要であること。そして、技術的なブレークスルーだけでなく、データ、安全性、倫理、法規制、国際競争といった多岐にわたる課題への取り組みが必要となることを語り合いました。

未来の“街”と“モビリティ”に関するワイガヤでは、モビリティの所有形態の変化や都市部と地方におけるモビリティのあり方の違いなどを中心に議論を展開。

都市部では公共交通機関の運行効率化やラストワンマイルの解決が重視される一方で、地方では既存の交通手段の維持や新たな移動手段の確保が喫緊の課題となっており、モビリティの所有意識も異なること。都市部での路上駐車問題の解決や新たな移動手段の可能性を広げる上で、自動運転が大きなカギとなるものの、安全性確保や社会的な受容といった課題があることなどが話し合われました。

そして、ワイガヤ終了後は、全参加者が集う懇親会へ。それぞれのグループで語り合った内容をさらに深めたり、新たな技術談義が始まったり、話は尽きない様子でした。

すべての人に、「生活の可能性が拡がる喜び」を提供するために──Hondaは移動と暮らしの進化につながるアイデアを、「はずれ値人材」とともに生み出し、追究していきます。

※ 記載内容は2025年2月時点のものです

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