株式会社デンソー

社員、一人ひとりが“アプリ開発者”に。「市民開発」で進める全社のDX

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • ビジネスリーダー
  • ITマネージャー
  • デジタルトランスフォーメーションを目指す企業の担当者
  • 社内デジタル推進に関心がある社員
  • 教育機関でデジタル教育を担当する教師
  • デンソーの業務改善に関心がある人々
Point この記事を読んで得られる知識

この記事はデンソーのデジタル活用推進部が、全社員がデジタルデータを日常的に活用できる文化を構築する取り組みを紹介している。この取り組みの中心には、市民開発と呼ばれるアプローチがあり、社員が自らノーコード・ローコードツールを利用してアプリを開発することが可能になるというものである。これにより、IT専門知識を持たない社員でも業務の効率化や課題解決のためのアプリケーションを作成できるようになる。デンソーは特にMicrosoft Power Platformを用いて、社員が自発的にシステムを開発・活用する体制を整えている。また、これに伴う文化や組織風土の醸成が重要とされ、社員のデジタルリテラシー向上が目指されている。この記事を通して、読者はデジタルトランスフォーメーションの推進において、社員を主体とした市民開発の意義とその実践方法、そして従業員の幸福度を高めるための組織文化の重要性について理解を深めることができる。

Text AI要約の元文章

2025.4.1

ビジョン・アイデア

社員、一人ひとりが“アプリ開発者”に。「市民開発」で進める全社のDX

デンソーにおける「デジタル活用が当たり前」の文化を醸成するための挑戦

この記事の目次

    Page Top
    • デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 室長出木場 省吾 Shogo Idekoba

      2001年に株式会社デンソーITソリューションズ(現:デンソー)に入社。自社製品企画から基幹・技術システムなどを企画・開発し、幅広くITに関わる仕事を経験。常に新しいことに挑戦しながら、現在約50人のデジタル人材を率いて、ITの力で幸せな社会へ変革していくことを目指している。

    • デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 担当係長伊藤 逸也 Toshiya Ito

      2005年にアスモ株式会社(現:デンソー)に入社。人事部で8年間勤務後、デンソーと事業統合し、情報システム部に配属となり、情報セキュリティや業務改善を担当する。現在はデジタル活用推進部で、Microsoft Power Platform(パワプラ)の全社導入を進める。社内外の関係者と連携し、ITを活用して働く仲間の笑顔を引き出すことに挑戦中。

    DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により生産性を向上し、新たな価値を創造していくことは企業にとって必要不可欠になっています。その際、デジタルを活用して、業務の効率化を図るだけでなく、それによって働いている社員が幸せを感じられるかどうかが重要です。

    今、多くの企業で取り組んでいるのが、社員一人ひとりが“アプリ開発者”となることを目指す「市民開発(Citizen Development)」というアプローチ。今回はデジタルツールの活用が「当たり前」になる文化を醸成するための、デンソーオリジナル「市民開発」の挑戦を紹介します。

    この記事の目次

      深刻なIT人材不足を解決するための、新たな選択肢

      激化するグローバル競争、発展するテクノロジー、労働力不足や働き方改革などを背景に、企業にとって業務効率化や生産性向上は重要な課題です。こうした状況下でDXを実現し、組織全体でデジタルツールの活用度を高めることは、競争力強化のみならず、働き手の負担を軽減し、新たな価値創造を促進する上でも欠かせません。

      しかし、DXを推進する上での課題となるのが「IT人材不足」です。経済産業省によると、2030年には国内企業において最大で約79万人ものIT人材が不足する可能性があることも指摘されています。

      この深刻なIT人材不足を回避するために、DXを推進するべく注目を集めているのが「市民開発」というアプローチ。「市民開発」とは、ノーコード・ローコードと呼ばれるツール(※)の特性を活かし、ITの専門知識がなくても、課題解決のためのアプリケーションやサービスを開発することです。

      ※ ノーコード・ローコードツール:アプリ開発やWebサイト開発、業務自動化など、さまざまなニーズに応じて、プログラムコードなし、もしくは必要最低限のコードのみでシステム開発ができるツール。

      「市民開発」を進めることにより、課題を最もよく知る現場の社員が主体的にソリューションを生み出し、変化にも柔軟に対応できるようになることに加えて、デジタルリテラシーの向上にもつながり、IT人材の育成も期待されています。

