この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 経営者
  • サービス業従事者
  • IT化に関心のある人
  • 葬儀業界関係者
  • 人手不足に悩む企業の担当者
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読むことで、読者は京都の葬儀社「おのえメモリアル株式会社」がどのようにしてサービス業における「ぬくもり」ある接客を守りながら、業務のデジタル化を進めているのかを理解することができます。この葬儀社は人手が足りない中で、IT技術を導入することで業務効率を改善し、従業員の年間休日を増やすことに成功しました。具体的には、kintoneというシステムを使用して情報のリアルタイム共有を行うことで、お伺いした内容が迅速に伝わり、葬儀の準備時間を短縮しています。最初は、従業員の中にはデジタル化への抵抗感がある人もいましたが、パソコンが苦手なベテラン社員の協力によって乗り越えることができました。

また、業務効率化により浮いた時間を使って、故人や遺族に寄り添うための「サプライズ」企画を行うなど、人対人の関係性をさらに深める努力も行っています。さらに、葬儀における経験をAIに活用し、より良いサービス提供を模索していることもわかります。こうした試みにより、IT化によって業務効率化を図るだけでなく、新たなサービス価値を提供するためのアイデアが生み出されるという点が強調されています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

ご遺族の前でパソコンを使う抵抗感。京都の葬儀社が挑んだ「ぬくもり」を守るDX

昨今、日本ではさまざまな業種で人手不足が叫ばれています。サービス業も、そのひとつです。

限られた人員で事業を継続していくためには、ITで業務を効率化することが求められます。しかしサービス業では、たとえ非効率でも、人と人の関わりで得られる「ぬくもり」や「つながり」が、お客さまとの信頼関係やサービスの質に大きく寄与することもあります。

人によるぬくもりか、デジタルによる効率化か──。その狭間で揺らぎ、なかなかIT化が進みづらい企業もあるかもしれません。

そんななか、京都の葬儀社・おのえメモリアル株式会社は、サービス業としての「ぬくもり」を守りながら、積極的にデジタル化を進めています。

「なぜ、ぬくもりを大切にしながら、ITによる効率化も実現できたのか?」そんな問いを、おのえメモリアル株式会社業務部課長の森垣譲夫さんに尋ねてみました。

※取材はオンラインで行いました。

「ぬくもり」を守りながらIT化した葬儀社のDX

深水
森垣さんには、2024年に大阪で行われた「kintone hive」(※kintoneの活用アイデアをユーザー同士で共有するライブイベント)にご登壇いただきました。
森垣
その節は貴重な機会をありがとうございました。

森垣 譲夫(もりがき・のりお)。1973年生まれ。高校卒業後、大阪に就職するが長男のため1998年に帰郷。おのえメモリアルに就職をする。2020年までは葬儀の仕事のみに携わっていたが、kintone導入と同時に葬儀の業務をしながらkintone担当者となる。

深水
「葬儀社でどのようにDXを推進したのか?」というお話の中で、森垣さんが「従業員から『ご遺族の前でパソコンを打つのに抵抗がある』と反対された」とおっしゃっていましたよね。

葬儀社は、人の手の「ぬくもり」が重視される業界だと思います。そのなかで「IT化」という、「ぬくもり」とは対極にも感じられる取り組みをどう両立させたのか、ぜひお話を伺わせてください。
森垣
興味を持っていただき光栄です。いいお話ができるかわかりませんが、がんばります!

人手が足りなくても、お葬式の準備は1日で済ませる

深水
葬儀社というのは、普段どのようなお仕事をされているんですか?
森垣
亡くなられた故人さまとご遺族の「最後のお別れ」をお手伝いしています。

亡くなってから2〜3日の間にお通夜とお葬式を行うので、24時間ですべての準備をととのえなければいけません。

家族葬にするのか、一般葬にするのか、宗教者さんのスケジュール調整、生花やお供え物の手配など、とにかく時間が足りません。
深水
膨大な業務量ですね……。何名の従業員で対応されているんですか?
森垣
事務やパートの方をふくめて、25人ほどです。ただ、人手不足は深刻ですね。

葬儀は突然発生するので、働き方が変則的になりがちです。5〜6年前まで、弊社の年間休日は72日しかありませんでした。

でもIT化をすすめたことで、いまは年間休日96日まで改善しました。将来的には、3桁を目指しています。
深水
なかなか人が集まりにくい業種だからこそ、IT化で負担を削減していくことが大切なんですね。
森垣
積極的にIT化をすすめたり、柔軟な働き方を目指していたり、こうした取り組みを少しでも多くの方に知っていただくことが、人手不足の解消につながればいいなと思っています。

サービス業として守りたい「ぬくもり」と「効率化」のバランス

深水
おのえメモリアルさんでは、どのようにIT化をすすめたんですか?
森垣
当時は「業務を効率化しよう」という話は一切なかったんです。人手が足りなくても、やることが山積みでも、私たちにとってはそれが日常だったので、あまり困っている実感がなかったんです。

ただ、傍から見ていた社長は「このままでは行き詰まってしまう」と考えていたようで、2020年からIT化をすすめました。
深水
たとえば、どのような業務をIT化したんですか?
森垣
大きな変化でいうと、葬儀のお打ち合わせですね。