      デンソーでも、情報部門であるデジタル活用推進部による支援のもと「市民開発」を取り入れ、DXを「部分的な改革」にとどめず、全社規模での継続的なイノベーションに結び付けるための挑戦を始めています。

      「ツールを提供して終わり」ではいけない──課題意識から、新部署設立へ

      デジタル活用推進部では、「組織の変革とビジネス成長を実現するために、全社員がデジタルデータを当たり前に活用できる状態をつくること」を目指し、人材育成や情報発信、「市民開発推進」「DX相談窓口/業務変革コンサルティング(寄り添い支援)」「機動性重視のシステム開発・運用」「データ活用基盤開発・運営」などで、全社のデジタル業務変革を担う社員のサポートに取り組んでいます。

      そんなデジタル活用推進部が発足したのは2023年のこと。それまでデンソー社内の情報部門を担っていたデータ活用推進室とITデジタルソリューション部が統合するかたちで発足しました。設立の背景をデジタル活用推進部 プロセス・人材変革室の室長 出木場省吾は次のように話します。

      「ITやテクノロジーが進化するなかで、『ツールを提供するまでが情報部門の業務』として取り組んでいた情報部門自身がまず変わらなければいけないと思いました。社員の声に耳を傾け、ITを用いた業務改善をサポートや支援していく。そんな仕組みをつくるために生まれたのが、デジタル活用推進部です」(出木場)

      2020年に社内のITに関する困りごとを受け付ける活動「DX相談窓口」を前身の部署でスタート。部署を問わず、ITに関することであれば、どんな小さな悩みでも聞くというスタンスで相談を受け付けたところ、約4年間の取り組みでなんと600件を超える相談が届いたといいます。それに伴って部署も拡大し、現在では約100人を超えるメンバーが所属する部署に成長してきました。

      「相談を受けるなかで、全社共通の課題だと認識できるものもあった一方で、各部署固有の課題もありました。部署としてそうした課題すべてに対応することは難しく、なかなか手が回らないということもあり、そこで現場の社員一人ひとりがITやデジタルツールを活用できるようになれば、こうした現場の悩みを自ら解決できるようになるのではと思い、市民開発のアプローチに注目し始めたのです」(出木場)

      一部署の小さな改善が、全社共通の業務変革につながる

      「市民開発」のアプローチへの注目後、デジタル活用推進部では社員が自らシステムを開発するマインドをもち、ツールを使いこなすための支援やイベントの開催などに注力してきました。

      またツールとしては、社内共有のプラットフォームとしてMicrosoft 365を活用していたことを背景に、Microsoftが提供するAI搭載のローコードツールMicrosoft Power Platform(以下、パワプラ)を利用しています。

      デジタル活用推進部は、このパワプラを活用してシステム開発に励む業務部門の社員を直接的にサポートするため、メールや相談会において支援する体制を構築。また初心者でも利用できるよう、パワプラ内の4つのアプリ※に関連する情報発信にも取り組んでいます。


      Power Automate: ワークフローの自動化を支援するアプリ。
      Power Automate for desktop: PCデスクトップ上の作業を自動化するアプリ。
      Power Apps: コードなしでアプリを作成できる開発アプリ。
      Power BI: データ分析とビジュアル化のアプリ。

      「市民開発には、各部署のメンバーが自部門の要件に沿った開発をスピーディにできるというメリットがあります。一方で、ガバナンスの課題も挙げられますが、パワプラで開発できることはある程度、制限されているので、情報漏洩や不正アクセスなどのリスクの問題は、少ないと思っています。また、類似アプリの乱立が起きることもありますが、小さな改善につながるアプリケーションはそれぞれの部署でつくればよく、共通化が必要なものは私たちの部署で開発し、社内の各部で展開していく体制をとっています」(出木場)

      社内で「市民開発」に取り組む社員が増えたことにより、著しい業務改善につながった事例もさまざまに生まれました。

      各製作所では、平日夜勤・休日勤務時の食堂利用に際し、班長が利用者数を取りまとめてシステムに登録・予約をしていました。生産現場を束ねる当時の班長2,231人の登録工数は全社共通で26,000時間/年にも及んでいたといいます。管理部署はこの工数改善を図るため、登録業務を簡易化するPower Appsアプリを2か月で内製開発・提供。