これまでは、ご遺族とお話しした内容を従業員が紙にメモして、確認事項があれば事務所に持ち帰って、もう一回ご遺族に電話して……と、タイムロスが大きかったんです。
深水
なるほど。
森垣
IT化をすすめてからは、打ち合わせの内容を現場と事務所がリアルタイムで共有でき、葬儀の準備を迅速に行えるようになりました。

でも、決して順調にすすんだわけではありません。
深水
どういった点に問題があったのでしょうか?
森垣
みんながパソコンに慣れているわけではないので、ご遺族との打ち合わせ中、どうしてもパソコンを打つことに集中してしまうんです。

「ご遺族との会話がおろそかになってしまうので、前のやり方に戻したい」という声が上がりました。

社内のIT化についても、「自分たちの業務はラクになっても、ご遺族に寄り添えているのだろうか?」と問われましたね。

IT化を導いたのは、パソコンが苦手な52歳のベテラン社員

深水
人の手による「ぬくもり」と、IT化による「効率化」のバランスを、どのように両立させたんですか?
森垣
ぼくより5つ年上の従業員がいるんですけど、「とりあえず練習して、体で覚えていこう!」と若いスタッフに呼びかけてくれたんです。
深水
森垣さんよりも年配の方が声をあげてくれたんですね!
森垣
しかもその方は、パソコンが苦手だったんですよ。ご遺族の前でパソコンを使うことも、はじめは反対でした。
深水
反対派だったのに……! なぜその方は、IT化に前向きになってくれたんでしょう?
森垣
うちのような人手不足の業界は、IT化が避けられません。「嫌だ」と言ってるだけじゃ前に進めない。いずれやることなら、がんばって慣れていこうと思ってくれたみたいです。
深水
ほかにもIT化に反対だった人たちがいたと思いますが、どのように巻き込んでいったのでしょうか?
森垣
とにかく、IT化のメリットを一人ひとりに伝えていきました。

たとえば、故人さまのお名前の漢字は、口頭や手書きだと間違ってしまう恐れがありますが、パソコンならそういったミスもなくせます。
森垣
私たちがIT化をすすめたのは、決して自分たちの仕事をラクにするためではありません。

業務を効率化したことで生まれた時間で、もっと故人さまやご遺族にできることを考えたい。

この想いがあれば、「ぬくもり」を守りながらIT化できると思います。

効率化した「時間」で、遺族の心残りを残さぬように

森垣
初めての葬儀って、なにをすればいいのかわからないじゃないですか。なので弊社では、故人さまへの「サプライズ」を大事にしているんです。
深水
サプライズ、ですか?
森垣
たとえば、誕生日を目前に亡くなった故人さまの葬儀の打ち合わせで、ご遺族が「あともう1、2日生きてくれたら誕生日を迎えられたのになあ」とおっしゃったんです。

そこで葬儀当日、誕生日ケーキを用意して「最後にみなさんでお祝いしてあげてください」とお声がけしたら、とても喜んでくださって。
深水
あたたかい心遣いですね。亡くなった方との最後のお別れが、ただ悲しいだけではなく、いい思い出になりそうです。
森垣
ご遺族のなかに「もっとこうしてあげたらよかった」という心残りがあるなら、少しでも多く叶えたい。

そのためには、ただの「打ち合わせ」ではなく、故人さまとの思い出を振り返ったり、ご遺族の願いを聞いたりする必要があります。

わたしたちがIT化で生み出したかったのは、こうした「手がかり」を見つける「時間」だったんです。
深水
その心構えがあれば、「ぬくもり」を守りながらIT化をすすめられるんですね。
森垣
「目の前にいるお客さまとしっかり向き合おう」という気持ちさえあれば、IT化で失うものはなにもないと思います。

効率化だけでなく、新たなアイデアを生み出す手段になる

森垣
かつては、紙の管理ばかりで、エクセルもろくに使えなかったわたしたちですが、最近はAIにも注目しているんです。
深水
え、AIですか!
森垣
はい。弊社には「こういうサプライズをしたら、ご遺族に喜んでもらえた」というのを記録して、従業員みんなで共有するシステムがあるんです。
深水
すてきなシステムですね。
森垣
たとえばここに、故人さまが生前好きだったことや、ご遺族との思い出などを入力します。

それで、AIに相談したら「こんなサプライズはどうですか?」と提案してもらえるんじゃないかと。そんな仕組みを考えているんです。
深水
その使い方、すごくいいですね! 人対人の関わりで集めた「手がかり」とAIがうまく融合できそうです。
森垣
まさにいま、ぼくの3つ年下の社員が、がんばって開発してくれています。

もし、社内のIT化をすすめていなかったら、AIに挑戦しようなんて、到底思えなかったはずです。

葬儀でサプライズをしたり、AIでサービスの質を高めたり、こうした動きが弊社の色になっていけたらいいなと思います。
企画・執筆:深水麻初(サイボウズ)撮影:松本理恵子

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執筆

編集部

深水麻初

2021年にサイボウズへ新卒入社。マーケティング本部ブランディング部所属。大学では社会学を専攻。女性向けコンテンツを中心に、サイボウズ式の企画・編集を担当。趣味はサウナ。

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撮影・イラスト

写真家

松本 理恵子

福祉出身のフォトグラファー。写真と動画で想いを伝える。

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