      このアプリのおかげで、各社員がデジタルデバイスで食堂を利用したい時に予約できるようになり、班長の登録工数がゼロになりました。現在、このアプリの利用者は全社共通で約30,000人にも達しています。

      もうひとつの象徴的な事例が、「出社在宅予定表」の共有です。コロナ禍以降のリモートワークの普及のなかで、各組織や部署内で「出社しているかどうか」はエクセル等で独自管理をしていました。

      情報共有が充分にできていないという不便が生じたことから、デジタル活用推進部から管理部署に掛け合い、Power BIで「出社在宅予定表」を開発。これにより、標準ツール展開による業務効率化や、各組織での独自予定表作成業務を削減でき、会社全体で20,000時間の削減につながりました。

      こうした「市民開発」による成功事例は、各部署のコスト削減や生産性向上につながっただけでなく、現場の社員が主体的に業務改善に取り組んだ証でもあり、現場をよく知るからこそ形にできたものだといえます。少しずつ異なる業務にフィットするソリューションを自分たちで開発し、よいものは他の部署にも展開することで、デンソー全体でのDXの推進に寄与しています。

      デジタル活用が「当たり前」の文化を醸成するために

      IT人材の育成やデジタルの活用を推進していく上では、一人ひとりのスキルセットの向上のみならず、「組織風土や文化の醸成」が重要になります。デジタル活用推進部では2024年度、社員のデジタル活用推進をサポートするための情報展開や支援活動に注力してきました。

      パワプラへの理解や共感を促す定期イベント「パワプラ祭」の開催や、パワプラを活用したシステム開発の先行事例の展示や優秀なユーザー事例の表彰、パワプラ内の4つのアプリでの開発体験会などに取り組んできました。その結果として、「デジタル活用推進」の社内コミュニティは8,500人ものメンバーが参加し、盛り上がりを見せつつあります。

      しかし、社員全員がデジタルツールを活用できる未来に向けてまだ課題はある、とデジタル活用推進部 プロセス・人材変革室のパワプラ市民開発プロジェクトリーダーである伊藤逸也は語ります。

      「部署によっては、直接、IT業務に関わることが少なく使いこなせていない社員もいます。だからこそ、市民開発の社内浸透のためには文化の醸成が重要です。その先には、会社としてIT人材を積極的に評価する制度など、さまざまな仕組みづくりも重要だと考えています。」(伊藤)

      デジタル活用推進部は社員全員が社内のアプリを使いこなせる「デジタル活用人材」になれるよう、2030年に向けて活動を続けています。

      それだけでなく、自分でアプリ開発ができる「デジタル開発人材」や他のメンバーに開発指導ができる「デジタル技術リーダー(アプリエンジニア)」を生み出していくために、今後も社員一人ひとりへの手厚いサポートを続けていく予定です。

      出木場と伊藤は一連の取り組みの背景にある思いと今後の展望を、次のように語ります。

      「デジタルを活用した各職場での業務変革を加速させていきたいという思いは継続してあります。各部署はリソースに余裕がないなかで業務に取り組んでいると思うのですが、市民開発の取り組みが進んでいけばその効率化ができ、働く仲間の笑顔が引き出せると思うのです。そこで、まずは全社員にデジタル活用によるメリットを伝え、仲間を増やしていくことに取り組んでいきたいと思います」(伊藤)

      「これまではITによる業務効率化によって、便利になったけれど、社員の幸福度につながっていないと常々感じていた部分がありました。だからこそ、社員の方に『幸せになってほしい』という思いがあります。デジタルを活用して過去に当たり前とされていた常識が取り払われ、意欲的に働けることで楽しいと感じてもらう。自分がやりたいことを実現し成長していく社員が増えていくことに貢献できたらと思うのです。それが、私自身の幸せでもあります。デジタル活用推進部ができた当時、私自身も当時の上司にたくさん勇気づけられ、モチベーション高く業務に取り組めるようになり成長しました。今後は私が部下を成長させる立場ですし、幸せだと感じる人がじわじわと増えていくと嬉しいなとも思います」(出木場)

      ビジョン・アイデア

      執筆:inquire 撮影:BLUE COLOR DESIGN

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